アートディレクターってどうやったらなれる? 絵が下手でも大丈夫? アートディレクターに聞いてみました

2025.4.24

「絵を描く仕事」と聞いて、イラストレーターを思い浮かべる方は多いでしょう。しかし、イラストに関わる仕事は他にもたくさんあります。

今回は、イラストのクオリティチェックを行う「アートディレクター」のお仕事について、制作会社でゲーム系のイラスト案件に携わっていたお二人にお話を伺いました。

▼アートディレクターって? という方へ

インタビューの中で「イラストレーター志望の方にとっても、就職先の選択肢としておすすめ」というお話も出ました。アートディレクターに向いている素質や必要な力についても語っていただいています。

お話を聞いた人

中村
株式会社viviONのアートディレクター。イラスト案件の進行管理・品質管理を行う。


兵藤
株式会社viviONの営業。以前は制作会社でゲーム系のディレクションに関わる業務をしていた。

アートディレクターをしながらイラストレーターを目指すのはおすすめ!

――中村さんがアートディレクターの道に進んだきっかけは何だったんですか?


中村

私はもともと絵を描くことが好きで、美術系の専門学校に通っていました。
その後イラストに関わる仕事がしたくて求人を探したときに、未経験可で募集していたのがアートディレクター業務だったんです。イラストレーターの求人はそもそも少なく、実務経験が必要な場合がほとんどだったので。


兵藤

私が見てきたアートディレクターも、専門学校で絵を学んでいたりして基本的に絵を描ける人たちでした。その中でも、絵は描きたいけどまだプロレベルではない、将来フリーになりたいけどまずは業界の仕組みや様子を見たい、といった動機の人が結構いましたね。もちろん単純にゲームやIPが好きで、という人もいました。


中村

絵を描く人間としては、いろんなイラストレーターさんの納品データとか制作過程を見るのは楽しいし、勉強にもなります。絵を描かない人でも、業務をこなしていくうちに自然と目が養われていくと思いますね。


兵藤

私自身もまさにそうで、普段絵を見たり描いたりしないタイプなのに、業務で絵を見るうちに不自然な部分が気になるようになりました。


――アートディレクターって絵の上手な人しかなれないと思っていたのですが、全員が全員プロレベルというわけではないんですね。


中村

そうですね。自分よりうまい人の絵に赤を入れるなんて何様なんだ? みたいな苦悩もあります。だからこそ、常に敬意を持ってイラストに接するようにしています。そうすることは結果的に自分のイラストの上達にもつながるかもしれません。


兵藤

将来的にイラストレーターになりたいという人にとっては良い修業の場かもしれません。
実際、アートディレクターを数年やってから独立するのはすごくおすすめですね。金額感や企業がどういうスケジュール感で動いているかもわかったり、最終ジャッジをする人は何を気にしているかとか、いろいろなことを見られるのがアートディレクターというポジションです。

中村
アートディレクターとしても「元アートディレクターのイラストレーター」って安心感がすごいんですよ。内部の事情もわかってくれるのでこちらも相談しやすいし、報連相もちゃんとしてくれます。


――ちょっとズレてるかもしれませんが、接客業経験者は店員さんに優しくなれるという話に似ている気がしました。


中村

確かに……!
依頼を受ける側しかやっていないと、依頼する側の事情や考えがわからなくて「なんでそんな理不尽なこと言ってくるんだろう」って思ってしまうことはありそうですよね。

元アートディレクターという経歴や、制作会社での勤務経験も、イラストレーターとして活動するときに価値が出ると思います。


兵藤

イラストに関わる仕事をしたくて、人とコミュニケーションをとるのが嫌いでないならおすすめの職業ですね。


中村

アートディレクターは、絵が描けてコミュニケーションとれない人より、絵が描けなくてもコミュニケーションがとれる人の方ができると思います。絵の修正については、見ていくうちに目だけは養われるし、ちょっと大変だけど言葉で伝えることもできますからね。

作る苦労と喜びはアートディレクターも同じ

――イラストの勉強になる他にもやりがいなどはありますか?


中村

イラストレーターさんに感謝されるとうれしいです。納品が終わったときに「中村さんのおかげでスムーズに進行できました」とか、ちょっと大変な依頼だったときも「フォローしてくれているとわかっていたからがんばれました」とか言われると、涙が出そうになります。報われた気持ちになる。


兵藤

クライアントからの感謝もうれしいですよね。「御社がいなければとても成り立ちませんでした」とか。
あとは、こちらからクライアントへの提案が通った時もやりがいを感じますね。自分たちも一緒に作品を作っているんだというのが感じられて。


中村

それが世に出ているのを実感したときにも、また喜びがありますよね。


兵藤

そうですよね。携わってたコンシューマーゲームを実機で見たときは感慨深かったです。


――自分が関わったクリエイティブが世に出る喜びはイラストレーターと共通ですね。
逆に、大変な部分や苦労した経験についても気になります。


中村

クライアントが求めるイラストの方向性とイラストレーターさんが考える魅力的なイラストとの間でなかなか折り合いがつかなかったことがあります。どちらにもそれぞれの意図があって、その間を取り持つのは大変でした。


兵藤

私がたびたび苦労したのは、線画以降まで進んだ後の仕様変更ですね。
新しくゲームを作る場合、イラストの制作はシステムの開発と同時に進めていきます。リリースにあわせて何百枚と用意する必要があったりするので、細かい仕様が決まっていないうちに描き始めるんです。だからシステム側で変更が起きると、イラスト側にも影響が及ぶ場合があります。


――そういったどうにもできない仕様変更もあるんですね。


兵藤

我々が良い絵にしたいのと一緒で、皆さん良いゲームにしたいのでしょうがないんです。
その変更連絡をイラストレーターにするんですが、30人くらいとやり取りしていたときはちょっと……(苦笑)。その30人分のスケジュールもずらしたり、金額面の調整もあるので大変でした。

中村
そうした仕事は大変ですが、制作会社が存在する理由のひとつですよね。

アートディレクターのキャリアパス

――アートディレクターを続けていった先にはどんな道があるのでしょうか?

兵藤
企業の中だったらアートディレクターとしての手腕を極めていく人、プロデューサーになって自分でコンテンツを開発する人、現場を離れて管理職になる人などがいます。
独立して、フリーランスのイラストレーターや、フリーランスのアートディレクターになる人もいます。


中村

アートディレクターを極めていくのであれば、まずは進行管理から始めて、少しずつ絵を見るようになって、経験を積んで熟練度を上げていき……トップになってイラストの統括をするようになればゲームのクレジットにも名前が載るようになるかも……? という感じでしょうか。


兵藤

インハウスの場合になりますが、アートディレクターの上層部になると、アートに関わる仕様自体を作る側になります。アートプロデューサーという名前で役職を立てられていることもありますね。
世界観やコンセプト、キャラや背景などそれぞれをどういう絵柄にするのか、そういうトンマナを決める役割です。


――アートディレクターの中でも、トップで仕様を作る人と、その仕様に沿って進行させる人に分かれている場合があるんですね。

ちなみに、お二人は様々な作品に関わられてきたかと思いますが、どんな仕様があるものなのでしょうか?


兵藤

作品にもよりますが、絵柄が統一されているゲームなどは、細かい指定がある場合が多いです。線の太さや使用する色が決まっていることも珍しくないです。


中村

イラストレーターから納品されたイラストに対して、内部のデザイナーが最終的な調整をする場合も多いです。たくさんの方に依頼するので、作品の世界観を統一するために必要なことなんですよね。


――イラストレーターの絵柄が前面に出ているゲームもときどき見かけますが、統一されている場合とはどういった違いがあるのでしょうか。


兵藤

絵柄を統一するか作家性を出すかについては、作品ごとのテーマやポリシーの違いですね。作家性を出していい場合は、イラストレーターさんのお名前も出していいことが多いです。
そういった案件は、ネームバリューがあって影響力の強い方に依頼されていますよね。マーケティングの一環として増えてきたものだと思います。


中村

「艦これ」が出てきたあたりから、複数の絵柄を取り入れるのが許容されるようになってきた感じがあります。

最近は、ゲーム自体に使用されている絵柄は統一だけど、1周年記念みたいなお祝いの時にはネームバリューのあるイラストレーターに一枚絵を依頼するといったやり方も見かけますね。ハイブリッドだなと思いました。

アートディレクターの仕事はマニュアル化ができない?

――案件によって業務内容も変わりそうですが「まずはこうやればOK」といった基本の型みたいなものはあるのでしょうか。


中村

やっぱりディレクションって常にケースバイケースというか、クライアントやイラストレーターの性質、進行状況、使用する媒体などによって対応が全く異なります。

例えば、この人は返信がちょっと遅いからスケジュールもちょっと早めに設定しておこうとか。赤入れについても、イラストが使われる媒体によって気を使うポイントは変わりますし、クライアントによってもチェックする部分や厳しさが違ったりします。

それって経験や感覚で判断しないといけなかったり、そもそも答えがなかったりするのでマニュアル化が難しいんですよ。


兵藤

制作工程もクライアントによって様々です。大ラフの次にもう少し描き込んだラフを出してってところもあれば、もう線画に進んでいいよというところもあります。


中村

初めてやり取りするイラストレーターの場合、クライアント側のチェックとは別で確認の工程を増やすこともありますね。
あとは、監修の厳しさやスケジュールの余裕などによって、修正をしてもらうかも変わってきます。


兵藤

イラストレーターから上がってきたラフなどに対して、中間に入る制作会社の判断で修正指示を出すこともあります。ただそれをクライアントに提出したとき、また別の修正指示が来てしまったら、結果的に二度手間となってしまいます。
判断が難しいときは、自分で作った調整案や意見を添えて、クライアントに問題がないか聞く、というのが無難ではありますが、連絡の工数が増えてしまうんですよね。


中村

イラストレーターに戻すかクライアントに渡すかで、判断に悩む局面はよくありますね。自分の修正案がそのままクライアントに採用されたときは、心の中でガッツポーズしています!

兵藤
ベテランのアートディレクターでも一発で決まらないことはもちろんあります。
あと、クライアント側の担当者が変わっただけでも見られるポイントが変わったりします。絵に対するこだわりは人によって違いますからね。


――正解がない分、アートディレクターによって成果物もかなり変わってきそうな気がします。


中村

それはそういうものですね。
どうしてここ直さなかったんだろう、と思うようなクリエイティブを見かけた経験ありませんか……? それって、きちんとディレクションされていなかったり、もしくはアートディレクターがいなくて手探りで制作してたみたいな場合があるんじゃないかと思います。


兵藤

アートディレクターによってクオリティが左右される部分は大きいと私も感じますね。


――なるほど……。熟練度という言い方をされていましたが、どこからが一人前か、プロなのかという基準も難しそうです。

兵藤
そうですね……、自己判断ができるようになったら一人前でしょうか。なおかつ判断した結果の勝率が高ければ……!
ただ、なかなか自分からは言えないですよね。


中村

私自身、当たり前のことはできているつもりです。ただ、もっと赤入れがうまい人もいますし、自分が気付かないところに気が付くアートディレクターさんを見てすごいなって思うこともあります。


兵藤

作品やキャラクターのことを熟知しているアートディレクターの指示はなかなか真似できないですよね。「このキャラだったらカバンの持ち方はこう!」みたいな。指示書だけではつかみきれない作品への解像度の高さを感じます。


中村

性格は仕草に表れますから、世界観設定に携わっていたりずっと同じ作品に関わっていたりすると、余計に目につくんでしょうね。
その領域までは行けなくとも、私も元になる作品については調べたうえで指示書や資料にまとめて、依頼するイラストレーターさんに共有するようにしています。

マニュアル化できない分、アートディレクターは先を見据える力が大事です。想像力を働かせて、先回りした計画や行動をするよう意識しています。感覚的な部分は多いですが、経験を積むことで着実に身についていくと思っています。

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執筆
GENSEKIマガジン編集部

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