「イラストを使って何をしたいのかを考える」サタケシュンスケが語るヒアリングスキル【イラストレーター7つのスキル】第4回

2025.1.31

イラストを仕事にしようとしていているけど、うまくいかない。そんなときには、自分のイラストがよくないからだろうか、と悩んでしまいますよね。しかし、イラスト以外のところに原因があるのかもしれません。

イラストレーターのサタケシュンスケさんは「イラストレーターにはイラストスキル以外に7つのスキルが必要」とおっしゃっています。

この連載では、それぞれのスキルはどんなものなのか、どうやったら身につくのかをサタケシュンスケさんにおうかがいします。今回は「ヒアリングスキル」です。

お話を聞いた人

サタケシュンスケ(X:@satakeshunsukeWeb
イラストレーター。広告制作会社勤務のグラフィックデザイナーを経て2007年に独立。よく同業者から相談を持ちかけられる。著書に『イラストレーターのためのお金の話』『配色アイデア手帖 色とイラスト かわいい世界観を作るヒントが詰まった本』など。

この依頼内容で、本当にクライアントのためになるのか?

――今回はヒアリングスキルです。なんだか営業職のような話になってきそうですが、イラストの世界ではどういったスキルなのでしょうか。


サタケ

前回のコミュニケーションスキルに共通する部分もあるのですが、これは「相手の考えや思いを聞き出す力」です。

勘違いされやすいのですが、クライアントはイラストそのものが欲しくてお金を出すのではありません。イラストを使って何かを成したいと思ってお金を出すのです。ですが、イラストレーターは「自分の仕事は絵を描くこと」と思っていると、このあたりを見失いがちになってしまう。あくまでも、相手の目的に沿うことが大事なんです。

――「うまい絵が描ければいいわけではない」ということですね。


サタケ

たとえば僕に「こういうキャラクターをデザインしてください」という依頼が来たとしたら、僕は下記のようなことをヒアリングします。

  • キャラクターが必要だと感じた理由や経緯
  • キャラクターを使うことで解決したい課題や問題
  • 生み出したキャラクターとともに歩む(成長する)未来を描けているか
    など

クライアントによっては、ここまで考えないで依頼をしてくることも多いです。ヒアリングが進んで整理ができてくると、「そもそもキャラを作る必要がないかもしれない」という結論になることもあります。この場合は仕事自体がなくなってしまうわけですが。


――なるほど。ただ、そこまでせずとも、キャラデザのお仕事として引き受けて、納品してしまうこともできるわけですよね。


サタケ

もちろんです。キャラについての要望だけを聞いて、相手が望むデザインをつくることもできる。ただ、クライアントが「キャラクターとかいたらいいんじゃない?」とふわっとした状態で依頼してきていると、後から「いや、なんかちょっと違うな」と迷走してしまうことも多くて。僕のやり方も、意外とそこまで遠回りではないのかなと思います。

打ち合わせの場で、スケッチを描いて見せる

――そもそも、依頼時点でクライアントからいただく情報は、基本的に不足していると思っておいた方がよさそうですね。だからヒアリングスキルが必要なのかなと思いました。

サタケ
そうですね。僕は自分のWebサイトの問い合わせページに、聞きたいことをフォームで用意してあります。そこを入力していくうちに、「そうかそうか、これも伝えておかなきゃいけないのか」とわかった上で依頼してくださるわけです。そうすることで、こちらも受け入れる準備ができます。

――それもひとつのヒアリングですね。制作がスタートしてからのヒアリングはどのように進めていますか?

サタケ
打ち合わせの場で話を聞きながら、スケッチに起こすようにしています。お互いにイメージが共有できるので便利ですし、聞いたことをその場で絵に起こしていくことで、先方にも「ああ、そうそう、そういうこと」とリアクションをもらえる。

その場で答えが出てお互いに安心するし、何より1回持ち帰って用意するよりも速いんですよね。リモート会議でも、タブレットや画面共有などを駆使すれば可能です。

相手が「イラスト制作に詳しくない」前提で説明をする

――案件によっては、イラスト依頼に慣れていないクライアントが発注してくるケースもありますよね。トラブルや事故を避けるために、サタケさんがしている工夫はありますか?


サタケ

初めてご一緒するクライアントに対しては、制作の流れをまとめた資料を最初に見せています。本当に慣れていない方は、イラストがどのようにして完成するのかもわからないと思うし、「修正ってお願いしてもいいのかな……?」など、ドキドキしていらっしゃると思うんです。その不安を取り除いてあげる必要があるなと。

それとクライアント目線では、お金まわりも心配ですよね。僕は自分の中で基準のようなものがあるので、「こういうことに使われるんだったら、イラストを使うことでこういう宣伝効果があって、売り上げがこれだけ見込めるから、制作費としてこれだけ頂きたいです」ということを説明しています。


――1枚で何円、と決めている人は多いと思いますが、サタケさんは「どう使われるか」まで考えて価格設定されているんですね。


サタケ

そうですね。初めてのクライアントでしたら、お金の件と合わせて「二次使用という考え方があって、お渡しした絵は自由に使っていいわけじゃないんですよ」というお話もていねいにする必要があるかなと思います。

先方が発注に慣れていないのであれば、最初に仕様書のようなものをこちらで用意して、「何に使うのか」「どのぐらいの期間使うのか」といった必要事項をクライアントに書いてもらう。確認漏れや「言った・言わない」のすれ違いを防止できるので、特に駆け出しの方にはおすすめの方法です。


――11月からフリーランス新法も始まりましたし、そうした取引がこれからは主流になっていきそうですね。


サタケ

僕はもう、初めてご一緒するクライアントは、全員イラスト制作に詳しくない前提で話をするようにしています。お金まわりの交渉術については、「交渉スキル」の回でより詳しく説明しますね。

サタケシュンスケインタビュー連載「イラストレーター7つのスキル」

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聞き手・編集

斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI

構成

ヒガキユウカ(X:@hi_ko1208

イラスト

華緒はな/お花(X:@hanao_hanao_twiGENSEKI

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