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歌い手Adoの「生きている姿」をイラストで表現する、イメージディレクターという存在 <前編> ー イラストレーター/イメージディレクター・ORIHARA

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©︎Cloud Nine Inc.

イラストレーターとイメージディレクターの二つの顔を持ち、美しさと妖しさ、強さと儚さの表現を得意とするORIHARA氏。

「現代のヘアメイクでありスタイリスト」として、『うっせぇわ』や『ONE PIECE FILM RED』ウタの歌唱担当で人気沸騰の歌い手・Ado氏を担当。デジタル上に「生きている」姿を映し出す、イメージディレクションを行っている。

今回は、GENSEKIが初となる貴重な直接インタビューを【前編・後編】に渡りお届け。謎のヴェールに包まれたORIHARA氏の魅力に迫る。

【前編】では、ORIHARA氏を語るのに欠かせない、歌い手・Ado氏とイメージディレクターという仕事について、担当するまでの道のりや、Ado氏を表現するこだわりを、熱く深く語っていただいた。

イメージディレクターという仕事

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©︎Cloud Nine Inc.
『Ado 1st ワンマンライブ「喜劇」キービジュアル』

ーーまずはじめに、イラストレーターとしてデビューしたのは、いつ頃でしょうか?

ORIHARA:初めてお仕事をいただいたのは2019年の夏頃です。Twitterでの活動をはじめ、個人の方からご依頼をいただいたことがイラストレーターとしてのはじまりかと思います。

 

ーー活動をはじめてから3年程。イラストレーターになろうと思ったきっかけはどういったものでしたか?

ORIHARA:小学生の時から趣味でお絵かきを楽しんでいて、それを見た同級生から初めて「イラストレーター」という言葉を聞きました。漫画家は知っていてもイラストレーターという職業は知らなかったので、響きがかっこいい!と思い「イラストレーターになる」と文集に書いたのがはじまりです(笑)

 

ーー最初は「イラストレーター」という響きがかっこいい!という所からはじまったんですね。

ORIHARA:でもその後は特に何かする訳でもなく、イラストを仕事にしようとも思っていませんでした。イラストを描く時間もだんだん減っていたのですが、「やっぱりイラストは描き続けていたい」とTwitterをはじめました。Twitterでご依頼をくださった方々のおかげで職業としてきちんとやっていこう…という風になりました。

 

ーーもう一つの『イメージディレクター』という肩書きについて、どういったお仕事なのか教えて頂けますでしょうか?

ORIHARA:『イメージディレクター』というお仕事自体、私が歌い手・Adoさんを担当することになった時、スタッフの方と一緒に考えて作ったものです。

当時「顔を出さないアーティスト」「顔はわからないけど歌声が凄く好き」というような存在がネットを中心に増えはじめていました。

そういう方たちが写真や動画でお顔を出すのではなく、イラストやビジュアル、デザインでご本人を発信していくというのがイメージディレクターの役目です。

「現代のヘアメイクでありスタイリスト」として役割を担わせていただいています。

 

ーー興味深いお仕事です。確かにここ数年でVtuberのような、イラストがその人のキャラクターや立ち絵となった歌い手の方が増えましたね。

ORIHARA:そうですね。ただ、Vtuberの場合は先にイラストなどのキャラクターがあり、そこに命を吹き込むイメージだと思うのですが、イメージディレクターはその逆で、現実にもう存在している本人を表現するという感じです。

 

ーーAdoさんご自身が先にあって、イラストのイメージをそこに近づける、ということなんですね。

ORIHARA:はい。正解は彼女が持っているので、それを限りなく再現、表現していくことが私の役割だと思います。「歌い手Adoのイメージ」を届ける時に、Adoさん自身やロゴなど、デザイン全ての面で「これはAdoらしいか、Adoとして相応しいか」を考えて作っています。

 

ーーご担当されることになったきっかけは、どういうものだったのでしょうか?

ORIHARA:Adoさんが個人で活動されていた時、ファンアート文化が根付いていてたので、私もAdoart(ファンアートの名称)を描いてTwitterに投稿したことがきっかけです。最初にファンアートを描いた数ヶ月後に、Adoさんがアイコンとして私のイラストを使ってくださって、すごく気に入って頂けて、嬉しかったです。

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©︎Cloud Nine Inc.
『Ado ファンアート』

ーー最初はファンアートでAdoさんを描いていらっしゃったのですね。

ORIHARA:そうですね。当時は、Twitterに自分のイラストをUPしたらもう満足して、次のイラストを上げるまではTwitterを開いていなかったので、ある日久しぶりに見たら見覚えのあるイラストがタイムラインに沢山流れてて…「あれ?見たことある…私のイラスト?」って(笑)

 

ーー気づいたらアイコンに!ファンアートを見たAdoさんがリアクションをくれたのがはじまりだったと。

ORIHARA:はい。DMにアイコンとして使用したい旨のご連絡をいただきました。私も彼女の歌声や人間性がすごく好きで、それからも何度かファンアートを描かせていただいて、また気に入ってくださって...、そのつながりが積み重なって、Adoさんのデビューの時にお声がけいただきました。

 

ーー憧れの人に自分のイラストが使われた時はどう思われましたか?

ORIHARA:ずっとファンで、その一心で描いていたので、「私のイラストが憧れの人の役に立ってる?嬉しすぎる」という気持ちでした。私が描いてきたファンアートを見て、Adoさんやスタッフの方がお声をかけてくださったということは、私のイラストがAdoさんをビジュアルとして表現出来ていたのかな、と思っています。

 

ーー最初にアイコンになったファンアートと、今のAdoさんのイラストでは、イメージは違ってきていますか?

ORIHARA:はい。彼女は生きている人間で、成長も変化もしていくというのを第一に考えています。今日の彼女と明日の彼女は違うので、少しずつ変化している時の流れをイラストでも感じられるように描いています。

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©︎Cloud Nine Inc. ©︎ユニバーサル ミュージック
『Ado チェキ風トレカ/1st Album「狂言」ゆらゆらアクリルチャーム盤』
ジャケットやグッズ、LINEスタンプなども多数デザインを手がけている

 

ーー成長なども意識しながら、イメージディレクションをしているのですね。

ORIHARA:そうですね。「現実にその髪型や服装で動いて、生活して、自分たちと同じところに生きている」と思える事を第一にしています。

和服と洋服を掛け合わせたファッションを描く時は、実際に和服を見て「こういう作りをしているからこういうアレンジができるかな」と調べたり、街で見かけた人の可愛かった髪型を覚えておいたり。現実的な部分を大切にしているので、実際に見たものや既存のものを組み合わせ、できるだけ実在のものからイメージしています。

 

ーー日ごろから、かなり観察しているんですね。

ORIHARA:この髪の長さなら、この髪型ならまとまるのかとか、このシーンを現実に再現するならスタイリストさんが付いているはずだから、複雑な髪型もできるかな?とか。

 

ーーリアリティの高い要素を込め、内面まで表現するのですね。

ORIHARA:そう出来ていたらいいなと思います。人の外見は、内面から生まれるものだと思っているので、内面を重視しながら髪型や服装を考えます。

それにもともと気になったことは深掘りするタイプなので、その人を知りたいと思ったら、Twitterや色んな発言を見て、こういう人なのかな?と調べています。はじめてAdoさんのファンアートを描く際もそうしていました。

 

ーー研究熱心なORIHARAさんの性格が、うまく絵やお仕事に反映されているのですね。

ORIHARA:そうですね。もともとの性格がお仕事に役立つもので良かったです!

歌い手Adoの肖像に込めた想い

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©︎Cloud Nine Inc.
『Ado 公式アーティストイラスト』

ーーAdoさんのアーティスト写真としてよく使われるこのイラストが代表作ということで、詳しく伺いたいと思います。トルソーなど、全体に様々な要素が配置されていますが、どういう思いが込められているのでしょうか?

ORIHARA:大人になるにつれ「社会人なんだから」「何歳なんだから泣いてはいけない」と、だんだんとしがらみが増えていきますよね。その「こうあるべき」に対して、周りにいる沢山のトルソーは、そういった、個性などを否定するようになってしまった現代社会の人達で、自分のスタイルで生きてきた彼女の才能や表現に「すごいな」と思わされたらいい。彼女が一番色鮮やかに、真ん中を歩く存在になれたらいいのに、と思って描きました。

 

ーーイラストのAdoさんが踏んでいる物には、何が書いてあるのでしょうか?

ORIHARA:踏み潰しているのはネクタイと紙なんですが、ネクタイは周りにいるトルソーの制服と同じで、個性などをなくしてしまう、首輪や縄のようなもの。

紙の字は、「踏み潰してしまいたいくらい嫌いな言葉」を表現しています。

 

ーー意思がこもった、ちょっと鋭い目つきや、かっこいい表情も特徴的ですね。

ORIHARA彼女は自信家ではないと思うので、あまり人を見下す様なポーズはしないと思っています。いつもちょっと下を向いているような卑屈な雰囲気があるけど、でもしっかり自分の意思は伝える。そんな彼女が自分の意思をはっきりと伝える時、真っ直ぐ見据えるポーズより、顎を引いて睨みつけるみたいな形になる。そんなイメージで描いています。

 

ーーひとつひとつに凄く意味がありますね。ポーズにもこだわりがあるのでしょうか?

ORIHARA:はい。左手でガッと頭らへんを掴んでいるのは「もっと普通に生きようよ」「なんでできないの」みたいな、耳を塞いでいるようなイメージがあります。そんな言葉聞きたくないし、逃げたいし、辛いと感じている。弱い部分を持ちながら、でもちゃんと目に力を宿せる人でもある。そういう所から、この表情とポーズにしようと思いました。

世界中でたった一人を幸せにする事を、一番に考える

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©︎ユニバーサル ミュージック
『Ado 1st Album「狂言」通常盤ジャケット』

ーーAdoさんに出来上がった作品をお見せして、嬉しかったリアクションや言葉など、印象に残っていることはありますか?

ORIHARA:1st Album『狂言』のジャケットイラストをお見せした時、すごくシンプルに「わー!最高です!」って言って頂きました。色んな言葉を選んで感想を下さる時も勿論すごく嬉しいんですが、「抑えきれなかったから思わず出た」という感じの感想が、本当に心に響いたんだなと思えて嬉しかったですね。

 

ーー咄嗟に出てしまったような、シンプルな感想だけど、感動が伝わってきますね。

ORIHARA:そうですね、やっぱりご飯食べたら「この辛味と甘味が…」というよりも、「美味しい!」が一番嬉しい。そんな感じで、すごく嬉しかったです。

 

ーーご本人のイメージに合ってるかと考えながら描くのは、やはり大変でしょうか。

ORIHARA:イメージディレクターは、世界中でたった一人を幸せにする事を、一番に考える職業なのかなと思っています。

私自身はもちろん、見てくださる方やフォロワーさんに対しても納得できる作品を作るべきだけど、何よりも第一にご本人がこれを見て、泣いたり笑ったり、「Adoだ」と感じてくれるか、という部分を一番大切にしていています。

 

ーーすごく素敵なお仕事への向き合い方ですね。

ORIHARA:Adoさんご本人が「やってきてよかった」と思って貰えるようなものを表現することを一番に考えて、すごく時間をかけてイラストやデザインを描いてきました。

 

ーーその気持ちが絵に見えたからこそ、運命的にAdoさんをご担当することになったのですね。

ORIHARA:そうなれていたら幸いです。

 

ーーORIHARAさんもAdoさんも、今まで謎めいていたので、今回のインタビューで色々と知ることができ嬉しいです。

ORIHARA:ありがとうございます。想像と全然違う人だったらどうしよう(笑)

 

ーーひとつひとつにすごく意味があり、時間をかけよく練られて表現されている事がお聞きでき、とても感動しました。

 

 

今までご自身について明かされる機会が少なく、ミステリアスなヴェールに包まれていたORIHARA氏。

前編は、イメージディレクターとして歌い手Ado氏を表現するこだわりや、そこに込めた思いをお話し頂き、謎めいた姿がだんだんと解き明かされていく嬉しいインタビューとなった。

後編ではORIHARA氏ご自身について、趣味や作業環境まで、さらに掘り下げて語っていただく。

 

>>【インタビュー】<後編>へ

 

ORIHARATwitter@ewkkyorhr Instagram@ewkk_orhr

イラストレーター/イメージディレクター。

美しさと妖しさ、強さと儚さを融合した表現を得意とする。

「現代のヘアメイクでありスタイリスト」として、『うっせぇわ』や『ONE PIECE FILM RED』ウタの歌唱担当で人気沸騰の歌い手・Ado氏のイメージを担当。デジタル上に「生きている」人を映し出す、イメージディレクションを行っている。