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心動かす物語が詰まった、イラストコンテスト「情景」の結果発表!松浦健人氏が厳選した8作品を振り返る

 

2月に締め切った松浦健人先生による情景イラコン!今回は、そちらの結果レポをお届けします。

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ちなみに情景という言葉はよく聞きますが、どんな意味なのか正しく理解したくて今回改めて調べてみました。
(こういった、なんとなくふわっと理解していることも調べると言語化されて腹落ちしますよね!)

① 感興とけしき。心のはたらきと自然の風景。
② 人の心に何かを感じさせるような、自然の景色や、具体的な場面。

参考:コトバンク

絵としての完成度だけでなく、見る人にストーリーや背景を感じさせることが重要のようです!言葉にすると簡単ですが、実際どうすると良いのでしょう?

今回はそんなポイントもわかるレポ記事になっています!

 

審査員
松浦健人Twitter

週刊少年ジャンプで『トーキョー忍スクワッド』『仄見える少年』を作画で連載。
イラストレーターとしても活動中。

インタビューした人
坂本彬

GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。
花粉症と戦いながらこの記事を書きました。

 

その先に / saki_387

坂本
今回の大賞を教えてください。

 

松浦先生
saki_387さん「その先に」です。

 

坂本
saki_387さん、おめでとうございます!!
こちらの作品を大賞に選んだポイントを教えてください。

 

松浦先生
ぱっと目につく空の綺麗さ時間経過とストーリー性が見る人に伝わる点ですね。
右側の親子を見ると、男の子は重機に、お母さんは別のことに思いを馳せているような様子が見えます。おそらくお母さんは説明文にある「昔から見慣れた風景が変わっていく様子は、少し寂しい気持ち」なのかもしれません。
絵としても、横長に描いているにも関わらず、持て余さず画角をいかせている点も素晴らしいですね。

左奥は街・真ん中は工事現場・一番右は自然のまま、これは街の開発が進んでいる時間の経過を伝えているのだと思います。そして草原にいる人達にも注目してほしいのですが、おそらく左の走っている子どもたちと右側に座っている老夫婦は時間経過の対比として描いているのではないでしょうか?

まさに今回のコンテストである「情景」を感じる作品です。

 

坂本
なるほど、ありがとうございます。懐かしいような寂しいような…そんな気持ちになりますね。

逆に、ここを直したらさらによくなるというポイントはありますか?

 

松浦先生
そうですね、敢えて上げるのであれば老夫婦の存在感をもう少しだしてあげてもいいかもしれません。

拡大した画像だとはっきり見えるのですが、サムネイルだと分かりづらいかもしれません。
二人の頭が山から出ていても良いと思いました。

 

坂本
なるほど、ありがとうございます。

 

受賞者コメント
この度は大賞に選出して頂き誠にありがとうございます。

描き始める前にコンテストのテーマである〈情景〉の意味を改めて調べまして、「心に強く残る景色や場面のイメージ」「とても感動したり、衝撃を受けた場面や風景、出来事」という言葉の意味だと分かりました。

自分自身の心に残る出来事は何かあったか思いつくことをいくつか書き出してみた時に、地元に帰省した際に見た大規模な工事を思い出しました。
地域発展のための工事だとは分かっていたのですが、のどかな風景で好きな場所だったのでその風景が無くなってしまったことにとても寂しい気持ちになりました。
この時感じた気持ちを絵に描こうと思ったのがこの絵を描くきっかけになります。

普段人物を描かないので描くのに大変苦戦しましたし、時間も限られていたので間に合わないと諦めかけましたが、何とか描きあげることが出来ました。
最後まで諦めなくて本当に良かったです。

これからも精進して人の心に何かしら残るような絵を描いていきたいと思います。ありがとうございました。

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溢れ出すストーリー!見ているだけで物語を感じる佳作作品を紹介!

佳作作品を松浦先生のコメントと共にご紹介します!

 

教室ダイバー / 渡邊野乃香

松浦先生
こちらの作品、実は大賞候補でした。

ファンタジー的な雰囲気を感じさせる漫画調の絵で、空間が創作されている印象を受けます。
学生時代の僕が感じていたことと近い雰囲気があり、説明を読まなくても一目で理解できるシンプルな完成度も素晴らしいです。特に、主人公が孤立している様子を色使いなどで表現しているところが印象的でした。
アナログで描かれているようで、そのアナログならでは味わいも素敵です。
若い感性が反映された作品だと思います。

十分クオリティは高いのですが、さらに上を目指すのであれば、より深海・水中感をだすために、手前にも泡や気泡を足すとさらに良くなると思います。

 

夏休み7日目 / かない

松浦先生
この絵、夏休みの雰囲気がすごく出ているなと思います。朝顔があんまり育っていないところとか、夏休み七日目を表すのが上手いですね。色も青に統一されていて、それがなんともいい感じです。あえて青にしたのは、漫画『ブルーピリオド』で主人公が「初めて見た渋谷が青かった」と言っている話に通じるものがあるのかもしれませんね。

この絵は見る人を引き込んでしまう力があります。だからこそ、彼自身がどういう人物なのか知りたくなりました!
両サイドに棚を描く、ベランダに洗濯物が干してあると、もっと生活感が出てストーリー性やノスタルジックさが出ると思います。また、床が畳だと思うんですけど、手前も奥ものっぺりしているので手前の畳だけでも網目を細かく描くとクオリティがぐっと上がると思います!

 

夢中の夕暮れ / 彩田花道

松浦先生
このイラスト、ぱっと見た時の印象がとても良いですね。暖色・黄色系でまとめられていて、とても温かみがあります。
説明は特にないのですが、逆に想像が広がって面白いですね。バスケのお守りがあるのに手前には原稿・付箋している様子を見ると、もしかしたら主人公はスポーツをやっているものの本当は小説家になりたいのかもしれません。僕も昔はスポーツをしていたので、共感しました。
お茶が入っているコップが汗をかいているところなど、細かなところまで綺麗に描かれていて、想像力を掻き立てられますね。
また、光の描写も秀逸で、特にガラスの表現がおしゃれです。男の子の真剣な表情も印象的だと思いました。

あまり言うところはありませんが、さらに1枚絵としての完成度を上げるなら、扇風機のところをもう少し光らせてみる・窓からの光を印象付けるなど、「技あり!」みたいなポイントを重ねていくと、より印象に残るイラストになるかもしれません。
具体的には、今もできているキラリと光るコップのような要素を、やりすぎない程度に増やしてみると良いと思います。ふわっとした光だけでなく、きらっとした印象の光も取り入れてみてほしいです。

 

背伸び / もん田

松浦先生
素敵な絵ですね。間違いなく御本人が描きたいことは描けていて、女の子の魅力が充分に表現されています。

ただ、構図が少し気になります。センスが抜群で女の子が大人のハイヒールを履くというかわいらしいシーン・表情やポーズ、小物や洋服にもこだわりがあり素晴らしいキャラクターを構成できているからこそ、背景がここで良いのかどうかな?と思いました。
例えば、思い切って外に出てそれを周りの大人が女の子が心配そうに見ているというシーンにする等、女の子の性格、ストーリー性が伝わる背景にしてみても良いのではないかと思いました。

 

帰り道 / Cie3001

松浦先生
素晴らしい背景描写に感心しました!
全体的に暗い雰囲気なのに、夕焼けの色合いや車のバックライトなど、繊細なタッチで表現されているのが印象的です。アニメーションの背景のような雰囲気がありますね。人物を描かないことで車がより際立ち、帰り道の寂しい雰囲気がよく出ています。また、光が入ってきているところに車が配置されているのも、絵のルールを上手く使っていると感じました。
全体的に、素晴らしい背景描写によって、絵により深い世界観が表現されていると思います。

この絵をさらに良くするには、右側のフェンスを手前だけでもしっかり描くと、視覚的に深みが増して絵全体のバランスがとれると思います。

 

あの頃から変わらぬ友情 / とうや墓

松浦先生
絵がうまいですね。キャラクターがとても可愛らしく、全体的にシンプルながらも細かいところまで描写されていて、見る人にストーリーを感じさせます。手前から奥まで、具体的には奥のキッチンの様子まで丁寧に描かれていて、学生時代の思い出を語り合うような温かい雰囲気が漂っています。
細部にもこだわりを感じ、真面目そうな黒髪のキャラクターがビールを飲んだり、隣の派手な雰囲気の子が甘そうなお酒を飲んでいるなど、キャラクターの個性がこうした細かい小物で表現されている点も素晴らしいです。
斜めに構図を変えることで、ダイナミックで面白い印象になっている点もすごくいいですね。

この絵をさらに良くするには、テーブルの足や側面をもう少し暗くして、影を強めに入れ、絵に重みを持たせるといいと思います。木製テーブルの足なども暗くすることで、木の重厚感を表現できると思いますよ。
また、人物が魅力的なので視点が人物にいくようなコントラストをつけてもいいのではないかと思いました。右上は光が入って明るい印象になっているので、逆に下の方を暗くして情報量を絞ってみても良いかもしれません。
ただ、全体的には本当に素晴らしい絵で、細部までこだわりを持った描写に感心しました。

 

雨の横浜を走る車 / 柳 貞次郎

 

松浦先生
このイラストは、雨の中を走る車と雨に反射する街灯の光が美しく描かれていて、めちゃくちゃキレイだなと思いました。特に、光と影の表現が素晴らしく、地面に映し出された光や雨に映る光、車に反射する光など、それぞれの光の表現が非常に美しいです。
また、車のデザインや色彩の選択にもこだわりを感じます。

さらにこの絵をよくするには、背景にある建物の描写をもう少し詳細に描くと良いと思います。この絵の物語や世界観をより深く表現できると思いますよ。

 

人の「こだわりある絵」を見ることが大好きなので、楽しく絵を見れた

坂本
今回、160に近い作品が集まりました。
全体を通していかがでしたか?

 

松浦先生
そうですね。絵を評価するということが初めてだったこともあり、選ぶのは大変でした。本当に色々なアプローチの絵があったので。

ただ僕自身、普段から画集をみたり誰かの絵のこだわりを見ることが大好きなので、すごく楽しい時間でもありました。僕は作画担当の漫画家ということもあり、絵について考えて話す時間が何よりも楽しいんです。なので非常に良い経験になりました。
ありがとうございました。

 

坂本
最後まですごく楽しそうに絵について話していただている姿が印象的でした!
ありがとうございました。

 

編集・執筆

坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。