GENSEKIマガジン

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わかりやすいイラストに込められたプロフェッショナルのこだわり<前編> ー イラストレーター・小坂タイチ

「誰にでもわかりやすいこと」をコンセプトに、イラストレーターとして様々なメディアにて活躍している小坂タイチ氏。

言葉や文章で伝わりにくいことを絵の力で視覚化することを使命と考える小坂氏の絵は、シンプルで親しみやすく、プロダクトとなったときにも手になじみやすいあたたかさを感じる。

コンテストで選ばれたGENSEKI公式キャラクター「GENSEKIくん」の製作を含む作品作りや、プロのイラストレーターとして長年にわたって活躍しているその裏側までじっくりと伺った。

「GENSEKIくん」ができるまで

GENSEKI公式キャラクター 特賞 GENSEKI賞『GENSEKINIUS[ゲンセキニオス]』

GENSEKI公式キャラクター 特賞 GENSEKI賞『GENSEKINIUS[ゲンセキニオス]』

 

ーーGENSEKIくんのイラスト、ありがとうございました!GENSEKIくんは満場一致でこのキャラクターになりました。

小坂:嬉しいです。キャラクターを考えるのは昔から好きで、募集を見てすぐに「これは応募しよう!」と思いました。

ーーGENSEKIくんの服は古風な、昔の時代のようなデザインですね。

小坂:ギリシャ神話っぽい雰囲気にしました。だから応募したときは、「ゲンセキニオス」という名前を付けて応募したんです。「原石」と「歴史」を絡めて、過去の芸術家が現代に蘇ったというような設定が自分の中にありました。

ーーすごい素敵なテーマがあったんですね。顔が原石の魔法石のようです。

小坂:最初はちょっとだけもっと岩感を出したキャラクターだったり、犬にしてみたりいろいろ考えました。それからちょっとだけ原石の宝石のところが見えてるキャラクターを描いてたんですけど、わかりづらいなと思ってもうダイレクトに宝石の顔にしました(笑)

ーー他の案はいくつくらいあったんですか?

小坂:4種類くらい考えていました。それでそれぞれポーズをいろいろ描いてみて、みんなが真似して描きやすそうなものとか、顔だけでアイコンになりそうなものとか。モノクロの線画になったときにきちんと見えるかということを考えて、これにしようと思いました。

ーーとても考え抜かれて作られていますね。発案から完成まではどのくらいの時間がかかるんでしょうか?

小坂:一週間くらいですね。最初にいろいろ案を出すところから、ラフを描いてみて、ポーズ描いてみて、これって決めて清書しました。結構間際まで悩んでいて、ぱっと思いついてできたものとかを描き留めて…っていう感じでしたね。

ーー一週間も練りに練ってくださってすごく嬉しいです。違うポーズとかも描いてもらってLINEスタンプとかできたらいいですよね。

小坂:そうですよね。ぜひぜひ。

絵本の出版は夢が叶った瞬間

『ふわふわでんしゃ』・『ぷくぷくどうぶつえん』

『ふわふわでんしゃ』・『ぷくぷくどうぶつえん』

ーーGENSEKIくんの他に、ご自分の代表作があればお伺いできますでしょうか。

小坂:「ふわふわでんしゃ」と「ぷくぷくどうぶつえん」です。赤ちゃん向けの絵本で、単純なんですけど、風船を膨らませたら電車になったり、動物になったりして、何の電車かな?何の動物かな?というのが繰り返されるというものです。子供って繰り返しが大好きで、次はなに?次はなに?となるんです。

ーーきらきら、とか擬音も多くてページをめくるのが楽しそうですね。

小坂:あとこれは、僕としては珍しく主線を鉛筆で描いてるんです。アナログで描いたものをスキャニングして色塗りをデジタルで仕上げています。6Bとか粗めの鉛筆で、主線がアナログのギザギザとする感じです。

ーーそうなんですね、ひと目見た時にクレヨンで描いたのかと思ったくらいでした。この絵本は小坂さんが企画を持ち込まれた形なんでしょうか?

小坂:いえ、「お父さんのための本を作りたい」というのが編集部さんにあって、一緒に作らせていただきました。編集部さんで考えたコンセプトなんですけど、「お父さんが読み聞かせるための本」なんです。
お母さんは結構文章が長いものを読み聞かせるのが上手なんですけど、お父さんは長いものを抑揚つけて読むことはあんまりされない傾向があるので、擬音で簡単に「わー!」とか「うっ!」とか言いながら読めるもの、お父さんのための読み聞かせ本というものです。

ーー読み聞かせに慣れていないお父さんでも読み聞かせられますよっていうことですね。

小坂:ちょうど同級生も子供ができたりするタイミングだったりするのでプレゼントさせてもらったり、逆に「買ったよ」って読み聞かせてる写真を送ってくれたりしてすごく嬉しかったですね。

ーー小坂さんは独立して専業でお仕事されていると思いますが、出版社からお声が掛かるようになったのはどういうきっかけなんでしょうか?

小坂:会社を辞めてイラストレーターとして独立するときに、すごく営業活動していました。1日20件くらい出版社に電話したり。本屋さんで自分が描きたい雑誌をがっさり買ってきて、雑誌の後ろに書かれている編集部に電話して、さも知り合いのふりして電話をつないでもらう、みたいなことを当時は結構やっていました。

ーー度胸がすごいですね!かなり地道に営業活動をされていて、それが実を結んでお仕事に繋がってるということですね。

小坂:お会いすることを重要視していて、僕がどういう人間なのかを見ていただいて信頼していただいて…って思っていたので、できるだけ会えるようにうまく電話してました。来週近くに行くんでぜひ、みたいな感じで食い下がって(笑)
お会いいただけると、その場で「今これあるけど」みたいなこともありましたし、それこそ1年越しに連絡いただいたりすることも結構あったりして、徐々に増えていった形ですね。

ーー何年前に独立されたんですか?

小坂:2006年です。今僕は44歳で、30歳で独立したので14年前ですね。もう必死でした。娘も2歳でしたし、家族もいますし。

ーー絵の道に行きたいなっていうのは元々決めていたんですか?

小坂:デザイン科がある高校に進んで、そこからデザインの専門学校を出て、最初は広告代理店に就職をしてそこで10年間デザイナーとディレクターをやっていました。
でも「絵で食べたい」ってことはずっと子供の時から思っていたので、ちょうど30歳のときに独立しようって思って。あの時代って、30歳くらいになったら独立するっていう風潮みたいなものを感じてて、、自分もそういう時期に差し掛かった時にこの道でやっていこうって決めました。最初はもちろんイラストだけでは全然食べていけなかったんですけど。
それまでのデザインの仕事を続けながら、独立してからもちょっとずつ営業活動をしてイラストのウエイトを増やしていった感じです。

ーーこの「ふわふわでんしゃ」と「ぷくぷくどうぶつえん」もその営業活動からのお仕事ということですね。

小坂:そうですね。挿絵などはずっといろいろやっていたんですけど、子供が読む本をずっとやりたいと思っていて。その中でも絵本がやっぱり一番で、絵本を出版するって自分の中では夢だったのでそれが本当に叶った瞬間なので、これが代表作だし、一番嬉しかったし楽しかった仕事ですね。

『ふわふわでんしゃ』・『ぷくぷくどうぶつえん』

『ふわふわでんしゃ』・『ぷくぷくどうぶつえん』

ーー本を出版されるとき、一般的に表紙の挿絵などは出版社からいくらって単価で受注されるケースが多いと思うんですが、今回もそういった形での契約なんでしょうか?

小坂:いえ、この絵本は印税でした。出版社や本のジャンルなどでも違いますが、本の価格の何パーセントみたいな感じです。

ーーでは、1枚絵を描いていただく場合の単価は、通常おいくらくらいでOKされてるんでしょうか?

小坂:ピンキリですね。それこそ挿絵だったりしたら1点数千円とかくらいのものも、広告媒体だったら1枚絵で数十万のものもありますし、全然決まっていなくて。僕は基本仕事は断らないって決めてて、全部相手の予算に合わせてやっています。どうしても予算が合わない場合は提案や交渉をするという感じです。

ーーそれはお客様からしたらうれしいですよね。

小坂:ただ、イラスト料を予算の中に組み込むっていう文化が、日本ではあまりないなという気がしていて、予算を聞いても、総予算は分かるけどその中でイラスト料にいくら使えるのかを把握されていないってことが多いですね。そういうのは難しいところだと思います。
また、広告媒体や雑誌など媒体によって総予算が全く違っているので、同じ絵でも価値が違ってきて、僕としては描く時間も描くものも同じなんですけど、いただけるフィーも違うってことが多いです。

ーーそれでも仕事を断らないで、全部受けられているんですね。

小坂:仕事はいただけるだけありがたいです。イラストで食べていくってなかなか厳しい時代だと思いますし、その中で選んでいただけているってのは感謝しかないですよね。絵を描いてお金をもらえることが本当にありがたいです。そんなことがあるのかって。

アナログのものになる喜び

『三鷹市外人おもてなしキャラクター たかじょうくん』

『三鷹市外人おもてなしキャラクター たかじょうくん』

 

ーーTwitter拝見していると、すごくご活躍されていてお忙しそうな印象です。

小坂:いえいえ、そんなことないです。イラストレーターの他に、デザインの仕事も続けていますし、自分が住んでいる東京都三鷹市の仕事をしていきたいと思っていて、過去にそういう活動をしていたのでそこから地元の仕事があって。なんでも屋さんみたいな感じになっているので、それでたぶん忙しく見えるのかもですね(笑)頭の切り替えがなかなか難しいです。

ーー三鷹市の仕事ってどういうことをされているんですか?

小坂:街のイベントの印刷物を作ったり、三鷹市のキャラクターを作ったりしています。観光協会の「たかじょうくん」っていうキャラクターや、商工会の「みののん」っていうのみのむしのキャラクターです。たかじょうくんはマンホールにもなっていて駅前にもあるんです。

ーーすごい!可愛いですね!

小坂:もともと三鷹のキャラクターっていうのは「ポキ」っていうジブリの宮崎駿さんのデザインされたキャラクターがいるんですが、それとはまた別で、外国人観光客に三鷹の街をご案内するためのキャラクターを作ろうということで、外国人もてなしキャラクターとして作ったんです。今は割となんでもありで、いろんな用途に使っているみたいですけどね(笑)
権利的なのはもちろんあるんですけど、僕もこういうのは自由に使ってもらえればと思っています。やっぱり使い勝手が悪いとキャラクターってすぐ死んじゃうんで。
Illustratorでデータを作るんですけど、顔だけ外せたりうまく使えるようにパーツを分けているので、使い勝手はいいと思います。

『三鷹のお店や事業を応援する みののん』

『三鷹のお店や事業を応援する みののん』

ーー「みののん」も活躍しているんですね。

小坂:「みののん」は着ぐるみもあるんです。

ーー自分が描いた絵が着ぐるみになるなんて感動しますね!

小坂:そうですね。立体化されることが面白いです。やっぱりアナログのものになるのが結構好きなんですよね。自分でいろいろとグッズ作ったり、Tシャツ作ったりするのも好きです。

ーーそうなんですね。今着ておられるトレーナーもご自分で?

小坂:そうなんです。シルクスクリーンで1枚だけですけど。ものづくりが好きなんです。

ーー他のイラストレーターさんにインタビューしていると、自分の描いた絵がグッズになるとすごく嬉しいという声を多くいただきます。

小坂:そうですね。最近GENSEKIのコンテストでもコラボが増えてきて世に出る機会がすごく増えていて良いなと思っていました。実績にもなるし、世に残っていくじゃないですか。それがすごく良いと思います。

 

小坂タイチ

様々なメディアにてイラストレーション、グラフィックデザインを提供しています。

コンセプトは「誰にでもわかりやすいこと」
 ジャンル問わずシンプルで楽しい、親しみのある作品づくりを心がけています。