本の表紙や挿画、広告ポスター等で活躍中のイラストレーター、柳 貞次郎氏。
神奈川県横須賀市在住、東京デザイン専門学校グラフィックデザイン科、ART BOX アービークラブ イラストレーションコースを経て、フリーランスとして独立。
日常的なモチーフからユーモアを凝らしたものまで、イラストという形で様々な「楽しい」や「面白い」を創作し、発信している。
一瞬の表情や風景を、デジタルながらアナログ感、リアルの中にもデフォルメのきいた独創的なタッチで描き、見る人を長い時間飽きさせない。
今回は柳氏へのインタビューで、その繊細で大胆な絵の魅力に迫る。
風を想起させる、紅葉の舞う一瞬の風景
ーーコンテスト受賞作のお話からお伺いしていければと思います。どの位の時間で描かれましたか?
柳:これは2、3日ぐらいでした。下描き自体は4、5時間です。PCに取り込んで、Photoshopで色付けしています。
ーー描く時に大変だった事は?
柳:銀杏並木の感じがあまり細かくならず、でも伝わるようにと工夫した所で時間がかかりました。あまり細かく描いてもキレが無くなるし、でもある程度は細かくとか、その塩梅で。伝わるぎりぎりの省略具合を意識しています。
ーー左右の木の色がちょっと違ったり、緑を残した部分がありますが、秋にさしかかって…という?
柳:そうですね。右上から光が入ると左側に陽が当たり、右側は当たらない差とか。並木も木によって紅葉の具合が違いますね。
ーー路面電車を持ってきたのにも、なにか意図がおありでしょうか?
柳:もともとノスタルジックなものが好きなのと、路面電車が過ぎた時の、舞ってる感じとかも面白いかなと。
ーーこの作品はコンテストのために描いて頂いた?
柳:はい、丁度コンテストの前に横浜に行っていて、元々路面電車が走っていた話を聞いたり、銀杏並木を見ていて。それで「紅葉」テーマを知った時にわっとイメージが浮かびました。
ーーGENSEKIコンテストも柳さんや応募の方々にバトンを渡して頂き、今では沢山の作品が集まるようになりました。受賞は嬉しいものですか?
柳:嬉しいです、すごく嬉しいですね。
“デジタルで作るアナログ感” のバランス
ーーコンテスト以外の作品もご紹介いただいてよろしいですか?
柳:最近だと、窓ガラス越しの、横浜の夜景の絵などがあります。自分で撮った写真に、曇りガラスの表現や、雨粒を足して、ちょっとぼかしてみたり。
ーー元々写真を撮るのもお好きで?写真の上から塗ってらっしゃるんでしょうか?
柳:好きですね、ただ、写真は参考なだけで、絵は全部描いています。
ーー写真も撮って、さらにアイデアがあり、イラストで具現化していくという。
柳:そうですね。あと、船の上に遊園地がある作品などは完全に想像で。
ーー発想の種はどこから来ているんですか?
柳:それは元々、遊園地のテーマで描いてほしいとご依頼があり、最初は昼間の絵でしたが、描きながら夜にしてみたら面白いかな?と思いつき、そこから夜に描き直して…という流れです。
ーーご自身の作風で意識している所はありますか?
柳:作風は、アナログっぽいけれど、でもデジタルでしか表現できないもの、というのは意識して描いています。いかにもデジタルというのはもう面白味がなくなって来ているし、かといって単純にアナログっぽいのにデジタルで描きました、もつまらないかなと。
アナログっぽいけどデジタルじゃなきゃ表現できないような、ちょうど中間みたいな所を目指してます。
“人の目に止まるイラスト” で発表の場を広げる
ーー絵のお仕事はどういった経緯で舞い込んできますか?
柳:大体メールで、HPの問い合わせからご連絡いただきます。殆どは出版社さんから直接、あとはイラストエージェントさんからという感じです。
ーーもともと絵を描くのがお好きで、イラスト関係のお仕事を?
柳:子どもの頃から絵は好きでしたが、そういう世界に進もうとかは思っていなかったです。高校を出てそのまま就職しました。
色々な職には就いてはみたものの、「やっぱりイラストに賭けたいな」と。途中で夜間の社会人向けデザイン専門学校に入ったんですが、その分野の就職先はみつからず、イラストの方は何年後かにまた、スクールに通いました。
ーーイラストレーターになると決めたタイミングは。
柳:スクールに通って、描いてるうちに、このクオリティだったらもしかしたら、稼げるようになるかなと思って。それが5年ぐらい前です。最初に自分のサイトを持ち、エージェントさんに申し込んだり、メールでデザイン会社さんにポートフォリオを送ったりしました。
ーーポートフォリオに反応はありましたか?
柳:あまりないですね。雑誌の扉絵をご依頼頂いた時も、著者さんがたまたま自分の絵をネットで見て出版社さんに伝えて下さったらしく。出版社さんからデザイナーさんに紹介してもらって、とかが多いです。
ーー色々なイラストレーターの方も、有名になるきっかけは皆さん同じ様に仰います。やはり自分の絵が色々な人の目に止まるようにするのが大事でしょうか?
柳:そうですね、描いたらどこかに出すことが大事ですよね。InstagramとTwitterと、HPも勿論そうですが。
ーープロになった時の実感はありましたか?
柳:それは最近ですね。書店に自分の挿画の本が並んだ時に、「ああプロになったな」と、一歩を感じられました。自分の描いたものが店頭に並ぶのは嬉しいですね。
ーー作品を描くのに最大何時間かけた、などの思い出は?
柳:徹夜ではないですが、昨年急ぎの仕事があり朝9時〜夜12時で作業というのが1週間続き、その後1日空いてまた修正、という時はさすがにしんどかったですね。その時はもう、やるしかなかったですが、それをずっと続けられるかって言ったら続けられないですね、倒れてしまうので(笑)
会社勤めでなくフリーランスだから、何とか出来たというのはあります。
ーーイラストレーターをやっていて一番幸せに感じる瞬間は。世に出た時でしょうか?
柳:はい。幸せに感じるのはやっぱり、自分の絵が世の中に出るのが一番ですね。自己満足だけじゃつまらないと感じます。あとは、依頼でHP用に1枚描いて納品して、それを気に入ってくれたのか、パンフレットにも使いたいからもう1枚と言われたり。依頼主さんが気に入ってくれると嬉しいですね。
ーーこれから取り組みたいお仕事や、こういうイラストレーターになりたい、などをお聞かせ下さい。
柳:やっぱりポスターなどの広告は憧れですね。依頼してくれる方のイメージに沿えるような力と守備範囲は、広げていきたいなと思います。
試行錯誤とチャレンジを積み重ねて
ーーPhotoshop以外に、どういう道具を使っているのかなど教えてください。
柳:Photoshopの時はWacomの液晶ペンタブを使っています。仕事以外ではiPadのprocreateというソフトを使って描いたりもします。
ーー液晶タブレットは、プロになる前からずっと使われていた?
柳:そうですね。プロになろうと思った時にしっかり大きめのを買いました。一時期アナログを使ってみた事もありますが、デジタルの方が修正がきくのと、アナログだと画材にもお金がかかるので。PCのデジタル環境は、揃えてしまえばランニングコストはそれだけなので。
ーー今の画力になるまでに、絵が上達したきっかけはありますか?学校に行くとか劇的にじゃなく、毎日の取り組みの中ででしょうか?
柳:ここでっていうのは無いです。とにかく工夫しながら、あれこれ考えて、新しい事にもチャレンジして、でも全然形にならないという事もあるし、試行錯誤しながらですね。
沢山数をこなさないと、何かこうすればうまくなるっていうのはないと思います。だから今見ると、5年前とかよりは成長してるかなと。
ーー普段オリジナル作品を描く時は、継続してどれくらい集中されるんですか?
柳:自分の場合は結構気分にムラがあり、気持ちが入ると5、6時間は平気でできます。乗らない時はもう全然、集中1時間するのも難しいっていう事もありますが。
ーー完成までは平均どれくらい?
柳:平均して3日位です。もう少しかかる時もありますが。完全オリジナルだったら1週間に2つ位はあげたいなって感じで描いてますね。
ーー参考にしているもの、尊敬しているイラストレーターなどは。
柳:やっぱり、リアルだけどリアルじゃない感じのイラストの人は参考にします。
特にジェレミー・マン(Jeremy Mann)という画家の、ざっくりした所とリアルな所の両方兼ね備えてる感じは憧れますね。画集とかは日本では売ってないんですが。
ーー参考にするイラストや写真はInstagramやTwitterなどネットで探して?
柳:Pinterestですね。ランダムで、いいイラストや風景など出てくるので、割と空いた時間で見ます。インスピレーションを受けたり、次の題材を探したり。使ってると検索や好みをある程度選んで、特定の人でなく色々出てくる様になるので、参考になります。
ーー行き詰った時の気分転換の方法は。
柳:行き詰まった時は散歩するのがいいですね。どう表現しようかとか、何度描いてもうまくいかない時などは、身体を動かすのがいいです。外で息吸って歩いてっていうのが、一番気分転換にはなりますね。
形になり、チャンスの広がる世界
ーーコンテスト審査もして頂きましたが、いかがでしたか?クリエイター同士の交流も生まれるといいなと思うんですが。
柳:審査は初めてで面白かったです。人のイラストの見方も変わりました。普段は好きなものから見ますが、ランダムに並べて1番を選ぶというのはなかったので、いい経験でした。イラストレーターがイラストレーターに選ばれる機会もあまりないので、面白いかもしれません。Twitterで自分の作品に反応をくれた方を見に行ったりしましたね。
ーー募集内容はどうでしょうか?既存のイラストで応募OKなものもあります。
柳:それはいいですね、仕事が詰まってる人は応募したくてもできない事もありますし。
受賞して選ばれたら何か形になる、目的があるコンペの様なものは応募しがいがあります。形になって世の中に出るというのが一番嬉しいですし、またそれが広がってチャンスになればというのも。
ーーでは今後も、イラストレーターさんが絵を見て貰えるきっかけを沢山作っていくのが良いでしょうか?
柳:そうですね、見てもらえる機会が増えて、広がればまた見てもらえて、という。
繰り返しになりますが、チャンスが広がってくれるのが一番いいなと思います。
ーー本日は、ありがとうございました。
柳 貞次郎
東京デザイン専門学校 キャリアコース グラフィックデザイン科 受講
ART BOX アービークラブ イラストレーションコース 受講
デジタルで製作。PhotoshopやProcreateを使用。
日常的なモチーフから、アイデアやユーモアを凝らしたものまで制作致します。
イラストという形で様々な「楽しい」や「面白い」を創作し、発信することを目指しています。