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白黒のイラストで自分の個性を炙り出す。さいとうなおき先生「BLACK&WHITE縛り」講評レポート

 

イラストレーターのさいとうなおき先生が審査員の「縛りイラコン」講評レポート、今回はBLACK&WHITE縛りです。 

コントラストがはっきりとした白黒作品、グレースケールを駆使した作品、水墨画風のものなど、800点近くの多種多様な白黒イラストが集まりました! 白黒イラストを描くと自分が再発見できるってどういうこと? など、白黒で描くメリットを探る講評インタビューです!

目次

審査員

さいとうなおき(X:@_NaokiSaitoYouTube
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。

インタビューした人
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。


白黒だからこそのおもしろさを引き出した作品

【大賞】君の好きな色/なかのはる

さいとうなおき先生
大賞はなかのはるさんの『君の好きな色』です。おめでとうございます!「BLACK&WHITE縛り」というテーマを一番積極的に取り入れてくれていました。

日常の中の黒と白はなんだろうと考え、洋服が思い浮かびました。黒い色や白いシャツに安心してそればっかり買ってしまうことがたくさんあるので…。黒と白がお互いを引き立たせる様、絵から物語を感じてもらえる様に描きました。

さいとうなおき先生
イラストがキャプション通りに読み取れますが、実は「意図通りに見える」というのは難しく、すごいことなんです。

しかも、画面の中でプロジェクトを伝えきった上で、画面構成におもしろい仕掛けも入っています。よく見ると服がたくさん落ちていて、ぐにゃっとした布のシルエットに人のシルエットを紛れ込ませてあえて見えにくくしたデザイン的なおもしろさがあります。イラストレーターというよりグラフィックデザイナーのような頭の使い方をされていますね。

中村
ただ塗っていない絵ではなく、これで完成された作品という印象を受けます。「BLACK&WHITE縛り」というテーマをおもしろく使ってくださいましたね。

さいとうなおき先生
「白黒の絵」は色を塗らなくていいから描くのが楽そうと思いがちですが、色の武器を使えないという縛りです。その中で意味深な画面を作るのは、やってみるとなかなか難しい。

その中で印象強い画面を作れているのは、巧みだと思いました。

 

色のない世界で際立つシルエットの美しさ

【佳作】ときめきを纏う/龘(たいと)

さいとうなおき先生
シルエットの美しさが本当に際立っているイラストです。

人の目はコントラスト、つまり「シルエットのきれいさ」に目を惹かれるという特性を理解して、シルエットをとにかくきれいに、とこだわっているのが伝わってくる。

嫌なシルエットが含まれていなくて、シェイプのきれいさが全体の「きれいだな」という印象に素直に繋がっています。

中村
髪の毛のラインなどもひとつひとつ、見ていて気持ちがいいです。

さいとうなおき先生
そう、気持ちいい。すごく気を使わないとこういう印象にはできないので、それが伝わってきてよかったです。

 

【佳作】静かな夜に/まんさつ

さいとうなおき先生
シルエットが気持ちいいことと、女性の顔がとても美しくて選びました。

絵を白黒にすると「造形」にかなり目が行くようになります。つまり、形の違和感やかわいくなさも目につきやすくなってしまうんです。その中で素直に美しい女の人が描けていて、良い印象でした。髪の質感もつやっとしていてきれい。

龍も途中から水墨画のようになっていて、やりたいことも伝わってきます。コンセプトを見せるだけで終わらずに、着地するまでていねいに描けているのがよかったですね。


中村

白黒の絵で大切なポイントは何なのか、だんだんわかってきました。

【佳作】山登り/miruta_ミルタ

さいとうなおき先生
使える要素がこんなに少ない中で、「ストレートに気持ちよくて、かわいくて、とっつきやすいイラスト」を描くことができるのは、実はとってもすごいことです。


中村

miruta_ミルタさんはたくさん応募してくださいました。

miruta_ミルタさんの応募作品

さいとうなおき先生
「俺はこれくらいできますけど?」と見せつけられましたね(笑)。プロの風格が漂っています。一番左のイラストも好きですし、全部目を引きます。

絵は「どこどこが良い」と語らせるようではまだまだ。「なんか好き」と素直に思えるのがすごいんです。miruta_ミルタさんの作品はどれも、商品化されていて並んでいたら「これ買おう」と選んでしまうと思います。


中村

他の作品も、デザイナーさんなのかと感じるデザインに特化したイラストを描かれていますね。トートバックになっていたらかわいいと思いました。


さいとうなおき先生

プレゼントしたくなる絵ですよね。「僕も好きだし、あの人も好きになってくれるかも?」と思わせてくれる良さがあります。

 

【佳作】白黒つけられない/い丸

さいとうなおき先生
白と黒のテーマをよく取り入れてくれています。よくあるアイデアかもしれませんが、積極性が気持ちよく絵に納められているし、キャラクターもかわいく描けています。


中村

「よくあるアイデア」を特別に目立たせる方法はありますか?


さいとうなおき先生

シンプルになり過ぎるので、このイラストで言うと、もうワンアイデア足すか、シルエットを崩すかなのか、かもしれません。例えば、黒は悪魔っぽく見えるのですが、白が天使だということがわかりづらいので、そこがもう一歩だったのかも。


中村

白い子の、頭の上の丸いものは天使の輪なんですね。


さいとうなおき先生

輪郭線が途中で途切れていて髪の毛に見えがちなので、線がない白い輪にするか、スッと繋がった線を描くか……。ただ、天使の輪がわかりやすかったら絵におもしろみが足せるかというと、そういうことではない気がします。全体的にあっさりしているので、デザインか、線の太さなのか、何かが足されるといいと思います。


中村

いい基礎ができているからこそ、もう少し形の工夫や描き込みが増えていくとよさそうなんですね。


さいとうなおき先生

こういったアイデアのイラストの中でもよかった作品なのですが、タイトルも含めて全体的にもう一歩踏み込めると、さらによくなると思います。

 

白黒の中に映し出される「自分らしさ」

【佳作】馬飛び/田中 威

さいとうなおき先生
「白黒の絵」は個性がすごく出るものだと思っています。他のものでごまかせないから自分自身がそのまま出てしまう。このイラストは恥ずかしがらずに「体育が好き」という自分を出してくれた印象です。

中村
縄跳びの絵も応募してくださっていて、どちらもいい意味で目立っていましたね。

さいとうなおき先生
「体育」を描く着眼点がおもしろいですよね。しかも白黒なのに、小学生のちょっと土臭そうな(笑)素朴な感じや、汚れた体操着の感じまで伝わってきます。


中村

子ども時代はいい意味で洗練されてない感じがありますね(笑)。


さいとうなおき先生

版画っぽいというか、あのころの懐かしさまで感じました。

 

【佳作】先ほどまで楽しんでいたお店の選ばれない子/キョムリベ百

さいとうなおき先生
タイトルもあいまって、客引きのメイドさんの「だれも振り向いてくれない……」というもの悲しさが、白黒でとてもうまく表せています。キャプションを見ても、このシーンをどういう立場で描いたのか、キョムリベ百さんは何者なのかと思ってしまいます(笑)。

闇のマットな感じと明かりが反射した地面のヌルっとした感じが、白黒だけで描きわけられていていいですね。


中村

コントラストが強くなくても、目に留まるのはなぜでしょうか?


さいとうなおき先生

しっかりコントラストを意識して、計算されているからです。強いマットな黒を女の子にしか使わないことで、背景を描き込んでもメインキャラに目が行くようになっています。画力がある方だなと思いました。


中村

見れば見るほど引き込まれる絵になっていますね。

 

【佳作】MONSTERS/wabinson

さいとうなおき先生
「懐かしのキャラ大集合」のような不思議な迫力があります。『コロコロコミック』のようなデフォルメのされ方で、古めかしい感じがきれいにハマって味になっています。大小さまざまな顔が画面の楽しさに繋がっているのも、とてもいいです。

今回は「白黒でないと成立しない作品」という評価軸で選考したのですが、この作品はそれと関係なく、僕が迫力に負けて選ばされました(笑)。


中村

コミック風だから白黒が映えてよかった、ということではないんですね。


さいとうなおき先生

この作品はカラーでもよさそうです。wabinsonさんの他の作品も拝見しましたが、カラーのものもどれもクセが強く、とてもいいですね。狙って描けないと思うので、こうならざるを得なかった何かをすごく感じます。


中村

こういうものが好きなんだろうな、と伝わってくる作風です。


さいとうなおき先生

絵を描いていると、いろいろな人に「売れる作風はこっち、仕事で人気のある作風はこっち」と言われて自分を曲げていくことも多いです。でも、wabinsonさんは全然変わらないままパワーアップして、まわりに「あのとき余計なアドバイスしてしまってすみません」と言わせてしまいそう。理屈じゃなく生き抜ける生命力を感じました。


中村

どんな分野でも、自分を貫ききった人はかっこいいですね。

 

「白黒縛り」で自分を再発見する

さいとうなおき先生
「白黒縛り」はコンセプトや個性、その人が考えていることが、かなり浮き彫りになるテーマでした。僕も選考結果を見て、色を使うことでいろいろごまかせているんだな、と気づきました。

カラーイラストだったら、独創性が色に紛れてしまってわかりにくかったかもしれません。


中村

色は情報量が多いから、無くすと描かれているものがより際立って見えるんですね。
白黒イラストは自分を見つめ直すきっかけになりそうです。


さいとうなおき先生

僕はカラーイラストを求められることが多いので、白黒でイラストを描けと言われたら「俺、どんな人間だったっけ?」と考えてしまいそう(笑)。たまに白黒の絵を描いて、自分の考えの深さ・浅さを感じてみるのも一興ですね。

 

▼コンテストページ

 

【定期開催】さいとうなおき先生の縛りイラコン

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執筆

kao(X:@kaosketchWebGENSEKI

編集


斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI