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「新時代の中二病」に注目! 「中二病縛り」イラコン選考レポート

 

今回のイラコンは「中二病縛り」です。さて、そもそも中二病とは何でしょうか。Wikipediaによると、以下のようにあります。

中二病(ちゅうにびょう)とは、「(日本の教育制度における)中学2年生頃の思春期に見られる、背伸びしがちな言動」を自虐する語。
Wikipedia 中二病

これをどのようにイラストに落とし込んでいくのか……? 今回は234の作品が集まりました。その中からさいとうなおき先生が選んだ作品をどうぞご覧ください。

審査員
さいとうなおきTwitterYouTube
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。

インタビューした人
中村紘子

GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。

 

【大賞】ステレオタイプに寄らず自分自身の中二病をたしかに表現した作品

想像するのは最強の自分 / あおざかな

さいとうなおき先生
絵全体が単純にかっこよくて、作者の「こういう絵を描きたい」という気持ちが前面に出ています。大賞です!

 

中村
スタイリッシュな絵ですね。そして、よく見ると腕が何本もあるような……?

 

さいとうなおき先生
ありますね。こういうのも見ていてワクワクしてきます。ただ、どうせ腕が多いのなら、もっと増やしてもよかったのかもしれないとは思いました。

 

中村
中二病というと、私はまず紫や赤の配色を連想するんですが、この絵は青と黒なのが印象的です。

 

さいとうなおき先生
Adoさんの「うっせぇわ」のミュージックビデオは青と黒の配色ですよね。中二病の解釈にその雰囲気を取り入れているように感じました。

 

中村
中二病といえば、眼帯をしていて、オッドアイで……みたいなイメージがありますよね。そういったものも使われていませんね。

 

さいとうなおき先生
そうなんです。この絵はステレオタイプな中二病を使わないで、自分の中二病を表現している。これは、新時代の中二病の解釈なんじゃないでしょうか。

 

中村
新時代の中二病……!

 

さいとうなおき先生
中二病も時代が進んだんだな、と強く思いました。

 

受賞者コメント

この度は大賞に選んでくださりありがとうございます!

最初は、コンテストのテーマを見て厨二病とは?とずっと考えておりました。
世間一般的に厨二病というものは紫や赤の配色、眼帯や魔法陣などを連想すると思います。

ですが、それは私にとってはありきたりすぎて面白みに欠けます。ならどうすればいいのか。厨二病=自分にとってのかっこいいものを追い求める姿というイメージがある私はこう思いました。自分自身の中にある゛かっこいい゛を描けばいいんじゃね?と。

そこからは驚く程手が早く進み、私の中に存在する厨二心をくすぐる要素を盛り込むことによって自分の赴くままにこのイラストを描きあげることが出来ました!

 

【佳作】作風は違っても、みんな中二病! 9作品をご紹介

転生できなかった僕が悪魔を右目に飼い始めたんだけど / ゆずも

さいとうなおき先生
ゾンビのぬいぐるみみたいなものが大きく描かれています。いままでにない発想で、素晴らしいです。

 

中村
かわいくて、ちょっと気持ち悪い。素敵ですね。

 

さいとうなおき先生
本当にそうですね。僕はすごく好きです。ただ、このゾンビのぬいぐるみには惜しい点もあります。

 

中村
どんなところでしょうか?

 

さいとうなおき先生
ゾンビのぬいぐるみのつぎはぎが、ちょっとゴチャゴチャしていて、一瞬見ただけでは何を描いているかわかりにくくなっているんです。

 

中村
どうすればよかったでしょうか。

 

さいとうなおき先生
一つのアイデアですが、ピンクの部分をもっと多めにしたりして、同じ色の面積を増やすのはどうでしょう。一部だけでも何が描いてあるのかが、一発でわかるような部分を作っておいてもらえたらよかったんじゃないでしょうか。

 

中村
ちょっと、もったいなかったですかね。

 

さいとうなおき先生
そうですね。素晴らしい発想を生かしたまま、ゴチャゴチャしている部分をうまく処理できていたら、大賞だったかもしれません。

 

「あっ、そんなにカッコよくは、あっいやっ…」 / くっ不覚@ご依頼募集中

さいとうなおき先生
青春ですね。ちょっと、あるあるネタみたいな雰囲気もあります。おもしろいです。この女の子が主人公の中二病を発症させてしまったんじゃないかな、なんて思いました。

 

中村
ストーリーが浮かんできますね。

 

さいとうなおき先生
当然ではあるんですが、ほとんどの作品が中二病になっている本人をメインで描いています。その中で、手元だけというのも目立ちますね。包帯が見切れているのもいいです。

 

中村
惜しいところなどはありますか?

 

さいとうなおき先生
アクセサリーが目立たないのが惜しかったですね。サムネイルで見たときに見えなくなってしまいますし、「中二病」という要素自体のインパクトが弱かったかもしれません。

 

わたしのせかい。 / とうみんあいす

さいとうなおき先生
これは素直にいい絵だと思いました。

 

中村
かわいいって、もう声に出したくなるような作品ですね……!

 

さいとうなおき先生
パステル調で、色使いも控えめ。でも、中二病になっている。いいバランス感覚ですね。

 

中村
改善点などはありますでしょうか?

 

さいとうなおき先生
この絵は完成されているので、改善点などはないんです。……ただ、逆にそこが本人にとっては大きな課題なのかもしれないですね。

 

中村
どういうことでしょうか。

 

さいとうなおき先生
バランス良くまとまりすぎているかもしれません。もう少し冒険してみてはどうでしょうか。

 

中村
なるほど。ちょっとしたスパイスや工夫があると、もっとよくなるだろうと……。

 

さいとうなおき先生
そうですね。特にこのようなコンテストの場だと、まとまりすぎている絵が選ばれにくいというのもあります。ぜひ、チャレンジしてもらえればと思います!

 

禁忌の仔 / 八邑スイ

中村
天使の翼、悪魔の角、目隠し、鎖……。これぞ典型的なTHE 中二病ですね!

 

さいとうなおき先生
正面から中二病のイメージに向かいあっていて、僕も同じテーマで描きたくなってきますね。

キャラクターのほとんどが白で、その割り切りがすごく気持ちいいです。細部を目で追いかけたくなる作品です。

 

 / なぎうお

さいとうなおき先生
この人は自分の中二病感をちゃんと手にしている感じがします。

 

中村
どういうことでしょうか。

 

さいとうなおき先生
クライアントから「中二病の絵を描いてください」という依頼があったとしますよね。その時に「肋骨の中に頭を突っ込んでいる絵はどうでしょう」と提案したら、「それは中二病じゃないのでは?」って反対されそうじゃないですか。でも、これはやっぱり中二病の絵に見えますからね。

 

中村
本当に独自の中二病ですね。

 

さいとうなおき先生
題名もいいですね。「骸」。声に出したくなります。

 

✟我が無上なるカタルシスを感じよ✟ / うーぽよ

さいとうなおき先生
この絵は単純にかわいいです。

 

中村
ここまでに「独自の中二病」「典型的な中二病」の話が何度か出てきていますが、こちらは典型的な中二病のイメージですね。

 

さいとうなおき先生
そうですね。ちょっと古いタイプの中二病のイメージ。……いや、伝統的と言っていいのかもしれないです。それを高いレベルで表現している。こういう絵は見ていて満足感がありますね。

技術的な点では、暗い中での色使いがすごくうまいんですよね。髪の毛のライトの当たり方が気持ちいいです。

 

- 開眼 - / kan

さいとうなおき先生
勢いがあっていいですね。まず目。そして上の方に出てくるエネルギーみたいなものも目を引きます。

 

中村
白い線が特徴的だなと思いました。

 

さいとうなおき先生
絵全体が暗いから、浮き立たせるために入れたのかもしれませんね。ただ、今回はこの白い線のせいで、ちょっと見にくくなってしまっているかもしれません。白い線を入れる箇所を精査し綺麗に処理ができると、よりよかったかもしれませんね。

 

中村
なるほど……。

 

さいとうなおき先生
ただ、その荒削りさを中二病というテーマが包み込んでくれているとも思います。

 

中村
結果的に、今回のテーマとはあっているということですね。

 

さいとうなおき先生
そうですね。若さを感じます。

 

†カオス† / のわんわんお

さいとうなおき先生
これも荒削りな感じが好きです。

 

中村
絵に添えられているキャプションもおもしろいです。

中二病の要素をこれでもかと詰め込んでいたら、カオスになってしまいました!でもこれが中二病だな、と改めて思いましたw

 

さいとうなおき先生
いや、本当にその通りだと思います(笑)。

 

中村
上の方にある青い部分は何でしょうか……?

 

さいとうなおき先生
背景は浜辺で、上は水、下は砂なのかな……? 主人公はちょうどその境界線のあたりにいるように見えます。ただ、ぜんぜん違うかもしれませんが。

こういった伝わらなさも、中二病というテーマの中だと、うまく消化されています。伝わらないけど、これはこれでいいよね、って思える。

イラストレーターをやっていると「伝わる」ことをすごく重視しちゃうんです。でも、イラストってそれだけじゃないですからね。

 

中村
見る人も中二病の世界に引きずり込まれるような感覚ですね。

 

さいとうなおき先生
こういった勢いは、絵がうまくなるにつれて、失われていきがちです。今後も保ち続けてほしいです。

 

卍-封印の儀-卍  / mechanism

さいとうなおき先生
勢いという話だと、これこそがその最たるものですね。

 

中村
すごい……! この色使いが、振り切ってますよね。 

 

さいとうなおき先生
ただ、この人はわざとこういう絵作りをした可能性もあるんです。どこか「中二病のやつっておもしろいよな」みたいな、揶揄する雰囲気も感じられます。

ちょっと漫画の『おしゃれ手帖』(長尾謙一郎)にも似ているじゃないですか。そういう世界をパロディっぽく扱っているようにも見えます。

でもそれだけじゃなくて、この絵の奥底に、隠しきれない本物の中二病感が見え隠れしているんですよね。本当は中二病的なものが心から好きなんだけど、それをストレートに出せない。ちょっと照れているのではないでしょうか。

 

中村
複雑ですね(笑)。ちなみに、この方は普段はまったく別のタッチで描かれているようです。

ちよとあい / mechanism

さいとうなおき先生
これは万人に好かれそうなかわいい絵ですね。どっちが作者の本音なんでしょうか……(笑)。照れがないバージョンの中二病もみてみたいですね。

 

【総評】自分が思った「かっこよさ」を素直に追求しよう

さいとうなおき先生
そもそも中二病って、世の中から揶揄されたり、バカにされたりするような要素ですよね。でも、そういったことを素直にかっこいいと思うのってすごく重要で、表現の原点ともいえます。

「こんなことを描いたら恥ずかしいだろうな」という気持ちを振り切って、自分のかっこよさを追求している人たちがたくさんいて、うれしくなりました。

 

中村
個別の評の中に「勢い」の話が何度か出てきました。こちらについてはどうでしょうか。

 

さいとうなおき先生
今回のコンテストでは「伝わるけれど勢い不足」VS「伝わらないけど勢いがすごい」のようなせめぎあいを感じました。

絵を描いていると、勢いあまって「わけわかんない」感じになることはあると思うんです。でも、うまくなると「わけがわかるようになる」絵が描けるようになってくる。ただその一方で、絵を描く時の勢いがなくなってしまうこともあります。勢いを失わないでほしいなあって思いました。

 

中村
自分の表現を見つけるための大切なこととして、忘れないでいただけたらうれしいですね。今日はありがとうございました。

 

 

 執筆

斎藤充博(Twitter:@3216