イラストレーターとイメージディレクターの二つの顔を持ち、美しさと妖しさ、強さと儚さの表現を得意とするORIHARA氏。
「現代のヘアメイクでありスタイリスト」として、『うっせぇわ』や『ONE PIECE FILM RED』ウタの歌唱担当で人気沸騰の歌い手・Ado氏を担当。デジタル上に「生きている」姿を映し出す、イメージディレクションを行っている。
インタビュー【前編】 では、イメージディレクターという仕事、その始まりとなったAdo氏を表現することについて、熱く語っていただいた。
続く【後編】では、イラストレーターとしての考え方、趣味や未来の展望など、ORIHARA氏自身にフォーカスして掘り下げていく。
私自身よりも私の「イラスト」を好きであってほしい
ーーもうひとつの代表作、ORIHARAさんのアーティストイラストについても教えて下さい。前編のAdoさんと同じく、ご自身のイメージが反映されているのでしょうか?
ORIHARA:いえ、こちらに関しては、私が投影されているというよりも「私がどんなイラストを描くか」を知ってもらえるように描きました。私はやはりイラストを描くことを仕事にしている人間なので。
ーーご自身の「イラストの」イメージなんですね。
ORIHARA:はい。イラストの、黒髪や赤髪、瞳、特徴的な影や目つきがすごく個性的と言って頂いたことがあり、そういった「イラストのスタイル」を優先しています。あとは「和」が好きなので、鳥居を背景に使用したり、私が最も得意で、好きで、こだわりをもって考える事を表現したくて、好きな物をギュっと詰め込みました。
ーーご自身のブランディング的な意味合いも込められていると。
ORIHARA:そうですね。私自身よりも私の「イラスト」を好きであってほしいというのがあります。私のイラストを好きになってくれたら、私が好きで描いて発信する物にも興味を持って貰えるかもしれないので、色々な事も一緒に好きになってもらえたらいいな、と思っています。
ーーORIHARAさんのカラーや思いがよく伝わる、これぞ代表作ですね。
ORIHARA:そうですね。「これが、ORIHARAです」というイラストとして仕上がったかなと思います。
ーーORIHARAさんの作品は、全体を通して、格好よくダークでアンニュイな雰囲気が漂っていますが、ご自身の好みでもあるのでしょうか?
ORIHARA:そうですね。もともと日本の妖怪が凄く好きで。すごく明るくてポップな世界観より、仄暗い、時には悲しさや卑屈さも潜むようなものが好きです。
「暗い夜に、すれ違ったあの人は、本当に人間?実は人じゃないかも…」という異世界や非日常感、いつもの自分と違うところに招き入れてくれるかもしれない不思議な存在。そういうちょっと怪しいものが好きですし、好きな人も多いんじゃないかと思っています。
ーー現実とは違って、イラストだから表現できる所も素敵ですね。
ORIHARA:ありがとうございます。
ーーAdoさんの歌を聞いてファンアートを描いてという様に、他にインスピレーションを受ける物はあるでしょうか?
ORIHARA:音楽からはよくインスピレーションを受けます。いろんな曲を聴きながら、歌詞やメロディーから「私もこの感情を持ったことがある、これで描こう」とコンセプトの素を見つけることが多いです。
ーー音楽は切っても切り離せない存在なんですね。どういったものをよく聴かれますか?
ORIHARA:椎名林檎さんや、あいみょんさんなど、日本のラブソングを聴くことがとても多いですね。最近だとK-POPもリズミカルで好きですが、やはり母国語である日本語の、直接的でなくとも伝わる表現が好きです。
ーーよく聴くラブソングは、ハッピーエンド系でしょうか、それとも失恋系ですか?
ORIHARA:失恋ソングはよく聴くかもしれないです。その人の人生の一部を垣間見ているような感覚だと思えるので、ラブソングを聴くのはすごく好きです。いっそ恨んでいる曲なども良いですね(笑)
ーー歌から人生を感じて、インスピレーションになるのですね。
住む街や見たものすべてが、アイデアになる
ーー普段イラストを描く際にお使いの機器やソフトを教えて下さい。
ORIHARA:機材はiPad ProとApple Pencilだけ、ソフトはCLIP STUDIO PAINT、時々Procreateを使っています。
ーーiPad Proは一番大きな12.9インチをお使いですか?
ORIHARA:今はそうですね。元々は10インチ位のものを使っていました。12.9インチは大きいので手で隠れる部分が少なく済み、見やすいしアップにできるのですが、外で描く時は10インチ位の方が楽ですね。
ーー12.9インチは持ち運ぶには重いでしょうか。今も外で描かれる事はありますか?
ORIHARA:可愛いな!と思うバッグに、12.9インチだと入らないことが多くて...笑 よく悲しくなります…。持ち運べる場所や場面も限られますが、仕事のイラストでなければ外で描くことはあります。
ーーCLIP STUDIO PAINTとProcreateは、使い分けされているのでしょうか。
ORIHARA:はい。私の感覚ですが、CLIP STUDIO PAINTは素材がすごく多くて、自作の素材を配布されている方も多くいらっしゃるので、イラストに色々な効果がつけられて便利だなと思っています。グッズのイラストやデザインチックなものを作る時にとても重宝しています。Procreateはまだ試験的な使用しかしたことがないのですが、アナログっぽいタッチが好きです。なので、描くイラストのニュアンスによって使い分けているイメージです。
ーーProcreateの習得が進んだら、また今と違った画風のイラストも見れるでしょうか?
ORIHARA:そうですね。乞うご期待ということで(笑)
ーー作品によって違うと思いますが、イラストの制作時間はどのぐらいでしょうか?
ORIHARA:趣味のイラストなら、2日位で仕上げることはあります。でも、もう存在している人を描くときは、これで正解か、本人が見て「これが私だ」と思えるものか、コンセプトにすごく悩むので、4日位かかる時もあります。筆が早い方ではないですね。
ーー今の雰囲気の画風になったのは、いつ頃でしょうか。
ORIHARA:Twitterを始めた2019年頃です。住む環境によって好きなものや発想が変わると思っていて、例えば渋谷と原宿は違うし、その土地の特色、雰囲気が違うと、ファッションも変わる。インプットできるジャンルも変わるので、そこから今の画風になっていったと思います。
ーー新鮮で面白い観点です。現実世界の影響がイラストに反映されるのですね。
ORIHARA:そうですね、インプットするときは街に出ます。生きているキャラクターを描きたいので、現実にはこういう人がいて、こういうファッションをするんだ、こういう生き方をする人はこういう生活リズムなんだ、といろんな人を観察しています。
ーーイラストの勉強は特にされなかったという事ですが、色彩や、迷う部分など、ご自身で学ばれることもあるでしょうか?
ORIHARA:基礎的なデッサンは少ししましたが、あと役に立った事があるとすれば、日常で見て「綺麗と思う物」でしょうか。家具屋さんで欲しいと思ったソファーの色の組み合わせ、革の質感、この空間は落ち着くし格好いい、天井が黒なんだ、と興味を覚えておいて、今のイラストの色彩になっていく気がします。
ただ、フィーリングだけだと、いつまでもしっくりこない部分があった時のムラが凄いので、今は自分で基礎の勉強もしています。
ーーそういった豊かな感覚がイラストに反映され、受け手の方々に伝わっていくのですね。
ORIHARA:私が目指すイラストレーターやクリエイターは、自分の引き出しや世界観を、人にも好きになって貰えるように発信する人。そうでなくても、自分の中の色々をイラストや音楽の結晶に置き換えて発表した時、それを見た人がまた「素敵だな」と好きになれる様なお仕事だと思っています。
ーー自分がいいなと思ったものを伝えた時に、反響があるのは嬉しいですね。
ORIHARA:はい。仲間を見つけた気持ちになりますね。
ーーアイデアに詰まるような時は、どうリフレッシュされますか?
ORIHARA:出掛けることが多いです。近所でもいいし、電車で1〜2時間かかってもいい。
自分の中で今何が詰まってるのか分からない時は、あれ可愛い、これが素敵、このコーディネートかっこいい、と色んなものを見ると、自然と「こういうの良いんじゃないか」とアイデアにつながっていくことがあるので、とにかく人や景色を見に、外出します。
ーー創作活動以外でお好きなことや、趣味はありますか?
ORIHARA:一度も筆を持たない日はできるだけ作らないようにしていますが、描いていない時間は、描く側からファンに回ることを忘れないようにしています。
映画を見に行ったり、アニメを見たり、漫画を読んだりして、作り手目線ではなくファン側、できるだけ純粋に見ている人になるように。服屋さんに行っても「この服とこのコーディネート可愛い!」って、純粋な気持ちで楽しむようにしています。
ーー影響を受けたり尊敬しているイラストレーターや作家などはいらっしゃるでしょうか?
ORIHARA:イラストレーターという存在を知ったのが遅く、ずっと絵=漫画だと思っていたので、漫画家さんに影響を受けてきました。『家庭教師ヒットマンREBORN!』の天野明先生や、『ぬらりひょんの孫』の椎橋寛先生。椎橋先生は怪しくて素敵な画風で、今の私の画風になる最初の影響を受けているのかもしれません。
ーーお好きな「妖怪」が出てくる物語ですね。
ORIHARA:それに筆ペンのタッチ感や、白黒ってこんなに格好いいんだ、こういう表現もあるんだ、という部分もすごく好きです。それから、強い女性を見たり描いたりするのが好きなのは、尾田栄一郎先生の『ONE PIECE』の影響です。あとはアニメの『地獄少女』のタッチ。そういった作品に小さい頃すごく影響を受けました。
ーーなるほど、今までどこにも載っていなかったお話が伺えて、すごく貴重です。
ORIHARA:ありがとうございます。初めて話しました。
ーー今回のインタビューで初公開の情報なんですね。大変光栄です。
後悔をバネにして、次の成長に向かう
ーー2019年からTwitterを始められ、約3年で現在6万人位のフォロワーがいらっしゃいますが、フォロワーが増えたきっかけはあったでしょうか?
ORIHARA:きっかけはAdoさんのメジャーデビューの時です。当時の自分のフォロワーさん800人位に見られていたイラストが、Adoさんの数万人のフォロワーさんにたくさん見て頂けたことで、すごくフォロワーが増えました。
ーーそこからはお仕事のご依頼も増えたのでしょうか?
ORIHARA:はい、その辺りからご依頼も増えました。恐縮ながらも、一生懸命描かせていただいております。
ーーTwitterは凄いですね。
ORIHARA:私は、TikTokやTwitterのファッション自撮りなどを見て、パッと見て可愛いと思った瞬間がすごく大事だと思っています。今はイラストを公開するのもインターネットが主流なので、一瞬で「良い」と手を止める要素がないと、その先じっくり見て貰えない。
だから自分自身でも、なんとなく見ていてパッと手を止めた時に「なぜだろう?この髪型とこの表情が似合う、この髪型が可愛い、この服着ると凄く良い」と掘り下げてインプットし、参考にさせて頂くことが多いです。
ーーSNSからも最先端のファッションやセンスを取り入れてるのですね。
ORIHARA:そうですね、イラストより実物から。皆さんすごくたくさんの個性を持っていて、それを沢山見て欲しいとUPされているので、アイデアの宝庫で楽しくて。色んな発見があります。
ーーイラストレーター・イメージディレクターとして、幸せを感じる瞬間はありますか?
ORIHARA:イラストレーターとして一番幸せに感じる瞬間は、CDなど自分の描いた絵が印刷され、普段生活している場所に実在した瞬間です。現実にあるんだ、とすごく嬉しくなりますし、見知らぬ人が「かっこいいね」と見てくれると、いいと思ってくれたんだ、とまた嬉しくなります。
ーー今後、やってみたいと考えているお仕事があれば教えて下さい。
ORIHARA:イラストレーターとしては、ゲームの立ち絵や装丁のイラストなど、ずっと自分がかっこいいと思ってきた仕事をやってみたいです。
イメージディレクターとしては、おそらく私が最初に始めたお仕事である以上、まだまだ未知の領域なので、もっと開拓していきたいです。様々なアーティストさんを手掛けられるようにもっと勉強していきます。
ーーAdoさん以外にもまた新しい、ORIHARAさんプロデュースの歌い手やアーティストに出会えるのでしょうか。
ORIHARA:そうなると、今とはまた全然違うタッチで描いていけるのかなとか、その人に合ったイメージで、となったら「ORIHARAのイラスト」はどうなっていくんだろうと、ワクワクしています。
ーー近い将来、そのお仕事が発展し、ORIHARAさんの新しいイメージが見られるのを大変楽しみにしております。
ORIHARA:ありがとうございます。
—
強い信念を持って、人そのものを様々な角度からリアルタイムに表現するORIHARA氏。今まで語られることのなかった舞台裏には、絵の瞳からも感じる熱い思いが随所に詰まっていた。
イラストレーターとしても、まだまだ未知数な分野のイメージディレクターとしても、これからの展開が非常に楽しみな大注目のアーティストで、末永く見守っていきたい。
ORIHARA(Twitter:@ewkkyorhr / Instagram:@ewkk_orhr)
イラストレーター/イメージディレクター。
美しさと妖しさ、強さと儚さを融合した表現を得意とする。
「現代のヘアメイクでありスタイリスト」として、『うっせぇわ』や『ONE PIECE FILM RED』ウタの歌唱担当で人気沸騰の歌い手・Ado氏のイメージを担当。デジタル上に「生きている」人を映し出す、イメージディレクションを行っている。