こんにちは! GENSEKIマガジン編集部です。
漫画家・イラストレーターの佐木郁(さき かおる)先生を審査員にお迎えした「キュンとする」2ページ漫画コンテスト。いろいろな視点から「キュンとする」漫画が集まりました!
【投稿規格】

入賞者全員の漫画を全ページ掲載しています。ぜひ読みながらレポートをご覧ください。選考では漫画のストーリー展開について、先生にいろいろと教えていただきました!
審査員
佐木郁(Twitter:@sakikaoru08/Web)
漫画家、イラストレーター。オリジナルの恋愛サイレントショート漫画をまとめた『好きって言うのに、言葉はいらない』(ワニブックス)などを出版。企業や商品とのタイアップ漫画や、2020年放送のアニメ『啄木鳥探偵處』のキャラクター原案を担当するなど多方面で活動中。
インタビューした人
坂本彬
【大賞】10代の初々しい様子がストレートに届いた作品
佐木郁
大賞はココシカさんの『イタイ恋がしたい』です。ストレートに好きだと思いました。
ストーリーがよく、最初の「イタイ」は先生のことを考えて胸が痛いと言っているのを、あとの「イタイ」で切り替えてごまかしているのがいいですね。最後にスマホのコマで余韻を残すのも上手いです。
坂本
先生に恋する男子学生の恋心を描きました。勇気なくて言えないけど本当は…
ティーンの生意気な感じやピュアさが伝わったら嬉しいです。
というキャプションでした。テンポよく話が伝わってきますね。
佐木郁
先生が「彼女」と言ったのを「友達」と言いなおしたり、相手にされていないやりとりから、キャプション通りの10代のもどかしい様子が伝わってきます。

全体が寒色で描かれていて、「先生といると胸痛いです」のところだけ暖色。妄想のシーンという意味で色を変えているのかな?と思いました。読みながら「私だったらどう描くだろう」という気持ちもわいてきましたね。
坂本
ご自身の創作意欲をかき立てられる作品なんですね。先生はどう描こうと思われましたか?
佐木郁
最初は、コマ割りがシンプルでセリフが多い印象があったので、魅せゴマがあるといいな、と考えていたんです。ですが、この男の子は恋愛をあまりしたことがなく不慣れな感じの年代なので、コマ割りだけドラマチックにするのも違う。それで、読めば読むほど、このなんてことない日常感を表すような落ち着いた感じが、表現としていいんだな……と思えました。
あとはコンテストから外れたことになりますが、この内容なら4ページぐらいの漫画でも見てみたいです。物語に広がりが出ると、またよくなるだろうな、と思います。
坂本
ちなみに、こちらの漫画を読んだときはキュンとしましたか?
佐木郁
しました! 全体を見返してみても、やっぱりこの作品が一番好きだと感じましたね。
このたびは大賞に選んでいただき、ありがとうございます。
キュンとさせるのは難しいことですし、ストーリーを語るのに2ページはとても短いです。テーマを見たときは正直、「描けないかも」と思いました。でも描き始めたらタイトルとオチがすぐ浮かんできて、ストンとストーリーができました。あとは読んだ方がすぐに二人の関係性がわかるように工夫したり、2ページ目への展開、見せ場の描き方や色の使い分けなど、いろいろと試行錯誤して完成させました。
テーマと制約があることで、より意識的に漫画作りをすることができたと思います。たいへん勉強になりました。今回いただいた評価を糧に、これからも作品作りに精進していきたいと思います。あらためて、このたびはこのような機会をいただき、ありがとうございました。
【佳作】「キュン」の表現の幅が広く、シチュエーションも違う7作品
佐木郁
この作品は、応募作品の中で審査のポイントをいちばん満たしていると感じました。
【審査のポイント】
・胸キュンシーンに共感できるかどうか
・2ページという短いストーリーからも、登場人物の性格や関係性などが浮かんでくるか
・胸キュンシーンがより引き立つような構成になっているか
また、自分の描く作品の雰囲気とどこか似ている気がして、印象に残りました。
坂本
こちらの作品は大賞と迷われていましたが、あと一歩、どういった点に気をつけるといいでしょうか?
佐木郁
審査ポイントの3つ目、設定の「わかりやすさ」です。
男の子が前半ほとんど寝てしまっていて、どんなキャラクターなのかわからないまま魅せゴマが来るので、せっかくの胸キュンシーンのインパクトが半減してしまっている印象を受けます。
坂本
「もふもふ」と「彼女を待っている」ということは、この男の子は従順な犬系なのかな?という想像はできますが……。
佐木郁
もしくは、普段は野球部の鬼部長とか。体も大きくて皆には頼られるしっかり者なのに、彼女の前でだけは犬系なのかもしれません。
そんな彼の寝顔を見つめる、彼女の「つぶやき」や「回想」などを入れ込むことで、彼自身は寝たままでも普段のキャラクターを伝えることは可能です。そのあとにこの甘えたような魅せゴマをもってくれば、最高のギャップ男子ができあがります。
作者の意図と乖離(かいり)があったら申しわけないですが、このシチュエーションは勝手にそんな妄想が膨らむほどの胸キュンを秘めています。それだけに、男性キャラの掘り下げが甘いのはもったいないな、と思ってしまいました。
また、前半はポスターを描いている女の子の描写に大きくスペースを割いている印象があります。そのためもっとコンパクトにまとめるか、日誌などわかりやすい設定のほうがいいかもしれません。説明も不要になるぶん、男性キャラの掘り下げにスペースを使えると感じました。
佐木郁
こちらは、絵も構図もすごく上手い作品です。ただ、ストーリー面で、手の大きさの話から男女交際の話に進んだのが、ちょっと急な感じを受けます。前の段階でもう少し恋愛の話をしていたら、展開がスムーズに進められたと思います。
坂本
男の子のセリフの間に、少し飛んでいる印象があるのですね。
佐木郁
はい。ただ、それ以外はとてもいいので、そこさえスムーズだったら大賞もじゅうぶん狙える作品だと思います。ラストの余韻の残し方も、このあとの2人をもっとのぞいていたくなるような終わり方で、とても惹かれました。
佐木郁
恋愛漫画がほとんどだと思っていたので、男女じゃない「キュン」の作品も応募していただけてよかったです。内容もまとまっていて、最後「そういうことか!」と繋がっていいと思います。
私は猫を飼ったことがないのですが、猫愛を感じますね。表紙の男の子のシャツも「NEKO」! 飼ったことがある方にはとても共感性が高いんじゃないでしょうか。
坂本
最後のコマのリアルな描写から、作者の愛が伝わってくるようです。私は猫を飼っているのですが、猫ってわがままなので、これはいい面だけが描かれています(笑)。
佐木郁
読者がまだ女の子だと思っている段階で、人間にはない猫感を感じるというか、「この子ちょっとヘンだぞ?」と違和感があるコマが1ページ目のラストあたりに入ると、よりスムーズに最後のページに繋げられそうです。
それから、人間の姿と猫の姿のときの、ビジュアル的なリンクがもっとあるといいのではないでしょうか。例えば猫の姿の時と同じように、人間の姿の髪も黒とグレーの2色を使って表現してあげたりすると、すんなりリンクしてわかりやすくなると思います。
また、髪型を三つ編みや下ろし髪など、コマによって変えているのですが、少ないページ数では混乱を招くことがありますので、今回はあえて避けてもいいかもしれません。
佐木郁
まっちゃさんの作品は、まず絵がすごく上手で目を引きました。
坂本
ライトノベルの表紙になっていてもおかしくないクオリティですね。
佐木郁
まず『いまから告白しちゃいます』というタイトルになっていますね。そこから、相談と見せかけて本人に伝えるという展開はかわいくて、終わり方まで王道でいいと思います。ただ、ストーリーにもう少し強弱があるとよくなりそうですね。
坂本
ストーリーに強弱をつけるにはどうしたらいいでしょうか?
佐木郁
あくまでも私なら、ですが……。「鈍感なのはお前もな」というコマの絵は、男の子のアップは描かず、口元だけに寄った絵にします。さりげなさを出すために小さいコマにして、あえて目線を描かず、口元でボソっと言ったセリフにする。それにハッと女の子が気づいて……という流れで、最後のコマを大きくすると、ラストがひきたつと思いました。
また、細かいところですが、男の子の名前が「朔弥」だということがわかるように、告白の前、前半のセリフに一度名前を入れてあげるといいと思います。
佐木郁
いい作品です。最後に照れるところまで入っているのがいいですね。
坂本
最後、「キュン」としますね。気になった点はあるでしょうか?
佐木郁
女の子のことはていねいに描かれているのですが、男の子についての情報がない点です。最初、ツンとした表情をしているのでクールなのかな? と思うのですが、一言も喋っていないのでキャラクターがつかみづらいところがあります。
この漫画は男の子のセリフで「キュン」とさせたい展開なので、男の子がどんな設定のキャラクターなのか、もう少し1ページ目で見せられるといいと思います。そうすれば、最後のコマのギャップがもっと効くのではないでしょうか。
佐木郁
とてもかわいい作品ですね。男の子が女の子のことを好きなんだろうな、というのがよくわかります。続きものの二人なのかな?
坂本
キャプションに「創作『1番になりたい子の話』の2人です。」と書いてありますので、他にもストーリーがありそうです。こうすればもっとよくなる、というところはありましたか?
佐木郁
1ページ目、最後のコマの「よじよじ」の描写が欲しいですね。次にアップの魅せコマがくるので、その手前で「キュン」のもとになる彼女の行動がもっとわかるようにしたい。
坂本
「よじよじ」のコマで何が行われているかを絵に描く、ということでしょうか?
佐木郁
そうですね。他のコマがもう少し小さくなってもいいので、よじよじで登ってきた様子がもっと見たいです。よくよく読むと何をしたのかわかるのですが、パッと見て二人がどういう状況なのかがわかると、もっとよかったと思います。
「トクベツ」のカタチ/なつみらん🍊
佐木郁
王道な話ですが、二人の関係性がとてもよくわかります。
男の子の「食えんのかコレ」というセリフが、私の中では結構リアルに感じて、気になった作品です。
坂本
大賞を目指して、改善できる点はあるでしょうか?
佐木郁
女の子の感情についてです。男の子の感情はモノローグやセリフ、友達とのやりとりでとてもよく描かれています。女の子についても、彼に渡したチョコの特別感を、女の子の表情や仕草からも読み取れるとすごくよくなると感じました。
坂本
どうしたら描けるでしょうか?
佐木郁
たとえば2コマ目で彼女は彼に背を向けていますが、そのまま渡しにくそうにチョコを見つめている描写を入れてもいいかもしれません。もしくはラストの照れ顔を、渡せたうれしさや照れがわかるようにもっと強調してあげるとか……。そうした細かい流れを、整えてあげるといいですね。
【総評】ひとつのテーマでも「好き」の表現は人それぞれ。漫画に世界を作って楽しんで
坂本
コンテスト全体を振り返って、いかがでしたか?
佐木郁
たくさんの方の漫画を真剣に読む機会になり、いろいろな表現を見ることができました。「自分だったらこう描くかな?」と想像したりと、私自身も創作意欲をいただきました。
坂本
GENSEKIではこういった恋愛を感じられるテーマは珍しく、しかも2ページ漫画のコンテストというのも珍しかったと思います。それにもかかわらず、たくさんの応募をいただき、見ごたえがありましたね。
佐木郁
テーマが「キュン」で私の描いた見本の漫画だと、恋愛に限定した漫画コンテストになってしまうかな、と懸念していたのですが、恋愛以外のものも幅広くご応募いただけてうれしかったです。
選考はコンテストテーマに沿っているかの基準で選んだので、選べなかったけど雰囲気がすごくいい作品もありましたね。
坂本
今回、先生にもコンテストのために漫画を描きおろしていただきました。どんなコンセプトで描かれたのでしょうか?
佐木郁
この作品は私自身が「スーツ姿が好き」というところから描きはじめました。自分の描くキャラクターは、やはり自分好みになりますね。
坂本
ストーリーはどんなふうに思いつくのでしょうか?
佐木郁
音楽を聞いているときに浮かぶことが多いです。あとは日常で道行く人を見かけてインスピレーションを受けたりします。過去にあったことや、実体験はあまり描かないですね。
スーツ姿が好みだと、オフィスが設定の漫画をよく描くことになるのですが、だからといって現実でこうだったらいいなとか、憧れといったことではありません。むしろ実際にあったら少し恥ずかしいくらいのファンタジーを描いていますが、それを違和感なく受け入れてしまえるのが、漫画の楽しいところです。
好みの背格好のキャラクターが、好みの服を着て、最高のシチュエーションで最高にグッと来るセリフを言ってくれる。そんな自己満足を味わうために漫画を描いている自覚があります。
坂本
自分の好きなものを描けるというのは、本当にうらやましいです。漫画家の醍醐味でもありますね。
佐木郁
私が描いているエピソードは、壁ドンなど王道のものも多く、いろんな方が描いている「何番煎じ」のものです。今回描いた漫画も意外性があるかと言われれば、ない。でも、それを自分の最上級に好みのキャラクターと展開で描ける、というのがやっぱり楽しいですね。
坂本
今回はいろいろな方の好きなことが詰まった漫画を読み解いていただきました。難しい選考をしていただき、ありがとうございました!
佐木郁
勉強になりました。こちらこそ、選考させていただきありがとうございました!
ー
▼現在開催中のコンテスト
執筆
kao(Twitter:@kaosketch/Web)
編集
斎藤充博(Twitter:@3216)