イラストレーターに重要なのは「デッサン力ではなくて……」アートディレクターが語る

2025.4.22

アートディレクターという職業をご存じでしょうか。

ゲームなどに使用されるたくさんのイラストは複数人のイラストレーターによって描かれています。そういったイラストのテイストを管理したり、クオリティをチェックしたりする仕事です。

今回はそんなアートディレクターについて、株式会社viviON社内のスタッフにインタビューしました。

  • アートディレクターの役割
  • アートディレクターはイラストのどこを見ているのか
  • 「また頼みたい」と思うイラストレーターの特徴 

など、イラストを依頼する側ならではのお話も出てきました。企業との仕事やゲーム系イラストの仕事に興味がある人は必見ですよ!

お話を聞いた人

中村
株式会社viviONのアートディレクター。イラスト案件の進行管理・品質管理を行う。


兵藤
株式会社viviONの営業。以前は制作会社でゲーム系のディレクションに関わる業務をしていた。

アートディレクターって何をしているの?

――現在、中村さんはアートディレクター、兵藤さんはイラスト制作関連の営業をされています。前職ではお二人はどんなお仕事をされていたのでしょうか?


中村

私は制作会社でアートディレクターをしていました。ゲーム系の仕事が多かったですね。


兵藤

私は制作会社でイラスト制作関連の営業の仕事をしていました。そして私のところもゲーム系の仕事が多かったです。


中村

アートディレクターはざっくりと二種類に分かれます。ひとつがインハウスと呼ばれる、自社が所有するゲームなどのIPに関わるディレクションをする人。もうひとつは、制作会社に所属し、委託されたものに対してディレクションを行う人です。

規模は違うのですが、私たちは二人とも制作会社での仕事をしていたので、今日はその経験を元にお話しできればと思っています。


――アートディレクターとはどういった職業なのでしょうか?

中村
ざっくり言うと、クライアントとイラストレーターの間に入り、一緒にイラストの制作進行をする仕事です。
クライアントとイラストレーターのコミュニケーションを円滑にしてスムーズに案件が進行するようにしたり、イラストレーターから送られてくるイラストがクライアントの求める仕様やコンセプトとあっているかをチェックしたりしています。


――イラストのパースや人体デッサンなどの赤入れをしているイメージがあったのですが、それがメインというわけではないんですね。


中村

そういった仕事もありますが、仕様をしっかり理解して指示書を作ったり、クライアントやイラストレーターとの連絡をしたりといったコミュニケーションが大事な場合が多いです。


――業務が多岐に渡るんですね。


中村

そうですね。私が勤めていた会社は人数が少なかったこともあり、クライアントとのコミュニケーションも、作家とのコミュニケーションも、赤入れするのも全部一人でやっていました。

ただ、規模の大きい制作会社や、ゲーム開発をしているような会社だと、分業していることが多いかと思います。


兵藤

私が勤めていた制作会社は、分業していましたね。

「必要なイラストレーターをアサインする」
「イラストレーターとコミュニケーションしてスケジュール管理をする」
「イラストに赤入れをひたすら行う」
「クライアントとコミュニケーションする」

……みたいに。


――イラストレーターへの指示書というのはどのようなことが書かれているのでしょうか?


兵藤

依頼したいイラストの概要から、サイズやレイヤー分けの指定、構図やテイストのイメージなどがよくある内容ですかね。

――仕様が細かい場合は、理解するだけでも大変そうですね。


兵藤

そうですね。逆に、クライアント側の求めるイメージがふわっとしていて、仕様がまとまっていないことも多いです。はじめてキャラクター制作を頼むようなクライアントとか。


中村

そういう時はどんなものを作りたいのか聞き出して、こちらでイメージを用意したりしながら、クライアントの求める仕様を具体化して指示書に起こします。その指示書でイメージに相違がなければイラストレーターに依頼する、という流れですね。


兵藤

作るものを明確化するのも、アートディレクターの仕事の一つですね。「お任せで」と言われても、初稿を出したら「なんか違う」とつき返されたり、大量の修正依頼が来たりするものなので(笑)。
細かい仕様はわかりやすくかみくだいて、ふんわりした依頼は解像度を上げる。そうして仕様を詰める、というのが大切です。

――コミュニケーションという言葉が何度も出てきていますが、具体的にどんなことをしているのでしょうか。


兵藤

メールですね。アートディレクターの業務は、半分もしくはそれ以上をメールが占めていると思います。


中村

進行管理も入ってると、メールはすごく多いですね。クライアントとイラストレーターの双方に対して、相手がどう受け取るかを考えつつちゃんと伝わるように気を遣いながら連絡を取っています。


兵藤

例えば、送ったイラストに対して、クライアントからのフィードバックがちょっと厳しく聞こえることもあります。「デッサンがおかしい」とか……。そういう直球な指摘はオブラートに包み、必ず褒め言葉を添えて、ねぎらいとリスペクトの気持ちをこめてイラストレーターに返します。


中村

文面自体も、冷たい印象にならないように気を付けています。「…!」は、付けるだけで柔らかくなるし、必死感も出せる魔法の言葉です(笑)。イラストレーターへのメールは指摘も多くなるので「。」だけだと「怒ってるのかな……?」と勘違いされてしまったりするんですよね。


兵藤

クライアントへの連絡では、イラストのリテイクを減らすために、言葉で説明を添えるようにしています。指示書とちょっと違うけど、ただのミスではなく理由があって変えているとわかる場合は、イラストレーターの意図を汲みとって補足を入れてから伝えます。

ディレクターはイラストのここを見ている!

――なんとなくアートディレクターの役割がわかってきました。次は、イラストレーターから送られてきたイラストについて、具体的にどんな部分をチェックしているのかをお聞きしたいです。


兵藤

はじめに中村さんが言った通りですが、一番は指示とあっているかです。絵のうまさよりも、とにかく最初はそこです。
線画やカラーといった各工程ごとにチェックを入れるのが基本ですが、中でも特にしっかりチェックして詰めるのは、最初のラフだと思います。


中村

そうですね。最初のラフでどれだけクライアントとイラストレーターの双方と意思疎通できるかが重要です。この段階で、指示とあっているかの確認や、方向性のすり合わせができていないと、後から大変なことになるので……。

例えばキャラクターイラストの制作で、振り向くようなポーズで完成近くまで描き進めてから、クライアントに「やっぱり体も前向かせてください」と言われてしまったら、言葉だけなら簡単ですが実際は大変な労力がかかります。


――想像しただけでも頭を抱えますね……。


中村

依頼によっては、ラフよりさらにざっくりとした状態の大ラフという工程もあったりします。一枚絵でいうと、モノクロでどこに何があるかという情報がわかるくらいの状態でパターンを出してもらう感じですね。色の情報を入れない状態で良い絵かどうか、構図のバランスシルエットなどもここでチェックします。


兵藤

漫画でいうネームみたいなものですね。背景などはいったんコラージュで作る場合もあります。ここで描き込んでも、もし仕様や方向性が違ってやり直しになったら大変なので。

線画の工程になると、モチーフの形や構造が間違っていないかといったチェックが多くなります。最初にイメージされていたような赤入れですね。よく見るポイントとしては人体のバランス、複数人のイラストならキャラ同士のバランスとかでしょうか。


中村

厚塗り系の作風の場合は線画は存在しないので、代わりに塗りこんでいる途中のものを送ってもらいます。「中間稿」という呼び方を私はしていました。


――「大ラフ」「ラフ」「線画」「中間稿」と、ここまでチェックの過程がたくさん出てきました。


兵藤

細かく段階を分けるのは、やり直しが必要になったときのダメージを最小限にするためです。大きな手戻りが発生してしまうと、イラストレーター、ディレクター、クライアント全員のスケジュールやメンタルに関わるので、「戻れるときに戻ろう」ということで分けています。


中村

趣味で描く分には数日で描けそうな絵でも、制作だと1か月くらいかかっちゃう理由がそれなんですよね。


――描いている側は「何回も見られてめんどくさい」と思ってしまいそうだけど、ある意味イラストレーターを守るためでもあるんですね。


中村

そうですね。そして、着彩の段階になれば、「仕様と全然違う!」となることはほぼないです。

ここで見るポイントとしては、指定の色が使われているか、はみ出しや透けなどがないか、あとは絵としての見栄えの部分ですね。

色のはみ出しやごみのチェックには「境界線効果」という機能が活躍するんですよね。アートディレクターをやっている人はみんな使っていると思います。透けや穴あきは、蛍光緑を背景に塗ってチェックしますね。

見栄えについては、背景に埋もれていないか、逆に浮いていないかなど彩度や明度のバランスを見ることが多いです。シルエットについてもラフのときより細かく見ます。


兵藤

仕上げの段階になると、使われる場面特有のチェックが入ってきます。ゲーム系だと指定のエフェクトやカードのフレームを入れた状態でのチェックや、印刷物ならCMYKにした時の色味とかですね。
実際の工程は媒体やクライアントによってさまざまですよ。

また頼みたくなるイラストレーターとは?

――お話を聞いていると、クライアントからの指示をきっちり守ってくれるイラストレーターはありがたい存在ですね。


中村

そうですね。ただ「指示にないものは絶対だめ!」というわけではないことは伝えておきたいです。
指示にないものが描かれていたとしても、それによってもっと良い絵になっているのであれば採用すべきだと思うので、そのような場合はクライアントにこちらから提案することもあります。


兵藤

差し戻すのは、サイズが違うとか、夜の絵を依頼しているのに昼になっているとか、明らかに通らないであろうものですね。


――魅力的なアイデアであれば、提案の余地があるんですね。イラストレーターとしては腕の見せどころではないでしょうか。


兵藤

ラフの段階で複数パターンを出してくれたり、提案力のある人は好かれると思います。
元の作品がある場合は、作品やキャラについて勉強してくれる人もやっぱり好まれますよね。こちらもなるべく資料を用意しますが、実際に触れたからこそできる提案もありますし。


中村

こういうふうにしてもらえると、シンプルに「ありがたい」って思いますよね。

あと、指示にはない提案をするとき、なぜそうしたのかを言葉で説明してくれるとすごく助かります。「こういうキャラならこっちの方が似合うと思うんです!」みたいにかんたんな文章でもいいですし、「指示書通りに描いたラフと自分が良いと思うラフの両方用意しました」って人がいたらもう、ありがたさの極み。


兵藤

また頼みたくなりますよね。


■編集部より
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――他にアートディレクターの立場で「このイラストレーターさんいいな!」と感じるポイントはありますか?


中村

わからないことを聞いてくれたり、相談してくれる方は助かりますね。
こちらもできる限りわかりやすく指示書をまとめているつもりですが、それでもわからないことは出てくると思うので、「これ聞いていいのかな」と迷わずどんどん聞いてほしいです。
わからないまま進めて間違っていたら、イラストレーターさんも修正に苦労することになっちゃいますからね。


兵藤

あとは、指示書を読んで細かい仕様までちゃんと理解してくれる方。こうしたことは意外と難しいんです。仕様に対する解像度が高くてコンセプトにばっちりハマったときには「すごっ!」ってなります。


中村

指示書を理解したうえで解釈を深めてアウトプットできる人はありがたいです。素敵なデザインや画面構成を考えるのは誰でもできることではないですからね。


兵藤

まとめると「仕様の理解とアウトプット」「提案」「報連相」ができるイラストレーターですね。

中村
こういった方と仕事ができると、こちらとしてもテンションが上がりますね。イラストを受け取った瞬間に、次は何をお願いしようか、って考えちゃいます(笑)。


――企業とのお仕事をしている、お仕事をしたいイラストレーターに「これだけは伝えておきたい」ということはありますか?


中村

期日に遅れそうなときは必ず伝えてほしいです。
遅れることに引け目を感じてしまうからだと思うのですが、連絡がない方もいます。そうするとこちらとしてもクライアントに説明がつかず、とても困ってしまいます。

遅れること伝える時に「文面が失礼では……?」なんて考える必要はないんです。「〇〇という理由で✕日遅れます」という事実さえ伝えていただければ、それだけで大変ありがたいです。


兵藤

こちらとしても緊急案件でない限りは、ある程度は遅れることを想定したスケジュールを立てています。怖がらなくて大丈夫ですよ。
……なので、遅れるときには、どうかどうか連絡をいただければ……!


――切実ですね……。お二人の熱量から本気を感じました……。

▼アートディレクターのお仕事についてもう少し知りたい方へ

執筆
GENSEKIマガジン編集部

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