GENSEKIマガジン

モノづくりを広げる・支えるメディア

学校で切磋琢磨して得られる気持ちは宝物【さいとうなおき 1on1 レッスン by GENSEKI学生応援プロジェクト】

 

こんにちは、GENSEKI編集部です。

GENSEKIでは「学生応援プロジェクト」を企画・推進しています。今回は、イラストレーターのさいとうなおき先生を審査員にお招きし、代々木アニメーション学院とのイラストコンテストを開催しました!

【テーマ】
宝石の擬人化

【審査するポイント】
・絵の中に「宝石」のモチーフがきちんと使用されているか
・テーマを意識したイラストになっているか
・絵の魅力が発揮される構図になっているか

この記事では、大賞を受賞された5名の方とさいとうなおき先生との1on1レッスンの模様をお伝えします。

それぞれ違った個性のあるイラストへのアドバイスから、進路の悩み、学校で得られるものについてなど、貴重なお話をうかがいました!

1on1レッスンの先生さいとうなおき(X:@_NaokiSaitoYouTube
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。

進行中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。

 

キャラクターデザインに真正面から取り組む強さがある。これからはインパクトの足しかたを学ぼう

中村
今回の1on1は、大賞を受賞された5名の方のイラストを2枚ずつ、対談形式で講評します。1枚目は「宝石の擬人化」のテーマに沿ったイラストで、2枚目はフリーテーマのイラストです。

1人目はすりとさんです。将来はフリーランスのイラストレーターを目指しているとのことです。

 

無垢な華とアメシスト

すりと
テーマが「宝石の擬人化」ということで、自分の誕生石のアメシストを選びました。顔を目立たせるためにキラキラと描き、遠近感や視線誘導のために、補色を入れたり、彩度や明度、色味を調整しました。

 

さいとうなおき先生
すばらしい。キャラクターが宝石のようにキラキラしていて、「宝石の擬人化」に真正面から取り組んだ作品です。周りのモチーフでどうこうするのではなく「キャラクター自体を魅力的に描く」という思いが伝わってきます。

正攻法はライバルも多くなるので避けてしまいたくなる中、キャラクターに注力して挑んだところが、すりとさんの強みです。素直にすてきだと思いました。

髪がキラキラと宝石らしく見えるのは、漫画『宝石の国』の髪の塗りを参考にしたんでしょうか?

 

すりと
はい、そうです。

 

さいとうなおき先生
既に流行っているものを取り入れるのは大事なことです。しかも、ただ真似るのではなく、自分のイラストに落とし込んでオリジナリティが出せています。

また、葉の緑と補色の紫の色は、一見ギトギトに見えてしまいかねない配色です。それにもかかわらず、グラデーションでうまくつなげて透明感を出しているのがすばらしい。この髪から植物が生えるアイデアはどこから思いついたのですか?

 

すりと
「アメジストセージ」という花があったので、モチーフに取り入れました。

 

さいとうなおき先生
よくある植物の設定だと手や頭から生えていることが多く、「毛先から」は珍しい。変に見えてしまいそうなところを、奇跡的なバランスで絵に落としこめるのは巧みです。すりとさんのいいところですので、ぜひこのまま突き進んでください。

 

すりと
作品をもっとよくするには、どうしたらいいでしょうか?

 

さいとうなおき先生
背景はシンプルですが、キャラクターデザインのコンテストなので割り切りがいいと感じました。ただし、絵がスッキリしているのはいいのですが、こじんまりした印象に見えてしまうときがあります。

たくさんの絵と並べて見たときもっと目を引ける「インパクトづくり」を学ぶといいでしょう。スッキリまとめつつ、バーンとインパクトを出せる引き出しを持てると、最強のイラストレーターになれると思いますよ。

「インパクトの出しかた」の一案ですが、たまにこんなにアップにしていいの? というぐらいズームアップして描くのもいいですよ。すりとさんは引きの絵を描くタイプだと思うので、自分の限界までアップにした絵を描く実験をしてみるとおもしろいと思います。

 

すりと
先生は普段、絵の練習はされますか?

 

さいとうなおき先生
昔、仕事が少なく時間があったときはしましたが、忙しくなってからは特にしていません。僕は自分の体力を考えて最初からダッシュするタイプなので、本番やYouTubeが練習にもなっています。ただ、ウォーミングアップで絵を描く前に10分ぐらいクロッキーするプロの方もいますよ。

 

天使×黒神父

すりと
もう1枚は、「闇と光」をテーマに描きました。顔に視線を向けてもらうため、中心の背景を極力白くするなど工夫しました。

 

さいとうなおき先生
線が細く、白の中での色の階調が豊富なので、繊細な印象を受けます。
この絵の課題は「光と闇」の白黒のうち、「闇」の部分を感じる面積が少ないところです。構図的には悪魔と天使が形成逆転していて、白い天使が黒い神父をかどわかしているように見えます。黒い羽根が舞ってるので、神父にも黒い羽根を生やしてもいいかもしれません。

神父は人間で、羽がないのなら、カラスを近くに描いたり、肩に止まらせるなどしてみてはどうでしょうか。黒と白を同じぐらいにして対立構造を伝えられると、もっといいでしょう。

 

すりと
とても勉強になります……!

 

さいとうなおき先生
また、すりとさんの絵柄はとてもすてきですが、仕事となるとクライアントから「もっと線を整えてほしい」と言われる場合があるかもしれません。

これは商業で使う以上どうしても発生することで、プロのイラストレーターさんでもそういった悩みを聞くことがあります。そんなとき、どう相手に納得してもらうか考えておくと、仕事がしやすくなると思います。

普段から絵を描いてないと、ここまで描けるようにはならないので、そのままの調子でがんばってください!

 

すりと
光栄です、がんばります。ありがとうございました!

 

描きたい絵のイメージを明確に描ける画力。 ストレートな設定で伝える魅力をさらにアップしよう

中村
2人目はドクズさんです。将来はフリーランスでの活動を目標とされているそうです。

 

晩餐

ドクズ
テーマにした宝石は青い「タンザナイト」です。もう一つモチーフを入れたいと思い、「タンザナイトは精神面で強くなりたい人がよく持っている」という話から、精神面が強そうな白雪姫のイメージを加えました。宝石をタンザナイトの青だけにしてしまうと画面が目立たないと思い、いろいろな色をあえて散りばめて描きました。

 

さいとうなおき先生
まず、とにかく絵がうまい! イメージを明確に形にする能力が高く、シワの描き方ひとつとっても誤魔化していません。日頃の観察眼や探求心が高い方だと感じました。画力については文句なしなので、自信を持ってください。

演出についても考えられていています。宝石の輝きを怪しく魅せるためにまず全面を暗くする、光と影の作戦がすばらしいと思いました。

輝きをどう描こう? というときに、そのまま光らせるのではなく、宝石に光を通して地面を照らしている。シーツや胸に落ちている光で上品なきれいさを出そう、とできるのはまさに観察力で、この力があったら何でも描けると思います。

 

中村
今後の課題や、アドバイスはありますでしょうか?

 

さいとうなおき先生
もう少し絵に対して客観性が身につけられるといいと思います。絵のうまい人はしっかり描けるからこそ、描いている絵に疑問を持ちにくい。ですが、あえて「他の人も説明なしでわかるかな?」という目線で目の前の絵を見てみましょう。

例えば、奥のホールケーキが切れていて、同じ形で切れたピースを手に持っているところ。ケーキとしてきちんと描けているのですが、全体でパッと見たとき影になりすぎていて、少しわかりづらくなってしまっています。色の意図があったのでしょうか?

 

ドクズ
白雪姫をテーマに入れたので、設定に関係して毒々しい色にしたくて、こういった色になりました。どう描いたらいいでしょうか?

 

さいとうなおき先生
全体の光と影のコントラストが強いので、ケーキの部分や影が暗すぎるように見えているかもしれません。例えば、光を月明りっぽいうっすらとした青い光にして、コントラストを抑えると、見やすくなるんじゃないでしょうか。

次に、宝石をカラフルに描いた点ですが、絵的には狙いどおり差し色が増えてインパクトは出ています。ですがこれだと「タンザナイトの擬人化」ではなく単にいろんな宝石が好きな貴族に見えてしまうかもしれません。宝石が全部タンザナイトだったら「タンザナイトのキャラクターだ」と思いやすく、ストレートにテーマに沿えると思います。

また、白雪姫は女性ですが、このキャラクターは男性版、ということですか?

 

ドクズ
白雪姫の祖先のようなイメージです。

 

さいとうなおき先生
なるほど。絵がこれだけ描けるので、考えを深めて工夫するクセがついているのかもしれません。逆に工夫しすぎないことを意識するのもいいと思います。

「白雪姫の祖先」と言われると、初めて絵を見る人には設定がわかりにくい。ストレートに白雪姫を描いてしまった方が伝わりやすいと思います。もし、「きれいな男性を描きたい」という気持ちがあるならば、アラビアンナイトなど、宝石と相性のよさそうな別の童話を持ってくる方が、見ている人には分かりやすいかもしれません。

こういった点がカチっとはまるようになると、イラストがより見やすくなると思います。

 

夕方のコインランドリー

ドクズ
2枚目は、異世界トリップものが流行っていて、描いてみたかったので描きました。今、アニメ塗りに挑戦していて、厚塗りと違って質感表現が難しいと感じています。アニメ塗りでもきれいに表現できる方法が知りたいです。

 

さいとうなおき先生
まず、すごくきれいに描けています。新海誠さんのようなアニメ塗りのポイントやバランスといった技術はもっとあるかもしれませんが、パッと見ていい感じに描けていますよ。

技術的なことよりも、設定が気になります。異世界転生の逆バージョンで「異世界キャラが現代に来ている違和感」を描きたいのですよね。そのときに、演出が「ノスタルジックな夕日」でいいのかな? と感じます。

例えばこの男の子はコインランドリーのことをダンジョンだと思って「攻略してやる!」とドンと立ってていて、後ろの女の子は「そういうんじゃないんだよね……」みたいなシチュエーションはどうでしょう。それならやる気男子と呆れる女子、という対比を見せた方がいいかもしれません。

「この演出をしたら、見る人はどう感じるんだろう?」ということを勉強していくと、もっと良くなると思います。

 

ドクズ
今後、勉強していきます。自分の絵を客観的に見るトレーニングの本などはあるでしょうか?

 

さいとうなおき先生
イラスト本ではなく、漫画やシナリオの本がいいかもしれません。見ながら自分でも何ページか描いてみると、「こういうときはこう描くんだな」とわかってくると思います。

 

親しみやすいキャラクターとキャッチーさは宝物。全体の絵力を底上げしよう!

中村
3人目は、将来は企業所属のイラストレーターを目指している深海そらさんです。

 

見つけた。

深海
このイラストは自分の誕生石の「アレキサンドライト」をテーマにしました。双子の兄弟という設定で、宝石のような目がポイントです。

 

さいとうなおき先生
「宝石の擬人化」ってこういうことですよね。深海さんの想像力に拍手を送りたい。アレキサンドライトの二面性を双子にするというアイデアは、まさにキャラクターデザインのお手本で、できるようで意外とできないことです。

自分の描きたいものや、好きなことから発想するのではなく、まず宝石からアイデアを受けてデザインに落とし込む方法は、納得感があってわかりやすい。

デザインの作法への理解やうまさがずば抜けています。深海さんのイラストには初音ミクや『東方Project』のような、「私の絵でも描いてみたい」と思わせるキャッチーな魅力がある。その力を持ちあわせている人は少ないので、磨いてほしいです。

 

深海
ありがとうございます。課題はありますでしょうか?

 

さいとうなおき先生
まず、等身のバランスですね。胴が長めで、足先まで描くとかなり等身が高そうに見えます。ですが顔のかわいさから考えると、もう少し等身低めの方が、絵柄のよさが活かせるかもしれません。

また、顔のように興味あるところはすごく気合を入れてキャッチーに描けているのですが、興味が出せていないところはちょっと気が抜けてしまっていると感じました。自分に嘘をつけない感じはほほえましいのですが、そこをカバーする術を身に着けられると、もっとよくなると思います。

例えば、オーバーサイズのパーカーを着ていますが、比較としてジャストサイズの服も描けた方がいい。中の服やサスペンダーもパーカーと同じようにぶかっとしていて、全体的にオーバーサイズに見えてしまっています。

あとは……デザイン的にシンプルでいいのですが、もうワンポイント欲しい気もします。目やピアスで宝石の表現をしているので、ダブってしまわない程度で、考えてみましょう。

 

中村
先生なら、どんなモチーフを追加しますか?

 

さいとうなおき先生
ネクタイの先端に、宝石を2つに割った何かを描くか、割って交換しあっているようなアクセサリーですね。単純に宝石型のバッジでもいい、それぐらいのポイントが欲しいですね。
他にも、お悩みはありますか?

 

深海
いつも似た構図になってしまうのが悩みで、SNSでいろいろなイラストを参考にするのですが、結局同じようなものばかり見てしまいます。どうやってアイデアを出したらいいでしょうか?

 

さいとうなおき先生
人の絵を見るのが一番わかりやすいので、その方法でいいですよ。それでもワンパターンになってしまうなら、僕がいいと思うのは漫画です。漫画はひとつひとつのコマが構図の連続なので、参考にしやすいです。

ただ、そんなに気にしなくてもいいと思います。漫画でも、構図のパターンが5種類くらいでテンプレート化している作品もありますが、話がめちゃくちゃおもしろければそれでいい。

構図がいつも同じでもマイナスにはなりません。いつも同じような絵だと言われるかもしれませんが、「この人はこういう絵」と印象付けられます。得意なものをみつけたらずっと使っていってもいいと思いますよ。

 

深海
ありがとうございます。先生の動画や本で「目標とするイラストレーターを1人に絞る」というのを見たのですが、なかなか1人に決められません。どうしたらいいでしょうか?

 

さいとうなおき先生
僕がよく言うことですね。絵を描き始めたころは特に、自分の中に「世の中の人に認められるような客観性」がないと思います。その感覚が身についていない状態でいろいろなイラストレーターをお手本にして、いいところを混ぜて……と描いていると、けっきょく自分の感覚のまま描き進んでしまいます。なので、まず誰か1人に絞りましょう。

窮屈な考え方かもしれません。でも、僕が思う「プロ」には、ちょっと窮屈だけれど、まず世に認められてる1人の人の感覚をとことん突き詰めて習得する方が、近づける。ストレートで間違いが起きにくいのでは、と思います。

 

アイドルの君。

深海
2枚目はアイドルをモチーフにしたので、キラキラ感や紙吹雪が舞う雰囲気を意識して描きました。

 

さいとうなおき先生
これも顔がとてもかわいく描けていて、絶対にそこは外さないぞ! という熱意を感じます。顔がかわいいのはすごく大事なので、強い武器です。

構図にお悩みだったので、変わった構図を使ってみようと努力したんですね。でも、狙いがちょっと外れてしまった気がします。手が目立ち、顔が画面の上すぎて脇役に見えてしまっています。背景のモニターのようなところも上に寄りすぎていて、メインに見えていません。もうちょっと下に寄せた方がいいでしょう。

ただ、深海さんの優先順位としては、いったん背景のことは置いておいて、顔の良さを活かすために身体の等身バランスを考えましょう。これは感覚のクセなので、人に言われても「そうかな?」と思ってしまうし、僕もそういうタイプです。でもいったん自分の感覚を疑って、まずはアドバイスを試してみるといいと思います。

 

深海
はい。ありがとうございました!

 

アイデア段階のおもしろさがピカイチ。そのまま長所を伸ばそう!

中村
4人目は増永智郎さんです。将来の夢は売れっ子イラストレーターになることだそうです。

 

人工ダイヤモンド

増永
この絵は「人工ダイヤモンド」がテーマです。どうしてもさいとう先生とお話がしたかったので、コンテスト受賞を意識して、他の応募者がどう描いてくるかを考えました。きっときれいでかわいいキャラクターが来るだろうから、悪役にしようと考えました。他の応募作の宝石に対して「人工ダイヤモンドでもいいじゃん」としてみたら、目立つかと思って描きました。

 

さいとうなおき先生
みごとに目立っていました。「宝石の擬人化」でこれを出してくるのはすごい。実は、作品があまりにおもしろいので、僕以外のイラストレーターさんや漫画家さんにも見せたところ、「キャプションのターゲット:コンテスト関係者っておもしろい(笑)」と盛り上がりました。作品だけでなく増永さん自身もおもしろい人だろうなと、記憶に残りました。

 

中村
先生も話してみたい人だと最後まで気にされていたので、まさに狙いどおりでしたね。

 

増永
ありがとうございます。マイナスに働いてしまうかもしれないと不安でした。

 

さいとうなおき先生
真面目に取り組んでいるのが伝わってきますし、このキャラクターが欲しい! と感じられたのがよかったです。「人工ダイヤモンドの擬人化」としてこれ以外ないというぐらい、しっくり来ています。

見てほしいところが「表情」なんですが、まさに(笑)。ふてぶてしいデザインでよかったです。このキャラデザはみんな悔しいと思うんですが、ピカイチでした。アドバイスするのも野暮かなと思いますが、質問や悩みはありますか?

 

増永
人口ダイヤモンドは炭素を圧縮して生成するのですが、そのことがうまく表現できませんでした。背景に圧縮する機械の中で椅子に座っている様子を描きたかったのですが、資料からのヒントが少なく、僕の中のイメージで描いてしまいました。

 

さいとうなおき先生
キャラクターが食べているのはチョコに見せかけた石炭ですよね。「圧縮」を「食べる」に繋げて、うまく表現できています。石炭をそのまま食べていたらグッと来なかったと思うのですが、「このキャラにとってはチョコみたいなものだよ」というメッセージ性で、洒落が効いてうまくいっています。

僕からアイデアをつけ加えるとすると、背景は設定を意識しなくてもいいのでは? 例えば背景を宝石箱にして、中の赤いフワフワの土台を椅子にしているのもおもしろいかもしれません。パカっと開けたら「おまえかよ!」と(笑)。そっと閉じてしまいそうだけど……。

 

増永
確かに。おもしろいです(笑)。

 

only today

さいとうなおき先生
この絵もキャプションがおもしろい。

【コンセプトや作品背景】モチーフはてるてる坊主です。どうしても晴れて欲しい日があったので描きました。
【ターゲット(誰に見てほしいか)】おてんとさん

 

増永
努力でなんとかなることと、なんともならないことがあって、天気はなんともなりません。だからそれを絵にして、神頼みできるように描きました。

 

さいとうなおき先生
祈りの絵なんですね。前の絵と同じく、見せたプロの方達がこの絵に対しても「ターゲット:おてんとさんはほんとに秀逸! ことあるごとに思い出しそう」とおっしゃってました(笑)。増永さんは描く前段階のアイデアがおもしろい。その強みを手放さなければ、やっていけると思います。

 

中村
『人工ダイヤモンド』を先に見ていたので、女の子が描ける絵柄の幅におどろきました。

 

増永
ありがとうございます。いつも女の子ばかり描いているので『人工ダイヤモンド』は正直苦痛で、途中、後悔しそうでした(笑)。

 

さいとうなおき先生
かわいいキャラクターが描けるのに、1枚目はあえてあの顔で来たのはすごい。挑戦が伝わる作品でしたね。何か質問はありますか?

 

増永
僕は学校に来る前に自衛官として働いていて、20代後半でイラストレーターになりたいと思って今に至ります。今後、絵の業界で就職して、なんとか空いた時間で兼業イラストレーターをしたいと思うのですが、先生から見て難しいでしょうか?

 

さいとうなおき先生
僕もそうでしたよ。働きながら勉強できますし、その方が堅実で失敗がないと思います。売れるか売れないかは運も大きいので、ある程度のところまで会社でがんばって、チャンスをうかがいながら作品を発表していく。依頼が来るようになって行けそうになったら、その先を判断するのがいいと思います。

 

中村
イラストディレクターの立場から見て、会社勤めからフリーランスになった方は、社会経験があり、会社で納期を守ってやってきた方だと思うので、信頼度が高いです。

 

増永
会社を選ぶにあたって、自分が描くのが好きな背景を描く分野に行くか、自分に足りないデザインセンスが身に付くデザイン分野にするか悩んでいます。どちらがいいでしょうか?

 

さいとうなおき先生
僕の意見ですが、得意な方がいいと思います。デザインセンスが身につけば、増永さんが売れっ子になるか? というと、あまりビジョンが思い浮かびません。デザインがうまくなったらデザインの仕事が来るが、それは増永さんのやりたいことと乖離がありそう。この方向性なら、背景がうまくなった方が伸びる気がします。

これは誰にでも当てはまるのですが、自分の苦手をちょっとやそっとどうにかすればやっていける業界ではなくなってきています。得意なところをガンガン伸ばして、何か1つでも尖っていった方がいい。得意なところにさらに肉付けして、今の感じですくすく伸びて行ってほしいです。

 

増永
ありがとうございます。20代後半で再度、就活をするのは、企業側からみてどうでしょうか?採用されにくいと思いますし、どういう目線で見られるでしょうか?

 

さいとうなおき先生
どこの会社もそうですが、いきなり正社員になるのは難しいかもしれません。なれたらいいのですが、最初はたぶんアルバイトや業務委託のパターンが多いと思います。

それで正社員になれそうなタイミングがあると、打診が来る。僕も31歳で業務委託として会社勤めをしました。そうして7年後ぐらいに、個人の仕事が来るようになったので、会社を辞めてフリーランスとして再スタートしています。なので、特に遅いわけではなく、僕よりも体力もありそうだし、大丈夫ですよ。

 

増永
体力だけはあるので(笑)、がんばります。ありがとうございました!

 

自分のキャラクターと描写力を信じて、絵にメリハリをつけよう!

中村
最後の5人目は、mesiさんです。将来は企業への就職を希望しているとのことです。

 

麗石モチーフ キャラクターデザイン

mesi
普通の宝石と少し違った、つるっとして反射が少ない「麗石」をモチーフにしました。光を抑えめにして、背景の色味に重点を置きました。画面下の手前の方は、「数分前に椅子や机がどうなっていたか?」の表現がしたくて、試行錯誤しながら描きました。

 

さいとうなおき先生
変わった質感の宝石にしよう、という発想がおもしろかったし、武器になるなと思いました。珍しいだけではなくて、meshiさんの描きたい世界観ともあっているので、モチーフのバランス感覚が優れていてすごくうまいと思いました。

 

mesi
ありがとうございます。個人的に、麗石は不穏なものや強めなものに見えたので、自分の好みもあいやすいと考えました。

 

さいとうなおき先生
画面から「描きたさ」があふれているのがいいですね。背景のモチーフひとつひとつの質感の描き分けや、ディティールの緻密さが本当にすごい。製作期間が「1カ月1日12時間1分」とありますが納得です。時間をかけて真摯に取り組んだんだなと感じます。

キャラクターが小さく描かれていますが、存在感もあって、かえってこのぐらいの面積で描かれているからキャラに惹かれます。ただ、それとは別にキャラクターを邪魔している要素がいくつかあります。

例えば、上に吊り下げられている麗石が少し説明的かもしれません。これがあることで、キャラクターの麗石成分が薄まってしまった。キャラクター自身が麗石なので、他は描かなくてもいいのではないでしょうか? もっと自分の作ったキャラクターを信頼してあげましょう!

 

mesi
描いているときに上の部分が寂しく感じ、装飾を追加してしまいました。

 

さいとうなおき先生
上が空いてしまうなら、トリミングしていいですよ。たぶん画面に空白ができるのが怖くて、背景の周りにもメインのモチーフをコピーして色味を変えて埋めていますが、このイラストに関してはいらないかもしれません。

せっかくモチーフをここまでしっかり描いているのに、コピーで埋めたところが手抜きに見えてしまうのは不本意ですよね。カーテンの内側の世界で画面を成立させるか、外側の壁まで描いてしまった方がいいかもしれません。

 

mesi
構図や見せ方にすごく迷ってしまい、正面構図でコンテストでの見栄えの悪さも感じました。どうしたらいいでしょうか?

 

さいとうなおき先生
見栄えはいいと思います! 角度がつけばいいわけでもなく、正面から描くと見栄えがなくなるわけでもないので、自信を持ってほしいです。

もう1枚の絵を見ると、mesiさんは箱庭的なヴィネットイラストのように絵を見せたいのだと感じますが、一方で周りの空間を開けることに抵抗があるのだと思います。

 

へや

mesi
2枚目は、パースを使って描いてみたかったのと、色味を統一したくて、意識しました。

 

さいとうなおき先生
こちらも描きっぷりがいいですね。mesiさんは「描く」という点では本当にすばらしい。文句のつけようがない。

先ほどの構図的な点でいうと、もっといい見せ方ができるかもしれません。こういうイラストのおもしろさは「空間のキリトリ」です。見栄えを気にして背景を埋めてしまったことで、シルエットのおもしろさが弱まってしまっています。無理に描こうとせず、思い切って背景をベタ塗りにしたり、もしくはこのままもう少し薄くするのもいいと思います。
他に、質問したいことはあるでしょうか?

 

mesi
今は就職を考えていて、将来フリーランスになれたらと思っているのですが、できるでしょうか?

 

さいとうなおき先生
いいと思います! まず、背景がうまく描ける能力は、企業としてはキャラクターを描く能力より需要があります。このまま描いていけば引っ張りだこかなという気がしますよ。がんばってください。

 

mesi
ありがとうございます!

 

【総評】クラスメイトに感じる悔しさも大切な刺激。成長に生かして

中村
全員の講評が終わりました。最後にコンテスト全体の総評をお願いします。

 

さいとうなおき先生
選考にあたっては意図していなかったが、5名の方の長所とこれからの課題が、それぞれ少しずつ違っていたのがよかったですね。自分以外の人が、自分がほめられなかったところでほめられているのを見て、いいなとか、お互いへの悔しさも感じられたのでは。僕が学生だったらきっとそう感じるし、他の応募者の皆さんも感じられたと思います。

 

中村
学校コンテストならではの実りですね。

 

さいとうなおき先生
同世代から受ける刺激というのはとても大事で、学校に来ているからこそ、得られるものだと思います。

今日ここで得ることができたうれしさも、悔しい気持ちも、次へのステップアップに向けてもらえたら、さらにいい一歩が進めると思います。皆さんこれからもがんばってください!

 

▼GENSEKI学生応援プロジェクト

 

執筆kao(X:@kaosketchWeb

イラストお花(X:@hanao_hanao_twi

編集https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230725/20230725162318.png坂本彬斎藤充博(X:@3216Web