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中村佑介先生からのアドバイスがイラスト上達の転機に。日常とファンタジーの間に住む世界を描くーイラストレーター・mechanism

 

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本職にやりがいを感じ活躍する傍ら、イラストレーターとしても意欲的に活動しているmechanism氏。

GENSEKIのイラストコンテスト「連休」受賞インタビューを通して、イラストへの思いを聞いていくうちに、実際に目で見て体験する大切さや、誰もが感じたことのあるイラストレーターならではの悩みまで語ってくれた。

今回はmechanism氏のポップで親しみのあるイラストの秘密を覗いていこう。

子供から大人まで「誰が見てもわかるイラスト」を描く

 

『ペンギン集め』

『ペンギン集め』

ーーGENSEKI5月コンテスト「連休」にて特賞おめでとうございます!受賞作品についての思いを教えてください。

mechanism:この作品は過去の絵で去年の4、5月くらいに描いたものなんですが、娘と京都水族館に行った時にペンギンの水槽で飲み物のマドラーを回してたら、ペンギンがすごく集まって来たんです。人もあまりおらず貸切状態で、水槽が全面に見えて涼しげだったのが「連休」というテーマに合うなと感じて、写真に撮っていたものを参考に描きました。

5月はまだ春のような夏にも差し掛かるような間の季節で、「じゃあゴールデンウィークは何をしているだろう?」と考えた時に、家族で水族館に行ったりするのかな、と思ってこの構図にしました。

 

ーーこの女の子は娘さんのイメージなんですね。ペンギンはリアルに描かれていますが、意図がおありだったのでしょうか?

mechanism:そうですね。デフォルメにするか迷ったのですが、ペンギンって大体2色ですよね。あまりたくさん色があると絵のバランスが取りにくいなと思ったのですが、ペンギンは水中にいたらつるんとしててデフォルメされているようなものだから、リアルに描いても大丈夫かなと思って描きました。でも結構ベタ塗りが多いので、ペンギン1匹に対して1分くらいで描いてます。

 

ーーとても早いですね…!

mechanism:はい、私の中でもこのイラストは本当に短時間で仕上げたものだったので、特賞をいただいた時は驚きました。過去の絵で、早く仕上げた作品でも、表現次第で届くんだなという自信につながりました。

 

ーーGENSEKIのイラストコンテストについては、どういった印象を受けましたか?

mechanism:やっぱりコンテストと聞くと力が入りすぎてしまうのですが、過去絵もOKとのことでフラットな気持ちで応募することができました。

お題がたくさんあるというところや、過去の絵で一度応募した後、お題に沿った新しい絵にチャレンジできたり、いくつ応募してもいいので、そこも気軽でいいなと思いました。

 

ーーGENSEKI以外のコンテストに応募したことはありますか?

mechanism:ないですね。大人になってからコンテストにチャレンジしていなかったのですが、やってみよう!という気持ちにさせてくれたのがGENSEKIさんでした。

 

ーーありがとうございます!今回のコンテストがきっかけでTwitterのフォロワーは、増えましたか?

mechanism:増えました。GENSEKIさんに応募したことで、作品を見てくれる方の母数が増えたのかなと思います。

『キンクマの秘密基地』

『キンクマの秘密基地』

ーー自分の作風について意識していることやこだわりはありますか?

mechanismどんな年齢の方が見ても分かりやすく、かわいいなと思ってもらえるように意識しています。

私は本職が介護福祉士なので、高齢者の方や色々な方と触れ合う機会が多いのですが、年齢層によって絵の好みが全然違うんです。それで「誰が見てもわかってもらえるイラストを描けたらいいな」と最近思うようになりました。

 

ーー確かに、カラフルで線はシンプルで、だれが見ても分かりやすそうですよね。

mechanism:そうですね。線の情報量は脳が処理するのに限界があるので、見せたいところはしっかり見せて、背景や細かいところは「葉っぱだな」などとパッと見てわかるように意識しています。最近は子供が楽しめる要素も入れ込んだりしています。イラストの中に目玉が3つとトカゲを潜ませたりとか…(笑)

 

ーー見つけました!(笑)色々な作品に潜んでいるのですね。とても楽しい工夫で素敵です。(『キンクマの秘密基地』『狐のおつかい』『マヌルネコに似ているあの子』『狐、その尾を濡らす』で見つけられます)

観察して自分に取り込むということ

イラスト
ーー絵を描き始めたきっかけはなんでしょうか?

mechanism:絵を描き始めたのは小学生なのですが、父親が私と一緒で動物がとても好きで、NHKの動物番組を見た後に必ず「スケッチを描いてみなさい」と言われていたんです。なので絵を描く前提で番組を見て、スケッチをして、父に褒めてもらって終わるということをしていました。中高は美術系で陶芸などに触れながら、二次創作もしていました。でもイラストで生計を立てるというのは考えておらず、興味のあった介護系の専門学校に行きました。

 

ーー絵とは別に行きたい進路があったのですね。描くことは続けられていたのでしょうか?

mechanism:社会人になってから、介護施設で利用者向けに塗り絵用のイラストを描くことが増えて、高齢者向けの作品を描くことが多かったです。そんな中、個人的にも少しイラストを描き続けてはいたのですが、そこから何かにつながるということはありませんでした。

27歳くらいの時に、二次創作でもう一度絵を描きたいと思いTwitterを始めて楽しんでいたあたりに、たまたま同級生だった『嶋原 末廣屋   葵太夫』さんの「千社札(せんじゃふだ)という名刺を描いて欲しい」と頼まれたんです。そこで初めて有償での依頼を受けることになりました。お金が発生するとなると、今までの自己満足のイラストではダメだなと思って、色々観察するようになって、「作品」にしないといけないという気持ちが生まれて…そこからだんだんと今のイラストの形になっていきました。​​

『狐のおつかい』

『狐のおつかい』

ーーイラストレーター・中村佑介先生(GENSEKI顧問)のTwitterのスペースにて合評会に参加されたそうですが、印象的だったことはありますか?

mechanism:中村先生に言われて「そうだな」と思ったのは、「知らないものは描けない」というお話でした。最初に合評していただいたのが、この『狐のおつかい』という作品なのですが、狐をすごく褒めていただいて「この狐は狐を知らないと描けない」と言っていただけました。

 

ーーこの狐は何かを参考にされたのですか?

mechanism:私は動物全般好きなのですが、犬のようで犬じゃなくて、猫のようにしなやかだけど猫じゃない、狐という動物が好きでいつもよく見ていました。なので、先生にそう言っていただけて、すごく自信につながりました。

 

ーー次の絵では、猫のような動物たちがいると思うんですけれど、こちらは一体…?

mechanism:マヌルネコという種類の猫なのですが、顔が少し特徴的で野生の猫なんです。寒い地方にいてずんぐりむっくりの…野生とは思えないフォルムをしているんです。これは動物の絵のリクエストを募った時に、マヌルネコをリクエストしていただいて描きました。

『マヌルネコに似ているあの子』

『マヌルネコに似ているあの子』

経験の全てを絵にする力

ーーどのように絵の勉強をしてきましたか?

mechanism:中高生の時に夏休みの間デッサンを沢山描く機会があり、絵を描く持続力はそこで得られたかなと思います。あとは介護職をしていると、人体と触れ合うことも多いので、その経験を絵に反映させようと思っています。人体の骨格や重心移動、重力の実感を、思い出しながら描くことで、イラストに説得力が生まれるんです。中村先生がアドバイスしてくれた「知らないと描けない」ということを重視して、イラスト外の世界をさらによく観察するようになりました。

 

ーー創作活動をする上でどのように情報収集していますか?

mechanism実際に知らないと描けないので、経験することを大事にしています。写真をたくさん撮るんですが、リフレッシュするために全然知らないところに行って知らないものを撮って収めておくことをしています。描きたい絵の素にするために写真を撮りに行っている感じですね。

 

ーーSNSはどのように活用していますか?

mechanism:去年の11月くらいに中村先生のTwitterのスペースで初めて合評していただいてから、見ていただく機会や交流が生まれました。最近はフォロワーさんもたくさん増えて、自分でも色んな表現を出来る様になってきたなと思っています。

 

ーー絵が上達したなと思うきっかけはありますか?

mechanism:先ほどお話した有償の依頼を受けたことと、中村先生の合評会で忖度なくアドバイスをもらえたことですね。自分の絵を見直すきっかけになりました。

 

ーー尊敬するイラストレーターさんはいらっしゃいますか?

mechanism:やっぱり中村佑介先生ですね。色々なところで目にするイラストレーターさんなので以前から印象が強く、合評など様々な機会でお世話になっています。

あとは絵本作家の馬場のぼる先生は昔から好きで、色使いや描き込みすぎないスタイルにすごく影響を受けています。『ジョジョの奇妙な冒険』の作者の荒木飛呂彦先生も尊敬しています。線に負けない色の使い方が独特で好きです。

イラスト仕事の流れ、活動スタイルに対する悩み

『脚より顔で売ってるの』

『脚より顔で売ってるの』

ーー現在もイラストの依頼は請けていらっしゃいますか?

mechanism:本職があり、イラストレーターひと筋ではないのですが、知り合いの方から依頼を受けることはあります。他の依頼を受けたい気持ちはあるのですが、お仕事の流れを知らないのでなかなか踏み込めていない感じですね。ネットで色々調べたりするのですが、みなさん活動スタイルがそれぞれ違っているので、私の生活スタイルに合わせたらどういう風になるのかもわからなくて。依頼者とイラストレーターの間に入ってくれるというサービスがあればいいのですが、どうしたらいいのかな…?という印象です。

 

ーー実際、イラストレーターの具体的なやりとりや相場は人それぞれなので、どんなスタイルでやるか迷っていらっしゃるんですね。

mechanism:そうですね。あと、私はibisPaintiPadで描いているのですが、納品データには色々な種類や大きさがあり、今の環境だとあまり大きいサイズのものが描けないんです。企業さんだと拡大したりして色んなことに使うと思うので、その点で依頼を受けることが難しいと感じます。私が今個人的に使えるパソコンもないので、パソコンやIllustratorやCLIP STUDIO PAINTを揃えて勉強したとして、コスト以上に依頼が請けられるのかという不安もあったりしますね。

 

ーーある程度イラストでやっていく目処が立てば、安心して画材やソフトを揃えていけますが、コストやリスクがかかる事は難しい問題ですね。

mechanism:そうですね。仕事を取ってくるというのは難しい事なのかなと思うのですが、それこそGENSEKIさんのコンテストをきっかけに色々な企業さんとやりとり出来る点は本当に素晴らしいことだと思います。誰にでもチャンスがあるので。

 

ーーたしかにそうですね!あまりお仕事の経験がない方でも、GENSEKIのコンテストで企業さんと関わりが持てると思います。

mechanism:そうですね。それに、ガイドラインのような、そういう手順が簡単にあれば、仕事の請け方に迷うクリエイターさんや、受発注についてよく知らない方同士でやりとりすることがなくなって、自信を持ってやりとりできるのかなと思いますね。やっぱり手順がわかってるのとわかってないのとでは不安が全然違うと思います。

『狐、その尾を濡らす』

『狐、その尾を濡らす』

ーーイラストレーターとして幸せを感じる瞬間と、逆に辛いと感じることはありますか?

mechanism直接見てもらったり手に取ってもらって、反応が良かった時はとても幸せですね。老若男女問わず喜んでもらえたら嬉しいです。辛いのは自分で考えたイラストが、思った通りに描けない時ですね。

 

ーー絵を描くこと以外での趣味はありますか?

mechanism:今は園芸と猫です。もともと植物が苦手で枯らしたりしてたんですが、勉強したら枯れないようになって、知識不足だったようでよかったなって思います(笑)

 

ーー今後イラストレーターとしての活動は、どのような形になるでしょうか?

mechanism私は現在の仕事がとても好きなので、兼業のまま続けたいと思っています。でも色々なことにチャレンジはしていきたいです!

 

ーー今後やってみたいことや、イラストのお仕事はありますか?

mechanism園芸関係のポスターや、動物関係のイラストのお仕事があれば、ぜひやってみたいです!

 

 

自分の目で見て、肌で経験したものをイラストに昇華させる力は努力なしでは語れない。

mechanism氏のイラストに向き合う真摯な思いと共に、誰もが持つ不安や迷いも共有出来るインタビューとなった。

見る人の心を弾ませるポップで遊び心の詰まったイラストは、これからもたくさんの人々を楽しませていくことだろう。

 

mechanism(Twitter:@mechanism0001/Instagram:@mechanism0001

ファンタジーでありながらどこか日常を感じる絵を描いている。本職の介護・福祉の業界で活躍しながら、イラストレーターとしても意欲的に活動、『嶋原 末廣屋   葵太夫』の千社札も担当している。