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最近ブームになっているカラフルな御朱印はどんなふうに作っている? 「中の人」が解説します

こんにちは。神社や御朱印が大好きなライターの井口エリです。神社好きが高じて、東京都の入谷にある小野照崎神社で「御朱印の企画」に携わっています。

今日はGENSEKIマガジン読者のみなさまに

  • 最近の御朱印事情
  • 御朱印はどうやって作っているか
  • 神社と仕事するってどんな感じか

についてお話ししたいと思います。

止まらない御朱印の進化

数年前から「御朱印」がブームになっています。そもそも御朱印とは、神社や寺院で、納経の証や参拝の証として授与されるもの。

御朱印には、参拝した神社や寺院の名前や、参拝日時などを神主さんさんや巫女さんなどに書いていただけます。自分自身の参拝の記録にするにもぴったりです。

 

さて「御朱印」というと、まず多くの人が想像するのは以下のような形式のものではないでしょうか?

出雲大社の御朱印(筆者所有)です。大社や神宮など、格式が高い神社ほど御朱印はシンプルな傾向にあります。

穴守稲荷神社の御朱印(筆者所有)です。こちらも墨と朱の2色ですが、神紋(神社の紋)や鎮座地を表す朱印などが入ることでにぎやかな印象を受けますね。

ひと昔までの御朱印は、このように墨と朱の2色のものが主流でした。ところが、最近では以下のように色数の多いものもあるんです。

こちらは五方山熊野神社の御朱印(筆者所有)です。とてもカラフルで、見ているだけで楽しい気持ちになってきます。

こちらは水天宮の御朱印(筆者所有)。水天宮といえば「戌(いぬ)の日」安産祈願が有名です。御朱印には、犬の縁起物をモチーフにしたキャラクターが入ります。かわいい。

 

さらに、「立体感のある御朱印」も出てきています。

湯島天満宮の切り絵の御朱印(筆者所有)です。なんと、こちらは切り絵になっています。切り絵の御朱印は最近のトレンドです。もはや御朱印はアート!

金山神社のかなまら祭で授与されていた御朱印(筆者所有)です。こちらは、御朱印を開くと御神輿(おみこし)が「飛び出し」ます! 御朱印の進化が止まらない~!!!

こんなふうに、最近では神社やお寺ごとに意匠を凝らした、さまざまな御朱印を見かけるようになっているんです。

小野照崎神社の御朱印

私が企画に携わっている小野照崎神社の御朱印はこんな感じです。

12月「年越大祓」特別御朱印

2月「飛梅」特別御朱印

かわいい&美しい御朱印。これら御朱印の特徴は、なんといっても透かし紙を用いた2層構造であること。こういった御朱印が毎月、その時の季節を反映して作られているんです。

7月「七夕」特別御朱印

7月の「七夕」特別御朱印はなんと、蛍光塗料を使用していて、暗いところで光ります!  その他にも、箔押しやUVプリントなど、意匠に合わせた特殊印刷を使うこともあるんです。

 

さらに小野照崎神社では、御朱印にリーフレットをつけています。

12月「年年歳歳」特別御朱印に付属するリーフレット

御朱印は、神社の神事や行事、お祭りがモチーフになることがあります。でもモチーフになっていてたとしても、その元ネタのお祭りや神事について知らなかったりしますよね。

そこで、神社や年中行事への理解を深めてもらうため、リーフレットで説明しているんです。これも御朱印にあわせて毎月変わります!

 

筆者(井口エリ)はこうした小野照崎神社の御朱印の企画に携わったり、リーフレットの作成に携わったり……

こんなふうに、巫女さんのイラストも描かせてもらったりしています(リーフレットや、神社の公式noteに掲載されています)。

神社の御朱印はこんなメンバーで作っている

このような御朱印はどんなふうに作られているのでしょうか? 前提として、神社や寺院ごとに御朱印の作り方は違うので、小野照崎神社での御朱印の奉製(心をこめて作ること)についてお話をします。

小野照崎神社では、神主さん、デザイナーさん、イラストレーターさん、書家さん、ライターなどがチームを作り、それぞれの特性を活かして御朱印を奉製しています。

このメンバーで月1回、みんな顔を突きあわせて会議を神社で行っているんです。


小野亮貴さん(神主)

小野照崎神社権禰宜(おのてるさきじんじゃごんねぎ)。御朱印チームをまとめている。小野照崎神社ご祭神である小野篁公(おののたかむら)や小野小町、小野道風、小野妹子の子孫にあたる人。もはや、漫画のキャラじゃん!!!
本当になんでもできる人で、絵もデザインも文も書も小野さんが監修している。弱点ないのでは……?

安村シンさん(デザイナー)

神社の御朱印や待ち受け、授与品回りなどのデザイン・アートワークを担当。神社以外にもパッケージデザインや書籍デザインやロゴなどめちゃくちゃいろいろなアートワークをしている。

タカトモハンコさん(イラストレーター)

御朱印のイラスト担当。ほっこりあたたかみのある絵柄で、毎月御祭神や神社の動物たちを魅力的に描いてくれているイラストレーターさん。

山下人夢さん(書家)

毎月御朱印の文字を担当。他にも、アパレルやお店のロゴや、著名人のサインデザインなど多数手がける。メイウェザーに自分の書が届いて、AbemaTVの番組で特集が組まれたこともある書道アーティスト。一見いかついけどかなりの愛されキャラ!

井口エリ(ライター、筆者)

御朱印の企画やテーマ選定から携わり、付属リーフレットや神社のnoteなどを担当。

他にも、カメラマンさんやPRマーケティングの方、他のデザイナーさんなど多数のクリエイターが関わっています。

会議のゴールは「御朱印を印刷するための入稿データを完成させること」。話し合いと制作を同時に進行していきます。

毎回、あーでもない、こーでもないと頭をひねりながら御朱印を作っています。この日はカメラマンさんも一緒でした。

会議では、神主の小野さんとライターの私とデザイナー安村さんで、次の御朱印のテーマや構図をどうするか、季節や行事、神社に伝わる話などを考慮した上で話し合い、テーマを決めます。

テーマが決まると、イラストレーターのタカトモさんと、書家の山下さんが実際に手を動かして、イメージに沿ったものができるまで、何度も何度もトライ&エラーを繰り返します。

たとえば、半紙に書かれた文字を見るといい感じだと思っても、データとして取り込んでイラストとあわせて見ると、大きくイメージが変わってしまったりするんです。

そもそも、プロの書道を近くで見ること自体、普段はないこと。しかもトライ&エラーも含めて見られるのは興味深いです。

 

だいたい10時半から17時頃までずっと頭を使い続けるので疲れますが、休憩しようと思ったらゼロ秒で神社の境内を散歩できます。仕事の休憩にさくっと季節を感じる幸せよ。

この日は境内の河津桜が満開でした

そして神主さんが出前でランチや甘味を取ってくれるのが会議の楽しみ。

ある日の会議ランチ、矢場とんの味噌カツ弁当。おいしかった

7時間は、会議をするには長い時間だと思います。でも、長い時間一緒に仕事して、定期的に顔をあわせて、一緒にごはんを食べて、ということをずっとやっていると、なんか仕事関係というか、離れて暮らす家族とか親戚みたいになってきますね……。

会社勤めしてた時も、上司や同僚を家族とか親戚みたいと思ったことはなかったので、またちょっと不思議な感じです。

 

もちろん、この場だけで制作が終わるわけではありません。みんな持ち帰って作業もしますが、会議はリアルタイムで相談しつつ進められる場としても機能しています。

みんなひとつのことをやっているのに、作業はバラバラでおもしろい

パソコンを開いて話しあっている横で書を書いたり、水彩で絵を描いたりとガシガシ作業を進めている現場って、だいぶ特殊でおもしろいんじゃないかと思います!

実際に御朱印ができるまでの流れ(令和5年5月の例) 

令和5月の特別御朱印は、こちらの「大祭」特別御朱印。

縦見開きで飛び込んでくる、ゆるいながらも迫力のある御神輿のデザイン。大祭にあわせて特別仕様になっています。

ここからは、この御朱印ができるまでの流れを紹介します!

 

5月といえば、小野照崎神社は年に一度の神社の大きなお祭り、「大祭」の季節。しかも令和5年はコロナ禍で控えていた神輿の渡御(とぎょ、神輿が出ること)を行います。

神輿はやっぱり大祭の華ですね~

そして、延期になっていた「本祭」を、今年はついに実施! 本祭りでは3年に1度、神社の所有する大きな神輿「本社神輿」が渡御を行うスペシャルな機会です。

毎年5月3週目の金~日で行われる大祭。提灯もあがってかっこいいです!

大切なお祭りであり、しかも3年に一度の本祭り。この特別なお祭りを、知ってもらいたいし、御朱印も特別に感じてほしい。

そんなわけで今月は「大祭」をモチーフとした、迫力のある御朱印にしようと決まりました。

そもそも、御神輿は神さまの乗り物です。御霊入れ(みたまいれ、神様を対象にお遷りいただくこと)をして神輿に神さまを乗せて街を練り歩くのですが、御祭神の小野篁公と菅原道真公が「盛り上がり過ぎて実際に乗っちゃった!!!」という構図です。これを見開き縦型で作ることが決まりました。

御神輿がハンコでゆるかわいい! これはこれで好き……

もともとこちらの原案を作ったのはコロナ禍が始まる前の3年前のこと。その時は神輿の渡御は中止になっており、お蔵入りに……。今年はようやくリベンジの機会なのです。

ちなみに、この時はまだイラストレーターのタカトモさんはハンコでイラストを作成していました(余談ですが、タカトモさんは「普通に描くよりハンコを彫る方が速い」らしいので驚きです)。

 

今見ても十分魅力的ですが、イラストもデザインも特殊印刷等の技術もこの時からパワーアップしているので、このままでやるとちょっとあわないんですよね……。タカトモさんが描き直します。

まずは鉛筆での下描きと、書家の山下さんが仮で書いた文字を置いて、バランスを見ながら調整を続けます。文字の方向性も、途中で変わることもあるので、山下さんは100回ぐらい余裕で書き直すこともあるんです。

この時に、仮で月の和名や下の英文にはフォントを当てています。これもすべて「あーでもない、こーでもない」と繰り返し山下さんが文字を書いては、安村さんがデータに入れ込んでバランスを見る、という作業を繰り返します。

ここからも調整は続き、印刷所に入稿するギリギリまでデザイナーさんの安村さんが作業して、5月「大祭」特別御朱印はこんな感じになりました。

書家の山下さんの尽力で、大祭の勢いを見事に表現していますね。

こちら、一見色数こそ少ないものの、レインボー箔に金箔銀箔と、恐ろしいほどのこだわりと煌びやかさでできています(ぜひ実際に見てほしい)。

 

そして御朱印が一つできたら、また次の季節の御朱印へ。月替わりなので月刊誌の漫画家のように、次から次へとやることが訪れます……!

その間、ライターの私は何をしているかというと次の季節のアイディアを考え、テキストを進めつつ、その月の神社のnoteでの発信作業のお手伝いをしています。

神社と仕事するってどんな感じなの?

そんな神社というちょっと特殊なお仕事について、せっかくなので各クリエーターさんにも話を聞きました。

「まずは、どんなところが楽しいですか?」

「自分の絵が御朱印として参拝の方の手元に残るのはもちろん嬉しいですね。御朱印のイラストはゼロからすべて自分で描いているわけではなく、みんなで話し合って構図とかテーマを決めてくれはります。
自分の絵が入って、書が入って、デザインが施されて……。結果として、自分で描いた時のものよりだいぶパワーアップしてできあがるのは、楽しいところかもしれません」

タカトモハンコさんは、この日も鉛筆から下書きをして、構図を話しあっていました

「毎月、いろんな字体を探りながら学べることが楽しいです! 得意な字体の時もあれば、これまでに書いてこなかったような新しい字体に挑戦することもある。
僕の字体は『漢らしい』とよく言われるんです。そして、タカトモハンコさんの絵柄はかわいいですよね。一見、雰囲気が違うけど、あわせるとマッチしたひとつの御朱印になる! そういう化学反応みたいなところも楽しいですね」

「僕はみなさんの絵や書をもとにデータを作る作業をしています。透かし紙に絵柄が入って、特殊加工が入って、それに印が押されることで、はじめて御朱印になります。
完成系をイメージしながら作っているけど、できあがるまでは完璧にイメージはできません。だから、できあがった時に、思った以上のものになっている時もある。それが一番楽しいところですね」

「紙ものだから刷り上がるまでわからないのは、楽しいことだと思いますが、それは表裏一体で難しいポイントでもありそうですよね……!」

「おっしゃる通りです(笑)。刷りあがりが思ってたのと違うみたいな難しさは、やっぱりありますね。そうならないようにサンプルを作るんですけど。
あとは今年で5年目になるのですが、はじめから「毎回、前回よりもすごい御朱印を作ろう」と話していました。それを本当にやり続けているのがすごいことであり、同時に難しいと思うことでもありますね」

「私が難しいと思うのは、キャラクターが入った御朱印って、油断すると『絵はがき』っぽくなってしまう点ですね。絵はがきではなく神社の御朱印として、神社や神道の要素を入れてしっかり御朱印にしなきゃ! という苦労があります」

7月「夏詣」特別御朱印

「絵はがきではなく御朱印のイラストを描く。『夏詣』特別御朱印は、モチーフとしてイラストっぽくなりやすい青空を強調しています。ただ、描かれている富士山の絵は、境内にある『下谷坂本富士』に由来するものです。『晴天』と、『神社の鳥居と富士塚に由来する富士山』。このように、しっかり神社要素を入れていくことが大切です」

富士山の溶岩を使って富士山を模した下谷坂本富士。普段は閉じられていますが……

毎年6月30日と7月1日だけ「お山開き」として登拝ができるんです!

「御朱印を作るにあたって、みんな妥協は1ミリもないんですよね。それぐらいに毎月とことん突き詰めて作っている。だからこそ自分は、その時その時の御朱印に求められているテイストの文字を出すのが難しくて、毎月苦労しています」

「苦労はあると同時にすごく勉強になる」と笑顔で話す山下さん

「山下さんは毎月何度も何度も同じ字を書いてるし、たまに離れて『精神と時の部屋』みたいなところにこもって、集中していたりするよね……」

 

……そうなんです。山下さんの言うように、季節や行事を伝える御朱印を、毎月妥協ゼロで作っております! このクオリティで5年やっているのは、自分たちのことながらすごいと思います。

また、デザイナーの安村さんは、神社のお仕事が他の仕事と違う点について、こうも話していました。

「デザイナーの仕事は情報を伝えるのがメインだったりしますが、御朱印はそれ自体が参拝に来ている方々の楽しみや、参拝の体験の思い出になるわけですよね。
そこが難しくて、御朱印という参拝の楽しみや体験を魅力的に作れているかは毎月考えています」


皆さん、神社というちょっと特殊な仕事ならではの難しさがそれぞれあるようです。自分自身も、もともと神社が好きだったとはいえ、神社の文脈に沿った文章は今でも難しいし、日々勉強しているところです。

それまで神社が好きでありながら、日本の神様のストーリーには無知でした。

日本神話を改めて調べる。七夕や七五三といった日本の伝統行事の意味。七十二候や二十四節気といった細やかな日本の季節の移り変わりを感じる。

こうしたことは、この仕事を通じてはじめて知りました。勉強は一生続くんだろうなと思います……! 

季節や年中行事をモチーフにした御朱印も 左:「桃花」特別御朱印 右:「桃の節句」特別御朱印

神社の仕事ができるようになったきっかけ

フリーライターである自分の場合は、今の仕事があることは「ご縁」や「運」が大きいと思っています。ただ「神社を好き」ということをSNSや仕事を通じて発信していたことは、今の仕事にもいい影響があったんじゃないかと思っています。

とはいえ、自分以外のメンバーは、神社のデザインが得意だったり、神社に興味があったというわけではありません。

イラストレーターのタカトモハンコさんは神主さんと同じ美容院で、その美容院に制作したグッズを置いてもらっていたのが縁で、御朱印のイラストを担当するようになったそうです。そんなことあるんだ。

縁はどこに転がっているかわからないですね

タカトモハンコさんは現在、神社関係のイラストは筆で描くことが多いのですが、もともとはハンコが専門です。美容院に置いてあったグッズもハンコのものでした。あたたかみのあるハンコのテイストが御朱印にぴったりだと、神主さんの方から声をかけてご縁がはじまりました。

本当に縁ってどこに転がっているかわからないからこそ、もし仕事にしたい「好き」がある方は、さまざまな方法で好きを発信するのもいいんじゃないでしょうか。

好きなソーシャルゲーム(ソシャゲ)のイラストをSNSにあげていたイラストレーターさんが、声がかかって実際にそのソシャゲのイラストを担当するようになったことも、よく見かけます。どんなクリエイターさんも、とにかく見てもらう機会を増やす努力は、どこかで巡り巡って「ご縁」につながるんじゃないかと思います。

とはいえ、好きなものと全然関係ない分野に関わった結果、知って好きになるのも楽しいですよね! あなたの仕事にいいご縁があるよう、お祈りしています。

ちなみに小野照崎神社の御祭神、小野篁公は実在した歴史上の人物です。昼は朝廷で働き、夜は冥界で閻魔大王の副官を務めたという伝説のある学問・芸術・芸能・仕事の神様なんです。仕事、創作活動の休憩で一度ご参拝に来てみてはいかがでしょうか。

取材協力

小野照崎神社
Web:小野照崎神社
Twitter:@onoterupr
note:小野照崎神社|note
鎮座地:110-0004 東京都台東区下谷2丁目13−14
電話:03-3872-5514
授与時間:9時〜16時

 

安村シン
Web:SHINWORKS Inc. – 心を動かすデザインを。
Twitter:@shinworks_net

タカトモハンコ
Web:タカトモハンコ.com
Twitter:@takatommo
ハンコ通販:タカトモハンコのギャラリー 


山下人夢
Web:山下人夢 | ASOBISYSTEM Co., Ltd. 
Instagram:tom.yamashita_official 

取材・執筆:井口エリ
編集:斎藤充博