こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。
今回はイラストレーターのべっこ先生を審査員にお迎えして、「ナイスミドル」イラストコンテストを開催しました。さまざまなシチュエーションのイラストを190作品以上お寄せいただきました。
べっこ先生のイラストの考え方や、魅力をアップする方法、描き下ろしイラスト秘話まで、実りの多い選考レポートをお届けします!
▼結果発表と受賞者コメントはこちら
審査員
べっこ(X:@becco2/Web)
イラストレーター。ゲームのキャラクターデザイン、書籍、Vtuberのイラストなど幅広いジャンルで活躍。代表作に刀剣乱舞(にっかり青江、南海太郎朝尊)、剣が刻(胤舜)、Vtuber 七瀬タク、弦月藤士郎(にじさんじ)、黒矣ねこ、飾守マトイなど。
インタビューした人
サイトウ
GENSEKIマガジンの運営サポートスタッフ。
【大賞】細部の小物までコンセプトが行き届いた、完成度の高い作品
名探偵の休息/SAITO EMU
べっこ
大賞はSAITO EMUさんの『名探偵の休息』です。選考するときはまず小さなサムネイルから見ていくのですが、その中でもふと手が止まり、クリックして一目見て「これはいい! 」と思いました。乙女ゲームのスチルにありそうな完成度の高さと、おじ様の雰囲気が魅力的です。
背景までていねいに描かれていて、上手です。キャプションのコンセプトもしっかりしています。
サイトウ
「ナイスミドル」のテーマにもぴったりですね。
べっこ
タイトルにもある「名探偵」らしい小物が背景に散りばめられていて、細かい部分までこだわりが感じられるのが大賞の決め手でした。よく作り込まれています。
基本的に茶色の構成ですが、ところどころ差し色に黄色が使われているのが遊び心もあっておしゃれです。
サイトウ
みごと大賞ですが、ここからさらに絵をよくできる点はあるでしょうか?
べっこ
全体的にすごくいいのですが、一点だけ、足を組んでいる靴底が明るく、視線がそちらに行ってしまいそうなのが気になりました。
後ろから差し込む光源があるので、カメラの手前は暗くなると思います。靴底にもう少し影を入れてあげると、さらに画面が締まるのではないでしょうか。でも、本当に完成度が高いと思います。
サイトウ
SAITO EMUさんへメッセージをお願いします。
べっこ
とても画力が高く、一枚絵に対する知性をお持ちだと思います。そういうところを大事にしながら、ぜひ今後もがんばってください!
【佳作】絵のストーリーをもっと知りたくなる、魅力あふれる10作品
TOBIZU ー鳶頭ー/VelnaAsinis
べっこ
まずアナログ作品ということにびっくりしました。モノクロ寄りの作品を賞に選ぶか少し迷ったのですが、おじ様がかっこよく、ダークな雰囲気もマッチしていてよかったので、選ばせていただきました。
サイトウ
応募作一覧でも、個性が際立っていました。
べっこ
線画の描き込みがとても細かくて、かなり時間をかけて描いたのが伝わってきます。描写力の高さも評価点でした。
サイトウ
こちらの作品について、より魅力を上げるために工夫できることはあるでしょうか?
べっこ
おじ様の顔はかっこいいのですが、キャラと背景の線の描き込み量が同じぐらいになっています。ムカデがすごくいい反面、おじ様がかすんでしまうのはもったいない。密度の変化が持たせられると、よりよくなると思います。
VelnaAsinisさんの作品はもっと見たいですね。
スーツを着こなす。/テェミ
べっこ
「おじ様といえばスーツ」という、オーソドックスな魅力が詰め込まれた作品です。一枚絵というよりキャラクター紹介イラストのような感じがおもしろく、選ばせていただきました。
どうしたらかっこよく見えるか考えながら、どこかの広告にありそうな感じにまとめてみました。
サイトウ
見せたい部位がクローズアップされているようです。広告風ということですが、この見せ方についてアドバイスはありますか?
べっこ
広告を意識するのであれば、おじさまの魅力を際立たせるために、背景をさらにスタイリッシュにできるとよさそうです。洗練された広告デザインを勉強して、それを意識して作り込むと、さらにかっこよくなるのではと思います。
コマを均一に並べていますが、離してみるのもいいかもしれません。クローズアップするのもスーツの部位だけではなく、おじさまの好きな小物など、情報をもう少し入れると、作品の世界観やキャラのイメージがさらに広がると思います。
サイトウ
確かに、どんなことをしている人なのか気になります。
べっこ
そうですね。キャラ設定をもっと知りたくなりますね。
"排除完了"/キッサコ
べっこ
ひと目でどんな職業かわかるのがいいですね。特にいいと思ったのは、仕事が終わったあとの雰囲気が出ている「背景」です。
サイトウ
あっ、よく見ると弾痕がありますね。
べっこ
ガラスに映っている弾痕と、おじ様のうしろの壁の弾痕も違うものだし、何発か打ったとわかるのがおもしろいです。シーンの切り取り方がすごく上手だと思いました。
おじ様自体も雰囲気があって渋く、厳しい表情なども魅力的です。
サイトウ
映画の一場面を切り取ったようなイラストですね。よりよくできそうな点はありますか?
べっこ
おじ様の顔だけでなく、銃にも視線が行くのですが、見切れている部分が多いため、少しもったいなく感じました。
このままでも銃というのはわかりますが、さらにわかりやすくするため、銃の部分をもっと描いて見せるといいでしょう。情報量が増えて、より見ごたえがあって楽しめる絵になると思います。
My lady./蚕
べっこ
猫を見るやさしそうなおじ様の表情と、猫のかわいらしさに惹かれました。温かみを感じます。
線もやわらかく、雰囲気にあっています。
サイトウ
色からも暖かな印象を受けますね。
べっこ
蚕さんは前回審査させていただいたコンテストでも佳作を受賞されていて、そのとき講評で「明暗のコントラストをつけるといい」と言ったことを、活かして描いてくださっています。
ただ、画面左端が濃くなりすぎていることと、画面全体も暗めなために、絵が少し重たい印象になっています。
また、「背景とキャラのコントラストをつけるといいよ」と言ったことも活かしてくれたと思いますが、右奥の背景が全体的に白くなっていて、絵に馴染ませることが難しくなっています。
次は「光っているところだけ明るくして、あとは暗くする」といった自然な光源の描写ができるようになると、一枚絵の完成度がさらに高くなると思います。
サイトウ
前回のアドバイスを踏まえて、続けてチャレンジしてくださるのはうれしいですね。
べっこ
成長される姿や、続けてブラッシュアップされていく姿を見ることができて、とてもうれしいです。これからもがんばってください。
剣士のおじさん/@ inupoinu
【見てほしいポイント】食わせものっぽい大人の表情
べっこ
おじ様の表情がとても好きです。キャプションにある通り、一筋縄でいかなさそうなのが、絵にとても表せています。
サイトウ
衣装がすごく細かいですね。
べっこ
しっかり調べて勉強されたのが伝わってきます。中世ヨーロッパ風の服装も、このおじ様にあっていますね。
基本的な描写力をとてもお持ちだからこそ、絵を見ていて設定背景や、どんな場面を切り取ったのか? がもっと知りたいという欲が出ます。そこが描写できると、絵の説得力がぐっと上がると思います。
キャラの面積が大きい分、背景が見えずらいのももったいないと感じました。
サイトウ
具体的に、どうするといいでしょうか?
べっこ
キャラが絵の大部分を占めている場合は、少し引き気味にして描写できる面積を増やすといいでしょう。そうすると背景が広くなり、いろいろな情報を入れることができますし、この絵の場合は剣をもうちょっと見せることができます。
元の設定がしっかりしているので、キャラだけでなく世界観まで見せられると、さらにおもしろくなる絵だと思いました。
王の威厳/芽花(ツバナ)
べっこ
まず、3Dと手描きを使ったイラストをご応募いただけると思っていなかったので、驚きました。
この作品は「設定の作り込み」がしっかりしている点を評価しました。
先王が崩御しフィガロ七世が国王に即位して早くも10年の月日が経った。
数多ある小国の一つに過ぎなかったフィラガルド王国は
国王フィガロ七世の抜きんでた知力、武才により他国との領土争いを繰り返し着実に勢力を広げていった。
そして協会の権威までも取り込み巨大国家へと変わっていった。
即位して僅か10年で王は全てを手中にいれようとしていた。
べっこ
キャラ作りで設定の作り込みはとても大切です。おじ様はこのフィガロ国王だと思うのですが、きらびやかな甲冑と、死地を経験したような表情がいいですね。
サイトウ
表情やたたずまいから、強さと威厳を感じられますね。
べっこ
がんばって作った巨大国家の設定があるので、その要素をイラストの中にもっと取り入れて、説明できるといいと感じます。
例えば甲冑ですが、色数が少ないので、王様なのか忠臣なのか絵だけで判断しにくいところがあります。背景を豪華にしたり、甲冑にマントや豪華な装飾をつけたりして、そのあたりの違いを見せられるといいですね。
あとはパースです。カメラアングルがキャラと平行なのですが、せっかくの3Dなので、下からのカメラアングルにして迫力を出したりできます。その方が、より国王らしさが出せるのではないでしょうか。
べっこ
独特な作風で、挿絵に出てきそうな雰囲気がすごくいいです。キャライラストというより風景を切り取った一枚絵のようで、魅力的だと思いました。
【シーン・プロット】
「レイワ? 何の話だ・・・?」
世界線-昭和99年に生きる男、出門 陸(デカド リク)の長い一日はこうして始まった。
海外の絵かと思ったら、「立入禁止」と書いてあるので多分日本なんですよね。意外と身近で驚きました(笑)。油画のようなディティールも絵の雰囲気とあっています。
サイトウ
渋いですね……。ここからさらに工夫できるところはあるでしょうか?
べっこ
せっかくおじ様の背後に青いリムライトがあるので、それをさらに見せられそうです。背景をもう少し暗めにしたら、パキっとした見た目になってかっこよく見えるんじゃないでしょうか。
ただ、これはこれで完成度が高く、いいと思います。他の作品もいろいろ見てみたいですね。
煙たい部屋/肝付頼政
べっこ
難しいポーズとアングルですがしっかり描けていて、評価ポイントになりました。
遠くなのにおじ様の目力が強いですよね。こちらに訴えかけてくるような表情が、印象深いです。
サイトウ
この作品も、大賞と同じく靴裏が見える構図になっています。
べっこ
靴裏を描きたくなる気持ちはわかります。私もかっこよく描けたら「やった!」と思うポイントです。
自分と通じる趣味を感じます(笑)。
サイトウ
ナイスミドルの魅力のひとつなんですね。
べっこ
ただ、靴裏を描きたい気持ちはとてもわかるのですが、現状、おじ様の顔より靴裏のほうに目線が行ってしまう可能性が高いです。
メインはおじ様なので、カメラに対して靴裏が真正面になるアングルは避け、もう少し脚の角度を変えるなどで、さりげない角度の靴裏にしたほうがよさそうです。また、靴裏が画面の中で一番明るくなっているので、暗めにしたほうが自然に見えるでしょう。
靴裏を目立たなくさせる方向で、おじ様の上半身に目が行くように描けると、さらに魅力が伝わると思います。
据える/黒塚
べっこ
鷹匠(たかじょう)のおじ様ということが、わかりやすく伝わってきます。顔もしっかり描かれているし、大鷹も上手です! 服も縫い目などがよく描けていて、和服を理解されています。装備なども含め、よく勉強されていますね。
いっぱい調べて描くことは本当に大切なので、ぜひ評価したいと思いました。
サイトウ
一つ一つていねいに描かれていて説得力があります。このイラストへのアドバイスはありますか?
べっこ
色が少し散り気味に見えますが、和服は着方やアレンジで色が賑やかになるものなので、これはこれでアリだと思います。ただ、一枚絵としてはもう少し色をまとめたいかもしれません。
私がやるなら、グラデーションマップを使うと思います。キャラにもう少し明暗のコントラストをつけつつ、全体にかけたいですね。グラデーションマップはソフトの機能に依存してしまいますが、他にも方法はあると思います。
サイトウ
どうしたらいいでしょうか?
べっこ
この絵は、少し西日になったぐらいの時間帯だと思うので、それを背景にも表せられるといいでしょう。今は空がやや均一に見えるので、手前上の方から西日の光源があることを、もう少し反映すると馴染みそうです。
また、ハンチング帽や顔回りの影は濃く描けているのですが、首から下はコントラストが淡く感じます。顔と身体の影の強さを整えて、バランスを取るとよさそうです。
下からのアングルでパースがきいてて、雰囲気はすごくあるので、そういったところを整えればもっとよくなると思います。
ドットなBARのおじさま/エリむーと
べっこ
私はドット絵は専門外なのですが、雰囲気がとてもよくて選ばせていただきました。
ドット絵は制限があるのに、まとまりがよく、おじ様のダンディさが伝わってくるのがとてもいいです。横のクマの顔がおじ様と同じ顔なのも、遊び心があっていいですね。
サイトウ
バリエーション豊かな応募作品の中でも目立っていました。
べっこ
まさかのドット絵が来た! と思いました。完成度が高く、ドット描画なのにバーテンダーと一発でわかる表現力がすごいです。
黒を入れて5色ぐらいで作られているのかな? 色のまとめ方がお上手なので、色選びの参考になるんじゃないかなという点も、評価させていただきました。
サイトウ
本当にいろんな魅力を持つおじ様たちが集まりました。
べっこ
今回は、ドット絵や3Dなどバリエーション豊かで、選考していておもしろかったです。
【総評】
サイトウ
全体を振り返って、いかがでしたか?
べっこ
コンテストでは、プロの方からアマチュアでがんばって練習している方まで、いろいろな段階の方が応募してくださったので、全員に何かアドバイスできたら、という気持ちでした。ですが選考ではその気持ちをグッとおさえ、厳しい面も持ちつつ受賞作品を選ばせていただきました。
サイトウ
コンテストで選ばれるためには、どうしたらいいでしょうか?
1.テーマに沿ったイラストになっているか
2.魅力的なイラストになっているか
3.色遣い、光源など基礎的な部分
べっこ
私が選ぶ基準は、キャラの作り込みと背景の情報量、どれだけ小ネタを入れているか、つまり遊び心があるか、です。
キャラだけ描くと、おもしろみに欠ける絵になりがちです。そのキャラの背景、どんな物語なのか、住んでいる場所、どんなところで過ごしているのか、が描けているかで魅力が変わってくると思います。
サイトウ
ストーリーを感じられる工夫が、絵の魅力に繋がるのですね。
べっこ
そうだと思います。また、佳作は「大賞にあと一歩だよ」という気持ちで選ばせていただきました。
入賞するためには基本的な描写力もいりますし、一枚絵として、見る側が魅力をいくつ拾えるか? というところも見させていただきました。
サイトウ
今回、先生にもイラストを描き下ろしていただきました。アイデアの出し方やこだわりポイントなどをお聞かせください。
べっこ
「おじ様」と言えば「スーツ」。そのおじ様と何を掛け合わせたらおもしろいかな?と考えて、猫を入れました。
おじ様は「小さなレストランの支配人」という設定です。ヘビースモーカーで仕事中はタバコを吸えないけど、ちょっとここで吸っちゃおうかな、でも猫に見つかったのでやめようかな、と思っているシチュエーションです。
サイトウ
猫に向ける眼差しがとてもいいですね。
べっこ
若いときにヤンチャしてそうなおじ様の雰囲気が好みで。ちょっと悪い表情をしているといいな、と思ったんです。完璧じゃないところに色気を感じるというか、そういうところがにじみ出てるといいなと思いました。
サイトウ
出ています! すてきな作品を描き下ろしていただき、誠にありがとうございました。
べっこ
前回のイラコン総評の流れから、本当に描かせていただけることになり、うれしかったです。
私自身、コンテストでいろいろなアイデアを見せていただいて、構図やデザインなどを教えてもらえることが、勉強になるし励みになりました。
今後、もっと自分も負けないようにがんばろう、という気持ちになりました。いい機会をいただいて、ありがとうございました。
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執筆
kao(X:@kaosketch/Web/GENSEKI)
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