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漫画がアニメ化するときに絵柄が変わるのはなぜ?『スマイルプリキュア!』大塚隆史監督に聞くキャラデザインの話

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こんにちは。井口エリと申します。皆さんは、アニメを見た時にこんな疑問を覚えたことはないでしょうか。

それは、「漫画がアニメ化する時、ちょっと絵が変わるな」ということ。

まず、昭和や平成初期の作品が、現代風にリメイクされるものがありますよね。

それだけではなく、ちょっと柔らかい水彩テイストの漫画や、描き込みが多い漫画がアニメ化にあたってシンプルになるのも「あるある」だと思います。

そもそも、原作漫画と、アニメ化されたものでは、明確にテイストが違うな……という作品もあります。

あれって誰の、どんな采配によって「絵柄が変わった」と思う仕上がりになっているんでしょうか……?

そんなわけで今回は、アニメ制作に詳しい方に話を聞きました。代表作に『映画 プリキュアオールスターズDX1~3』『スマイルプリキュア!』『劇場版 ONE PIECE STAMPEDE』などがある、アニメ監督の大塚隆史さんです。


大塚監督はご自身の経験をもとに『アニメができるまで』(飛鳥新社)という著書を出されており、著書の中で漫画がアニメになる全工程をわかりやすく解説しています。

業界のことを聞くのに、こんなに心強い方はなかなかいないのでは……!?

\大塚隆史監督3回連続インタビューシリーズ!/

記事3本にわたって、大塚隆史監督にアニメ業界についてのあれこれをしっかり聞いていきます。第1回は絵を描く人ならきっと誰もが気になる「キャラデザイン」についておうかがいしております。キャラデザインの仕事がしたい人、アニメ業界に携わりたい人必読の内容です!

お話を聞いた人

大塚隆史

アニメ監督。1981年生まれ、大阪府出身。今まで手掛けた作品に『映画 プリキュアオールスターズDX1~3』『スマイルプリキュア!』『劇場版 ONE PIECE STAMPEDE』などがある。2022年には映画『ハケンアニメ!』内の劇中アニメ『運命戦線リデルライト』の監督を務めた。

ライター

井口エリ

ライターだけどイラストを描くこともある。神社が好きすぎて神社の授与品の開発に携わっている。

アニメ化で絵柄が変わるのはなぜ?

井口
単刀直入に聞いちゃいますが、漫画をアニメ化する時に微妙に絵柄が変わることってありますよね。それはなぜでしょうか?

 

大塚
素朴ですが、たしかに気になる質問ですよね。大きな理由として「アニメーションとしてキャラクターを動かすためには絵柄を調整する必要がある」からです。

理解のためにまずアニメの「キャラクターデザイン」の話をさせてください。アニメ制作では、多くの人が同じ絵を描くので「キャラクターの設計図」のようなものを作って、それをみんなのお手本にするんです。これをキャラクターデザインといいます。

大塚
そして、キャラクターを動かすためにはある程度デッサンが取れてないといけません。動いていない漫画の絵ではかっこよくても、アニメとして動かそうとすると、ちょっと変になってしまうことがあるんですね。

そこで、キャラクターデザインをするときに、デッサンを正確に取ってキャラクターを調整することがあります。その過程で絵柄が変わる可能性はありますね。

 

井口
アニメとして動かすために、多少の調整は必要なんですね。でも、作品によっては、けっこう変わっているものもあるような……?

 

大塚
キャラクターデザインをするのは「キャラクターデザイナー」という役割の方です。調整をするのは、この方です。ここでキャラクターデザイナーさんの経験や技量、さらには手癖のようなものが出てくることもあります。それによっても絵柄が変わることがあります。

 

井口
キャラクターデザイナーさんの経験や技量、それに手癖……! なるほど、アニメは「人が作っている」ということがよくわかります。

 

大塚
ここまでは「漫画をアニメとして動かすためにやむなく調整する」という話でしたが、「あえて絵柄を調整する」こともあります。

たとえば、アニメのターゲットによって絵柄を調整することがありますね。大人向けにするなら、キャラクターの頭身をちょっと高くしてみるとか……。

 

井口
いろいろな要因が重なって、アニメならではの絵柄になっていくわけですね。

ポイント!

漫画がアニメ化すると絵が微妙に変わる理由は……

  • アニメとして動かすための調整
  • アニメを視聴するターゲットにあわせたアレンジをする場合も

アニメ化にあたって絵柄が変わるのは過去の話?

大塚
ただ、こうした絵柄の調整はちょっと昔の話かもしれません。最近はできるだけ原作の絵柄を再現する流れがあると思います。やはり原作のファンからすると絵柄が変わるとガッカリされてしまうこともあるかもしれないですからね。

 

井口
確かに、「絵柄が変わった作品」で思い浮かぶのは、昔のものが多いかもしれません。

そして、先ほどのお話からすると、原作の絵柄を再現しつつ、アニメとして動かすようにするのって大変なような気がしますが……?

 

大塚
その通りで、現場としては本当に大変です。「もうちょっとアニメとして動かしやすいキャラクターデザインにしたいけど……」なんて思いつつやっている現場もあるでしょう。

 

井口
時代が変わって現場の苦労が増した、という感じでしょうか?

 

大塚
苦労ばかりでもないです。これは僕の想像ですが、最近はアニメに影響を受けて漫画を描く方も多いですよね。そのために漫画の絵自体がアニメっぽいので、比較的そのままアニメに落とし込みやすいパターンもあると感じています。

ポイント!

  • 最近ではできるだけ原作の絵柄から変えないような流れがある

どうやってキャラクターデザインの方向性を決めている?

井口
漫画をアニメにする時には、いろいろな要素が関わっていることがわかりました。それではキャラクターデザインの方向性はどんなふうに決定されるのでしょうか?

 

大塚
それには、まずアニメ作りの土台の部分から説明させてください。まずプロデューサーという人がいます。これはビジネスとしてのアニメ制作の全体を統括する責任者です。そして監督がいます。監督はアニメ制作現場のトップのような役割をしています。

まず、プロデューサーと監督でこれから作るアニメについて話しあうんです。プロデューサーはアニメ全体のコンセプトを監督に説明して、監督はそれをもとにキャラクタ-デザインの方向性を考えます。

 

井口
アニメ全体のコンセプトが、キャラクターデザインの方向性に関わってくる……。どういうことでしょう?

大塚
たとえばスポーツのもののアニメを想像してください。動いてはじめて魅力が伝わるアニメなら、動かすことに特化したキャラクターデザインにしたほうがいいですよね。

このようにコンセプトが決まったら、それが得意なキャラクタ-デザイナーさんを選んでいくのが王道です。先ほど言ったように、キャラクターデザイナーさんの経験や技量は重要です。

 

井口
では、具体的にキャラクタデザイナーさんはどんなふうに決めるんですか? 業界内で「得意なコンセプト別のキャラクターデザイナー情報」が共有されていたりとか……?

 

大塚
実際のところ、僕はいままで仕事した人の中から選ぶことがほとんどです。「仕事ぶりはどうかな」「こんな方向性が得意なはず」「一緒に楽しく仕事できそう」……とわかるので。その中から総合的に選んでいます。

 

井口
なるほど……。すると、監督が一緒に仕事をしたことがない人は、アサインすることはないんでしょうか。

 

大塚
そんなこともありません。プロデューサーが「このキャラクターデザイナーさんにお願いしたい」という希望を持っていて、自分がその人と仕事をしたことがない場合もありますからね。

そういった時は、その人が関わった作品を見るところから始めます。その作品がよさそうなら「この人にお願いしようか」となりますね。

 

井口
アニメ業界では、今まで手掛けた作品自体がポートフォリオになるんですね!

大塚
そうですね。ただ、知らない人にお願いする場合は、ちょっと悩ましい点があるんです。

極論ではありますが、「この人のキャラクターデザインいいな」と思ったとしても、その人がどこまでやっているのか、実際にはわからないんですよね。

キャラクターデザインの大まかなラフだけ描いて、あとは他の人がまとめてるみたいな場合もあります。キャラクターデザインを細かくやってくれて、さらに本編の絵にも手を入れてくれる場合もあります。

 

井口
人によってやることが違うんですね。しかも、外からは見えない……。

 

大塚
やはり後者の方が監督としてはありがたいわけです。だから僕の場合は、できれば知っているキャラクターデザイナーさんにお願いしたいという気持ちが働きますね。

 

井口
人のつながり大事。アニメ業界はフリーランスの方も多いし、仕事をする上ではより信頼関係が大事になりそう。

ポイント!

  • 信頼関係、大事!

大塚
ちなみに、まったく知らないキャラクターデザイナーさんに積極的にお願いする監督ももちろんいます。

僕のように、知っている人にお願いするやり方は、80点以上を取れるとは思うんです。ただ、逆に言うと「想像内」に納まってしまうデメリットもあるかもしれません。知らない人にお願いする方法は、実際やってみたらお互いの相性の問題で40点になるかもしれないけど、うまくはまって120点を取れる可能性もあります。

 

井口
予期できない化学反応を求める感じですね!

プロポーズよりも緊張した!? キャラデザのオファー

井口
大塚監督というとプリキュアが代表作にあると思うのですが、実際にはどんなふうにキャラクターデザインをされたのでしょうか? 特にプリキュアは原作の漫画はないので気になります。

 

大塚
プリキュアは毎年のチームごとで違うので、明確な答えはないんですよね。どう作るのかは、それぞれの監督やプロデューサーの考え次第というのが前提にありますが、僕の場合をお答えします。

僕とプロデューサーで、ある程度のコンセプトを明確にした後に、キャラクターデザイナーさんを決めることになりました。ところが、絵がうまくて、人間性を知っていて、一緒に仕事がしたい人柄……というふうに考えていくと、お願いできる人はかなり限られてくるんです。

そんなキャラクターデザイナーさんの一人に川村敏江さん(以下、川村さん)という方がいます。僕はその人とであれば絶対いいプリキュアが作れると思ったんです。

そこで「どうしても川村さんがいい」と思い、オファーしました。そのオファーはプロポーズよりも緊張したかもしれません(笑)。

 

井口
プロポーズよりも緊張するオファー……!

 

大塚
川村さんには無事にオファーを受け入れていただきました。次に僕とプロデューサーで作品の内容について具体的に決めていきます。キャラクターが何人登場するのか、どんな性格か、どんな関係性かなどのイメージを共有して、キャラクターデザイナーさんに発注します。

 

井口
こういったときに、大塚監督は簡単なラフを描いたりするのでしょうか?

 

大塚
僕は自分にないイメージが欲しいので、あえて絵は描かずに、口頭や文章でキャラクターのイメージを伝えることが多いですね。プリキュアもそうでした。

そうすると、受け取ったキャラクターデザイナーさんの方でも「だったらこんな感じがおもしろいんじゃない」と提案してくれる。

そして、監督だからといって、必ずしも自分が出した要求が通るとは限りません。いろいろな案が出て、キャラクターデザインは変化していきます。

井口
プロデューサーや、監督や、キャラクターデザイナーさん……いろんな人たちがアイディアを出し合ってゼロから手作りしているんですね。

 

大塚
そうですね。そうして作った作品が評価されると本当にうれしいですね。

自分が『スマイルプリキュア!』の監督をしていた時は31歳で、ちょうど同級生達の子どもが4歳くらいで、プリキュアを見る年齢だったんです。そうすると同級生を通じて反応が届くんですよね。ありがたいしうれしかったです。

 

井口
親を通じて実際の子どもたちの反響が……! それはうれしいですね!

そういえば、私の姪も『スマイルプリキュア!』が大好きで、絵を描いてあげたりしていました!

自分の絵柄が表現できないってどうなのか

井口
『GENSEKIマガジン』の読者にはイラストレーターさんが多いので、聞いてみたいことがあります。

キャラクターデザイナーさんや、実際にアニメの絵を描くアニメーターさんは、作品ごとに絵柄を寄せた絵を描かれていますよね。でも、それって普段の絵柄とは違ったりするわけですよね? 自分の絵柄じゃない絵を描き続けるのって、どんな感じなんだろうと思います。

大塚
僕は監督でアニメーターではないから、もしかしたらずれているかもしれませんが、プロのアニメーターさんやキャラクターデザイナーさんは、趣味ではなくて仕事で絵を描いているわけですよね。

井口さんのようなライターさんも、メディアごとに書式があって、ルールに従って書くようなことがありますよね。そうして納品する文章は、プライベートな日記や手紙とはまた違うわけです。それと同じだと思います。

 

井口
おっしゃる通りです。ライターと同じで、アニメーターさんや、キャラクターデザイナーさんもルールに従って、仕事として絵を描いている。わかりやすい……!

 

大塚
自分の絵柄ではないものを描くことに対して、不満を感じて仕事をしているわけではないと思います。むしろ、いろいろな絵柄が好きな人にとってはラッキーですよね。

 

井口
たしかにいろんな絵柄を勉強できますね! クール毎に作品が変わるのも刺激になりそうです。

 

大塚
ちなみに、自分の独自の絵柄を見てほしい人達は、仕事以外で同人誌を描いたり、イラストをpixivやTwitterに投稿したりしていると思います。

ポイント!

  • みんな「プロの仕事」として作品と関わっている

アニメ業界で必要となる“技術”

井口
キャラクターデザイナーさんは、いろいろな要求やアイデアを形にする必要があると感じました。キャラクターデザイナーさんには、どんな資質が必要なのでしょうか?

大塚
自分が何をを要求されているかを、しっかり理解する技術ですね。監督やプロデューサーがキャラクターデザインに対して、方向性を文章や言葉で伝えることになります。そのひとつひとつから自分が何を要求されているのかを拾う必要がある。

そういうものをしっかり拾ってイメージする引き出しの多さ、そして、それらをアウトプットする技術も必要です。これはキャラクターデザイナーさんだけではなくアニメーターさんや、監督にも言えることですけど。

 

井口
まずは理解が大事なんですね。

ポイント!

  • アニメ業界で働くのに必要なのは「要求されていることを理解する」こと

大塚
そうでないと「求めているのはそういうことじゃない」みたいなことが起きる。たとえば、求められてないのに筋肉隆々のアンパンマンを描いちゃうみたいな。

 

井口
悲しい事故が……。

 

大塚
でも、それって普段のコミュニケーションでもありますよね。男女間や夫婦間でもあると思います。「今何を聞かれているのか?」とか、「この人は今何について怒っているか?」とか。なるべく相手を慮(おもんぱか)って、相手の気持ちを紐解いていかなければならない。

 

井口
ただ、そうした「何を要求されているかを嗅ぎ取る能力」を鍛えるって、難しいですよね。

 

大塚
僕自身もどうやったら鍛えられるのかはわからないけど、なるべくいろんな事例をこなしていけば、経験から「今自分が何を求められているか」がわかるようになるかもと思っています。

 

井口
今日の全体的なお話しから、作品を作っていく上では、しっかりとコミュニケーションを取ることが大事ということが伝わってきました。

 

大塚
コミュニケーションは大事なんですけども、コミュニケーションの量を多くすればいいとも限らないんです。芯をとらえることが大切です。僕はできるだけしゃべって伝えるようにしていますが、それでもなかなか難しいですね。

 

井口
自然と、意思疎通をしやすい人同士で仕事をすることが増えていきそうです。

 

大塚
そうですね。実際に、同じ監督とキャラクターデザイナーが、作品が変わっても一緒に組んでいることが多いんですよ。

 

井口
そうなんですか! 今までアニメを観る時、そこまではあまり意識していなかったので、これからよく見てみようと思います!

 


 

今回はアニメの絵柄についてうかがっていきましたが、次回は「アニメ監督」というものに焦点を当ててインタビューします。お楽しみに!

お話を聞いた人

大塚隆史
Twitter:@takaswy1981

今回お話を伺った大塚監督の著書『アニメができるまで』はこちらです。

アニメができるまで|株式会社 飛鳥新社

実際に監督をされている大塚監督だからこそ書ける内容で、それぞれの役割から年収まで「こんなことまで詳しく具体的に教えてくれるの!?」と思うに違いありません。アニメが好きな人も、現在アニメ業界にいる人も、アニメ業界にあこがれている人も必読の内容となっています。

企画・編集・イラスト:斎藤充博
取材・執筆:井口エリ(ちぷたそ