平成ノスタルジーを感じるような作風と、毒っけのあるエッセイ調のイラストレーションが話題のイラストレーター・おゆみ氏。
メディアのコラム漫画から商業広告イラストまで幅広い仕事をこなすおゆみ氏の作風の秘密や、これまでに影響を受けた作品、今後の展望まで詳しくインタビューに答えていただいた。
アナログの良さをデジタルで再現したい
ーー早速になりますが、まずは代表的な作品や気に入っているイラストについて教えてください。
おゆみ:今と絵柄が違うのですが、画面上に文字をずらっと並べて挿絵のようにイラストを入れている作品ですね。
当時プライベートなことで煮詰まっていて、ストレス発散に書き殴った作品なんですが、狙ったわけでもないのにいいね数も多くて、反響が大きかったイラストです。
ーー確かにこのスタイルは文字を読みこんでしまう独特の魅力がありますね。
おゆみ:そう言ってくださると嬉しいです。文章は自分の日記的なものを書いていたり、こういうことに悩んでいる女の子・男の子がかわいいな。という嗜好を入れているものもありますね(笑)
今、友人として仲良くしている雑誌の編集者さんがいるのですが、その方も「おゆみさんはこのスタイルでやっていったらいい」と言ってくれるほど気に入ってくださっています。
いつかこのスタイルで作品集出せたらいいね、なんて話していて、今でも似たようなスタイルでエッセイ風のイラストを描いています。
ーーイラストはアナログで描かれているのでしょうか?
おゆみ:基本はデジタルで、CLIP STUDIO PAINTを使用して描いているのですが、最近は紙とペンで書いたような筆跡のイラストにするにはどうしたらいいかって悩んでいて。アナログのペンに見えるようなブラシを探して、こだわっていたので、アナログに見えるという感想はすごく嬉しいです(笑)
ーー漫画の一コマのようなタッチで、アナログと見間違えてしまいました…。筆の雰囲気とかもすごく良いですね。
おゆみ:アナログの紙に描いたような雰囲気は意識している部分です。実際にアナログで描けば一番早いんですが、デジタルの方が仕事がしやすいのもあって色々と追求しています。
ーーアナログ風のイラストを描く上で、こだわりがあるのでしょうか?
おゆみ:紙とペンで描く、線とかが多少歪んだり、足りなかったり、ちょっと雑でも成立するようなアナログのラフさが好きなんです。デジタルだとズームできたり加工できたり、緻密に描けてしまえる分、線やパーツが歪んでいるとどうしても違和感を感じてしまうんですよね。
アナログのペンで描くような、落書きっぽい要素を残しながら描けるように、模索しています。
「漫画も描けるライター」から「イラストレーター」へ
ーー代表作の反響が高かったというお話しでしたが、具体的にどんな反響がありましたか?
おゆみ:いいね数や保存数が高かったのもそうですが、第一にフォロワーが増えたことですね。インスタグラムを主軸に活動をしているので、フォロワーさんが増えたことで露出も増えて、仕事につながることもありました。
ーー書籍を出されていたり、商業メディアさんでもお仕事をされていますが、イラストレーターとして独立されてからお仕事が来るようになったきっかけはありますか?
おゆみ:書籍といっても、女性向けの恋愛メディアの「AM」さんでずっとコラムを書いていたのをまとめていただいたものなので、書き下ろしもなくって最近は自分でもあまり宣伝していないんです。ただ、AMさんでのコラム執筆は今でも月一程度描いています。
ーーコラムについて、どういったものを書かれていますか?
おゆみ:私が担当しているのは、コラム漫画のジャンルですね。フリーに転向して、初めはイラストレーターとしてではなく「漫画もかけるライター」として活動していたんです。グルメレポートやエッセイを漫画にするお仕事が多かったですね。
ただ、その後ライターでは生き残っていくのは大変だな。と感じてイラストレーターに転向したのが2018年ごろでした。
ーー現在もコラム漫画を描かれたご縁でお仕事は来ますか?
おゆみ:今はInstagramをメインに活動しているのもあって、インスタのDMから仕事の依頼が来ることがほとんどです。あとは自分のwebページがあるので、問い合わせフォームから連絡くださる会社さんもいますね。
ーーGoogle Chromeのお仕事もされていましたよね!あのお仕事依頼もInstagramからですか?
おゆみ:インスタの投稿を見た広告代理店の方から、直接メールで依頼の連絡がきました。
ビッグネームすぎて、依頼されたことに舞い上がりつつも、「自分で大丈夫なのかな」という不安になった覚えがあります(笑)
絵を捨てた15才、絵を再開した19才
ーーイラストを描くようになったきっかけはなんだったのでしょうか。
おゆみ:子どもの頃から絵を描くのが好きでした。絵を描くのが好きな子どもって小学生くらいの時にみんな「漫画家になりたい」って一度は夢見ますよね。私も例に漏れず…。
それでずっと描いていたんですが高校生の頃、絵なんか描いてるとモテないと思って、一度絵を捨てたんですよ(笑)
15才の時に絵を捨てて、その後19才で上京して。そしたら思った以上に東京での生活が苦しくって、そんな時にwebで公開されていた「金魚王国の崩壊」という漫画を読んだんです。
一見可愛い絵柄なんですが、でも暗い。ドロドロした癖の強いストーリーなんですよ。読み始めてすごい衝撃を受けて「漫画を描きたい」という衝動にかられて3、4年ぶりに絵を描き始めました。
ーー当時は趣味で描かれていたんですか?
おゆみ:そうですね。趣味、兼ストレス発散(笑)東京の過酷さとかを忘れるための逃げ場みたいな感じですね。
4コマをはじめとして小さい漫画を描き出して、それが辛い現実の息抜きになったんじゃないかな。でもその経験も含めて、今の自分の絵に繋がっていると思います。
ーー「金魚王国の崩壊」という作品が絵を再度描くきっかけになったとのことですが、他にも好きな漫画や、好きなイラストレーターさんはいらっしゃいますか?
おゆみ:自分の描いている絵柄にも通ずるのですが、昔は漫画家の鶴田謙二さんに憧れていて、こんな絵が描けないかな、と参考にして描いていたんです。
今の絵柄に影響を受けたという点では鶴田先生の他に、同じく漫画家の岡崎京子先生や安達哲先生がいます。
お二人とも90年代に活躍された漫画家さんで、青春のキラキラさとバイオレンスさを併せた漫画が特徴的だと思います。絵柄だけではなく、ストーリー性も含めて憧れてる漫画家さん達です。
あとはイラストレーターさんだと、Instagramで見つけた韓国のイ・ヨンヒさんも最近好きですね。シンプルでデフォルメの混ぜ方が上手で、おしゃれなんですよね。
漫画とイラストレーションの垣根を越えた仕事がしたい
ーー漫画の他に、Instagramで他の作家さんやイラストレーターさんも見ることが多いですか?
おゆみ:インスタに限らないんですが、基本的に調べることが好きなんですよね。趣味と言ってもいいくらい(笑)気になるイラストレーターさんとか、漫画も含めて常に探しています。
韓国のイラストレーターさんは結構チェックしていて、日本でまだ知名度がない方でも、関連しているアカウントやフォロワーから巡って、良い絵描いている人いないかなーってチェックしてますね。
ーー国内外のイラストレーターさんをチェックされているんですね。これまでの携わったお仕事で、印象に残っているお仕事はなんでしょうか?
おゆみ:韓国繋がりですが、イラストレーターとして活動し出してすぐの頃、韓国の小さな出版社さんが声をかけてくださって、漫画を描いた仕事ですね。
実際に冊子化して、韓国の本屋さんでも販売していました。コロナ禍で会社を畳んでしまったようで、web上にもデータが残っていなくて残念なのですが、一番思い入れが強いですね。
ーー海外から直接オファーが来るのも、インスタで活躍されているならではですね。
おゆみ:そうですね、これもインスタから依頼が入ったお仕事でした。韓国のイラストレーターさんが好きなのもあって、いつか韓国で仕事したい、展示会とか開けたら良いな、と密かに思っています。
ーー韓国で展示会、素敵ですね。イラストレーターとして活動されている中で、幸せを感じる時、辛い時はありますか?
おゆみ:幸せな時で言うと、仕事の依頼がきたときが一番嬉しいです。
それと好きなイラストレーターさんや漫画家さんがSNSでフォロー返してくれたり、いいねしてくれたり、憧れている方が認めてくれたような気持ちで、幸せを感じます。この絵で、私の絵でいいんだって安心します。
逆に辛い時だと、絵が描けない時。スランプっていうんですかね、何にも思いつかないで机に3時間向き合ってる時とかは絶望です。長いと2週間くらいその状況に陥るので、スランプに入るとこのまま描けないんじゃないかって恐怖もあります。
ーー2週間は長い…それは怖いですね。どうやったらスランプを抜けられるんでしょうか?
おゆみ:ダメな時は面白い漫画を読むようにしています。それで息抜きしつつ、アイデアを入れつつ、やる気もつくる。潜在的に自分に自信がないので、いい絵が描けなくってクライアントから怒られる悪夢みて、うなされることもあります(笑)
ーーイラストレーターのお仕事上、そういった不安も感じてしまいますよね。純粋に今後やってみたいお仕事や挑戦したいお仕事はありますか?
おゆみ:漫画は、描いていきたいと思っています。といっても連載持って漫画家として、というよりショートストーリーで2.3ページの漫画を描きたいですね。
その延長線で、漫画のひとコマをそのままイラストレーションとして使えるような、そんな仕事が来たら面白いのになと思っています。
漫画家とイラストレーターって、似ているようで線引きがあるように感じているのですが、私はどちらの要素も好きだからこそ2つの文化を掛け合わせたイラストレーションで仕事ができたらいいなと思います。
ーー漫画のワンシーンがイラストレーションとして成立するのは面白そうですね!
おゆみ:実際に描いた漫画がTwitterでバズったこともあったので、いつか仕事に繋がるんじゃないかな。という思惑もあります。なので、やりたいことを現実にするためにも、一コマ漫画は今後も継続して描いていきたいですね。
oyumi(Instagram)
静岡県出身 平成生まれ
2018年よりイラストレーターとしてフリーで活動。
主な仕事は雑誌や書籍、web、広告、グッズのコラボやなど。その他、イベントをやったりエッセイやコラムの執筆したりと色々活動しています。
書籍『非・映え女子』発売中。