GENSEKIマガジン

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生き生きとしたキャラクターと小さな仕掛けで絵にストーリーを生み出すーイラストレーター・守下


今にも動きそうな生き生きとした人物キャラクター、細部にまで丁寧に描き込まれた守下氏の一枚絵は、まるでアニメーションの世界を彷彿とさせる。

今回はGENSEKIコンテスト7月テーマ「夏の思い出」の受賞作品を中心に、守下氏が絵の中に込めた仕掛けや表現のこだわり、制作背景についてじっくり話を伺った。

インタビューに答えてくれた人

守下(Twitter:@morishita_i
今にも動きそうな線で描かれる人物キャラクター、小物1つひとつに仕掛けられたストーリーが魅力のイラストレーター。日常をアニメーションのワンシーンのように切り取った描写が得意。

 

表現したのは夏の曲から思い浮かんだ情景

もう少し陽が落ちたら
GENSEKIコンテスト「夏休みの思い出」優秀賞

ーーこのたびは7月のGENSEKIコンテスト「夏休みの思い出」にて、優秀賞の受賞おめでとうございます!受賞作品についてお聞かせください。

守下:ありがとうございます。この作品は「夏の海に花火をしに行くという青春の想い出があったら素敵だな」と思って描いたもので、作品タイトルは『もう少し陽が落ちたら』です。写っている男の子の友人が笑顔を向けられている設定で、その友人が学生時代を思い返した時に、一番に思い浮かんでくるようなキラキラした思い出の様なものをコンセプトとして表現しました。青年の「楽しい」が伝わるように、表情やポーズにもこだわりました。

 

ーーまるで自分の中にこんな素敵な思い出があったかのような気分になれますね。

守下好きな夏の曲を聴いていた時に浮かんだ情景です。海をテーマにしていて、歌詞に「振り返る君は笑って」というフレーズがあり、そこから思い浮かんだイメージでした。

 

ーー守下さんの作品には自転車がよく登場します。描くのも難しいモチーフだと思いますが、お好きなのでしょうか?

守下:これは無意識ですね。学生時代に自転車通学をしていたからかもしれません。この自転車は、私が持っているものを駐輪場で写真に撮り、それを模写する形で描いてます。ポーズも実際に自転車にまたがってみて、ふりかえる時に重心はどうなってるかを見ながら描きました。

 

ーー実物を資料として描かれているんですね。花火ひとつひとつのリアリティも凄いと思いました。

守下:花火はスーパーに行った時に花火コーナーを見て、こういう文字が書いてある、とか色合い等を頭に入れて描きましたね。

 

ーーすごい観察力です。制作にはどれぐらいの時間が掛かったんですか?

守下:期間的には2週間ほどかかりましたが、時間としては恐らく20時間ぐらいかなと思います。いつも3枚ぐらい絵のデータを開いてあり、複数の作品を平行して描いています。

 

ーー今までもイラストコンテストに出された経験はおありですか?

守下:3年前に参加したことがありますが、その時はなかなか自分の絵に自信が持てなくて、それっきりでした。今年の初めぐらいに、中村佑介先生のスペースをきっかけにGENSEKIのサイトを知り、自分に合ったコンテストが無いかどうかを定期的にチェックしていたところ、テーマとちょうど合う作品があったので今回初めて応募させて頂きました。

 

ーーご応募頂けて本当に良かったです!受賞の感想、またGENSEKIのコンテストやサービスの印象はいかがですか?

守下:受賞の連絡を頂いた時は本当に驚きましたが、賞を頂けたことで少しだけ自信を持てるようになったと思います。
大抵のコンテストは、オリジナルや未発表作品限定などの制約が多く、時間がかかったり、考えたりしなくてはなならないイメージで応募のハードルが高いのですが、GENSEKIの月例コンテストは既出の作品でも応募できるのでとても気軽だなと思います。今後もテーマと絵がマッチするものがあれば応募してみたいと思います。

 

ーー是非またご応募ください!サービス自体もデジタルポートフォリオ的にお使いいただけるようになっていますので、受賞の実績公開など、ご活用頂けると嬉しいです。

 

ジブリのような生き生きとしたキャラクターを描きたい

(ラフ)

ーー絵を本格的に描きはじめたのはいつ頃からですか?

守下:幼少期から絵は好きでしたが、教本を買って本格的に勉強を始めたのは大学に入ってからです。それまでは勉強というよりは落書きというか、楽しんで描いていただけでした。

 

ーー何か本格的に描くようになったきっかけがあるのでしょうか?

守下:イラストレーターといえば中村佑介先生のような、数が少なくて手の届かない職業だと思っていたのですが、高校の頃からネット上で絵を描く人を見るようになり、youtubeやSNSなど、絵を描く人が活躍する場は沢山あることを知りました。自分でも頑張ったらああいう風に活躍できるんじゃないかという期待から、受験が終わって大学に入ったら絵の勉強を始めようと決めていたんです。

 

ーーネットでイラストレーターへの認識や可能性が広がったんですね。。さきほど教本を買ったとも仰っていましたが、具体的にはどういった勉強をしてきたんですか?

守下:最初はネットの口コミで評判が高かったモルフォ人物デッサン(グラフィック社)や、toshiさんのアニメーターが教えるキャラ描画の基本法則(株式会社エムディエヌコーポレーション)という本をひたすら模写して人物画の練習をしました。

 

ーーとても的確な勉強法だと思いますが、なぜ人物模写から入ろうと思ったんですか?

守下キャラクターを描くのが好きだったので、そこがうまくなりたいという思いがありました。高校生の時はジブリが大好きだったので、よくジブリの好きな場面を切り取ってポストカードに模写していました。

雪に紛れて

ーー画材や機器は何を使っていらっしゃいますか?

守下ハードはiPad Proの11インチ、ソフトはCLIP STUDIO PAINT PROを使っています。iPadを買ったのは大学に入ってからで、それまではアナログで描いてました。
資料を参照する時はノートパソコンを開いて前に置いてます。

 

ーーPCは使わずタブレット上で描いていらっしゃるんですね。iPad Proは2サイズありますが、11インチが合ったのでしょうか?

守下:プロパティウインドウを出しているうちに描画スペースが狭くなってしまうので、もう少し大きい12.9インチの方が描きやすいと思います(笑)プロパティが出ないソフトも試してみたことがあるのですが、やっぱり使い慣れているCLIP STUDIO PAINTが描きやすいです。

 

ーー尊敬するイラストレーターさんや、影響を受けたものがあれば教えてください。

守下浮雲宇一さん(Twitter:宇一@kumori_ufoという方です。特に『白昼夢』という作品集が大好きで、そこから影響を受けているところもあるかもしれません。隅々まで作り込まれた世界観が見ていて楽しいです。
それから、アニメーターとイラストレーターをされているかりやさん(Twitter:かりや@KRY_aia。個展でポートフォリオが展示されていたのを見て、アニメーターさん独特の動きとか絵の動かし方に感動したのをきっかけに、すごく好きになりました。キャラクターが生き生きしていてとても魅力的だと思います。

 

ーー守下さんの持っている雰囲気とすごく共通点を感じます!先程、ジブリのお話もありましたが、根底にあると思う作品はありますか?

守下ジブリの影響は大きいと思います。ジブリ作品の中ではハウルの動く城が一番好きで、小さい時に観てからもう何度も繰り返し観ています。



ストーリーを感じられる絵づくりを意識して描く

開店準備

ーー守下さんが今まで手がけてきた作品のなかで、一番思い出に残っている作品やお仕事があれば教えて下さい。

守下:思い出に残っているのは、GENSEKIのマイページにも載せている『開店準備』という作品です。背景を描き始めて間もない頃の作品で、2~3か月ぐらい掛けて描きました。それまでは背景が全然描けないから途中で諦めてしまったり妥協してしまったりすることも多かったのですが、この絵で初めて乗り越えられたというか、できる限り理想に近づけるように頑張って試行錯誤できた作品です。

 

ーー初めて背景のハードルを超えることができた作品なんですね。描き始めて間もないとはとても思えない背景ですが、人物画を勉強されていた様に、背景も勉強されたんですか?

守下:構図の教本も買ったりしたんですけど、背景は勉強っていう勉強はあんまりしていなくて自己流なので、本当にまだまだ頑張らなくてはと思ってるところです。しかし、この絵で完成させる自信や力がついたというか、辛いところを乗り越えられるきっかけになりました。また、この絵を描いてから、ラフを描くときから密度の濃い背景にしても「何とかなるだろう」という余裕も生まれました。

 

ーーこの絵には人物の差分がありますが、元々動かす想定をされているんですか?

守下:想定はしていないのですが、最初一枚だけ描いた時に、どんどん頭の中でストーリーが出来上がってきて、その後の行動を描きたくなってしまうんです。

 

ーー確かに守下さんの作品は、アニメーターさんなのかな?と思うような作品が多く、今回のコンテストの絵でも、髪の毛や雲から風を感じます。こういった動きは特別に意識されて描いているのでしょうか?

守下:はい。髪の毛のなびき方は特に意識していて、他のイラストレーターさんの描き方を観察しながら描いています。

(無題)

ーー他にもご自身の作風についてのこだわりや意識していることはありますか?

守下ストーリーを感じられるような絵作りを意識しています。人物の性格や感情までもが伝わるような設定を考えたり、文字で書きこんだりしています。

例えば、今回のコンテストの花火を持った男の子は、自転車の鍵にクマのキーホルダーがついていて、クマの服に「4」と書いてあるんです。だから「この子は部活で背番号の4番で、もしバスケットボール部の4番だったら、エースだからこんな性格かな?」というのを想像しながら描いています。サンダルを履かせることで、やんちゃな感じというかラフに出かけてる感じも出るようにしています。

 

ーーなるほど!ただ描き込むだけではなく、人物の性格など、様々な情報が込められているんですね。その目線でイラストを見始めるとまた面白いです!そういった仕掛けは他にもあるのでしょうか?

守下:はい。この『星の観察日記』という作品だと、手前のローテーブルの上にあるファイルがくしゃくしゃになっています。だから結構ガサツな性格の子なのかな、とか、観察日記を書きに来たのにswitchとか持ってきてる辺り、あんまり真面目ではないのかな、と。椅子の上にはアイス、ペットボトルのソーダも持ち込んでます(笑)

星の観察日記

ーー一見、夢中になって空を見ていますが、振り返ったらswitchで遊んでしまうかも、という(笑)設定がとてもリアルですね!

守下:こういう男の子いたなぁと、描きながらどんどん追加していきます。時々、絵の中に仕込んだ要素に気づいてコメントをいただけることもあって、そんな時は描いて本当に良かったなと思いますし、一番幸せな瞬間ですね。今回のコンテストのイラストでもくまのキーホルダーを発見してくださった方がいました。

 

ーー見る方にも伝わっていた時が、絵を描いていて幸せな瞬間なのですね。逆に辛かったことはありますか?

守下:やはり思いどおりに描けなかったり、背景を何度も描きなおしたりする時は辛いです。でも最近は、以前の絵を見ていると今ならもうちょっと背景を細かく描き込むことができたんじゃないかな、など「今なら描ける。」と思うことも増えました。

 

ーー試行錯誤して描いていくうち、上達を実感できるようになっていたのですね。

 

日常から得るインスピレーションが鍵

秋の海

ーー創作をする上での情報収集や資料集めはどうされていますか?

守下:情報収集はPinterestやGoogleの画像検索など、ネット検索がほとんどです。描くものが思い浮かばない時は、家族で共有しているクラウドのカメラロールをよく見ています。そこには幼少期からの写真が全部入ってるので、それを見返しながら「この時こういう感情だった」といったものを思い起こして絵にすることがあります。SNSで見るイラストやアニメ、音楽など、いろんな作品からアイディアが浮かんでくることもありますし、日常からヒントを得ることが多いですね。

 

ーーアイディアに詰まったり、スランプに陥った時のリフレッシュ方法や、絵以外の趣味はありますか?

守下:一旦違う絵に移ったり、落書きしたり、他の絵を描くことで気分転換しています。絵以外だと、編み物やネイルなど、何か手先を動かせるようなことですね。

 

ーー絵のリフレッシュも絵に向き合い続けるという。描いていない間もものづくりをされるんですね。

守下::そうですね。でも普通にYouTubeを観てだらだら過ごす、みたいなこともやってます(笑)ものづくり以外の息抜きはほとんどYouTubeですね。

(ラフ)

ーー今後やってみたいお仕事や挑戦したいことはありますか?

守下:イラストのお仕事は、やらせていただけるのならぜひやります!という気持ちですが、特に人を描くのが好きなので、MVのイラストやキャラクター単体で描くお仕事、教科書・雑誌の挿絵カットなどをお任せ頂けたら嬉しいです。そのためにも普段から広い世代に受け入れてもらえるようなイラストを意識して描いています。

 

ーー老若男女に幅広く受け入れられるイラストのお仕事を目指されているんですね。

守下:今は学業を優先しなければいけない時期なのですが、納期に余裕があり、じっくり取り組める案件であればお受けしたいと思っています。さまざまな絵を描きながら力をつけて、プロイラストレーターを目指し、先々は展示会や即売会にも挑戦してみたいです!

 

ーーぜひ作品をもっと世に出して、どんどんご活躍頂きたいと思います。本日はありがとうございました!

 

 

インタビューを通して、守下氏の絵に宿るストーリーは、日々の観察眼と鍛錬に裏打ちされたものだと知ることができた。その説得力ゆえに生き生きとした表情や感情までも伝わった。

執筆者

チナップ(Twitter:@cnapillust
関西在住のイラストレーター ・ いきもの作家。ほっこりかわいいデフォルメイラストが得意。描くこと&書くことが好き。

編集者

kao(twitter:@kaosketchHP
イラストレーター・GENSEKIインタビューライター。空気感や表情が伝わる表現を目指す。ファンタジーとSFが好き。名古屋在住。