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「漫画家としてデビューするには?」 カメントツ先生に聞く【漫画お仕事道】第3回

 

「漫画を仕事にしたいけど、どうしたらいいかわからない……」そんな悩みを持っている人はいませんか。

この連載では、『こぐまのケーキ屋さん』などで知られる大人気漫画家のカメントツ先生に「漫画をお仕事にするために必要なことについての質問」に答えていただきました。

今回のテーマはデビューするにはどうしたらいいのかです。実際に漫画家として活動をするための一歩についてお話しいただきました。第一線で活躍するプロの知見、ぜひ参考にしてください!

第1回「漫画を描くのに必要な道具や資質」
第2回「漫画を描きだしてからの悩み」
第3回「デビューするにはどうしたらいいのか」(この記事)
第4回「SNSや収入など漫画家Q&A」

答えてくれた人カメントツ(X:@Computerozi
漫画家。愛知県出身。2015年より『オモコロ』にて漫画家の活動をスタート。2017年にTwitter(現X)で発表した『こぐまのケーキ屋さん』が大ヒット。

 

Q.どうやって自分にあった漫画賞を選べばいいですか?

A.漫画雑誌を買ってしっかり読み込もう。ただし憧れている場所が自分にあっているとは限らない。

ーー漫画家としてデビューするためには、漫画賞への応募が登竜門だと思います。自分にあった漫画賞はどう選ぶといいのでしょう。

 

カメントツ先生
まず、漫画家デビューするために漫画賞に応募するのはマストではないことを知ってください。SNSでコンスタントに漫画を描き続けることでもちゃんと商業漫画家への道はつながります。僕もそうでした。

別に出版社アンチとか、そういうわけじゃないんですけどもね、作家性によって向き不向きがあります。出版社の編集者さんとよく話すのですが、『こぐまのケーキ屋さん』はどの出版社に持ち込んでも雑誌で連載する事はできないでしょう。

『こぐまのケーキ屋さん』(小学館)

誰にウケて、どうマネタイズできるかわからない作品は、お客さんをすでに獲得している必要があります。逆に「◯◯だからウケる要素がある」とターゲットや商品価値を明言できる企画の方が賞や掲載獲得をしやすい傾向にあると思います。

これは単純に編集者も『この作品を受賞させる必要がある』と上司や同僚を説得する必要があるからです。

その上で賞が欲しいのなら『ジャンプ』だったり『サンデー』だったり、自分が好きで読んでいる雑誌の賞に応募するのがセオリーですよね。

 

ーーたしかに自分が好きで「ここで描きたい!」という雑誌に応募するのが王道だと思いました。

 

カメントツ先生
ただ、その人が憧れている作風や漫画ってもう既にその雑誌にあふれていることが多いんですよ。それに、そのテイストが自分に向いているかどうかもまた別の話ですよね。

だから逆に、あえて自分があまり知らなかったり、自分のテイストにあわなさそうなところに持っていってみるという考え方も大事になります。

このときに、漫画の賞に応募するときは必ずその雑誌を買っておきましょう。これは声を大にして言いたいのですが、漫画家志望者のほとんどがやってないと思います。

 

ーー単行本やWebのみで、雑誌って買っていないかも……。

 

カメントツ先生
僕が漫画家志望の学生たちの前で講師をするとき、生徒がだいたい100人くらいいる中で「毎月毎週買う雑誌が決まっている人〜?」って聞くと1割くらいしか手が挙がらないんですよ。

もちろん経済的に毎月毎週雑誌を買うのはきついという人も多いと思いますが、大事な投資ですし、いろんな漫画を読むためには雑誌ってかなりコスパがいいですよ。

今は無料読みのアプリやサイトが大量にあって、若い人はついついそっちを読んでしまう気持ちもわかるけど、漫画編集さんの多くが自分の仕事を「雑誌を作ること」と認識している気がします。

その前提で雑誌を見てみましょう。そして、直に触って、読んでみて、ページをめくって、作品はどんな順番で掲載されて、休載はなにで、担当編集は誰で……と気になることがたくさん出てくるはずです。

オールドスクールな根性論に聞こえるかもですが、読者が何を求めていて、何が好きか、それを考えるのが作家です。

本当に金銭的に難しい人は漫画喫茶でもいいので、まずは雑誌を読むことを心がけたほうがいいと思います。

 

Q.漫画賞を受賞するにはどうしたらいいですか?

A.市場調査はしっかりしよう。そして、なぜ賞をとりたいのか見定める。賞を追い求めるとドツボにハマることも。

 

ーー先ほどのお話を踏まえて、漫画賞をとりたい人が受賞するにはどうしたらいいのでしょう。

 

カメントツ先生
正直、セオリーはないです。そもそも新人賞って、とんでもない才能を持つ天才がゲットできるもの。たぶん漫画賞って名前だから登竜門のように捉えている人が多いと思うけれど、実質のところ「特待生」みたいなものなんです。

漫画家って実は、デビューして働き始めるのにもけっこうお金がかかるもので、仕事場や設備投資、アシスタントさんの給料……と、けっこうな額が飛んでいくんです。

だから、才能のある人のスタートダッシュを賞金でサポートする……これが特待生という意味です。まず漫画を描いている人なら「普通の入学」から目指していくのが建設的だと思うなぁ……。

それに漫然と漫画を描くのではなく、自分の戦い方を見つけないと賞は難しいです。そもそもSNSがあって受賞しなくてもデビューできる可能性はあるので、なぜ賞をとりたいのかを見定めないといけません。

 

ーー……そのうえでお聞きしたいのですが、賞をとらずに漫画家になるには、どうしたらいいでしょう。

 

カメントツ先生
ここでもう一度念押しですが、雑誌を買って読んで市場調査することは大事ですね。「ここは勢いがあるけどグルメ漫画がないな」とか、足りないジャンルで攻めるのはひとつの方法です。世の中でどんな漫画が人気なのか、いろいろな漫画を読む必要があります。

漫画は非常にハイコンテクスト化しているとても高度なエンタメです。調査していくと、今の雑誌に掲載されている漫画っていわゆる王道じゃない作品が多いことに気づくと思います。映画業界で言うならB級やスプラッター、エロだったり、複雑な要素が絡み合ったものがメインストリームになっているんです。

今すごく流行っている『推しの子』も、単純にアイドルがトップに上り詰める話ではないですからね。むしろ、僕の著作『こぐまのケーキ屋さん』は一見誰にでも受け入れられやすいようで狭いジャンルです。がんばってますけど。

だから新人が考えるメインストリームと世間のメインストリームがずれることも多々あるので研究は欠かせないです。ただし、最初から複雑にしても難しいので、まずは読者層がどんな人なのかを一生懸命リサーチした上で、そこにハマるものを描くというのもひとつの方法ですね。

SNSで漫画を描きながら新人賞用の原稿を同時並行で進めることもできるので、SNSの反応を新人賞の原稿にフィードバックしていけばよりいいものができると思います。
もう一度言います。本気ならどっちもできます。

 

Q.担当編集とどうコミュニケーションをとっていいか、わかりません……

A.編集者は商業として「アリ」か「ナシ」かを判断していることを念頭に置いてみよう。

 

ーー以前担当編集さんがついてくれたんですが、その編集さんの出すフィードバックがよくわからなくて……。どういうコミュニケーションをすればいいですか?

 

カメントツ先生
僕の感覚的な話になっちゃって恐縮なんですが、基本的に編集者さんはおもしろい漫画を描ける人ではありません。おもしろい漫画をイチから作れるなら編集さんが漫画家になればいいわけですし(実際にそういう人もいる)。編集者さんが判断しているのはその漫画が商品として「アリ」「ナシ」かだけなんです。

「ナシ」が出たときに、作品に対してさまざまなフィードバックがあると思います。ただ、編集さんは自分の出した「ナシ」に対して「なぜナシなのか」という理由をつけているだけなんですね。

だから、編集さんの提案通りにしたらうまくいくこともあるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。多くの編集さんは、漫画家と話し合って漫画を作り上げたいので「自分の言う通り作って」というオーダーではなく、「こういう見せ方はどうだろう?」と提案しているのです。新人さんは、けっこうそのあたりで困っちゃう人が多いんじゃないかな。

どうしても提案を無視するのが怖いなら「提案を受け入れたネーム」「提案を無視したネーム」を両方作って持ってちゃえばいいんです。先ほども言ったように、編集者は商業としてアリかナシかを判断してくれるので、作ったものを持っていったほうがスムーズです。存在しないものについて延々と話し合ってもなかなか「それだ!」とはならないと思いますし。

こうしていけば、ネームの精度もあがっていきます。それも必要なステップかなと思います。新人だと編集者にあれこれ言いにくいと思うんですが、お互いすれ違っているとストレスになるので、何がわからないのかをきちんと話したほうがいいかもしれません。

 

Q.アシスタントってやった方がいいですか?

A.やったほうが食える幅は広がる。将来アシスタントを起用する可能性も考えると、経験しておいて損はない。

 

ーー商業デビューするまでに、アシスタントってやったほうがいいのでしょうか?

 

カメントツ先生
これはやってもやらなくてもいいというのが回答です。ただアシスタント経験をしておくと食える幅は広がっていきます。

漫画家のスタイルはいろいろあって、アシスタントとして活動しながら商業漫画家として活動している人もいます。自分の好きな漫画を描きながら、アシスタントで収入を得てスキルを磨くという人はけっこう増えている印象です。

ただし、さっき「やってもやらなくてもいい」と言いましたが、ひとつ例外がありました。週刊連載を目指す場合はアシスタント経験は確実にしておいた方がいいです。漫画家としてアシスタントをお願いしないと描けないので、アシスタントを含めた制作フローを知っておいた方がいいからです。実際、商業で週刊連載している人のほとんどはアシスタント経験のある人ばかりですしね。

 

ーーたしかに自分の幅を広げる意味でも、アシスタントはいいのかもしれないですね。

 

カメントツ先生
業界的にデビューできる幅が広がって、漫画家志望の人たちがどんどんデビューしちゃうのでアシスタント不足は深刻な状況です。アシスタントしたい人は重宝されると思います。

ちなみに、アシスタントには、アシスタント業務を専門に行う「プロアシ」という方もいて、スキルのある人ならしっかり食べていける分野だと思います。実際にそこでかなりのお金を稼いでいる人もいます。

ただ、高いスキルを持っていたとしても、アシスタントってどうしても「プロ漫画家の弟子」という社会的なイメージがありますよね。

実際にはプロアシさんは「アシスタント」というよりも「現場監督」と言った方がいいくらいの仕事をしていると思います。いっそ呼称を変えてしまった方が、アシスタントをやってみようという人も増えるんじゃないかと思います。

 

第1回「漫画を描くのに必要な道具や資質」
第2回「漫画を描きだしてからの悩み」
第3回「デビューするにはどうしたらいいのか」(この記事)
第4回「SNSや収入など漫画家Q&A」


執筆神田匠(X:@gogonocoda

イラスト穀物かじつ(X:@k_kajitsu

編集斎藤充博(X:@3216