GENSEKI編集部の坂本です!
GENSEKIで毎月開催している月例コンテスト、7月のテーマは「夏休みの想い出」でした。
少し遠くなった夏を思い出しながら、7月の合評会レポートをお送りしますっ!
今回も月例コンテストに参加頂いた方から、合評されたい人を募り9月24日にTwitterスペースにて「#ゲンセキ 合評会」を開催しました。
合評会に参加できなかった人、イラストレーターとしていろいろな悩みを抱えている人に「気づき」を与えてくれるレポ記事になっていると思います。
非常に長い記事なので、ちょっとしたスキマ時間に読み進めてくださいね!
目次
- 外交的になれば、外交的な人が集まって、自分の絵をもっと見てもらえる(白いとうふ)
- 「この絵が何に使えるのか」「企業からの依頼だったら」を想像すると方向性が見えてくるはず(寝子)
- 仕事での「依頼」でもサービスや商品を大好きになれば、自ずとモチーフの良さは出せるはず(彩田花道)
- 描きたいモチーフの表層的な面だけでなく、文化や歴史を知れば、絵はもっとよくなる(Meg)
- アイディアを活かすために、人物を研究して表現を磨こう(夏音まる)
- 自分の受賞経験から得意領域と傾向を見つけて磨きあげる(るぅ)
- 課題は「立体感」と「子どもの描き方」(リッカユキノ)
- 「買いたくなる絵」に必要なのは、細部まで描ける細やかさ(守下)
- 「絵が誰に刺さるのか」でその絵を求める企業は変わってくる(カナイユウ)
- 全ての画風に完璧な人体バランスが求められるわけではない(きの)
- 「線」の特性を理解しながら、ありきたりなモチーフを練習する(つくもともよよ)
外交的になれば、外交的な人が集まって、自分の絵をもっと見てもらえる
合評された人:イラストレーター 白いとうふさん
自分自身のイラストに手応えを感じつつも、フォロワー数が伸びないことに悩む白いとうふさん。
前回までは、背景イラストに対してキャラクターのテイストが確立されていなかったので、キャラクターの造形をシンプルに記号っぽくした上で、背景の情報量を増やしてみたそうです。
https://twitter.com/shiroitooofu/status/1568225009008779265
SNSで引きこもるのはNG
白いとうふさんは「フォロワー」についてお悩みとのことですね。いい絵を描いているのにフォロワーが伸びない人は、他の作家さんと交流できていない場合が多いです。
つい忘れがちになるのは、SNSは作家は発表媒体と思っていますが、ユーザーのほとんどはコミュニケーションツールとして捉えています。だから好きな作家さんに対してどんどん感想を伝えましょう。自分の絵を見てほしいなら、他の人の絵にも反応しましょう!
外交的になれば外交的な人が集まってきて、自分の絵がどんどん広がるようになりますよ。
奥手に「(影ながら応援してます)」はネットでは無のカウントですから、作家アカウントなら絵を描いてる人とも、見てくれる人ともどんどん交流していきましょう。
絵に細かいニュアンスを取り入れ「ひっかかり」を作ろう
イラストは、以前見たときから変わりましたね! 特にスーパーマーケットの絵が素晴らしいです!
とうふさんの絵の方向性は、人物と背景の良い意味での異質感だと思いますが、人物を正確に描こうとしすぎて、ご自身が思われているよりコントラストがついておらず、背景と馴染んでいて、どこを一番見せたいのかわからなくなってしまっています。
- 背景と人物との塗り方を大胆に変える
- 人物のフォルムをもう少し崩す
- 線に強弱をつける
など、一番見せたいところに視線誘導できるように「ひっかかり」を作ってみましょう。あとほんの少し変えるだけで、ぐっと良い絵になるはずです。
「この絵が何に使えるのか」「企業からの依頼だったら」を想像すると方向性が見えてくるはず
合評された人:イラストレーター志望の寝子(ねこ)さん
イラストレーターを目指す寝子さん。
https://twitter.com/necoham/status/1567819093432225794
「この絵がどう使われるか」という観点
このアクリルガッシュの絵が圧倒的に良いです。商業のイラストレーターとしてプロモーションするならこの方向性を適していると思います。寝子さんの絵はタッチに特徴があるので、これくらい色を抑えたほうが、かわいく見えます。
この絵はモチーフも色使いもおもしろいし、遊園地なのに女の子が笑っていないところもおもしろいです。
よくよく見ると現実には存在しないものが描かれていたり、風船がパステルカラーになっていて寝子さんならではの世界観もあります。この方向性で伸ばしていくと仕事に繋がりそうですね。
構図の使い方と光の表現、情報の優先順位がつけられている
また、GENSEKIにアップされている絵も拝見したのですが、ホタルの絵が非常に良いです。
これは構図がうまいです。人物をモチーフにすると、つい人をドーンと大きくしがちになるのですが、この絵は引きの構図が見事です。重要なポイントを理解して優先度をつけて描けています。
手前のホタルを描けている点や、車のバックライトとホタルの明かりに「違い」を出せているところもうまいです。
もしかしたら、ホタルの数をあと少しだけ増やすと、もっと見る人にもドラマチックにうつり、グランプリも狙える作品になると思います!
「ここに企業ロゴが入ったら」を想像してみること
他に、少女たちという作品も良いです。
色味できれいな印象を出せています。
ただし人体の描き方がフェティッシュというか少し特徴的で、人体のディティールにこだわると、魅力がバッティングして、このきれいな色の印象は伝わりにくくなります。メリーゴーランド(2枚目)のイラストのような描き方にしていたら、色の印象はそのまま活かせると思います。
たとえば「この絵の後ろにポカリスエットのロゴが入った時に映えるか」など、具体的にイメージしてみましょう。
自分の強みを取捨選択し、方向性を絞ってイラストを描こう
1枚目の絵もかわいいのですが、漫画的な表現に寄っています。この男の子が何かの作品のキャラクターだったら使いやすいです。しかし、そうでない場合は使い所が難しいかなと思いました。
また、猫の顔だけがレトロな擬人化になっていて、絵の雰囲気とアンマッチな印象です。寝子さんの武器は「色のきれいさ」なので、モチーフやキャラクター性はあと少しだけ控えめにした方が作品性が伝わると思います。
商業イラストレーターは、自分の強みで取捨選択することも大事です。自分の方向性が決まって続けていけば次の段階に進めます。今はいろいろと自分の道を模索しているのかもしれません。そんな中、いろんなテイストのイラストがあると企業としては仕事が頼みにくいので、自分の方向性が見えたらしっかりその道を貫きましょう。
これは、フォロワーを増やしたいと思っているときも同じです。方向性が見えていないときは、評判の良かった絵と同じテイストで2~3作描き続けるのもよいですね。
仕事での「依頼」でもサービスや商品を大好きになれば、自ずとモチーフの良さは出せるはず
合評された人:イラストレーター 映像クリエイター 彩田花道さん
以前の#ゲンセキ合評会にも参加されていた彩田さん。
自分らしい完成度の高い絵が描けるようになった反面、仕事の場合だと「自分の好き・こだわり」という感情が出しきれず、物足りなさを感じるそう。今回合評を依頼した作品は「ファンの熱量をイタコとして体におろした」気持ちで挑んだそうです。
https://twitter.com/Hanamichi_pic/status/1570403092398743553
小さな「違和感」を取り入れる
以前と比べて、すごく良くなりましたね! 特に洗面台の絵です。
洗面台の暗いところの表現も、光以外のところの色味もすごく良いと思います。ただ、うまいけどSNSでは若い方から見ると地味だなと思われてしまうかもしれません。
そこで、ほんの一つ、何か特別なモノ・場面・モチーフなどの「引き」を入れると拡散力のある絵になります。たとえば、ちょっと珍しい種類の犬や猫を入れるとか。あとは体重計に乗った直後で、まだパネルが緑で光っているとか。
モチーフはばっちり描けているので、どこを「引き締める」のか考える
こちらの絵は表現したいことが不明確になっていますね。本のページ1枚1枚の薄さはよく描けているのですが、男の子をペッタリと描きたいのか、リアルに描きたいのかがわからない。また、手前にある原稿用紙ははっきりしているのに、人物に近いコップは、ぼんやりしています。
ただ、旅行先で買ってきたようなキーホルダーなど、この人物の年齢ならではのモチーフが入っていて、イラスト全体を見ると非常に良いんです。絵のどこを引き締めるか=観る人の焦点をどこに定めさせるかも、考えていきましょう。
一方で、この浴室の絵は画面が引き締まっていていますね。特に光の明るさが表現できています。女の子の髪の後れ毛もすごく良いですね。この絵と洗面台の絵を対比すると、洗面台の絵は、お母さんとわかるように表現できていますね。この浴室の絵と洗面台の絵は群を抜いて完成度が高いです。
イラストレーターは描く対象を「好きになる努力」をする
ここまでは彩田さんの描きたいことが伝わってきたけど、4枚目の絵(男の子がスケボーのようなものに乗っている)はそれがわからないなと思いました。こちらが悩まれている「依頼された絵」ですね。
リリース前のゲームのファンアートを依頼されたとのことですが、僕だったらまずこのゲームをやってファンの心情を理解します。
僕たちイラストレーターは、サービスや物などのモチーフがあって、イラストを依頼されるかと思いますが、まずはそれらを「好きになる努力」をしないといけません。
関連する書籍があるなら読んで、SNSなどでファンの人たちの意見も読んで、自分自身も共感しながら、描きたいところを考えるんです。そうやって調べると、最初は全く興味がないモチーフでも、描く頃には大好きになっています。
ファンにならないと、それを好きな人の心に響いたり、共感されたりする絵は描けないんです。すごく大変な作業ですよね。でもだからこそ、上手い下手を除けば僕らは誰もが描ける「絵」でお金をもらえるのだと思います。
実は本当の僕は、人と犬以外興味ないような人間です(笑)。実は昆虫にも触れないくらいです。「中村佑介」というパーソナリティと「イラストレーター中村佑介」というパーソナリティは別なんですよ。
こんなことを言うと不安に思うかもしれないけど、調べればどんなものも好きになれると思いますよ。だから、仕事の依頼で「興味がないから描けませんでした」は絶対ダメです。モチーフに自発的になりましょう。
今回であれば、まだリリース前で遊べないかもしれないけど同じパブリッシャーの前作をプレイしてみましょう。クリアしなくても良いかもしれないけど、まずは買って、プレイする。だってこのゲームのファンは買ってプレイしているのだから。
描きたいモチーフの表層的な面だけでなく、文化や歴史を知れば、絵はもっとよくなる
合評された人:イラストレーター志望のMegさん
中村先生に絵を見て褒めてもらいたくて初めて合評会に応募してくれたMegさん。背景を描くことに苦手意識があるそうです。また、アフリカ系の方が好きで今後自分が描くモチーフの一つにしたいと考えています。
https://twitter.com/krk0kgm/status/1570258852196798465
モチーフの詳細を調査しましょう
1枚目と4枚目はすごく良いですね。
逆に、2枚目と3枚目は、間に合わせるために描いたんだろうなと、一目見て思ってしまいました。
Megさんには、抽象的な概念であるキャラクターではなく、具体的に存在している人物を好きになってほしいですね。たとえば、男の人の体はどういうふうに描くのか、天使の羽はこの形で本当に飛べるのか、描く前にしっかりと想像を膨らませることが重要です。
今はどのモチーフもぼんやりした「イメージ」になってしまっていて、モチーフに対する愛情があと一息ほしいと感じました。
悩みやあこがれも多いのかもしれません。そんなMegさんにアドバイスするなら以下3点です。
- プロの絵師にあこがれを持たないこと(あの人はあの人、MegさんはMegさん
- 絵柄はお手本にしない(オリジナルを追求する)
- プロ以上にクオリティにこだわる
また、モチーフとしてアフリカ系の方というお話ですが、メイクやファッションのようなイラストとしてのモチーフになるものだけではなく文化、音楽、歴史など、ハックグラウンドもしっかり学ぶと、より深く表現できるようになると思います。
もし、時間があれば「ブラック・クランズマン」という映画を見てみてください。
文化を知る最初のきっかけになると思います。
アイディアを活かすために、人物を研究して表現を磨こう
合評された人:イラストレーター夏音まるさん
現在休学中の、夏音まるさん。先日、イラスト添削にもご応募頂きました。
そんな夏音さんは「イラストを仕事にしたい」と考えているそうです。現時点では自分がどんな方向性を目指すべきか見えていないのが悩みです。
https://twitter.com/natsune__maru/status/1567885779342602243
「描きたい世界観」「良いアイディア」をたくさん持っている
メトロノームが描かれているこの絵、すごく良いですね。夏音さんの絵は「こういう絵が描きたい」という気持ちが全面に出ていて、この人のイラストは、思わず「合評したい」と思ってしまいました。
Twitterで過去を遡って絵を拝見させてもらったら、おもしろい絵がありました。右側の大きな緑色の手に苔をつけるという発想がすごいです。
少しもったいない点は、人物の描写だけが漫画風になっているところですね。
その点でいうと、こちらもそうですね。スピード感や躍動感はあるのですが、人間を描くのが少し苦手なのかなと思いました。この頬張り方も漫画っぽくて、イラストの持つせっかくの全体の空気感を単純化させてしまってます。
自分が描きたい世界観を描くために人物を研究する
夏音さんが描きたい世界観を描くには、人物の描き方を研究する必要があります。そのためには、スケッチをしてみることが大事です。
難しい人体解説の本は不要です。周りの人やコンビニにでも売っているファッション誌を見ながら、人間のスケッチをしてみてください。毎日描き続けて、実際の人物の顔や身体の構造を分析しましょう。
夏音さんは、すでに頭の中におもしろいアイデアがたくさんあるので、人物が描けるようになると今よりもっと絵を描くことが楽しくなると思います。キャラや絵柄にとらわれず「おもしろい絵」が描けるかどうかを大事にしてください。
夏音さんには、絵本のイラストを描く仕事が向いている気がします。背景込みで全体のイラストをおもしろい表現で描ける人は少ないので、原作者と一緒に絵本を描いたりすると才能を発揮できるかもしれません。
ただ、絵に関する仕事はたくさんあります。とにかく今は絵を描き続けて自分に合う絵柄や表現を確立してください。夏音さんは物事や色の塗り方に対して、きちんと考えることができる人だと思うので、今後の可能性に期待しています。
自分の受賞経験から得意領域と傾向を見つけて磨きあげる
合評された人:イラストレーターるぅさん
GENSEKIコンテストで多数入選している、るぅさん。最近ではキャラクターデザインコンテストでも賞を取っています。
もともとは絵を描いてきたわけではなく、ハンドメイドを5年ほど続けていました。現在は絵柄が固定されていない点が課題だそうです。
https://twitter.com/Ru_chamo/status/1570324049380921350
「マッチョコ」は最高の出来!
なかやまきんにくん「筋肉」イラストコンテストで特賞を受賞した絵、本当に素晴らしかったです!あの絵なら僕も見た瞬間、賞に選ぶと思いました。
さて、合評対象に選んでくれた4枚の絵を見ましたが、宇宙の絵は描きたいことの優先順位が決まっていて良いですね。
商品パッケージ・ラベルイラストにおいて「やってはいけないこと」をモチーフにはしない
クラゲの絵は一見すると良いのですが、致命的なポイントがあります。こちらは、お酒のラベル用に描いたイラストかと思いますが、やってはいけないことを商品ラベルやパッケージの絵に使うのはよくありません。
信号機のピクトグラムがお酒を飲みながら歩いていますよね。これは現実世界でやると、危険行為です。オリジナルイラストやギャグマンガの中ではおもしろいアイデアですが、お酒という商品のラベルでこうしたモチーフを使うことは避けたほうが良いでしょう。
その他にも、全体的に描きたいモチーフの優先順位がまだ定まっていません。全てが同列に見えてしまいます。「お酒」というテーマに寄せるのであれば、関係ないモチーフは描いても、もう少し目立たせないようにすることも大事です。
イラストを描くときは、常に自分でテーマを課す
こちらは、最近賞をとったという作品です。
キャラクターのフォルムがおもしろいですね。なかやまきんに君の受賞作品もそうですが、るぅさんはテーマを与えられた方が描きやすいのかもしれないですね。オリジナルで描くときも自分自身でテーマを課すとより良くなりそうです。
また、賞をとったモチーフがどちらも男性ということで、男性をもっとたくさん描いてみてはどうでしょうか。Twitterでも男性を描いてる人をフォローして研究してみると良いかもしれませんね。
課題は「立体感」と「子どもの描き方」
合評された人:イラストレーターリッカユキノさん
自分の絵柄が定まっていないことが悩みのリッカユキノさん。
人物に苦手意識があり自信がないそうですが、直近では『季刊エス』でイラストが掲載されたこともあるそうです。
https://twitter.com/YT_0079/status/1570421622259191810
イラストの方向性はすでに見えている
生き物を描くのがすごく上手ですね。特に狼などのマズル(動物の鼻口部)が長い生き物がお上手です。
人間はあまり得意ではないという話でしたが、Twitterで過去の作品を見たら、男性のイラストがものすごく上手ですね。
方向性について絞れていないということでしたが、リッカさん自身が考えているほど絵のタッチに違いはないし、すでに絞れている気がします。
二頭身の研究をするなら「子ども」を観察
リッカさんは、二頭身キャラをもっと研究した方が良いですね。そのためには人間と動物の「子ども」を観察しましょう。
今のリッカさんは二頭身のイラストより大人のほうがかわいいいしすごく上手です。デフォルメした絵や子どもを描きたいなら、イメージ上の「小さい生き物」ではなく、実際の「子ども」を観察したほうが勉強になるでしょう。
立体感を出すならペンの細さを変える等、メリハリを意識しよう
もっと上達するためには「立体感」以外も意識しましょう。今の絵は「トーン」が上手く描けていません。たとえば、左の「モササウルス」です。
これもトーンが全部同じで立体感を線でなぞっているだけで「色」が描けていません。今の状態だとサムネイルにしたときに、ゴチャっと見えてしまうかもしれないですね。
たとえば、このモササウルスであれば、目と口の中と肌の色で差をつけていいです。いっそ、口の中は真っ黒にしてもよかったくらい。もし可能であれば、背景の白いところを画像加工ソフトで真っ黒にしてみると、今の立体感について認識しやすくなると思います。
右側のオオカミの絵も毛並みが一部アザのように黒くなりがちですね。この場合だったら、例えば毛並みは細いペンで描くとくどくなることなくメリハリもつくはずです。
描き込むことが好きなのはすごく良いと思います。立体感を学ぶために、風景写真をとってモノクロにしてみてください。白黒で再現できる立体感への理解度が深まります。
リアルタッチ ✕ ファンシーなカラー
そして、一番良かったのがこのカラーの絵ですね。
リアルタッチなのに、リアルとはかけ離れた色を使って塗っている点がおもしろいですね。やはり、リッカさんはマズルが長い生き物を描くのが上手です。この方向性、素晴らしいと思います。是非、この方向性で描きながら、色の塗り方とトーンを意識して立体感をだしていきましょう。
リッカさんは、展覧会をやって絵を売っていくのはどうでしょうか。そのためにはイラスト雑誌の投稿で常連になっていくことを目指すと良いかもしれません。
「買いたくなる絵」に必要なのは、細部まで描ける細やかさ
合評された人:イラストレーター志望 守下さん
3年前から趣味でデジタル絵を描くようになった守下さん。将来的には絵のお仕事をしていきたいとのこと。自分の絵が地味なところが課題に感じているそうです。
https://twitter.com/morishita_i/status/1570371157077159947
あと2倍、時間をかけて絵を描こう
守下さんは非常に絵が上手いです。今回、賞をとられているということで納得の一言ですね。次の段階に行くには、「ぼやけた背景こそ手は抜かない」ができるともっと良くなります。
そのためにはあと2倍、時間をかけてみてください。そうすればプロとして十分に通用すると思います。かないさんの絵も是非参考にしてみてください。
そして、完成した絵を印刷してみましょう。印刷に耐えうるかどうかは非常に重要です。GENSEKIですでに賞もとっている、ゆいあいさんもここ最近でぐっと絵のクオリティが上がっていますが、これは技術以上に心持ちなんですよね。緊張感を持って、甘えずに絵と向き合っているかが重要です。
今回、受賞したこの絵なのですが、自転車のキーにクマの絵がついていたり、履いている靴もクロックスだったりして、この少年のかわいさが表現できていますね。そしてカゴに入っている花火、これを持って友達と海に来たという設定がいいですね。
プロを目指すなら「小さな粗」を潰していこう
この絵も制服や髪型のやぼったさと、背伸びして履いている赤いハイヒールのコントラストがとても良いですね。背景が下駄箱で、日の差し方でハイヒールを履いてうれしくなっているような明るさがよく表現できています。
花屋さんの絵も、バケツの中にホースが入っていたりして、すごく細かいところまで描けているなと思いました。
守下さんは、GENSEKIの中においては何回出しても賞が取れるレベルに達していると思います。アマチュアの中のはかなり上手い人ですが、プロから見るとまだ粗い部分もあります。
たとえば1枚目(自転車に乗っている男の子)の海の表現です。海と空の表現が粗い状態ですね。2枚目(ハイヒールを履いている女の子)は、せっかく素敵な絵なのにのっぺりとしています。たとえば、ハイヒールにもっと光沢をつけて目を引くようにすると一気に惹かれる絵になると思います。3枚目(花屋さん)は、奥の植物と手前の植物の表現が同じになっています。
さて、こうした観点で見ると4枚目がすごく良いことがわかります。
1つ1つを丁寧に描いた上で、ぼかしを使っています。ぼやけるからこそ、しっかり描かないといけないんです。
絵のストーリーとしておもしろいのは1・2枚目・完成度は3・4枚目が優れています。全体として、今は「服装は完璧なのに実は靴下に穴が空いている」みたいな状態になってしまっています。でも、守下さんは絶対に粗のない絵を描ける人だと思います。
「いいね」と「売れる」絵の間にあるはっきりとした線
SNSで「いいね」がもらえる絵と、「売れる」絵って違うんですよ。この違いって、グラデーションではないんです。はっきりと「線」があります。
プロのイラストレーターとしては、その線を越える必要がある。たとえば前述したような印刷したときの仕上がり。それを細かく見られるようになったら、きっと守下さんに仕事は来ると思います。
守下さんは自分の絵が地味なことに悩んでいるそうですが、仕事で評価されるポイントとSNSでいいねがもらえるポイントって違うんですよ。
むしろ、企業から見ると、守下さんの絵は仕事を依頼しやすいタイプだと思います。ただ、今はたしかに全体的にのっぺりしている印象があるので「ヒキ」をどこに作るかしっかり考えてみてください。といっても、やりすぎてはいけませんよ。
まだ絵を描いて3年とのことなので、是非コミティア等で自分の絵を印刷して売る機会を作ってみてください。10代の男の子はよく描けているので、それ以外の人物・猫などの動物も練習して、絵の脇役もしっかり描けるようになるとなお良くなると思います。
「絵が誰に刺さるのか」でその絵を求める企業は変わってくる
合評された人:イラストレーターカナイユウさん
イラストレーターとして活動したいものの、伸ばし方や改善点がわからないことに悩むカナイさん。
https://twitter.com/u_pandaruma/status/1570181756434915328
レトロな漫画風 ✕ カラーが斬新
この絵は、色の使い方や全体のまとまりがよくて、かわいさがよく表現できていると思いました。あまり堅く考えすぎずにもっといろいろ遊んでみて良いと思いますよ。
フルカラーで昔風の漫画を描くのは新しいと思います。インパクトがあって良いですね。元々は漫画家にあこがれていたというのも納得です。
とても賑やかな作品ですが、1枚の絵の中に現代風、レトロ風、幼いデフォルメスタイル等が混在していて、カナイさんが得意なことがクライアントに伝わりづらいかもしれません。
カナイさんは「柄」を描くのがお好きとのことだったので、現代に寄せても良いかもしれません。今の絵は、男の子は現代的で良いと思います。女の子のカラーが派手なので、服装はシンプルにするとバランスが取れるでしょう。
この絵を使いたくなる企業を考えながら絵を描くこと
カナイさんはかわいい絵が描けるので、全てに主張をすると、表現が強くなりすぎてもったいないです。もし同人をメインに活動していくならこの路線もありだと思うのですが、商業イラストレーターを目指すなら「引き算」も意識しましょう。
また、ご自身がどういった仕事をしたいのかも明確にしたほうが良いと思います。今の絵は、小学校低学年には非常に刺さる絵になっています。ですが、化粧品などの購買層の大人の女性にはおもしろがられても刺さらない可能性が高い。そういう意味でもターゲットは明確にしたほうが良いと思います。
今日見たイラストの中で一番新しい取り組みをしているので、非常におもしろかったです。
全ての画風に完璧な人体バランスが求められるわけではない
合評された人:イラストレーターきのさん
絵を仕事にしていきたいものの、自分の絵に自信が持てずSNSの投稿もためらってしまうというきのさん。自分の絵のターゲット・媒体も見つけられていない点もお悩みだそうです。
https://twitter.com/kinoko09/status/1567864297245777922
自分のやってみたいことを起点にどこをターゲットにするか考える
絵のスタイルがはっきり決まっていますね。これは良いことでもあるのですが、ターゲットや狙いがない時点では不利になる可能性が高いです。おそらく、現時点のイラストは自分の好みの人物・ファッションで描かれているのかと思います。
きのさんは、本の表紙や、中国などの洋服を描きたいとのことだったので、そちらに特化してみてはどうでしょうか。たとえば、中国ファッションのカタログなどです。自分のやってみたいところを起点にどこをターゲットにするか考えていくと良いですよ。
SNSでもっといろいろな絵や考え方に出会おう
SNSで絵を出していくことが恥ずかしいということでしたが、その殻は早々に破ったほうが良いです。「いつか自信がついてから」と思っても、目ばかりが肥えてしまい、どんどん恐くなっていくものです。自分から、絵を描いている人のことを好きになって、少しずつ自分からコミュニケーションを取ってみましょう。そうすると、自分にはなかった新しい意見や考え方と出会えるはずです。
まずは知っているイラストレーターをフォローしてコメントしてみるだけでもいいんです。「もしかしたら、こんなコメントしたら怒られるかな?イライラされるかな?」ということろも気にされているようですが、そんなことないです。ポジティブなコメントをもらって悪い気をする人はいないです。だからあと少し勇気をだして飛び込んでみましょう。
絵全体の構図ではなくキャラとしてのかわいさを追求しよう
絵柄が異なるイラストレーターさんから人体バランスについてアドバイスをもらった事を気にしているとのことでしたが、気にする必要ないです。特に、きのさんのようなイラストを描く人は人体のバランスは関係ありません。
たとえば、ドラえもんに出てくるスネ夫の髪って現実では再現できませんよね。これに対して「人体としておかしい!」と真面目に指摘する人の正当性があると思いますか? きのさんにはきのさんの絵柄があるので、自信をもって伸ばしてください。
そのためには、もっと肩の力を抜いて落描きをSNSにたくさんアップしましょう。きのさんは不完全でも絵をたくさん出したほうが良い時期です。
「線」の特性を理解しながら、ありきたりなモチーフを練習する
合評された人:イラストレーターつくもともよよさん
前回の合評会以後、中村先生のアドバイスにもとづき完成度を意識するようになった、つくもともよよさん。イラストで仕事をするべく、いろんな年代の人にハマる方法について考えているそうです。
https://twitter.com/moyo_yo1002/status/1567831213536313344
リアルモチーフ✕ファンタジーが印象的
動物のイラストがすごくいいですね。
子どもの手足の太さや着ている服が、すごく自然に描かれています。
クジラを描いている絵は前回の合評会での評価を参考に新しく描いたんですね。パレットがすごくいいです。リアルに描かれたモチーフがファンタジーの中で活きています。逆に、主線や輪郭線にはまだ課題があるようです。動物園の絵は主線が強すぎてライオンが少し浮いていますね。
動きがあるものは強い線
こちらの絵ですが、輪郭線と向き合えていて、すごく優しいイメージになっています。子どもとお母さん・おばあちゃんとスタッフさん・色んな人たちがしっかり描けていますね。これがうまく描けている理由は主線に慣れがあるからだと思いました。おそらく、つくもとさんは普段見慣れているものは線画を軽く描けていて、ライオンなど初めてめて描くようなものは、どういう線にしたらよいか迷って緊張しているのではないでしょうか。
自分の絵の「良さ」を研究しながら、ありきたりなモチーフの練習を
こちらの絵のパンケーキはすごく美味しそうに描けています。ファンタジーと日常系でいうと、今はファンタジーのほうがうまく描けている傾向があります。これが同じくらいのクオリティに仕上げられると、次のステージにいけると思います。
今は、まだ練習する時期と考えて、反応が良かった自分の絵の「良い点」を研究していきましょう。もちろん、今もすごく努力していると思いますが、もっとありきたりなモチーフもたくさん描いて評価は気にせず楽しんで練習していきましょうね。
ぜひTwitterにて、「#ゲンセキ合評会」のハッシュタグから皆様の感想をご覧ください。
12月のイラストコンテスト
12月のコンテストのテーマは『もうひとりの自分』です。
次回も中村先生が合評いたします。
合評はコンテストに応募してTwitterの合評会参加募集に応募された方が対象です。
(人数により抽選になる可能性がございます。)
合評コメント
イラストレーター、GENSEKI顧問
中村佑介
ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケットをはじめ、
『謎解きはディナーのあとで』、『夜は短し歩けよ乙女』、音楽の教科書など
数多くの書籍カバーを手掛けるイラストレーター。
Twitter
https://twitter.com/kazekissa
instagram
https://www.instagram.com/yusuke_nakamura_jp/
執筆:坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。
編集:斎藤充博
企業オウンドメディアを中心に企画・制作・編集を行う。