GENSEKIマガジン

モノづくりを広げる・支えるメディア

「あるのはコンセプトではなく、ターゲット」イラストの向こうの存在を見据えて<前編> ー イラストレーター・さくしゃ2

OGP画像


 

2021年4月よりフリーランスとして活動、SNSではTwitter36万人/Instagram46万人(2022年6月時点)を突破し、日本だけでなく海外からの人気も集める新進気鋭のイラストレーター・さくしゃ2氏。

 

キャラクターデザインを主に、グッズやアパレルのデザイン、展覧会や講座、ヴィレッジヴァンガードやWEGOとのコラボ展開など、幅広い活躍を見せている。

 

今回は、イラストレーター活動について掘り下げた大ボリュームのインタビューから【前編・後編】に分けてお届けする。

 

【前編】では、多くの人を魅了するさくしゃ2氏の、爆発的な人気の秘密、作風やブランディング、制作環境について教えていただいた。

絵の根底にある「リサーチと分析」

 

『宵の口』

『宵の口』



 

ーー代表作だと思うイラストとタイトル、コンセプトなどをご紹介お願いします。

 

さくしゃ2:これですね。タイトルはなかったのですが、展示や販売する際に「付けて欲しい」と言われ、『宵の口』にしたと思います。コンセプトも、実はないんです。美術のように、絵にコンセプトを落とし込むとか突き詰めて描くということを、してきていないんです。

 

ーーでは、どこからこのイラストのイメージを膨らませてきたのでしょうか?

 

さくしゃ2:これはちょうど「自分のイラストの人気を出したい」と、自分の好きなものと世間の好きなものの、一致する場所を探しながら描いていた時期のイラストです。なので、前作や前々作もあります。

 

ーー絵の方向性を模索していらっしゃったんですね。

 

さくしゃ2:その時期に世間で流行っていたイラストは、顔がちょっと中性的で、スポーティー・ストリート系・ちょっとアングラ、といった傾向があって、なおかつ自分は和風が好き。

そこをうまく融合させ、SNSで好まれそうなデザインに落としこもうと模索して生まれたのがこのイラストです。なので、あるのはただターゲットに刺さるかなんです。

 

ーー周りの反響をそこまで強く意識されていたんですね。

 

さくしゃ2:自分の好きなものを描くだけで世の中に求められるのは天才で、私はそれができる器ではなかったので…。

「どうすれば自分の絵が世間で受けるのか」と悩み、自分主体じゃなく、世の中が求めるものを描けば、自分の絵も世の中が求めてくれるはずという、当たり前のことに気づいたんです。

 

『泡沫』

『泡沫』



 

『藤』(転換期のイラスト)

『藤』(転換期のイラスト)

 

ーーそれ以前の作品は、どのような物だったのでしょうか?

 

さくしゃ2:2019年あたりが転換期で、それ以前は作風も違うし数も少なく、描いてもボールペンで落書きなど、自分の好きなイメージだけで描いていました。その時に使っていたiPadが壊れてしまい手元にデータが残ってないのですが、Instagramの最初の方の作品が模索初期だと思います。

 

ーー色々と模索した結果、代表作が仕上がって、道筋が見えたのですね。

 

さくしゃ2:はい。それまでは1000~3000いいね位だったのが、この作品で2万いいねぐらいになり、とても嬉しかったです。最近のイラストと比べると、いいね数は全然少ないのですが、感動は桁違いだったので、個人的に代表作だと思っています。

 

ーー手ごたえもあったことで、思い出深い作品になったのですね。

ブランディングの重要性と難しさ
 

『改元』

『改元』

 

 

ーー先ほど「和風が好き」と仰いましたが、作風について意識していることや、こだわりがあればお聞かせください。

 

さくしゃ2テーマに一貫性を持たせて描く、ということでしょうか。以前Twitterの質問箱で、「いつも同じような絵を描いてるのは意味があるんですか?」と聞かれた事があるのですが、それはその通りで。

 

ーーなかなか鋭い質問ですね。

 

さくしゃ2:音楽で、よく聞くアーティストが、たまに全然違う曲調のものを出す時ありますよね。それに対して私は「同じものが欲しいのに、違うものを出されたら、あなたじゃなくてもよくなってしまう」とストレスを感じてしまうんです。

なので「あなたしかできない、あなたじゃなきゃいけない」みたいな所は一貫性を持たせ、長くて4年ぐらいは続けたいと思っています。勿論一生それで行くのではなく、何年かごとに変えるつもりですが、あまりコロコロ変えてしまうとブランディングとして成立しない。なので、似たようなモチーフ、似たような構図、似たような色を、ある程度の期間使い続けようと意識しています。

 

ーー意図的なんですね。ブランディングについては、どこかで学ばれたのでしょうか?

 

さくしゃ2:ブランディングの本を読みました。それから、漫画家のやぶうち優先生の影響があります。いつの時代も新しい絵柄を追求していて、何年かに1回ガラッと絵柄を変え、ずっとその時代の流行に合わせて描かれていらっしゃる。

私だと、明らかに流行っているのを察知しても乗れてない物もあり、フォローしきれず継続できなかったりするのですが、やぶうち先生はそういうのも無く本当に世の情勢に乗れるので、一流だなあと憧れます。

 

ーーなるほど!その視点には気づきませんでした。

 

さくしゃ2:しかも、その時々で絵柄を変えても「この人の絵だ」と分かるのが凄いんです。そうなるためには、一定期間同じものを描き続けないといけないんですが、描きつづけてると時代に絵柄が合わなくなる。それで何年かに1回変えるんです。

それを続けていらっしゃるスタンスをすごい尊敬していて、私もそうありたいと思ってます。

 

ーー時代に乗るとはそういう事なんですね。さくしゃ2さんは今の作風になってからどのぐらい経っているのでしょうか?

 

さくしゃ2:今のは2019年あたりからなので、3年目ぐらいですね。ただ、世間に認知され始めたのは2020年後半〜2021年初めぐらいなので、そこから見ればまだ1年半ぐらいです。

 

ーーすると、もう少しこの作風は続きそうですね。その先にまた新しい物があるというのも楽しみです。

イラスト制作の過程を紐解く

 

▲実際にさくしゃ2氏が使用しているiPad Pro(12.9インチ)

▲実際にさくしゃ2氏が使用しているiPad Pro(12.9インチ)

 

 

ーー普段お使いの画材や機器について、お伺いできればと思います。

 

さくしゃ212.9インチのiPad Proで、ソフトはCLIP STUDIO PAINTを使っています。このように立てて、デスクに座って描いています。

 

ーーデジタルになってからはずっとそのスタイルですか?

 

さくしゃ2:最初の1年ぐらいは液晶タブレットを使い、途中からiPadです。友達にあまりにも推されて(笑)「じゃあ、どうするかは買って後から考える!」と勢いで買ってしまって、使ってみたら使い心地が良かったので。

 

ーー最近はiPadを使うイラストレーターさんが多い印象ですが、使い勝手がいいのでしょうか。

 

さくしゃ2:そうですね。ただ、最初に買ったのはProではなく一番小さいiPadで、それはすぐ壊しました(笑)

容量が32GBと小さすぎたため、半年もかからずパンパンになってしまい、さらにそこに偶然自動アップデートが入って、フリーズして自滅してしまって…。なので、その次はProの512GBにしました。

 

ーー新しいiPadで、容量問題は解決しましたか?

 

さくしゃ2:そうですね…今ので三代目なんですが、さらに1TBのクラウドストレージも使うようになりました。

 

ーーイラストのデータは重いのですね。大体イラスト1枚でファイルサイズはどのくらいになるのでしょうか。レイヤー数に比例しますか?

 

さくしゃ2:絵によってまちまちですが、大きいと1~2GB、小さくても300~500MBぐらいはあります。レイヤーは使うほど重くなりますが、お仕事の依頼に合わせて「何万×何万ピクセル」など、絵のサイズ自体が大きいとレイヤー3枚でも1GBくらい行くことがあります。

 

ーーイラスト1枚を描くのに、どの位お時間がかかりますか?

 

さくしゃ2:。絵によってまちまちです。『宵の口』など、早いものは4時間ぐらい。かと思えば何日も、合計20時間位かかる時もありますが、「何故この絵にこんなに時間かかるの?」という時もあって。

考えがまとまらない時に描くと、形が定まらなくて、「本当にこれでいいのか?」と筆が右往左往し、時間がかかります。

 

 

『中学数学の先生』(時間がかかった絵)

『中学数学の先生』(時間がかかった絵)

 

ーーシンプルだから早い、複雑だから時間がかかる、というわけでもないんですね。

 

さくしゃ2:こっちの絵は4時間×2日間の8時間で描けたのに、こっちの絵は1週間ぐらいかかったのに描けない、完成しない。いいね数もまちまち…など、調子の良さによります。

 

ーー労力=いいね数ではないと。逆に早い時はなぜ描けるのでしょうか。筆が乗るという感じですか?

 

さくしゃ2:そうですね、早く描ける時は楽しいんだと思います。ラフの精査も一瞬で終わったり。大体いつも、ラフに3分の1〜半分ぐらい時間をかけるのですが。

 

ーー特にお仕事となると、クライアントさんの要望もあり、普段好きなように描くよりお時間かかるのでしょうか?

 

さくしゃ2:仕事のイラストはだいぶ考えますね。3日ぐらい…1日5時間ずつで15時間ぐらいかける時もあります。完成するまでに、ラフのやり取りを多めにすることもあるので、描き直したり、最初のラフに戻ったりして。そこから制作です。

 

 

▲SNSでは様々なメイキングやリメイクも見られる

▲SNSでは様々なメイキングやリメイクも見られる

▲SNSでは様々なメイキングやリメイクも見られる

 

ーーラフ以外での、線画や色塗りはどのぐらいの割合でしょうか?

 

さくしゃ2:線画はほとんど描いてないので、色塗りが90%ぐらいです。色塗りの時に線画も含み、ほぼ厚塗りの様な感じで描いてます。

 

ーーそうなんですね。じゃあ、ほとんどラフの上に色を載せているんですか?

 

さくしゃ2:そうですね。分けてない時に後から「この絵の線画ください」って言われると、無くて困ることがあります(笑)レイヤーを統合してしまっていて。

 

ーーレイヤーも分けずに、1枚で作成されるんですか?

 

さくしゃ2:途中時点でレイヤーは170枚ほどあったりするのですが、ある程度溜まったら統合して、1枚にして、さらに重ねて描いて、増えてって、また1枚にして…の繰り返しです。

 

ーーなるほど。線画が無いというのは意外でした。

 

>>【インタビュー】<後編>へ(明日公開)

 

 

さくしゃ2(Twitter:@sakusya2honda / Instagram:@sakusya2

2021年4月よりフリーランスとして活動し、2022年6月時点でTwitter36万人/Instagram46万人を突破、日本だけでなく海外からの人気も集める。

キャラクターデザインを主に、グッズやアパレルのデザイン、ヴィレッジヴァンガードやWEGOとのコラボ展開、展覧会や講座など、幅広い活躍をみせている。