GENSEKIマガジン

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磨き上げたニュートラルなタッチを活かして描く、様々な生き物たち ーイラストレーター・いきものだもの

山梨県在住、イラストレーターのいきものだもの氏。

「やさしい、ていねい、わかりやすい」をコンセプトにしたイラストを得意としている。

名前の通り、人物、犬猫などの哺乳類のほか、ハ虫類・両生類、魚類、鳥類、虫、菌類、植物、古生物などの生物をモチーフに、商業施設のフライヤーや、子ども向けメディアなどで活躍中のイラストレーターだ。

今回は、GENSEKI公式Tシャツコンテストで特賞を勝ち取ったイラストの制作秘話から、絵を描き始めたきっかけ、これまでの仕事の制作背景まで詳しく伺った。

GENSEKI公式Tシャツ特賞「2人のGENSEKI」について

GENSEKI公式Tシャツイラストコンペ 特賞 GENSEKI賞 『2人のGENSEKI』

ーー今回はコンテストに応募していただきありがとうございました。こんなに素敵なイラストが、弊社のTシャツになることが楽しみです!
さっそくですが、このイラストのコンセプトを教えてください。

いきものだもの:ありがとうございます。
制作前に目を通した募集要項の中の「クリエイターの皆様とユーザーの皆様の架け橋」というキーワードが目に留まり、「GENSEKI」から良い世界(仕事)へ羽ばたくイメージが浮かびました。
そこで初めてしっかりGENSEKIさんのロゴを見たら、双葉のモチーフが入っていたので、羽ばたいている天使と悪魔の羽根を双葉に見立ててV字に構成しました。

ーー素敵なイラストというだけではなく、メッセージ性が強いデザインですね。
制作時間はどれくらいかかりましたか?

いきものだもの:コンセプトを練る時間も含めて実働制作時間は4-5時間くらいですね。
実はこのコンペを見つけたのが締め切り間近だったので…(笑)
勢いでコンセプトを3案描き出して、その中で一番バランスが良かったこの絵を進めました。

『2人のGENSEKI ラフ画』

ーー勢いで描いたと思えないほど完成度が高いです!制作時間はいつもこれくらいですか?

いきものだもの:制作時間は作品によって変わりますが、自分で描いた作品は必ず1日以上寝かせるようにしています。
このイラストも寝かせた翌日に、顔など細かいパーツの手直しをしているので、制作日数は2日間ですね。
今回は締め切りまで時間がないので、とにかく早く描いて、早く寝かせたかった。
いつもは実際の制作時間の他に、手直しまで3日は余裕を持ってタイムスケジュールを組むようにしています。

「ニュートラル」なイラストを目指したい

『就業役者 サイト内イラスト』

ーーさまざまな動物をモチーフに描かれていますが、その中でも特に好きなモチーフなどはありますか?

いきものだもの:「好き」というと、動物全般が好きなので難しいですね(笑)
ただ、ハ虫類や両生類などややグロテスクな動物の可愛い表現は世の中に増えてきましたが、虫はまだ可能性を感じていて、積極的にモチーフにしています。
デフォルメしつつ、虫っぽさを残した「可愛い虫」のイラストを描いていきたいです。

ーーイラストを描く際、こだわっているポイントはありますか?

いきものだもの:「わかりやすさ」はイラストを描く上で気をつけています。
シンプルだけど見る人に伝わる、ニュートラルなイラストが好きですね。
ニュートラルさでいうと、イラストレーターのNORITAKEさんが描く線は、完璧だな。と感じています。

ーーなるほど。他にも好きなアーティストさんや参考にしている作品はありますか?

いきものだもの:岡村優太さんのイラストも好きです。あとは、「ウォーリーをさがせ!」シリーズを描いたイギリス人のマーティン・ハンドフォードさんは、憧れです。

ーー「ウォーリーをさがせ」の作者さんの名前までは、存じ上げませんでした…

いきものだもの:そう、それがまさに憧れているポイントです!
みんな作品は知っているけど、作者名は知らない。
マーティン・ハンドフォードさんは、たくさんの群衆ものイラストを残している素晴らしいアーティストなんですが、作者のネームバリューに関係なく、イラストが一人歩きしている。作品そのものが価値を持っています。自分もそんな作品を描きたいんです。

子供の頃から手に慣れた、紙とペンは今も大切なツール

『2022年 寅年年賀状』

『2022年 寅年年賀状』

ーー絵を描きはじめたきっかけはありますか?

いきものだもの:物心つく頃からずっと絵を描いていたので、きっかけはあまり覚えていないです。
小学校に入学すると「自由帳」って無地のノートを使いますよね。
それが、どんどん進級していくとみんな絵を描かなくなって、自由帳すら持たなくなっていく中で、私だけがずっとその自由帳を使い続けていた記憶があります。
そしてその自由帳に描いた絵を、友人や家族がいつも褒めてくれるんです。
子どもの頃の「絵を褒めて貰えて嬉しい」という思い出が、結局今まで描き続けるきっかけになってると思います。

ーーでは子どもの頃から絵を描いていた中で、自分の絵に自信がついたという転機はありますか?

いきものだもの:自覚したタイミングは、2回あります。
1回目は「デッサンって便利じゃん!」と気づいた瞬間です。
正直、昔はデッサンが好きじゃありませんでした。大学が美術系だったので、入学試験のためのデッサンをずっと練習させられたのが、すごく嫌だったんです。
受験勉強が嫌なのと同じ感覚ですね(笑)

ーーでは、デッサンは大学で克服したんですか?

いきものだもの:いえ、克服したのは大学を出てからです。当時は気づかなかったけど、デッサンが身につくとモチーフの形や大きさ、どこにあるのか、どこに置くのか、というのを紙上に表現できる、コントロールができるようになる。
大学を卒業して、デッサンを意識し出した頃には、頭の中のものを描いても頭身やバランスが狂いにくく、大きな手直しをしなくても綺麗に描けるようになっていました。

ーーでは2回目の転機はどんな時でしょうか。

いきものだもの:2回目は自分のタッチを確信したタイミングですね。
私の場合は、癖のないシンプルな動物のイラストを描きたい。「ウォーリーをさがせ!」を目指したい。そう決めてからは楽になりました。

ーー楽になったというのは?

いきものだもの:他のタッチやモチーフが描きたい!とブレる気持ちがなくなったので、自分が描くイラストに必要ないテクニックを排除することで、イラストが一気に上達した実感がありました。

ーーイラスト作成時に使用する画材(機材)は何ですか?

いきものだもの:イラストは、ラフだけはアナログで描いて、仕上げでPhotoshopを使用しています。 

『昆虫 ラフ画』

『昆虫 ラフ画』

ーーラフが手書きなのは何かこだわりがあるんでしょうか?

いきものだもの:デジタルで下書きからしてみたこともあるのですが、画面の向きを変えたり、ズームしたり、いちいちコマンド操作するのが面倒に感じました。アナログならそれが反射的にできるので、自分の場合ラフなら手書きで描く方が早かったからです。
それに、デジタルだとundo(一個戻す)が簡単なので、やり直さなくても良いような細かいところにこだわりすぎてしまう気がします。
あとは単純に、昔から紙とペンで絵を描いているので、その安心感も好きです。

ーーPhotoshopを使うときはペンタブですか?

いきものだもの:入力ツールは液晶タブレットです。
「XP-PEN」というメーカーの液晶タブレットを使用しています。
液晶タブレットを使ってみたいな〜と思っていた時に、Twitterで、XP-PENのコスパの良さがRTで回って来たので、試しに購入してみたら使いやすかった。
今使っているのは筆圧感知の機能が弱い機種ですが、自分のイラストタッチはむしろ一定の線を引きたいので、丁度いいです。

ーー今までのお仕事で、印象に残っているものはありますか?

いきものだもの:静岡県浜松市にある水族館「ウォット」さんの20周年のフライヤーで、水族館の生き物を描いた仕事が印象的です。
依頼者の方もすごく気に入ってくださって、ウォットさんを運営している会社が別の施設も運営しているので、今度その施設のマスコットキャラクターを作るというお話もいただいています。
私の出身が同じく静岡県の浜松市なので、地元の仕事に携われたのも嬉しかったですね。

『ウォット20周年ヒストリー展チラシイラスト・デザイン』

『ウォット20周年ヒストリー展チラシイラスト・デザイン』

ーー逆に辛かった仕事、という意味で印象に残ったお仕事はありますか。

いきものだもの:具体例ではないですが、一時期クラウドソーシングサイトで仕事を探していた時の、コンペが辛かったです。
依頼自体も何を求めているのか汲み取れないことも多かった。自分の想定していた作風じゃないものが選ばれると、悔しかったですね。

ーー今はどういった経緯でお仕事が舞い込んでくるんですか?

いきものだもの:最近は水族館のウォットさんのように、継続で仕事をいただけたり、紹介してもらうことも増えました。ポートフォリオやイラストサンプルを作って、営業することもあります。

ーーイラストサンプルというと、どういう内容ですか?

いきものだもの:例えば、子どもの身長や等身など年齢別に描き分けたものを作ったり、作業服やスーツ姿などの職業別で描いたり、営業先が仕事の依頼をしやすいようなサンプルを作成するようにしています。

「ウォーリーをさがせ!」を作りたい

株式会社山田養蜂場主催 第9回ミツバチの一枚絵コンクール 入選作品  『ぼくらはみんな生きている。』

株式会社山田養蜂場主催 第9回ミツバチの一枚絵コンクール 入選作品
『ぼくらはみんな生きている。』

ーー今後やってみたい仕事や、挑戦してみたいことはありますか。

いきものだもの:やっぱり「ウォーリーをさがせ!」のような絵本が作りたいです。
山田養蜂場さんが主催しているコンテストに入選した、ミツバチのイラストはまさにやりたいことでした。
これは完成までに1ヶ月くらいかかっているのですが、このペースを1年間続けられたら、年に12枚のイラストが制作できます。それで大体、見開き12ページで絵本1冊分のページ数になります。
ただ他の仕事との折り合いを考えると、描くペースを上げていくのは課題ですね。
描きたいアイデアが沢山あるので、自分が死ぬまでにすべて描き切れるかも心配しています(笑)
これからも描き続けて、「ウォーリーをさがせ!」のような絵本を作りたい。
「ウォーリーをさがせ!」と作者のマーティン・ハンドフォードさんは憧れであり、私の夢です。

ーー絵本!素敵ですね!本日はありがとうございました。

 

いきものだもの

やさしい、ていねい、わかりやすいを身上に、なんでも描きます。
人や犬猫などの哺乳類のほか、ハ虫類・両生類、魚類、鳥類、虫、菌類、植物、古生物など、生物をモチーフとしたイラストが得意です。