こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。
今回はデザイナーの武内賢太先生を審査員にお迎えして、GENSEKIコンテスト新企画「第一回カラクリ(カラークリエイティブ)コンテスト/colocre contest」を開催しました。指定の5色のカラーコードを使った年賀状のグラフィックデザインを、多数ご応募いただきました!
年賀状のデザインに必要なことやグラフィックデザインの考え方が学べる、選考レポートをお届けします!
【審査するポイント】
・作品の根底にあるコンセプトとそれをどのようにアウトプットしたのか。
どちらも人生で培われた「感性」によって生み出されます。
人間味溢れるコンセプトと、人間離れしたアウトプットを楽しみにしてます!
審査員
武内賢太(X:@kenta_008/Instagram)
2016年に東京工芸大学デザイン学科を卒業後、コイズミ照明株式会社にて商品企画・プロダクトデザインに携わる。 2018年にプロダクトデザインブランド「goyemon(ごゑもん)」を共同代表で立ち上げる。ブランド第一弾の雪駄×スニーカー「unda-雲駄-」で「Makuake Of The Year 2019 GOLD賞」を受賞。 「日本の伝統×最新技術」を融合させた商品を創りだし、現代の生活にフィットしつつ伝統を身近に感じられる商品を展開中。
【大賞】お正月というコンセプトが一貫してきれいにまとまった作品
武内
大賞はugaさんの『【2024年賀状】おせち風年賀状』です。おめでとうございます。
第一印象で、お正月のモチーフである「おせち」と「年賀状」を組みあわせたアイデアがおもしろいと感じました。同じような組みあわせは他にもありましたが、アイディアで終わっていないところが魅力で、大賞に選んだ決め手です。
坂本
「アイデアで終わっていない」とは、どういうことでしょうか?
武内
単におせち料理の絵を描くのではなく、「おせちの縁起物の食材」を「縁起のいい柄」に置き換えています。マス一つ一つに縁起物の思いが込められていて、おせち料理の考え方と同じになっています。
実は、プロダクトデザインでも「似たものを組みあわせると親しみを持ちやすい」という原則があるんです。
それを年賀状に落とし込み、最後のアウトプットまでしっかり突き詰められていて、デザインとして完結している。細部にまで意味が通っていて無駄がないですよね。
グラフィックももちろんきれいですが、コンセプトの魅力をアウトプットで最大化させている一貫した流れがデザインとしてきれいです。
坂本
ugaさんは違う配色で2作品ご応募くださいましたが、課題の「カラーパレットの色使い」についてはいかがでしたか?
武内
大賞に選んだ作品の方がバランスのよい配色で、きれいにまとまっていると感じました。
カラーパレットには寒色のセットもありますが、料理は暖色の方がおいしそうに見えます。また、おせちの重箱は内側が朱色であることで、料理の魅力を引き立てられ、なおかつ高級感を出しています。こういった点でも大賞作品の配色は親和性がありました。しっかり目的にあわせてカラーパレットを選べています。
坂本
さきほど話に出た、プロダクトデザインの「似たものを組みあわせると親しみを持ちやすい」という原則について、もう少し詳しく教えてください。
武内
人は、目にする機会や場所が近いものを組みあわせると「おもしろい」と感じやすいんです。
自分のブランドを例に出しますが、このgoyemon(ごゑもん)の製品「unda」も同じ要素を持つものを組みあわせています。雪駄とスニーカーは違うものですが、昔も今も「履くもの」という要素は同じです。
年賀状とおせちも、違うものですがどちらも「お正月に見る機会が増えるもの」です。ugaさんはそういった原則をちゃんと理解してデザインされていると思いました。
坂本
一見違うものに見えても、同じ要素を持つものを組みあわせると、興味をひきやすいのですね。
武内
広告やキャッチコピーにもよく使われていると思います。ドレスの写真にアイスのコーンを沿えて、ドレスをアイスのように見せることで、おもしろいと感じさせるといった例もあります。
坂本
ugaさんはキャプションもしっかり書いて下さっていますが、キャプションは重要でしょうか?
武内
キャプションの有無は評価ポイントには含めないことが前提ですが……書いてあるのはうれしいですね。詳しく書いてあるとそれだけ思いを込めたんだな、と感じます。
しかも、この作品はキャプション内容がきちんとデザインに反映されています。そのうえで、わかりやすいプレゼンシートが添えられているというのは、評価したい姿勢だと思います。
このたびは大賞に選出いただき、誠にありがとうございます! 新年最初のご挨拶に携われたこと、とても光栄に思います。おせち料理と年賀状を組み合わせた点を評価いただき、とても感無量です。
おせち料理の華やかで一つ一つの料理が縁起物という点に惹かれ、デザインでその要素を表現してみたい! と思い取りかかるも、うまくいかない箇所がちらほらと……。
指定の配色を考慮してデザインした際、さまざまな図柄を入れたことで図柄間の配色のバランスが取れなかったり、おせち料理のようにきっちとしたマス目の中にデザインを配置しようとすると、マス目が小さいがゆえに細かい図柄は配置できないなど難所が発生して、余計に縛りをキツくすることになってしまいました(苦笑)。でも逆に縛りがある方が燃えて、いろいろ試すうちに、色の配分やモチーフのデフォルメ加減、要素の足し方など多くの新しい発見があり、とても楽しくデザインさせていただきました。
いただいたコメントを励みに、技術面とあわせて、もっと見た人を「お!」と思わせるおもしろいデザインを作成出来るよう、更に努力していきたいと思います。本当にありがとうございました!
【優秀賞】アイデアがおもしろく、それぞれのよさが際立つ2作
デザインを考えるにあたり、和柄にはいろいろな意味が込められていることを知りました。
今回作成した「束ね熨斗」は、贈り物の華やかさや高級感を表す熨斗をたくさん束ねたもので、たくさんのひとからのお祝いや、人と人との絆や繋がり、熨斗の長さから長寿を表している文様です。熨斗には様々な縁起の良い和柄が使用され、長寿だけではなく、健康や健やかな成長を願う模様など、どの年代にも向けられるおめでたい文様のため、年賀状にピッタリではと思い作成しました。
武内
「熨斗」と「年賀状」の組みあわせがおもしろい。どちらも「人に贈るもの」という共通点を見出した点が、独創的ですばらしいです。キャプションを読んで「言われてみれば、たしかに!」と思いました。意味のある和柄を入れたり束ねているところもきちんと調べてられていて、コンセプトにもあっていると思います。
坂本
カラーパレットの選択はいかがでしょうか?
武内
いいですね。涼しさや清潔さがあり、この束ね熨斗のデザインにあっていると思います。
武内
また、「文字入れ例」も投稿されていて、文字を入れたときのバランスもきれいです。年賀状ならではの挨拶を書くことも想定してデザインされている点に、ぐっときました。
年賀状を出すときはだいたい「どこに文字を書こう?」となると思いますが、その想定をしている作品は意外と少なかったので、大きな加点要素になりました。
応募要項や審査するポイントには書かれていませんが、デザインコンテストである以上、モノに生まれる所作や、もらう側の気持ちまで考えてデザインできることは大切です。グラフィックデザイン、プロダクトデザインとして、そこまで考えるのがデザイナーの仕事だと思います。
坂本
今回は、優秀賞でしたが大賞に届かなかった点はどういったポイントがあるのでしょうか?
武内
束ね熨斗の和柄に少し疑問を感じてしまいました。帯が全部同じ柄でもよかったかもしれないし、なぜ柄を束で分けてそこにその柄を使ったのか? というコンセプトが惜しかった。
大賞作品はモチーフ一つ一つに意味があり、同じものを並べたら成立しない理由もありました。一貫性がより強かったと思います。
ただ、比べて優劣の差があったわけではなく、どちらもあってどちらもいいものです。文字への配慮があった点はpoffso(ポふそ)さんの強みで、デザイナーとしていい姿勢だと思いました。
このたびは優秀賞に選んでいただき、ありがとうございます! 年賀状は新年のご挨拶に贈られるため、挨拶文を入れてこそ完成するデザインを意識して作成しました。
そのため文字入れ例は必須だと思い、加えさせていただきましたが、その思いがいい評価に繋がり、大変うれしいです。また今回描いた「束ね熨斗」や和柄にいろいろな意味が込められていることを知れたことが、自身にとってとてもいい収穫になったと思います。改めて、このようなすてきな機会と賞をありがとうございました!
武内
ぱっと見たとき、鯉は辰年に関係ない気がしますよね。ところが「鯉が飛躍して龍になる」という逸話とかけている、というのがおもしろかったです。静かな情景だけれど、どこか力強さを感じさせてくれるミステリアスな作品に仕上がっていますね。
【コンセプトや作品背景】
鯉の滝登りを題材にしました。
ちっぽけな鯉の跳躍はいずれ龍の道へと通じている、というコンセプトの元に制作しました。
設定を最大化するために鯉をちっぽけに見せる工夫が随所にあらわれています。水面下に潜む龍の大きなシルエットも、ストーリーに沿っていて好きです。
これはどの受賞作品にも感じることですが、コンセプトに奥行きがあるのがいいですね。単純に辰年だから龍、GENSEKIだから宝石を入れました、だけではない。
龍ってなんだっけ? と深堀りして、鯉が飛躍して龍になる「縁起のいい話」をもってくる。年賀状自体も「縁起のいいもの」なので、上手く組み立てられています。
それ以外にも、和紙の質感を意識して色どうしの境目がにじんでいたり、作品のサイドを割いたようなデザインにして躍動感を演出したりと、アイデアだけで終わらない芸の細かさに、作品へのこだわりを感じました。
坂本
武内先生からアドバイスできるポイントはありますか?
武内
惜しい点は和紙っぽさを出したことに、少し唐突さを感じた点です。年賀状は印刷して完成するものなので、デザイン自体を和紙っぽくするより、印刷の時に和紙に刷ったほうがかっこよくなると思います。普通紙よりも和紙に刷りたいという前提で「和紙に印刷するとインクがここでにじむのでこんなデザインにしました」というところまで考えられていたら、コンセプトがより通ったかもしれません。
このたびはこのような賞をいただき、本当にありがとうございます。他の参加者様の作品を拝見していて、なんだか自分だけ場違いなことをしているのでは? と不安な思いをしていたところに受賞のお知らせをいただき、大変うれしいです。
実力不足なデザインではあったと思いますが、私の苦心した意図をとてもていねいに紐解いていただき、感激しています。このようなコンテストがあればまた参加してみたいです。
ありがとうございました!
【佳作】ターゲットの設定と解決策がおもしろく、かわいげのある作品
武内
ターゲット設定と、それに対しての解決策がユニークな作品です。
【コンセプトや作品背景】
初日の出を割って主張が強めな辰が顔を出しているイメージです。
今日から辰年だよ! とアピールしている作品にしました。
見てほしい人やターゲットはお正月も何かと忙しくしている人です!
慌ただしく過ごしていると、『あれ? もう年越してるの?』となる人もいるのではと思います。
そんな人に対して、『今年は辰年か!』と新年を再認識していただければという想いで作りました。
たしかに、年末は仕事納めや忘年会、大掃除などでバタバタしてあっという間に年を越してしまい、「今年の干支ってなんだっけ?」となるのはあるあるです。まずそこに気づいたのがおもしろいですよね。
そして、解決へのアプローチが「主張が強めな辰」(笑)。「今年は僕の年です!」と割って出てくる、ストレートでかわいげのあるイラストがすごくいいですね。
「誰」に対して「どのように」アプローチするかがデザインの鍵なので、まさにデザイン思考のグラフィックだと思います。
坂本
にのまえさんは普段イラストを描かれていて、グラフィックデザインのことはたくさん調べて作られたということです。
GENSEKIは今までイラストコンテストが多かったため、同じような初挑戦の方はたくさんいらっしゃいます。そういった方々に向けてアドバイスはあるでしょうか?
武内
にのまえさんのように、知らないモノやコトをたくさん調べるのは、とてもいいことです。僕も扱うものの時代背景などは、その都度たくさん調べます。そうやってバックボーンを知っていると、デザインにすごく生かせるんです。
調べたことはその先も自分の力になっていくので、今後も続けていただきたい姿勢ですね。
にのまえさんの作品は今の段階ですごくかわいいし、基礎的なツールも使えていると思うので、それさえできていればいいと思います。
坂本
モチーフやコンセプトをたくさん調べて制作に落とし込み、続けていくのが大事なのですね。
【総評】選ばれなかった人も絶対に伸びしろがある! 自分の強みを見つけよう
坂本
今回は130作品ものご応募をいただきました。全体を振り返って、いかがでしたでしょうか?
武内
今回は大賞1名、優秀賞2名、佳作1名を選出し、講評させていただきました。ただ、今回選ばれなかった方も「絶対に伸びしろがある」ことを伝えたいです。
実は僕自身、大学時代にコンテストやコンペにプロダクトデザインでたくさん応募しましたが、賞を取れたことがほとんどありませんでした。名だたるデザインコンペに年間何作品も出していたが、入選すらできなかった。
けれど、コンペで落ちてうまくいかなかった、と悔しい思いをした人のほうが、強くなります。
当時の僕は「選ばれた人はなぜ選ばれたんだろう?」 と落ちたコンペの講評を見に行くようにしていました。もし入選していたら、逆に天狗になってしまい講評には行かなかったかもしれません。選ばれることがすべてではなく、「なぜ入選できなかったのか?」を考えることで、今後に生かせるし、僕はいまだにその経験が生きています。
そして現在は、自分のブランドを立ち上げて商品化もできたし、こうして審査員もさせていただけるようになりました。
今回応募してくれた方は、それだけですばらしいと思うんです。制作していて「自分はこれが得意だな、これは苦手だな」という気づきがあったのではないでしょうか。好きなもの、得意なことを見つけられたら強いです。
坂本
悔しかった気持ちをバネにして次に繋げるんですね。
武内
選ばれなかったと落ち込むのではなく、その気持ちを未来につなげていってほしいです。
ここで自分が得たことや、次に何ができるか?ということを頭の片隅に置いて、意識していると絶対に伸びていきます。ぜひ引き続きがんばってください!
坂本
グラフィックデザインのコンテストはこれからも定期的に開催する予定です。
デザインを得意とする方から、やってみたいと思っていた方まで、ぜひ今後のコンテストにご応募ください。お待ちしております!
▼協賛
・ugee
ugeeは、1998年に創立されたHanvon Ugee傘下の3つのブランドのうちの1つです。デジタル技術研究に専念し、中国でデジタル描画のハードウェア・ソフトウェア開発を牽引しています。中国の深圳(しんせん)に本社を置き、競争力の高い製品やサービスを130か国以上で展開、最新のデジタルペン技術をスマートフォンやタブレット、デジタル文具などパートナー企業に幅広く提供しております。日本市場のお客様のニーズに応える、幅広い製品やサービスをご用意しています。
▼現在開催中のコンテスト
執筆
kao(X:@kaosketch/Web/GENSEKI)
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