「制作過程もエンタメにできるイラストレーターが強い」。その真意をタケウマさんに聞いた

イラストを描くことを仕事にしようとすると「イラストスキルとは別のスキルが必要かも……」なんて思うことはありませんか。
この連載では現在活躍中のイラストレーターさんに「『イラストレーターに必要なイラスト以外のスキル』を教えてください」と聞いています。

今回はタケウマさんです。さまざまな書籍・ビジュアルのイラストのほか、Instagramなどでスケッチ作品を積極的に発信し、海外からも評価を集めています。
お話を聞いた人

タケウマ(X:@StudioTakeuma/Web)
京都在住のイラストレーター・スケッチャー。アイデア表現ですっきりとした絵にするのが得意。 シンプルでスマート、柔らかさもある作風。イラストレーターユニット「なりゆきサーカス」の賑やかし要員、「瑞泉寺クロッキー部」の受付&広報担当。2018年度よりTIS(東京イラストレーターズ・ソサエティ)会員。
いきなりフリーランスを目指さず、一度は就職した方がいい
――まず、タケウマさんのキャリアを教えてください。
タケウマ
大学を卒業した後、就職せずいきなりフリーランスのイラストレーターになりました。卒業後5年間は、結婚式場のアルバイトと兼業していましたね。
――となると学生の時点で、イラストレーターになると決めていたんですね。
タケウマ
そうですね。「なんとかなるだろう」という根拠のない自信があって、学生時代から出版社に売り込みをしていました。
僕は京都の大学に通っていたんですが、当時あのあたりのエリアには、若手でイラストレーターを目指している人が多かったんです。だから情報交換もしやすかったですし、将来への不安感みたいなものもなかったですね。サタケシュンスケさんだとか、ちょっと上の世代には中村祐介さんもいました。
在学中から卒業後2年ほどの間は家賃18,000円の学生寮に住んでいて、風呂・トイレは共用、玄関に置いてある冷蔵庫を飛び越えないと部屋に入れないような生活でした。逆に言えば、その生活水準だからなんとかなっていたとも言えます。
振り返るとかなりリスキーなので、いきなりフリーランスになるのは人には勧められません。一度は就職した方がいいとは思います。

――キャリアの初期ではどんなお仕事をされていましたか?
タケウマ
雑誌のカットイラストを主に描いていました。単価があまり高くなく一点数千円という水準です。低いものになると1,000円台もありました。こうした仕事は新人や若手に依頼するケースが多かったようです。
ただ僕はもともと描くのがかなり遅い方で、カットイラストという薄利多売の商売ではどうしても不利にはなってしまいます。
それに、今でこそカットイラストの世界で名をはせている人もいますが、当時カットイラストはイラストレーションの年鑑に載らなかったりして、「これが僕の仕事です」となかなか言いづらい部分がありました。
名前を出して大きな仕事をしている人に対する憧れもありましたし、時間をかけて描き込むならその分単価も上げていきたいと思い、そっちに切り替えていきました。
――そうはいっても、いきなり希望通りの仕事が来るものでもないように思います。どうやってチャンスをつかんだのでしょうか?
タケウマ
期待値を上げてから、単価を上げていくことを意識していました。たとえば5,000円で来た仕事を20,000円分くらいの作業量とクオリティで仕上げる。それを実績としてネットにアップすると、そのレベルを依頼したい人が来ますよね。それを20,000円で引き受ける……ごくシンプルに話すと、こんな感じです。
――タケウマさんといえば以前GENSEKIマガジンでインタビューさせていただいた通り、海外向けのお仕事もされています。これはどの段階から?
タケウマ
イラストレーターになって3~4年経った頃から海外のポートフォリオSNSに絵をアップしていたんですが、そこで見つけてもらったのがきっかけですね。自分としては「無料でプロモーションができる所は使っておこう」ぐらいの考えでしたが、海外の人からするとまだ日本のイラストレーターが珍しかったみたいで、興味を持ってもらえたようです。
――現在、海外向けのお仕事の状況はどうでしょうか?
タケウマ
海外の仕事は少なくなりました。ただ、海外とのかかわりで収入に占める割合は少なくないです。例えば僕はスケッチ集や画集を自費出版で出しているんですが、海外での販売数がかなりの割合になります。1万円する本は、500部作ったうち100部が中国で売れています。

海外のイベントに出演したり、日本に来た海外の人にスケッチのワークショップをしたりする機会にもなっています。
イラストレーターは外に出ていくと、予期せぬチャンスに出会えるかも
――それでは本題に入っていきます。タケウマさんが考える、イラストレーターに必要なイラスト以外のスキルを教えてください。
タケウマ
ふたつ思いついていて、ひとつは人と交流していくスキルです。これは対クライアントだけでなく、自分と同じクリエイターに対してもそうです。同業、あるいは異業種でも、自分と同じようにものづくりをする友人を持っていると、自分では思いつかない解決策をもらえて助かることが多々あります。
――イラストレーターが友人を増やす方法として、具体的にどういうものがあるでしょうか?
タケウマ
僕も参加しているクロッキー会や同業者が開催している交流会、お花見会、それ以外にも何かしらの飲み会であるとか……オフラインで人が集まるところに行くと、これまでまったく接点がなかった人と出会えることがあります。
といっても最初から利害関係を求めていくわけではなく、シンプルに友人として仲良くなって、結果的に利害関係が一致するような機会に恵まれることもある、という流れだと思います。
即売会もおすすめです。昔僕が参加したとき、知り合いのイラストレーターさんが、即売会に来ていた文房具メーカーの人を紹介してくれたんですよ。普通だったらメーカーに直接営業に行く機会なんてなかなかないでしょうし、そもそも僕は考えもしていませんでした。外に出ていくと、そういう予期せぬ出会いに恵まれることもあります。
――確かにオフラインでのイベントなら、少なからず「人とつながりたい」と思っている人が集まりますもんね。ネットよりも、次の機会につながる出会いは多そうです。
タケウマ
もしいきなりオフラインがハードル高ければ、オンラインでも良いと思います。最近はDiscordで作業用のサーバーを設けたり、交流目的でXのスペースを使っている人も多いですからね。
「この人に依頼する理由」をつくる
――タケウマさんが必要だと思う、もうひとつのスキルも教えてください。
タケウマ
「しっかりエンターテインメントができること」かなと思います。というのも少し先の話ですが、生成AIがこれからどんどん発展していったら、アウトプットに対するクオリティの価値は少しずつ目減りしていく気がするんです。
それが一般的になってくると、単純にアウトプットの差で価値を出すのはかなり厳しくなってくる。クオリティの維持ももちろん大切ですがそれ以上に、仕事のプロセス全体を通して、「この人には仕事をお願いする価値がある」と思ってもらえることが大事なのかなと。
――実際のイラスト仕事の現場でいうと、どういうケースが該当しそうでしょうか?
タケウマ
例えば似顔絵ですね。単純に本人の似顔絵がほしいだけなら、画像を読み込ませればアプリが作ってくれます。でもイラストレーターにお願いすると、どんな仕上がりになるかドキドキしながら待つ時間が生まれますよね。そういう「そのイラストレーターしか提供していないエンタメ」を楽しむのも、依頼する理由のひとつだと思うんです。
例えば森優さん(X:@0617Forest)は、「キャトられポートレート」というUFOにさらわれている似顔絵を描いていらっしゃいます。上からスポットライトのようなライトが当たって、浮遊していく人と、その人の好きなファッションアイテムやペットなどが描かれているというものです。

死後くんさん(X:@sigo_kun)は、背後霊と一緒に描く「背後霊似顔絵」というものをやっています。

画風だけでなくアイデアや見せ方の部分にもオリジナリティが確立されているので、たとえばAIに「UFOにさらわれている似顔絵」や「背後霊と一緒の似顔絵」を出力してもらったとしても、もう森さんや死後くんさんの二番煎じのように見えてくるわけです。こういう発明があると、「だからこの人に描いてもらいたいんだ」という理由になります。
――なるほど……!
タケウマ
体験する楽しさを提供できるイラストレーターは、これから非常に強くなるとは思います。これは突き詰めていくと、取引先に「この人と一緒に仕事をすると楽しいよね」と思わせることにも通じます。
打ち合わせのときに「こういう見せ方はどうですか?」「こういう表現は一般の人が嫌うかもしれないから、こっちの方がいいかもしれないですよね」というふうに、ディスカッション自体を盛り上げられるとか。完成品だけでなく、完成に至るまでの打ち合わせの時間にも楽しさを提供できるようになったら強いと思います。
――人柄みたいな話になってきますね。サービス精神というか。
タケウマ
そうですね。これまでは「人柄は気難しいけど、クオリティはめちゃめちゃ高い」という人も、どこか許されていたところはあると思うんです。でもこの先、そのクオリティの価値は目減りしていく可能性があるわけで。人柄も軽視できないなとは思いますね。
――最後に、読者の方に向けてアドバイスをお願いします。
タケウマ
今はイラストレーターとして大きく2つのタイプがあります。ひとつは求められることに重きを置くタイプ。クライアントワークに特化している作家に多いタイプです。もうひとつは自分が求めることに重きを置くタイプ。作家性を大事にしている作家ともいえます。
いずれも、これまではアウトプットの価値が高ければ成立していました。これからもしばらくはそうだろうと思います。一方で、すでにプロセスを重視する流れは来ていると感じます。
素敵な絵を描いていれば、と思ってしまうのは絵描きとして自然なことですが、描きつつもできる範囲で交流したり、考えを発信したり、絵が完成する前や後にも意識を向けられると良いなと思います。
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インタビュー・執筆
ヒガキユウカ(X:@hi_ko1208)
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