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【中村佑介先生 #ゲンセキ合評会】6月コンテスト『雨の物語』

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はじめまして、イラストレーター木口ようかんです!

GENSEKIで毎月開催している月例コンテスト。

今回はGENSEKI顧問である中村佑介先生に『雨の物語』というテーマを頂き開催しました。6月は梅雨のシーズン。応募者それぞれの雨の表現と、そこにある物語性で賞を選出しました。

 


また、今回から月例イラストコンテストの合評会を中村先生と開催。

今回のテーマ「雨の物語」にご応募頂いた方から合評対象者を募り、7月16日にTwitterスペースにて開催致しました。

今回は、実際に合評対象の方の作品と中村先生からの総評についてご紹介します。

● イラストレーター 田中舞さん

テーマの『物語』について深く考えて描いたイラストを応募した田中舞さん。

そうですね。「丁寧に描く」ことは画面の隅々まで描き込むことではなく、画面全体に気を配り伝わりやすい作品に仕上げるという意味です。例えば2枚目のコンテストに応募した作品は、「力を入れた部分を見てほしい!」という無意識で背景が目立ってしまい、今作のテーマを考えればそれより重要な物語の主人公2人に最初に目がいかなかった。そんな場合は明度や彩度を調整して、見てもらう人の視線の流れも考えましょう。一度サムネイルくらいに縮小してチェック。それがタイムラインに流れてきて目を止める他者からの印象です。3枚目はそれが上手くできていますね。ただ毎回描いたことのないモチーフに挑戦し、技術自体はどんどん上手くなっているので、描き終わってアップする前に、「見せ方の上手さ」を最終チェックすればカンペキです。

● イラストレーター seshi(せし)さん

seshiさんの絵は上達していっていると評価する中村先生。

seshiさんの絵は色使いに遊び心があってとても綺麗なので、モチーフのかたちの正確さがその楽しいイメージのストッパーになっている印象です。もっとゆるいパースや崩れた形に描いてあげても、seshiさんの色の魅力がより他者に伝わりやすくなるんじゃないかなと思いました。仕事については挿絵の仕事が合うんじゃないかと感じます。占い用の12星座などを描いてSNSや持ち込みでアピールすると仕事につながりそうです。

● イラストレーター 鈴木セナさん

鈴木セナさんは、音楽プロデューサーiamSHUM新曲「原石(GENSEKIテーマソング)」MV・ジャケットイラストコンテストで最優秀賞を取った方です。

MVは曲の力があるから、その挿絵としてはマッチしていますが、単体の「絵」として見ると、魅せるポイントが作れておらず、絵がぼんやりしているので、もう少し全体の密度を上げるとよいです。鈴木さんの作品は世界観がとても魅力的なので、背景にあと少しだけ溶け込むようにキャラの目立ち方を抑えると、1枚絵としてももっと完成度が上がると思います。これからの作品も楽しみにしています。

● 漫画家志望 くたばりすとさん

くたばりすとさんは漫画家志望としても活動されています。

漫画に慣れていると、どうしてもバストアップが多くなってしまい、身体全体やポーズが苦手になってきます。そんな時は、ご家族や友達、もしくは鏡に映る自分を見てクロッキーをしましょう。1日3分でも続けていけば、だんだんと身体の構造が頭に叩き込まれていき、3か月後に見違えるように何でも描けるようになってるはずです。「ポーズ集」や「上手くなる方法」系の本は必要なくなります。

また、可愛いイラストですが、絵のテーマ(内容)を伝えるべきときには、女の子の可愛さが邪魔になってしまう時があります。真面目な話をしている人の水着に眼がいって話が入って来ないみたいな感じです。逆にセクシーさが中途半端になってしまっている時もあるので、それならそれで吹っ切って、もっとエロチックな表情やポーズを研究しましょう。

そして画材に関しては、ご自身が思っているよりも、画材の特性は伝わりにくくなっているので、もっと大胆にアルコールインクの面積を増やしてみたら面白くなりそうです。

● イラストレーター こかちよさん

こかちよさんは、アナログとデジタルを混ぜて創作しています。

1枚目のイラストについて。ネオンカラー+落ち着いた背景色のような「大人っぽい」かわいさでまとめると、街や強さが強調されてしまい、雨と小さい子の頼りなさげなかわいさは減少してしまうので、原色やパステル系などの「幼さ」でまとめると、より伝わる絵になると思います。3、4枚目は今は思ったほどアナログとデジタルの差が出ていないので、背景と女の子でもっと思い切ってタッチを変えても、絵としておもしろくなると思いました。それをしつこく続けていく中で、次第に良いバランスとオリジナリティは育っていくと思います。がんばってください。

● イラストレーター にびさん

にびさんはアナログで制作されています。

アナログ画材(水彩や色鉛筆)で仕上げられたせっかく綺麗な絵なのに、画像としてはそれをほとんど再現できていないのがもったいない。コンビニのスキャナーだと自動補正で淡い色は白く飛ばされてしまうので、良いスキャナーを買うか、自分自身で色調補正する技術を身に着けると、ネット上での絵の評価ももっと上がると思います。また、小さい子向けに描く絵は、ぼんやりと「子供向け」ではなく、それが一体何歳なのかも意識してモチーフやディフォルメの仕方を考えてあげてください。自分のことを思い出しても、幼稚園と小学校低学年でもぜんぜん好きなものって変わりましたよね。その上で、一度、小学生向けの児童書などを目指してみるとハッキリと道も開けると思います。

● イラストレーター ぐるこんにゃくさん

ぐるこんにゃくさんは二次創作を中心に活動してきたそうです。

身体に比べると、顔は記号に頼り、少しぺたっと平面的なので、もう少しだけ立体を意識して色んな顔を描けるようになると、表現の幅が広がると思います。1枚目は目の中の虹をもっと目立つようにすれば、より一目で意図が伝わるようになったでしょう。完成前にスマホカメラで撮った画像をモノトーンにしてみると、色相にまどわされない仕上げができます。

2枚目はぐるこんにゃくさんが好きなものを好きなように描いていて、見ていてこちらも楽しいです。気にされていたSNSのフォロワー数は後からついてくるものなので、今は気にしないで、作品を描き続けていってみてください。

● イラストレーター みずの紘さん

みずの紘さんは、中村先生のオンラインではない合評会にも参加されたことがあるようです。

この混沌とした感じがみずのさんの作品の魅力でもあるのですが、例えばコンテストなどでお題が決まっているときは、どの順番で目線を誘導させるべきなのか優先順位を決めてから描くと、「なんとなくかわいい」から、それ以上の魅力ある作品にステップアップできると思います。また女の子以外の老若男女も描けるようになると、ドラマの幅が広がり、よりみずのさんの世界観が深まっていくと思います。これからも楽しみにしています。

● イラストレーター志望のパトリシアさん

個人のご要望に沿ったものを描いていこうかな、と考えているパトリシアさん。

すごいですね。ここまで背景とキャラクターが切っても切り離せない関係になっている作家さんと久々に出会いました。裏を返せば、カットイラストなど「キャラクターのみ」のような仕事では心細くなりそうですが、それならいっそのこと、そんなことは考えず、「背景を描いてもよい」絵本作家を目指す方法もあります。また、今はアナログとデジタルで描かれていますが、アナログだけで描いて個展を開き原画販売する作家という道もあると思います。モチーフに関しては、ファンタジックでアンティーク調なものでまとめられていますが、「現代的なもの」「現実的なもの」などの「それっぽくないもの」がちょこっと入ってきても、良いスパイスになるでしょう。シルバニアファミリーも馬車じゃなくバリバリの乗用車なのが、いまの子供も感情移入できるポイントなのかなーって思います。

● イラストレーター三木美沙さん

三木美沙さんは、いろんなタッチが描けるからこそ絵柄を迷っているそうです。

 

三木さんはほんとうに器用で多種多様なタッチがすごいですね。それゆえに「作家性を絞れない」というお悩みですが、同じイラスト料なら描き終わっていちばん楽しかった絵のタッチでお仕事をした方が良いと思います。そして楽しさは見てる方にも伝わります。その点では4枚目が一番イキイキと楽しそうですね。「正しく振舞って褒められたい」という、いわばスケベ心からいちばん遠いのがこの作品です。だから見ていてコチラも気持ちいいです。さぁ三木さんは絵で何がしたいですか?どんな気持ちにさせたいですか? それを決めると、モチーフもタッチも作家性も決まることでしょう。そこには誰も立ち入れません。ご自身の決断のみです。勇気がいることですが、これだけもう技術は持っているのですから、それさえ決まればあとは下り坂です。応援しています。

● 作家・イラストレーター 渡邊野乃香(oi汰)さん

渡邊野乃香(oi汰)さんは、かわいい人・かっこいい人を描こうという気持ちが根底にあるのかも、という話になり...

3枚目の作品、描き込んでいるところと空間の空白が良いコントラストになっていて、ほんとうに暑い日にスカッとするラムネを飲んだ時の気持ちがよく現れていて素晴らしいです。渡邊さんの絵の場合は、そこがテーマになってはいないはずなのに、キャラクターの美醜にこだわってしまい、足がもつれてる印象です。美男美女キャラばかりのちびまる子ちゃんは描く方も観る方も日曜の夕方にちょっと疲れちゃいますよね。そこは意識しなくてもいいと思います。また、モチーフや物語のディテールに作品ごとにばらつきがあるのは、興味や関心のばらつきが出てしまっているものと思われます。結局は技術やセンスという表層上の勝負になってしまう万人受けするイラストを目指すのではなく、渡邊さんは自分に正直な絵を描くと、共感を呼び、評価もついてくるようになるでしょう。

● okomeさん

今までは自分のタッチではない絵のお仕事をされていたというokomeさん。

okomeさんの作品は色選びと組み合わせがほんとうに美しいですね。それが、目、鼻、口の強い印象で二の次に見えてしまっているのが勿体ないです。漫画文化で育った我々はつい忘れてしまいますが、輪郭線とは無色透明なガイドではなく、色と色を分断させるひとつの色、強い主張です。そこをもう少し意識的に薄ぼんやりさせてあげれば、絵に一体感が出ると思います。サンリオのキキララやマイメロディを見て学んでみましょう。また、モチーフに関して、細かく正しく描く部分と、ざっくり単純化させる部分を作ってあげると、絵としての面白さも出てくると思います。

● あサ瀬さん

今は趣味で絵を描いていて、今後はイベント参加や絵のお仕事を受けることが目標のあサ瀬さん。

どの絵も何かひっかかりを憶える作品で素晴らしいですが、少し能動的に感じる姿勢にならないとそれを見逃しそうになるのが勿体ないです。例えばコンテスト応募作に関して、物語を伝える重要なモチーフ(傘や水たまり)を隠してしまっている。それは行き当たりばったりに筆を走らせた結果なので、描く前に、伝えるべき順番を文章にし、ラフ(設計図)を描いてあげると、「伝えたいこと」と「伝わること」の誤差はなくなっていきます。すると、説明的な作品の題名に頼らずとも、絵の中だけで表現できるようになります。他者の目を引き付けるフックとして、手前にある紫陽花や水滴の描写は重要なので、ここはラフに仕上げない方が良いです。入口が散らかってる入りにくいお店みたいな印象になります。描くところは描く、抜くところは抜いたらいいんです。でもそれを決めるのも、まずは前述の方法で頭で整理してからですね。

 

● イラストレーター 卯月小春さん

卯月小春さんは、商業的に活動したいが、どこがターゲットになるかわからないとのこと。

以前の合評会の時に比べ、絵がすごく観やすくなりましたね。よくがんばりました。ここまで来たら次は方向性を決めたいですね。例えば「雑誌に載りたい」という目標がある場合、まず特定の雑誌の読者になり、リスペクトすることが前提です。そうして買い続けてみると、その雑誌のカラー、求めているものがわかってきます。その上でご自身の絵が合うのか、合わないのか、合わせられるのか、合わせられないのかをようやく決められます。次に本屋さんに行った時に、「好き」「嫌い」ではなく、商業としてそれぞれの絵が使われている理由を考えれば、よりご自身の課題が見えてくることでしょう。


● イラストレーター 映像クリエイター 彩田花道さん

彩田花道さんは今回のコンテストで佳作に選ばれました。
モノになる仕事がしたいとのこと。

雨の日の誰も描かなかった側面をとても繊細に表現されていて素晴らしいです。思いついたというより、実体験を元にしたリアリティなのだと思われます。もったいないのは、テーマと塗りが合ってないような気がします。おそらくご自身が想定しているより、ラフなタッチに映ってしまっているので、例えば磨いたグローブの光沢、例えば淡い光を通した薄いカーテンなど、もう少しテンションを抑えて繊細な仕上げをすると、よりテーマが深みを持って伝わっていたと思います。それならグランプリも目じゃないでしょう。他の作品に関しては、絵の魅力が少し現代性に寄りかかっている印象があります。それは流行語のように、若い人には伝わりやすいですが、クライアントや消費者の年配の方にとっては逆に伝わりにくくなりますので、意識的にバランスを取ってみると、商業の依頼、もっと増えることでしょう。技術はすでに備わっているので、あとはそんなドレスコードだけ。

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● イラストレーター オカレモンさん

イラストの内容を聞かれると、どんどん妄想があふれ出るオカレモンさん。

どの作品からもドラマと「自分はこれを描きたいのだ!」というエネルギーを感じ、とても好きです。だからこそ勢いに任せすぎてしまっている部分もあるので、そこを気付ければもっと評価もついてきます。例えば2枚目のイラストは、人物のタッチと、作品内の絵に描かれている人物のタッチが同じなので、「絵を描いている人」ではなく「写真にペンを突き立てている人」にも見えてしまいます。意識的にこのふたつは色だけでなくタッチを変えても良かったでしょう。また瞳の中に絵が小さく映っていたら、見た目にも面白い作品になります。説明を聞いていると、やはりどの作品も、1枚の絵だけで表現できる幅を超えているので、そんな時は漫画も描いてみてもいいかもしれません。というか1枚目、こんな田舎でこの服装だと何の仕事なのか、なんでハイヒールが片方ないのか、気になって夜も眠れないのでどうか描いて下さい(笑)で、仕事に関しては、研究職と同じで、すぐには結果は出ません。まずは就職して、作品作りを続けてください。おもしろいものは既に持っているので、時間をかけてそこに技術が追い付いてきた時、「夢」ではなく、より具体的な目標が出てくると思います。まずはそこまで。


合評会を終えて

GENSEKI顧問・中村先生の合評会、いかがでしたでしょうか。
合評で教えてくださった部分をリメイクした方もいました。

 

また、応募者だけでなく、聞いている方も学びのあるものになりました。

ぜひTwitterにて、「#ゲンセキ合評会」のハッシュタグから、皆様の感想をご覧ください。

 

8月のイラストコンテスト

次回8月のコンテストのテーマは『それぞれの美』です。
次回も中村先生が合評いたします。

合評はコンテストに応募してTwitterの合評会参加募集に応募された方が対象です。
(人数により抽選になる可能性がございます。)

 

8月コンテスト

GENSEKI 6月コンテスト合評会

イラストレーター、GENSEKI顧問
中村佑介

ASIAN KUNG-FU GENERATION、さだまさしのCDジャケットをはじめ、
『謎解きはディナーのあとで』、『夜は短し歩けよ乙女』、音楽の教科書など
数多くの書籍カバーを手掛けるイラストレーター。

Twitter 
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instagram
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告知

 

yojohan-timemachine.asmik-ace.co.jp

キャラクター原案を務めている『四畳半タイムマシンブルース』が2022年9月30日より全国ロードショー。ディズニープラスで独占先行配信。

 

執筆者

木口ようかん

フリーランスのイラストレーター。GENSEKIマガジン編集部にも所属しており、編集・執筆 / グラフィックデザインを担当。東京ホテイソンが大好き。

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