凄腕の漫画家・イラストレーターを目指すための「GENSEKI塾」。前回、さまざまな漫画家さんたちが描く「耳」を観察し、「耳」の重要性を学んだ真賀角男でしたが……。
前回記事
■登場人物
原石巌(げんせき いわお)
「GENSEKI塾」の塾長。メチャクチャ漫画を読んで研究をしている理論バカだが、絵は描けない。
真賀角男(まが かくお)
唯一の塾生。漫画で一発当ててドリーミングな生活を送る「漫画王」を目指しているが、できるだけ努力はしたくないと思っている。
耳を丁寧に描くようになったのはいいけど……バランスな!
バランス?
漫画のコマの中で見てもらいたいのは、耳じゃなくてフキダシのセリフや、人物の表情をだろ? コレだと、耳だけ悪目立ちして、そこにばかり視線が集まってしまうぞ!
なんだよ、耳を描けって言ったり、描くなっていったり、どっちなんだよ! じゃあ、もう耳なんか書くもんか!
極端な……耳をしっかり描かないと、それはそれで、妙に耳ばっかり浮いてしまって視線が集まってしまうのだ。
ほーら、何も描かれていない耳が気になってしまうだろう。
いや、こんな人がいたら、顔面に描かれているお経の方が気になって、そっちを凝視しちゃう!
(サンプルが悪かった……)それじゃイラストで説明しよう!
「耳」が重要なわけじゃなくて、ヘタに「耳」に注目して欲しくないから、ほどほどに「耳」を描き込む必要があるってことだな。
なるほどー。でも、「ちょうどいい耳」っていうのが難しいなぁ~。
一流の漫画家たちは、自分の画風とバランスを取った「耳」をちゃんと描いているぞ。
アレはなにも「耳」の描写だけが変わっているわけではないのだ。
だいぶ画風が変わっているんだなぁ~。
初期は、かなりシンプルな画風だったので、それにあわせたシンプルな「耳」を。劇画などに影響を受け、複雑な画風になった時期には、比較的リアル寄りな「耳」を描いている。なんとなーく「耳」の描き方を変えたわけではなく、時代時代の画風にあわせ、そこにピッタリくる「耳」を描いているということなのだ。
さすが漫画の神!
鳥山明先生なんかは、同じ作品、同じキャラクターでも、成長して顔つきが変わって行くにつれて、「耳」も変化させていっている。
ただ、最近の鳥山先生がコミックス表紙の描き下ろしなどで子ども時代のキャラを描くと、「耳」が大人時代と同じヤツになってて違和感あるんだけどな。
絵はよりキレイになっているのに違和感があったのはソレか!?
「耳」と「顔」だけで見ると一見バランスが悪く見える。
確かに頭はデカくてミットみたいに
見えるし......これだけだと違和感があるね?
しかし……。
あっ!
髪&モミアゲをつけると、意外とバランスがよくなるのだ。おそらく髪型込みで「耳」のバランスを取っているんだろう。男性キャラはみんなモッサリとモミアゲが生えており、女性キャラはほぼ耳を出していない。
モミアゲとか後ろ髪とか、よく見ると現代ではあまりお見かけしないタイプの髪型をしている……。でも、高校野球の漫画だったら、ボウズ頭のキャラもいるんじゃ?
心配ご無用!? あだち先生のキャラは、ボウズ頭でも……。
床屋さんでどう注文したら、こういう髪型にしてもらえるんだ!?
あだち先生と同じく、『週刊少年サンデー』で活躍されている高橋留美子先生も、画風のわりにはシンプルな「耳」だが、こちらもモミアゲでバランスを取っていると思われる。
モミアゲ、『サンデー』で流行ってたのかなぁ?
ちなみに、あだち先生の「耳」は常にモミアゲで一部が隠されており、全貌が見えることはないが、高橋先生の場合は、モミアゲが揺れて耳の全貌が見えることもある。
ああ、「6」タイプの変化系だったのか。
とにかく、「耳」の描き込み具合は、「顔」の画風とのバランスだけではなく、「髪型」との兼ね合いも考える必要があるのだ。あだち先生タイプのモミアゲに、劇画調の耳がくっついていると……。
うわぁ〜、なんかしつこい……。「顔」と「耳」のバランス。「髪型」との兼ね合いか……難しいなぁ〜……。
執筆者
著・漫画
北村ヂン (twitter @punxjk)
漫画家やイラストレーターの絵柄を研究するライター&イラストレーター。気になる絵は定規片手に比率を分析しながら鑑賞しています。