こんにちは! GENSEKIマガジン編集部です。GENSEKIでは顧問のさいとうなおき先生を審査員にお迎えして、定期的にイラコンを行っています。
今回のテーマは「炎縛り」です。私たちにとって身近な炎ですが、不定形であったり、光り輝いていたり、表現が難しい題材でもあります。
そんな中、今回は198もの作品を応募していただきました。応募者それぞれの熱い炎を、どうぞご覧ください!
さいとうなおき(Twitter・YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
インタビューした人
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。
【大賞】炎と向きあう作者の熱い魂まで見える作品
さいとうなおき先生
今回のイラコンは、積極的に炎を表現している人がちょっと少なかったのが残念でした。思ったよりも難易度が高かったのかもしれませんね。そんな中、真正面から炎に向きあって、炎を前面に押し出してくれたこちらの作品が大賞です。
中村
炎と向きあっているというのが、とても納得の1枚です!
さいとうなおき先生
この人の熱い魂も見えるというか……。深い精神性の部分まで「炎」というテーマを感じますね。
中村
さいとうなおき先生が特に感心した点を教えてください。
さいとうなおき先生
炎の中でも種類を描き分けているんです。例えば、炎をまとっている剣の一番熱いところは白。弾いた炎は赤。バリエーションがあって、炎を見ているだけでも飽きません。
中村
本当ですね。私もとてもかっこいいと思いました。
この度は「大賞」という大変光栄な賞にご選出いただき、誠にありがとうございます。イラストコンテストで大賞をいただいた事が初めてなので、心からうれしく思います!
今回「炎」がテーマということで、自分の作風を最大限に活かした一枚を描きたいと考えました。見てくださった人皆に「かっこいい」とまずは感じてもらいたい、そこからいろいろと模索を重ねた末に完成したのが「猛き鬼」です。
世界観は和風ファンタジーです。故郷を敵に襲われた鬼の種族の青年が、最後の力を振り絞り、交戦中の敵に対して此処で全て食い止めるぞ! と覚悟の炎を燃やすイメージです。
この青年がどんな気持ちで歯を食いしばって、どんな気持ちで刀を構えたんだろうと心情も想像しながら、キャンバス上に登場するそれぞれの「炎」の意味を模索しながら取り入れました。
さいとう先生の講評コメント通り、炎が一番熱いところは白く、弾いている部分は赤くするなど、各所に不規則に変化する炎の特徴を取り入れて、躍動感を演出しました!
私自身、どうすれば「炎」っぽく表現出来るのか悩んだ時間が多かったので、本当に今回の受賞はとてもうれしかったです。特に作者の熱い魂まで伝わる作品だと言っていただけたのが身に余る光栄です!!
まだまだ未熟者ですが、今後とも精一杯精進して参ります!
【佳作】それぞれに炎と向き合った9作品
さいとうなおき先生
この方は純粋に画面全体の絵作りが上手いですね。とてもかっこよくて、大賞にするか迷った作品です。
中村
和風な炎の描き方はかなり少なかったように思います。
さいとうなおき先生
もっとあるかなと思ったけど、意外と少なかったですね。それにしてもこの炎はいいバランス感覚だと思います。手前に青緑の炎も入っていたり、細かい工夫があるのもいいですね。
ただ、惜しい点もあります。あらかじめ「こう描けばかっこよくなる」というのがわかっていて、そこに行儀良く着地してしまったと言いますか……。
中村
とても上手なだけに、もっと冒険してもよかった……という感じでしょうか?
さいとうなおき先生
そうですね。「ここがゴール」というところから、根性でもう一歩進んでみると、新しい世界が見えると思いますよ。
さいとうなおき先生
これはそんなに炎っぽくないのですが、それが逆にいい雰囲気で選びました。
中村
キャプションにはこうありますね。
彼岸花の花言葉「情熱」「あなたに一途」と、切なくも美しく光る線香花火を掛け合わせて、【叶わなかったひと夏の恋】を表現しました。
さいとうなおき先生
人物にしても、彼岸花にしても、ハートにしても、描写力がとても高いですね。ただ、それらがあわさると、ちょっとわかりにくくなってしまっているのが惜しいです。
中村
炎のハートが人物に刺さって、背中に彼岸花が咲いていて、それが線香花火のようでもあって……。
さいとうなおき先生
そうですね。炎のハートも、彼岸花も、線香花火も、失恋したことの例えだと思うんです。それがキャプションなしでも明確にわかるといいですね。とはいっても、題材はおもしろいし、こういうことに挑戦していただいているのも素晴らしいと思います。
さいとうなおき先生
空間を描くことで炎を感じさせています。そして、平和に炎を使っています。みなさん、つい炎を戦いの道具として捉えがちで、こういう発想が意外と今回は少なかったですね。
中村
炎が寄り添ってくれているというか、とても温かい絵ですね。
さいとうなおき先生
こういう絵って全部ちゃんと描かなくちゃいけないから、大変なんです。暗くなっているところまでちゃんと細かく描いていて。
中村
よく見ると手前にも猫がいる……なんて思います。
さいとうなおき先生
絵を描くことに対する情熱も感じられました。
さいとうなおき先生
これは炎というか、ドラゴンの絵ですね。赤いドラゴンを見ると我々は炎を感じてしまう……という性質があります。
中村
これはサムネイルでも勢いが伝わってきました。かっこいいですね。
さいとうなおき先生
ポイントは、ドラゴンがちゃんと描けていることですね。これはもう文句のつけようがないです。
中村
手前の方に召喚士? のような人がいますね。
さいとうなおき先生
この人がいることによって、大きさの比較ができますね。このドラゴン、ものすごく大きくて召喚士の人は大丈夫かな? なんて思ってしまいました(笑)。
さいとうなおき先生
クラゲというと、普通は水を連想しますよね。炎のクラゲとは逆転の発想ですね。
中村
キャプションにはこんなふうに書いてあります。
クラゲのゆらゆらとした様子から炎のインスピレーションがわいたので合わせてみました。
さいとうなおき先生
画力がすごく高いし、発想もおもしろいです。あとは、手前の紐の辺りに目立つ炎のクラゲが一匹いるとよかったかもしれません。それによって「炎のクラゲ」の印象がより強くなると思います。
さいとうなおき先生
この絵は炎を描かずに炎を表現しています。顔からすごく熱さを感じる。
中村
これは新しいアプローチですね。
さいとうなおき先生
同じ発想の絵は今回もいくつかあったんです。ただし、ちゃんと熱そうに描けるかは難しい。この絵は「こうすれば炎の反射を表現できる」というのをきちんと落とし込んで描いています。
中村
顔が赤くなったり、テカったり……。本当に目の前に大きな炎があるというのが、伝わってきます。本当にこのシチュエーションだったら、ちょっと怖いかもしれません。
さいとうなおき先生
そう、ゾッとしますよね。そのくらい迫力が伝わってくる絵です。
さいとうなおき先生
これは単純にかっこいいなと思いました。正直なところ、炎が積極的に画面に入っているというわけではないんですが……。
中村
かなり細い炎で、独特ですね。
さいとうなおき先生
この炎の描き方がこの方にはあっているんだと思います。炎だけでなく、全体的に細めのタッチですよね。
この絵の密度の感覚は独特で、このまま進んでいったらすごくいい感じになりそう。そんな将来性も感じます。
さいとうなおき先生
とても炎に対して真剣に取り組んでくれた絵です。ディフォルメした絵柄に対して、どんなふうに炎を描けばしっくりくるかを研究した形跡が感じられます。
中村
炎をリアルに描きすぎても、違和感になってしまうということですね。
さいとうなおき先生
自分にあった炎を描くのがとても重要なんです。それが成功していると思います。
さいとうなおき先生
青い炎を描くという発想は、今回も何点かありました。ただ、それを前面に出してしっかりと描こうとしている人はあまりいなかった印象です。
この炎はどのくらいの描き込みをすれば、自分の絵になるのかを、試行錯誤しつつちゃんとまとめた感じがいいなと思いました。
中村
サムネイルでも目を引かれる作品でした。
さいとうなおき先生
周囲は暗くて、炎の光で絵の中心が光ってる。炎の光の良さをちゃんと引き出していますね。
【総評】職業イラストレーターを目指すなら炎の描き方を一度研究してみよう
中村
コンテスト全体を振り返っていただけますでしょうか。冒頭で「今回のテーマはちょっと難易度が高かったかな」というお話しもありましたが……。
さいとうなおき先生
炎って、不定形で捉えどころがありません。さらによく観察すると、いろいろな現象がとても細かく起こっています。だから、自分の絵柄にマッチさせようとするのは意外と難しいんです。
そういう意味では、今回のコンテストでは真正面から炎を描かず、記号的な表現をしている人も多かったように感じました。
中村
言われてみると、炎って難しいんですね……。
さいとうなおき先生
ただ、イラストレーターとして仕事をしていると炎って「描いてください」と言われることはとても多いんです。
中村
プロを目指す方は、炎を避けられないということですね。
さいとうなおき先生
そうなんです。だから、自分の絵にはどんな炎があうのかを、どこかで真剣に研究してみるといいと思います。そんな中で、今回受賞された10作品は炎と十分に向きあっていると感じました。
中村
「炎」は奥深いですね。今日はありがとうございました。
執筆
斎藤充博(Twitter:@3216)