GENSEKIマガジン

モノづくりを広げる・支えるメディア

「独立当初は泣きそうになりながら帰った」ベルリン移住し、自分の体験をクリエイターに語り継ぐその原動力とは ー イラストレーター/漫画家・高田ゲンキ

DTPデザイン会社に勤務後、2004年にフリーランスのイラストレーターとして独立。

2012年にドイツ・ベルリンへ渡り、現在もベルリンで書籍・雑誌・広告・教材・web・アプリ等媒体を問わず活動している高田ゲンキ氏。

シンプルでわかりやすく実用的なイラストで、経済産業省 特許庁、NTT、NEC、リコー、大和証券、学研など、その他多数の名だたる有名企業との取引実績も築き上げている。

 「道は自分で切り開く!悩んでいる人たちにエールを送りたい」

終始とても前向きで、広い視野で世界を見ながら常にインプット・アウトプットし続ける高田氏の姿勢について詳しくお話を伺った。

何気なく描いた「自分の体験漫画」がヒットし、書籍化

『みんな元気だせよーーーーーーーーー!!!』

『みんな元気だせよーーーーーーーーー!!!』

ーーご自身の代表作品を教えてください。

高田ゲンキ(以下高田):こちらの『みんな元気だせよーーーーーーーーー!!!』という作品です。2017〜18年頃、あるWebメディアで自分のフリーランス体験談の漫画を連載していた時期があったのですが、その時にTwitterでフォロワーさんがすごく増えまして。そのTwitterを通して繋がった人たちが悩んでいたり落ちこんでいたりしているのを見た時に、「 リプでこの画像を送って、少しでも励ませたらいいな」ということをやりたくて描いた漫画です。
漫画は自分自身を主人公にして描くことが多いのですが、人をモチベートすることがミッションだと思ってるんです。フリーランスになりたい!でも独立するのが怖いという人に「頑張ろうぜ!」のような感じで。励ますというか元気づけるというか、名前がゲンキですし(笑)

ーー確かに、この画像を見たら元気が出ます!フリーランスの漫画はいつ頃からどのウェブで連載されていたんですか?

高田:連載は「Think IT(シンクイット)」というIT技術者向けの Web メディアさんでずっと描いていました。プログラマー向けのメディアだったのでこの漫画だけフリーランスの話を描いていて…ちょっと毛色が違ったんです。
どうしてそちらで連載していたかというと、そこの母体がインプレスさんという大きな出版社さんで、漫画のキャリア以前にイラストの方の仕事でお取引があったんです。
その繋がりでインプレスさんから漫画のコンテンツも作って欲しいとお話をいただいて、母体が出版社のWebメディアなので上手くいけば本になって出せるぞってなればこっちとしても嬉しいですし。
ただ、メディアの既存の読者層と自分のターゲットになる読者層が違っていたので、自分で集客しなきゃいけないと思って自分でtwitterでも宣伝していたので、その時期にフォロワー数も増えました。自分で頑張って流入も確保して、本として出版できたという感じです。

ーーなるほど。元のメディアとは毛色の違うものを連載していた形だと思うのですが、メディア的には高田さんが企画を決めたら「それで行こう!」という感じだったんですか?

高田:IT系なんで最初はベルリンのスタートアップシーンを自分で取材して漫画にしていました。実はベルリンはスタートアップが盛んで、アメリカでいう『シリコンバレー』のように世界中の IT 起業家が集まってくるんです。ヨーロッパの中ではかなり注目されていて、僕もそういうのが好きで移住先に選んだというのもあります。
ただ、ちょっとニッチすぎてあまり読まれなくて、なかなか伸びないな〜と燻ってたんです。

そのタイミングで2016年に息子が産まれたんですね。海外での育児なので奥さんだけに任せるのではなく二人でちゃんとやらないと大変だぞと思ったときに、外に取材に行っていろいろ描くのは育児の時間が取りづらいなと思っていました。そもそもコンテンツがそんなに伸びてなかったので仕切り直して、「取材しなくても描けるネタといえば、自分が独立した頃の話」と思いついていきなり始めたんですね。
そしたら、それがドカーンと読まれてアクセス数も10倍以上になってしまって。3話ぐらいで終わらそうと思っていたんですけど、第2話ももっと伸びたので「もう少し内容を膨らませて、この漫画が伸び続けたら本にしてください!」という企画書を出しました。なので、最初からフリーランスのネタに関しては結果が出てる状態で連載をスタートできたので企画も通しやすかったっていうのはありますね。

書籍『フリーランスで行こう!』(インプレス)

書籍『フリーランスで行こう!』(インプレス)

 

ーー描いてみたら、反響が大きかったんですね!

高田:2016年の終わりか2017年頃、ちょっとした『フリーランスブーム』みたいなものがあったんです。政府の「働き方改革」に関連してフリーランスが推進され始めた時期と前後していたことも関係あったと思いますが、ネットでもフリーランスの方が増え始めた頃で、あまり意識してなかったんですけど、ちょうどそこに被ったという感じでしょうか。ブームの波に乗れたのも大きかったと思います。

デジタルとの出会いで起こった革命

ーー漫画を描き始めたきっかけから現在の活動に至るまでの経緯について教えていただけますか?

高田:最初に漫画を描いたのは小学1年生の時です。クラスに絵画教室の先生の息子さんがいて、家に藤子不二雄先生と赤塚不二夫先生の漫画がバーッてあって、学校でその子が絵を描いてるのを皆は「すげーうまい」ってなってたんですよ。それを見て「なんか自分も描けそう」と思って(笑)描いたら描けたんです。俺もうまいじゃんと思っていたら周りから「ゲンキも上手い」と言われて、それでその気になっちゃって、そのまま中学ぐらいまで「自分は漫画家になるんだ」と思ってずっと描いていました。
その後、高校から大学までは、音楽も本格的にやってメジャーデビュー出来るかもってところまでいったんですが、音楽をやるためにMacを買ったんですね。もう20年以上前ですが。その時にPhotoshopやIllustratorを入れて、自分が描いていたアナログの漫画とデジタルの Photoshopを混ぜたらデジタルイラストレーションになるじゃん!と気づいて自分で試行錯誤しながら始めたのが、今のデジタルイラストの始まりです。1度会社員としてデザイナーをやり、その後フリーランスでイラストレーターをやっていこう!と思い、その延長で漫画も。デジタルスキルがある状態で漫画を描くのはすごくやり易いのです。僕にとってはデジタルっていうかMacに出会ったことが、すごいことでした。今だと当たり前かもしれないんですが、ずっとアナログでやっていた僕がデジタルに出会った…そのスキルで何でもできるなって思っています。

ーーデジタルとの出会いが、革命的だったんですね。絵の勉強はどのようにされてきたんですか?

高田:美大や専門には通っていなくて、学校も文学部出身で、絵の勉強はデッサンだけです。ただ、デッサンの経験は今の絵にとても生かせていますね。僕の師匠に鹿児島在住のイラストレーター・大寺聡さんという方がいて、大寺さんに会いに鹿児島に行ったんですよ。大寺さんがデッサンは凄い大事だって仰っていて、「出来るならやった方がいいと思うよ」って言われたんです。それで地元のデッサン教室に通いました。その時の経験が凄く大きくて。イラストスクールに行くより僕はデッサンをやった方がいいという話を周りにしたら、何人か僕の後輩がやってくれたんです。その後輩たちは今めちゃくちゃプロで活躍していますね。

ーーデッサン教室には、どのくらいの期間通われたんですか?

高田: 期間としては2年くらいでしょうか。週に2回くらい行ってアドバイスをもらうみたいな感じです。デッサンという概念を知っているかどうかが大きくて、ある瞬間から物の見え方がガラッと変わる瞬間があるんです。上手い人は本当にそこに物体があるように描ける。そういうことを学んで描くと、イラストにもすごい説得力が自分の中で生まれる。何でも描けるっていう自信にもなります。

ーー非常に参考になる話ばかりです。ご自身の作風について意識していることやこだわりについてお伺いできますか?

高田:技術的には「妥協しない」精神的には「ポジティブなものと楽しい気持ちで」ですね。僕より絵が上手い人はたくさんいますが、 自分が読者というか見る側に立った時に見て楽しくなるイラストを描きたいという意識で描いています。イラストは「ビジュアルが100%」なので、そこを妥協したら終わりという意識で描いてきました。
楽しい気持ちやポジティブな物って漫画もイラストもどちらにも共通しているけど、漫画に関しては作画に関して妥協しちゃう人って結構多いように感じていて。 Web連載なら作画は妥協して更新頻度をあげる、それが悪いというつもりはなくて、僕に関しては自分の中で最低限妥協しないで漫画も描きたい、後々見返して自分自身が絵も楽しめるものでないと続けていけないと感じます。

書籍『フリーランスで行こう!』プロローグ(インプレス)

書籍『フリーランスで行こう!』プロローグ(インプレス)

 

ーー高田さんの絵柄は線がシンプルで分かりやすく、絵を見た時にすっと入ってくる感じでうまくデフォルメ化されていると感じます。

高田:漫画を仕事で描いてるのは5、6年ぐらいで、2016年に連載を始めたので、その前はほとんどイラストばかりでした。漫画の仕事を始めて最初の一年はかなり迷いながら描いていて、タッチも色々試行錯誤してました。デジタルで漫画の絵をどう描くか?それがだんだん自分の中で落としどころが見えてきて、落ち着いたところが自分で自然に描ける作りすぎないタッチで、僕としてはよかったかなと。オリジナリティはあるんだろうけど自分が影響を受けてきた漫画家さんのタッチの集合体、ちょっとずつ色んな影響を受けて、自分が好きなものが詰まって出来てるなと感じます。江川達也先生が好きなんですが、子供の頃一番最初は藤子不二雄先生とか、手塚治虫先生とか。最近だと浅野いにお先生が好きです。自分が10代20代の頃に読んだ漫画家さんの絵柄がずっと染みついていて、自分なりにその染みついたものを再現して、最大公約数の中で一番自然に出てくるものというのが結論として今の絵柄になっていると思います。

ーーデジタルで描かれているとおっしゃっていましたが、機器やソフトはどのようなものを使用されていますか?

高田: 漫画に関しては基本CLIP STUDIO PAINTのデスクトップ版だけです。最近はiPadも買ったので使おうかな〜と思っていますけど、 メインはやっぱりデスクトップ版かなと思っています。

ーー漫画の時はCLIP STUDIO 、イラストの時はIllustratorを使っていることが多いですか?

高田:そうですね。絵の時は100% llustratorです。あと気になっているのはiPad版のfresco。漫画が描きやすいように進化しているらしいので、ちょっと試したいと思っています。

ーー漫画家さんだとデスクトップでペンタブを使って描いている方が多いと思うのですが、イラストレーターさんはかなり iPad が浸透しているように感じます。

高田:iPad凄いですよね。 ある時期まではやっぱりスペック的に足りなかったですし、「これでプロの仕事はできないな〜」と思っていたんですけど、決めつけはよくないと思って、やっぱりいいかもと思い直して先日買ったんですよ。今まではとにかくCLIP STUDIO PAINTのデスクトップ版でしたが、これからはiPadも補助的に使っていきたいなと思ってます。

『ipad版illustratorを研究』

『ipad版illustratorを研究』

 

ーータブレットはどのメーカーのものを使っているんですか?

高田:タブレットはWacomの板タブです。板タブにざらざらしたカッターマットを張ってるんですよ。貼ると引っかかりが出るというか、アナログに近い感覚で、描きやすくなります。これがあるから板タブは使いやすいってのがあって、感触が気に入っています。

「誰かに届くように」間口を広くして自分をアピール

ーー高田さんの今現在のお仕事はどのような内容のものが多いですか?

高田:イラストメインで、大きい案件も小さい案件もやっています。ずっとやっているのは『スッキリわかるJava入門』(インプレス)という本で、イラストを全部担当させていただいているんですけど、企画とかキャラデザとか結構深くコミットさせていただいていて10年になります。この本、売れてるんですよ(笑)他には、最初にご紹介した本とは別でフリーランス関連の新しい書籍も執筆中ですし、最近はYouTubeも頑張っています。メインはIllustratorで イラストの描き方講座をやっています。日本語のYouTubeコンテンツでllustratorでイラストの描き方をちゃんとレクチャーしてる人って全然いないんです。やってみたら結構反響があったので、頑張ろうと思っています。

書籍『スッキリわかるJava入門』(インプレス)

書籍『スッキリわかるJava入門』(インプレス)

ーーイラストメインでお仕事をされているという事ですが、需要は漫画よりもイラストの方が多いんでしょうか?

高田:そうですね…イラストの方が分母としてはあると思っています。
漫画は本当に、その時の読者にウケるかどうか。最近はSNSで発信して、それが受けてバズって書籍化という人もいますけど、今増えてきているからなかなか茨の道ですし、バズっても続けるのが難しい。書籍化といってもそれだけでずっと本当に生活していけるかというと、難しいと思います。
なので、漫画にこだわりすぎないで、イラストも色々と描けるようになるとか。僕は今イラスト中心ですけど、マンガも描ける!ブログも!YouTube も!とやってみたいチャンネルをどんどん増やしていって、誰かに、どこかに引っかかるようにする。自分のスキル同士のシナジーというか、沢山かけ合わせられる人は少ないですよね。それで総合的にいろいろなことが出来たとして、その中に漫画が入ってたら自分のことを漫画家と言ってもいいし。もちろん漫画だけがやりたいなら、そういう人は一極集中してほしいと思いますけどね。

ーーとても大事なお話ですね。この道で食べていきたいというのが強いのか、それともアーティスト性を重視したいのか。

高田:僕も一生かけて表現したいアーティスト性というか、作家としての気持ちもあるんですが、まずは何か描き続ける!それを仕事として続けていきたいと思います。ようするにイラストの仕事さえ続けていけば、スキルは上がるじゃないですか。自分がそれを続けられる環境を、自分で作り続ける。

ーー間口を広げておいた方がその先どこかに引っかかる可能性がありますよね。フリーランスの本を出されたみたいに。

高田:そうですね、2冊目のフリーランスの本『世界一やさしい フリーランスの教科書 1年生』(ソーテック社)も売れていて、おかげさまで6刷(重版5回)まで行きました!

ーー凄い、とても売れていますね!

高田:売れてる本を書いてる人は沢山いますけど、更に漫画を描ける人というのは少なくて。2冊目の本の文章も、マンガも、イラストも、図版も、全部自分でやったんです。そこまでやる人、普通はいないですよね。

『世界一やさしい フリーランスの教科書 1年生』

『世界一やさしい フリーランスの教科書 1年生』

こだわらずどんな仕事も受けた「継続」の日々

表紙イラスト『合格のポイント』日本習字普及協会

表紙イラスト『合格のポイント』日本習字普及協会

ーー自分のイラストを見てもらうために、やはりSNS からの集客は大事だと感じますか?

高田:そうですね、僕のように実用的なイラストでBtoB で企業さん相手に仕事したいのでしたら正直フォロワー数はあまり関係ないかなと思います。ただ、漫画家としたらめちゃくちゃ上手い人よりもめちゃくちゃフォロワーが多い人の方が仕事が来るんですよ。 PR漫画とか僕もたまにありますけど、漫画を描いて欲しい+その本人のアカウントに広告塔になってほしい、といったご依頼ですよね。フォロワー数が全てになっちゃうのもどうかと思いますが…でも増やせるなら増やした方がいい。 1万人超えると箔がつくと思います。

ーー最初の頃は、どのようにお仕事を取ってきていたのですか?

高田:独立当初、営業をかなりしていたんですよ。最初の頃はそれでも1ヶ月に30件とか。当時は神奈川県に住んでたんですが、1回往復すると2000円以上電車賃がかかってしまうので、同じ日に3、4件アポを入れて朝から晩まで、はしごして。最初の一件目でくそみそに言われて(笑)泣きそうになりながら帰ることもありました。
その数年後(2007年ごろ)にも、仕事がなくなりかけた時に、今度は100件ぐらい営業をかけて。そうすると100件やったら5件ぐらいは仕事の依頼がくるんです。僕の場合は予想以上に仕事が来てしまいましたが、寝る時間を削ってでも全部受けました。その実績を自分のウェブサイトに掲載しておくと、さすがにそれだけやったので仕事が仕事を呼んで、という流れになったんです。

ーー自分から仕事を獲得しに行っていたんですね。自分のイラストが上達したなと感じたタイミングはありますか?

高田:フリーランスになって締め切りに追われて大量のイラストを描いていた時でしょうか。描かざるを得ない状況でもう仕事しかしてない、睡眠時間も取れないぐらい。僕は27歳で独立したんですけど、最初の5年ぐらいはありがたいことに仕事が沢山きました。仕事としては嬉しいんですけど、自分の絵に納得できてるかというと、そうでもないんです。満足できない状況とはいえ、仕事が来るのでずっと描いていました。そして、6年経った頃に、急に「あれ?なんか上手く描ける」みたいに突き抜けたんですよ。それがなんでなのかというと、単純に枚数をひたすら描いてたからなんです。5年以上本当に命がけで絵を描き続ける環境って、普通はあまり無いじゃないですか(笑)

ーーもうやるしかない状況で、成長したということですね。

高田:そうです。 そうしたら自己評価だけじゃなく大きい仕事もくるようになったんですよね。イラストカットばっかり描いていたけど、その年から急に扉絵とか書籍の表紙とかの依頼が来たり、ギャラも上がりました。あんまり楽しくない回答かもしれないですけど、上達したのは「継続」ということです。

ーーやり続けたから、ある日違うなと思う日が来たということですね。

高田:あまり仕事内容にこだわりすぎないで何でも受けているので、スキルが蓄積されていくんでしょうね。やってる作業そのものが好きなんだと思う。

尊敬する師の存在

『小惑星イラスト』

『小惑星イラスト』

 

ーー高田さんが尊敬している方についてお伺いしたいのですが、先ほど漫画家だと江川達也先生、イラストレーターさんだと大寺聡さんとお名前がでていましたね。 

高田:はい。大寺さんは僕が独立した頃に雑誌とかで大活躍のイラストレーターさんでした。2000年に鹿児島に移住されて、首都圏から離れて好きなライフスタイルを送っているのですが、その暮らし方にも影響を受けています。僕はドイツですけど。
東京はそれはそれで好きなんですけど、イラストレーターも漫画家も東京一極集中で東京から離れられない、そこじゃなきゃいけない!っていう常識を変えたい。そこも含めて影響を受けてると思います。

ーー大寺さんとはどういった経緯で交流が生まれたんですか?

高田:僕が雑誌を見て凄い!と思ったのがきっかけです、一方的に(笑) まだ会社員で「イラストレーターとして独立しようかな?」と思っていた時に大寺さんのちょこっとした雑誌のカットを見たんです。「すごい好きだけど真似できないな」というか、根底の画力の凄さみたいなのを感じて、こりゃマネできないなと思って、すぐに検索してホームページも見てすごい衝撃を受けました。「なんか凄い」それが何なのかを知りたくて毎日ホームページを見に行ってました。過去のインタビューが掲載されている雑誌のバックナンバーも集めて、一方的にファンって感じでしたね。
その頃に、鹿児島の廃校の小学校を改装したギャラリーで個展をやるというのを知って、僕は「遠方なので行けないのですが、DMが欲しいので送ってくれませんか?」ってメールしたんです。そしたらDMだけじゃなくポストカード30枚くらい入って送られてきて、それで感動しちゃって「これは鹿児島に行かなきゃ」って会社休んで(笑)アポなしで会えなくてもいいからと行ったらそこにご本人がいて…というのが始まりです。その時に色々と話を聞いてもらってこれはやっぱり会社辞めてフリーランスになろうと決めました。

ーー独立を決意したのは、大寺さんの存在も大きかったですね!

高田:そうですね、それが2003年なんでもう20年近く前ですね。

ーー20年前から続いてるご縁というのも、とても素敵ですね。 

違う分野との出会いから湧き上がるインスピレーション

『特許庁見学サイト(経産省特許庁)』(CAPA特別編集)

『特許庁見学サイト(経産省特許庁)』(CAPA特別編集)

 

ーーアイデアに詰まった時のリフレッシュはどのようにされてますか?

高田:サイクリングですね。視覚的に得た情報からかなりクリエイティビティというか、創作欲が生まれたりするんです。ずーと同じ場所にいると息が詰まるというか…歩いてもいいんですけど、自転車って歩きより速くて車より遅くてちょうどいいなと。自由に走ったり止まったりもできるので、普段あんまり行かない非日常的な所に行っていろいろ刺激を受けて、気になったら立ち止まってスケッチして、クリエイターにはいい趣味なんじゃないかと思っています。

ーー創作活動する上で、情報収集はどのようにされていますか?

高田:全然違う分野を見ていると、色々なヒントを貰える事が多いなと感じます。イラストレーターとして活動したら、イラストのトレンドとか業界紙とか気になるのは分かるし、チェックもするんですけど、それと同じかそれ以上に他の分野やビジネス全体とかいろいろヒントを貰える事が多い。自分のイラストをどうやって売ろうかとか、イラストも商品なので、それをより普及しやすくするためにはどういう商品開発をしたらいいのか。同じ分野ばかり見ているとみんなひとつの連動に流されてしまうので、トレンドを意識しつつ自分のやり方を作るには、イラスト以外の情報を見た方がいいかなと思います。

ーーマーケティング的な感覚を得ることができますよね。他の分野の人たちをチェックするということに関してはどのような人達を見られているのですか?

高田:例えば海外のアニメーションの方だったり。Behance(Adobeが運営するクリエイターSNS)を見ていますね。 Behanceではクリエイターやイラストレーター、デザイナーの作品が見れます。今はInstagramもありますけど、Behanceの方がよりプロ作品が多いので、クリエイターの人は見た方がいいかも。僕もやっています。
あとは、クリエイターに限らずスタートアップシーンのビジネスやプロダクトを研究するのが好きです。イラストも創作であると同時にビジネスなので、自分のプロダクト(イラスト)をどのように商品開発してどうやって売るか、という視点で見ると可能性や改善点を可視化しやすいので。

ーー日本以外にも目を向けると、視野がどんどん広がっていきますね!イラストや漫画の仕事をしていて一番幸せを感じる瞬間と逆につらかった経験はありますか?

高田:自分の経験を描いている漫画を見て、「見ました!」とTwitterのDM とかメールで報告いただける時は嬉しいですね。 

ーー自分の描いたものがその人の人生の役に立ったんだ!という感じですね。

高田:僕の漫画を読んだことがきっかけで、もう僕以上に成功した人もいて。そういうケースばっかりじゃないとは思いますけど、成功失敗というよりかは経験すること、失敗を含めて何か挑戦したというのが大事だと思うので、誰かが挑戦するためのきっかけになれたってのは嬉しいです。やっぱり大寺さんとかいろんな人から影響を受けて、それを次へ繋ぐバトンだと思っているんですけどね。

ーー辛いことはありますか?

高田:睡眠時間が少ないので、ゆっくり寝たいです(笑)

ーー仕事と育児の両立で、寝不足という感じですか?

高田:そうですね、最近は寝るようにしてます。体力がもたないので。

ーー絵や漫画を描くこと以外に趣味はありますか?

高田:動画制作です。これはもう趣味の域を超えつつあるのですが。もともとパソコンで何かを作るというのが好きで、YouTubeの編集をやり始めたらハマっちゃったという。YouTuberとしてもうちょっと頑張りたいと思っています。

ーー今後やりたいと考えている漫画やイラストの仕事を教えてください。

高田:YouTubeをまずは頑張りたいです。それが育ってくれれば、描いているプロセスも全部コンテンツにできるじゃないですか?制作過程を動画にして、そこで描いたイラストや漫画はまた別の場所(書籍やSNS)で発表する、というサイクルを作りたくて。僕がYouTubeを 始めた一番のきっかけは、浅野いにお先生のYouTubeなんです。ライブ配信だけで漫画描きながらずっと喋っているのを見ているのが好きで、それを僕も真似して最初はライブ配信から始めたんですよ。やってるうちに描き方についてだったりを色々と訊かれて、ちゃんとレクチャーする動画を作りたくなっちゃったんです。

ーースタートはライブ配信からだったんですね。

高田:ライブ配信もまたやりたいんですけど、ちゃんと編集した動画の方が教えやすいしYouTube全体のおすすめに載りやすくて登録者も増える。今はTwitterで知ってくれてる人が来てくれることが多いですが、YouTubeだけで知ってくれた人が増えたら、そういう人たちに向けてのライブ配信をやろうかなって思っています。 
YouTubeとは関係なく、イラストの今後の方向性としては、今までは作家性を出さずにでやってきたのですが、これからは作家性ありきの作品作りにフォーカスしていこうかなと考えています。収入源のチャネルが増えているので、売上ありきではなく、描きたい世界観でOK!と言われる仕事をやりたい。そちらにシフトしていこうかなというのが、イラストレーターとしての目標ですね。

ーーアーティスト性が表現された高田さんのイラストを見れるのが楽しみです。

 

自ら行動して仕事を獲得し、イラストを描くこと以外の新しい分野にも視野を広げながら、さまざまなチャネルを開拓している高田氏。

イラストレーター・漫画家として、マーケティングやセルフブランディングまで考えることを学ばせていただいた貴重なインタビューとなった。

特に印象に残ったのは「継続する」ということ。

イラスト・漫画両方で大活躍されている高田氏の人柄は、明るく素直に誰かを応援したい、一緒に頑張っていこうという深い愛情に溢れていた。


高田ゲンキ/Genki Takata(Twitter:@Genki119)
1976年生まれ。2012〜ベルリン在住(ドイツEU圏永住権保有)。デザイン会社に勤務後、フリーのイラストレーター/漫画家として活躍中。著書「フリーランスの教科書1年生」。
YouTubeチャンネル『GENKI STUDIO』にてIllustratorを使ったイラスト講座などを更新中。