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テーマの描写力に注目! 灸場メロ先生が選ぶ「彼らの新生活」 イラコン選考レポート


人気イラストレーター・灸場メロ先生を審査員に迎えた 「彼らの新生活」 イラストコンテスト。さまざまなシチュエーションの素敵な作品をご応募いただき、ありがとうございました!

キラリと光るテーマ表現、コンテスト課題の扱い方や、選んだポイント、灸場メロ先生の描きおろしイラストについてまで、ていねいにお話しいただきました。

審査員
灸場メロTwitterInstagram

ゲーム会社を経てフリーランスとして活動。アーティストや、アプリゲーム、版権コラボイラストなどを中心に手掛けている。代表作に、にじさんじ 葛葉『Sweet Bite』ジャケットイラスト、SINSEKAI RECORD 詩道/Shido ビジュアル担当など。

 

インタビューした人
坂本彬
アイコン

GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。子どもの学年が上がることで「新生活」を感じられるようになった。


【大賞】テーマとストーリーが伝わる表現、配色や構図の工夫が光る作品

「これからよろしくね」/なつ

灸場
大賞は、なつさんの「これからよろしくね」です。

タイトルの一言だけで、ストーリーの想像が広がります。今風の絵柄で、CMにもできそうな感じも素敵ですね。

 

坂本
なかなか甲乙つけがたい選考だったと伺いましたが、大賞に選んだ決め手はどんなところでしょうか?

 

灸場
小物使いや色あいなど、画面全体の工夫ですね。

まず中央に表情が置かれているのが、構図としてきれいです。明かりに透けたあそび髪の美しさや、段ボールに描いた文字の潔さなど小物選びもおもしろく、この1枚から物語がわきあがってきます。

 

坂本
マグカップが2つあって、目線の先が思い浮かぶようです。


灸場
カーテンの薄さを表現するために、奥の景色の主線を消して塗っている表現も素敵です。

 

 

この絵柄じゃないと出せない表現のテクニックです。

 

坂本
なつさんは以前もコンテストで大賞を受賞されましたが、その時の絵柄とは違いますね。

 

灸場
どちらも素敵ですが、テイストはだいぶ違いますね。ゲームなど、絵柄を寄せるIP関係のお仕事もできそうです。

春らしい色あいも、テーマにぴったりです。緑と赤の使い分けがきれいですね。

 

坂本
灸場先生も色づかいは気にされていると思いますが、どんな工夫をされていますか?

 

灸場
私は絵をグレースケールに変換して、コントラストの差が出せているかなどを確認しています。

この絵はそれができている上で、彩度の色選びも飛び抜けています。シンプルな塗りで表現できているのがすごいですね。

 

受賞者コメント

この度は大賞をいただきありがとうございます!現在育児の合間にイラストを描いており「時間を無駄に使えない」と思いつつの制作でしたので、受賞は喜びもひとしおですし、得るものも多かったです。

灸場メロ先生のお話から私が気づいていなかった絵の長所もたくさん知ることができました。応募して本当によかった、思い入れのあるコンテストとなりました!

 

【佳作】テーマをどう表現するか? がよく考えられた作品たち

え。ランドセル重い/へにゃ

灸場
かわいくて軽やかで、ぱっと目につくイラストです。また、この構図は描こうと思っても、描けるものではありません。パースを使いこなしている点もポイントが高かったです。

新生活の感じもよく出ていますね。ランドセルという小物を活用できていて、表情が「おもっ!」と言っている。

審査のポイントを軽やかにこなされていて、全部のテーマがうまくあてはまっていますね。

 

坂本
背景小物からも、いろいろなストーリーが想像できそうです。

 

灸場
あえて大きめの靴が描いてあるなど、小物使いをしっかり意識できていますよね。

 

入学式/八瀬きよ

灸場
こちらは、人体がきちんと描けていて、ストレートに上手いと思いました。

影の色を青くしているのも、上級者っぽいテクニックです。顔の描き方も好きですね。テーマに沿った小物も描かれていて、クオリティが高い1枚です。

 

坂本
大賞を目指すならどこを改善したらよいでしょうか?

 

灸場
タテ構図にして、もう少し空を広げてあげると、空間に余裕が出るのではないでしょうか。
そうするとまた違った印象のイラストになるかと思います。

 

新生活〜混迷の世界へ〜/スタジオ葉山

灸場
早い段階で応募してくださっていて、最初にいいなと思った作品です。コンテストに沿ったテイストと工夫が見えた1枚で、意気込みを感じました。いろいろな人物のポーズや角度に挑戦しているのが、とてもいいですね。

私はキャプションまでよく読む方なのですが、考えた物語をしっかり絵に落とし込んでいて、テーマへのこだわりを感じます。

募集要項に「希望と不安が入り混じったこの瞬間」とありましたが、 近年は新年度に限らずとも「変化が多い時代」だと思っています。 なので、違う制服を着た学生が集まったワチャワチャな表現にしました。 新しい学校、今までいた友達もいない環境に飛び込む 混乱の予感は渦巻きつつも、 それでもネガティブは隠して強かに身を任せる学生達です。

 

坂本
このストーリー通り、制服がみんな違いますね。教科書の表紙のような印象も受けました。

 

灸場
そういうご依頼があってもこなせそうな方ですね。

 

坂本
大賞まであと一歩、どこを工夫すると良いでしょうか?

 

灸場
全体の調整です。手前の人物は濃いところをもう少し濃くしてあげて、遠くの人物には背景の色をスポイトして上からふわっと塗ってあげて空気感を演出するなどの工夫で距離感を整理してみましょう。

小物もあとから足した印象になってしまっているので、もう少しそれぞれの大きさを整えるなど、少し調整を加えると、もっと良くなると思います。

 

新緑〜初めての街の学校〜/井ノ上タカヒロ

坂本
青々とした新緑がきれいですね!

 

灸場
画面の下の方が魚眼レンズのようにふわっと広がっていて、風景が吹き抜けています。気持ちいい構図ですね。私もこういった構図は好きでよく使います。

キャラクターの遠近感やアイレベルも問題なく収まっていて、パースがよく描けています。

 

坂本
パースや構図は、サムネイルの段階でもチェックされているのでしょうか?

 

灸場
そうですね。構図がいいと、サムネイルの時点でも惹かれます
このイラストを佳作に選んだのも、構図力という点が大きかったですね。

 

いってきます/zakka

灸場
青を多く使っていて、この女性の「新生活の不安」を感じられます。心情をよく表していますね。

 

坂本
まだ上京して間もない感じや、新社会人のような感じでしょうか。自分もあのころこんな顔だったのかな…と思い返してしまいます。全体の構図についてはどうでしょうか?

 

灸場
気持ちがいいアイレベルです。私自身の経験から、見送る側の気持ちも思い起こされました。パートナーが出勤する様子なのかな?というのが伝わってきましたね。

 

『New life』/mitarasi

灸場
ゲーム業界でよくあるスチル(シーンイラスト)に使えそうな、きれいな色使いです。
青1色などの平坦な色の選び方ではなく、中間色も使ってあってゴージャス感のある配色です。

 

坂本
目を引く色味ですね。背景も良く描き込んであります。

 

灸場
魚眼風のパースで描かれていますね。線画もきれいで、よく描き込まれていて色塗りが大変だったろうな……と思います。
髪の描写もこまかいですね。

 

登校初日/@Oshiotojob1

灸場
この子の「がんばるぞ」という表情がいいですね。ヘアアイロンが目に飛びこんできて、生活感が感じられます。時計の時間帯など、これから登校するんだろうな、と想像できますね。

 

坂本
小物で登校前のシーンがいろいろと語れそうですね。大賞に向けて、もっと良くするにはどういった改善点があるでしょうか?

 

灸場
配色でしょうか。この絵のシチュエーションであれば、手前の少女の色あいを濃くして、鏡の姿には顔に当たらない程度に鏡のハイライトを入れます。鏡に映っている感じを強めて、実物と鏡の中の姿に変化をつけるといいと思います。


【総括】テーマを自分らしく絵に落とし込んで

坂本
今回のコンテストは、全体的に見ていかがでしたか?

 

灸場
みなさん、それぞれの新生活ストーリーを描いてくださっていて、毎日応募一覧を見るのが楽しみでした。最後の方は追えなくなるほどのご応募をいただいて、うれしかったです。

 

坂本
小物がしっかり描かれているイラストが多い印象でした。

 

灸場
みなさん、審査のポイントをしっかり見てくださったのだと思います。

【審査ポイント】
・テーマに沿ったイラストになっているか
・小物を活用しているか
・表情で心情が伝わるか

人物を描きたい中で小物まで入れるのは、けっこう難しいですよね。それにもかかわらず、大半の人が入れてくださったのはすごいことだと思います。

 

坂本
今回のコンテストでは、先生に見本を描き下ろしていただきました。このイラストはどんなことを思って描かれたのでしょうか?

 

灸場
「上京したての自分」をイメージして描きました。自身の経験として、その時のワクワクとした気持ちが今でも鮮明に残っているからです。

 

坂本
スーツケースがとてもリアルですね。奥の看板や旗も細かく見ていくと、いろいろな気づきがあり、楽しいです。やはり、小物を描くのはお好きなんでしょうか?

 

灸場
そうですね。気づくと小物だらけになります(笑)。スーツケースはしっかり資料を見て描きました。看板なども、最近知ったお店を参考にして入れています。

 

坂本
今後やってみたいイラコンテーマはありますか?

 

灸場
イケメンイラコンで「このイイ顔を見て!」というテーマがあったらおもしろそうです。
YouTubeの歌ってみたやMV風のサムネイルコンテストなど、次の仕事につながるようなものもいいですね。

 

坂本
GENSEKIでは動画サムネイルのようなイラコンも開催していますし、男性が描ける方も大募集しておりますので、ありがたい企画です。

ぜひ次の機会がありましたら、よろしくお願いします!


▼現在開催中のコンテスト

https://img.genseki.me/compes/compe_1684898935_HXEuloo6yF.jpg
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編集
斎藤充博(Twitterpotofu
企業オウンドメディアを中心に企画・制作・編集を行う。

執筆
kao(TwitterHP
イラストレーター&ライター。GENSEKIではインタビューやメイキングを中心に担当。