GENSEKIマガジン

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どこかで見た懐かしい風景。1枚の作品に物語を紡いでいくーイラストレーター・田中威


恩師に渡されたクーピーペンシルとの出会いをきっかけに、アクリル・水彩・色鉛筆、そしてデジタルと多彩な表現力でたくさんの絵を描き続け、イラストレーターとして活躍する田中威氏。

 

風景画、人物画ともに、親しみがありとても味わい深い。仲間たちと語り合い、時には小旅行でリフレッシュしながら、長年イラストレーターとして活動している田中威氏の日常について、お話を伺った。

思い出深い物語を込めた作品達

『イタリアにて』
GENSEKIコンテスト6月テーマ「雨の物語」優秀賞

ーーコンテストの受賞おめでとうございます!受賞作品について、どのようなイメージで制作されたのかお聞かせください。

田中威(以下田中):この作品は大分前にボローニャ国際絵本原画展を見に初めてイタリアに行った時、ドラマチックな景色を見たことを題材にしました。一番最初に描いてから時間をおいて、少しずつ描き足していき、完成まで何年もかかっています。

 

ーー細部まで描き込みが細かいのはそういう所からだったのですね。こちらは何を使って描かれているのでしょうか?

田中:これはほぼデジタルです。Illustrator、Photoshop、水彩で描いたものを重ねています。一番最初に描いたものを置いて、また付け加えて…というような感じです。イタリアに行くのが初めてだったので、思い入れがありますね

 

ーー描写されている人物もその場にいらっしゃった方なのですか?

田中:これは、実は地元の京都にクラシックカーが来ていた時、見かけた男女を組み合わせて描いているんです。男の人が年配の格好いい方で、フッとその状況を見てるような、不思議な感じが印象的で絵に取り入れました。

 

ーーふたつの思い出が組み合わさっているんですね。物語性も素敵です。今回、受賞されてどう思われましたか?

田中:受賞するとは思っていなかったので、驚きました(笑) 

 

ーー渾身の作品ですが、意外だったのですね。田中さんは他のGENSEKIコンテストにも沢山ご参加下さっていますが、その熱意はどこからくるのでしょうか?

田中:どうでしょうね…何か表現したいと、ずっと思っているからではないでしょうか。それにGENSEKIはとても良いサービスだと思っていて、以前から使っていますが、どんどん使いやすく、投稿しやすくなってると思います。

 

ーーありがとうございます!これからも面白いコンテストをご用意できるように頑張ります。

田中:楽しみにしてます。

『白川郷』 GENSEKI絵しりとり賞 受賞作品

ーー絵を本格的に描き始めたきっかけから、今に至るまでの経緯を教えてください。

田中:小さい頃、言葉の発達の関係で訓練教室に通っていたのですが、教えてくださっていた先生が転勤する時にクーピーペンシルを下さいました。絵を描き始めたのはそれからですね。表現方法のひとつとして、絵という選択肢ができたかと思います。

 

ーー素敵なエピソードです。先生が転勤されてからも、しばらくはそのクーピーで絵を描かれていたのですか?それ以外の画材も試されたのでしょうか?

田中:そうですね、しばらくはクーピーで描いていました。その後はアクリル、水彩、色鉛筆と、結構何でも使って描いて来ました。

 

ーーデジタルを使い始めたのは、いつ頃からですか?

田中:Power Mac(パワーマック)が出た時代からです。今は絵を描く時はMacもWindowsも使います。平面デザインのようなイラストの時はソフトのIllustratorを使っています。 

 

ーーMacとWindows両方使われているんですね。

田中:以前はソフトの関係でWindows でしかできないこともあったので、使い分けていましたが、今はあまり機能も分け隔てなくなりましたね。

 

ーーペンタブレットは、どのような物を使われているのでしょうか?

田中:タブレットも色々と持っていますが、ほとんどマウスで描いています。

 

ーーマウスなんですか?!驚きです。思わず拡大して細部を確認してしまいましたが、今回のこの受賞された作品もマウスで描かれているのでしょうか?

田中:そうですね(笑)昔からやって慣れているもので。この絵もほとんどマウスで、車はIllustratorです。

 

ーーコンスタンスに多くの絵を描かれていますが、1枚当たり制作時間はどのくらいかけて描かれているのですか?

田中:特にこれといって決めてるわけではないです。1日で描く時もありますし、受賞した作品のように何年もかかっているものもあります。

 

ーー依頼された時の納期はどう想定されるのでしょうか?

田中:納期に合わせて仕上げます。納品が早いと喜んで頂けるので、2日か3日で仕上げて送ることもあります。

 

ーー以前「しりとり」で入賞された「白川郷」も細かい作品ですが、こちらはどのくらいの時間で描かれたのでしょうか?

田中:これは水彩で、半日くらいだったと思います。

 

ーー作風について意識していることや、こだわりを教えてください。

田中その時の空気感と言いますか、こんなことがあったなというのは大事にしていますね。使う画材や何を描くかは、そのとき思うまま、描きたいと思ったものを描いています。

 

ーーその時出てくるものを、ストレートに表現されているのですね。

 

刺激しあえる仲間達と共に

『それぞれの思いで』

ーー絵が上達したタイミングや転機について教えてください。

田中:仕事を頼まれて描いていくうちに、上達しました。相手のご要望に応えて描くというのは、普段自由に描いている絵とはまた違い、気が引き締まります。あと、最近は水彩の先生に教えてもらって描いています。

 

ーー画業をしながら、水彩も習いに行かれてるのですか?

田中:所属している「協同組合日本イラストレーション協会(以下JILLA)」で色々講座が開講されており、そこで勉強させてもらっています。紹介でお仕事をさせていただくこともあります。

 

ーーJILLAで、色々な経験ができるのですね。ほかに影響を受けたり、尊敬するイラストレーターさんや師匠というような方がいらっしゃれば教えてください。

田中:先ほどお話したJILLAで、クロッキーを習っている進藤晴義さんと、水彩画で有名な佐々木悟郎さんです。

 

ーー現在、お2人の方から習われているのですね。こちらはオンラインで受講していらっしゃるのでしょうか?

田中:いえ、実際の教室に通っています。クロッキーはコロナの影響がありお休みなのですが、今度再開される予定です。関西にも教室がありますので、そこでいつもクロッキーを描いたりしていますね。いろんな仲間がいて楽しいです

 

ーー一緒に描く人に会えるというのは良いですね!

田中:ほとんど絵の話ばかりしていますね。オンライン上でもJILLAの西日本で支部を作り、九州の人などともやり取りしています。

 

ーーJILLAはセミナーイベントだけではなく、交流の意味合いもあり良い刺激になっているのですね。そのほか、田中さんの絵のルーツや、参考にするもの、心に残る作品はありますか?

田中:昔『 FM STATION』という音楽雑誌で鈴木英人さんという方が表紙を描かれていたのですが、そこで初めて日本にこういうイラストを描く人がいて、イラストレーターと言う仕事があるんだと意識しました。

 

ーーパキっとした車の描写など、凄く素敵な作家さんですね!教えて頂きありがとうございます。
創作活動の情報は、どんな所から収集されているのでしょうか?

田中:ネットを見たり、アニメを見てストーリーや画面を参考にします。『ダンまち』(『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』)のような系統のものはよく見ますね。あとはイラストレーターの仲間との飲み会で話したりです。コロナ禍の前は皆で広島にスケッチ旅行に行ったりしていました。また再開したいですね。

 

ーー皆さんの話からはどんな刺激を受けますか?

田中:プロの集まりなので、「この間〇〇の仕事をした」とか、そういう情報を聞いて「頑張ろう!」と思えますね。

 

ーー素敵な集まりですね。アイデアに詰まった時や仕事で行き詰った時のリフレッシュ法がありましたら是非教えてください。

田中:嵐山に行くのが好きなので、バイクで嵐山に行き、日帰り温泉に浸かって、名物のあんバターたい焼きを食べながら散歩することです。ひと月に1回くらい行っているかもしれません。

 

ーー最高なリフレッシュ方法ですね!是非行ってみたいです…!

『夏休み』

ーーSNSについて、Instagram ・ Twitter ・ Facebook ・note・tumblerなど様々な場所をお使いですが、どのようにご活用されていらっしゃいますか?メインにされているものはあるのでしょうか?

 田中毎日投稿を欠かさずしていることと、Twitterを使ってのコンテストに応募しています。メインはInstagram・Twitterですね。

 

ーー毎日投稿しようと決められたのはどうしてですか ?

田中:元々はコロナ禍になった時に、協会で「期間を決めてSNSに流す」というのをやったんですね。それをそのまま止めずにやろうかなと思って続けています。

 

ーーそこからか欠かさず、2〜3年続けてらっしゃるんですね。精力的ですし、いくつもSNSを運用されていて凄いです。

田中:SNS上だと「田中威」で同じ名前の人が多数いるんです(笑)なのでなるべく毎日流して差別化というか、違いが分かった方がいいのかなと思いまして。

 

 ーーなるほど。「私はイラストレーターの田中です」というアピールも含めて、いろんな分野のSNSで発信してらっしゃるんですね!NFTマーケットの「Adam byGMO」 にも出品していらっしゃいますね。

田中:これはお誘いいただきました。継続して、また新しい作品を描いたら出していくと思います。

 

映像メディアに自分のイラストを!

ーー絵を描くこと以外での趣味はありますか?

田中:ドラマをよく見ます。『相棒』が好きなので一番最初から観てますね。他にも先ほどお話ししたようなアニメを見たり、映画を見たりしています。

 

ーードラマ、映画、アニメなどの映像作品を観る時は、リラックスして観て楽しむ感じでしょうか?それとも映像を観て「あの場面を絵に描きたい」というような部分もあるのでしょうか?

田中:そうですね…リラックスして楽しみますが、やはりどこかに記憶が残っていて、その気持ちを再現してというのはあるかもしれません。

『文豪少年!〜ジャニーズJr.で名作を読み解いた~』挿絵

ーー今まで手がけた作品の中で思い出に残ってることや仕事はありますか?

田中:ずっと思い出に残ってると言うと、去年のWOWOWオリジナルドラマ『 文豪少年!〜ジャニーズ Jr.で名作を読み解いた〜』という番組で、8話の森鴎外、高瀬舟の船のシーンを担当させていただいたことです。私は夕日の風景と、船を二つ描き、それを組み合わせて番組内ではアニメーションにして動かしていました。

 

ーーこれはどんなところが思い出になりましたか?

田中:テレビを見た時に自分の名前が最後にクレジットとして出たというのは、やっぱり感動しますね。映画の仕事もいくつかしましたが、思い出深いです。

 

ーーイラストレーターとして一番幸せに感じる瞬間、逆につらかった瞬間がありましたら教えてください。

田中幸せと感じるのは、納品した時に「やり切った!」と思った時です

辛かったことは、かなり以前ですが突然、同じようなクリエイターの方に「無料で描いてくれ」と依頼されたことですね。さすがに不快感を覚えて、お断りしました。 

 

ーー今後、やりたいお仕事や目標にしていることはありますか?

田中テレビの仕事、特に朝ドラのオープニングなどの仕事がしたいです!やはり、映像メディアの仕事は憧れの場所ですね。

 

ーー朝ドラは土地と縁が深いものも多いので、京都や広島、嵐山のモチーフがあったらぜひともやっていただきたいですね!

田中:それは是非描きたいですね。それから、小説の装画もやってみたいです。昔から『ガンバの冒険』が好きでしたので、ガンバの装画のお仕事があったら、是非やってみたいです。さまざまなシーンが思い浮かびます。

 

ーーその思い浮かんでいる情景がお仕事になり描けたら、素敵ですね!とても見てみたいです。

田中:それから、創作イラストアプリ『pib』の3周年企画で「pib展という展示会が原宿であり、「pib3周年記念 みんなのイラスト展」というハイライト展示に参加予定です。ぜひ見に来ていただけると嬉しいです。(2022年8月27・28日 LIFORK原宿 WITH HARAJUKU 3F開催・株式会社Sozi主催)

 

 

本人のお話から、とても自然な一面と芯のある一面を兼ね備えたお人柄を見ることができ、描かれるイラストそのままの印象が伝わってきた。

イラストレーター歴が長く仕事をされる中、コンテスト応募や絵の更新も積極的に活動されている姿勢は、是非見習いたいと思うインタビューだった。

インタビューに答えてくれた人

田中威(Twitter:@BRC07560/Instagram:@tanaka_takeshe

京都在住、宝塚造形芸術大学卒業。イラストレーターズ通信会員、協同組合日本イラストレーション協会(JILLA)組合員。
物語性の強いイラストが多く、主な仕事に『スカイマーク2020カレンダ−』(7月、9月、10月、11月担当)、WOWOWオリジナルドラマ『 文豪少年!〜ジャニーズ Jr.で名作を読み解いた〜』(8話 森鴎外 高瀬舟の船のシーン担当)などがある。

執筆者


間 早菜木 (Twitter:@Aldebaran_oO 
親しみのあるキャラクターやちびきゃら多めのイラストレーター。主にweb用キャラクターイラストを制作しています。

編集者


kao(twitter:@kaosketchHP
イラストレーター・GENSEKIインタビューライター。空気感や表情が伝わる表現を目指す。
ファンタジーとSFが好き。名古屋在住。