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「サイゼリヤ」間違い探しの画風はどのようにして生まれたか。イラストレーターTHE ROCKET GOLD STARに聞く

こんにちは。ライターの斎藤充博です。

 

誰もが知っているファミリーレストランの「サイゼリヤ」。そこにはメニューと一緒に「まちがいさがし」が置かれています。

とても難しいことで有名なこのまちがいさがしですが、イラスト自体がすごく素敵です。描いてあるキャラがかわいいのはもちろんのこと、線の一本一本に表情があるように感じられます。

まちがいさがしなので、長時間このイラストを見つめることになるのですが、それでもぜんぜん飽きません。むしろ細かく見るほど楽しくなってくるイラストだと思います。

描いているのは、イラストレーターのTHE ROCKET GOLD STARこと、山崎秀昭さん(以下、山崎さん)。職業としてイラストを描いている人には複数の画風を描き分けることが多い印象がありますが、山崎さんはこの画風のイラストしか描かれていません。

QBB(六甲バター株式会社)のキャラクター「Qちゃん」

ドムドムバーガー ドムドム応援プロジェクト

 

そこで今回は山崎さんに「どのようにして独自の画風を生み出したのか」をおうかがいしてみました。この記事を読むと

  • 唯一無二の画風の見つけ方
  • 自分のイラストの価値の高め方

こんなことのヒントが見えてくるかもしれません。

お話を聞いた人

THE ROCKET GOLD STAR(山崎秀昭)

大阪芸術大学美術科を卒業した後にイラストレーターに。サイゼリヤの「まちがいさがし」、QBB(六甲バター株式会社)のキャラクター「Qちゃん」、神戸市環境局ごみ分別キャラクター「ワケトン」 などで知られている。

ライター(絵も)


斎藤充博
ライターだけど、マンガ制作もする。ときどきイラスト単体での発注をもらえることもある。自分のイラストやマンガにもっと発注が来ないかな……と思っている。サイゼリヤでは辛味チキンが好きです。

就職が嫌だから、イラストレーターに

斎藤
まず、山崎さんがイラストレーターになった流れからおうかがいしたいです。山崎さんは大阪芸術大学卒業ですよね。やはり学生時代からイラストを描かれていて、イラストレータになられたんですか?

山崎
大学でやっていたのは抽象画です。大きなキャンバスに、気の向くまま、わけわからんものを描くみたいなことをしていました。
いかにも「アート」という感じで、イラストレーションとはかけ離れた世界ですね。

 

斎藤
では、なぜイラストレーターに……?

 

山崎
就職したくなかったんですよ(笑)。クラスメイトは美術の先生になったり、塗料のメーカーに入ったりしていました。でも、スーツを着て、満員電車に乗って、定時に会社に行くみたいなことは、僕にはつらいだろうなと。実際にやったことはないですけどね。それでイラストレーターになろうと思ったんです。

 

斎藤
意外な動機……。でもわかります。僕は実際にスーツを着て、満員電車に乗って、定時に会社に行く仕事をしていたこともありましたが、結局続きませんでした!

イラストレーターを名乗ったけど仕事がない!

斎藤
大学卒業後、すぐにイラストレーターになったということですね?

 

山崎
そうです。「就職なんかしなくても、イラストレーターになればすぐに売れるだろう」って思っていたんですね。これは根拠のない若さゆえの自信。

在学中にイラストレーションの実績があるわけでもない。イラストレーターを名乗っていても、何者でもないんです。

現実は厳しくて、ここからアルバイト生活が始まります。絵を描く仕事とはなんの関係もない、居酒屋です。

 

斎藤
まったくゼロの状態からのスタート。厳しそう。

 

山崎
これは後から気づいたんですが、イラストレーターとして独立する人って、デザイン事務所や出版社で経験を積んでいる人が多いですよね。
そういう場所で仕事の流れや業界の常識を知って、さらにはある程度のツテも得ている。僕は本当になんにもわかっていなかったんです。

関西から東京の出版社に持ち込みの日々

斎藤
その頃の山崎さんはどういう活動をしていたんでしょうか?

 

山崎
とりあえず、ファイル(ここではイラストレーターの作品見本集のこと)を作りました。
そして住んでいる神戸から、東京にそのファイルを持っていくんです。とりあえずは東京だろうと。でも、何も知らないから、どこに行ったらいいかわからない。

 

斎藤
どうしたんですか?

 

山崎
雑誌の奥付には、出版社名と、所在地と、電話番号がかいてありますよね。それを見て、片っ端から「関西から来た者ですが、いまからファイル持ってっていいですか?」って電話する。

 

斎藤
それで会ってくれるものなんですか?

 

山崎
これが、ぜんぜんダメでね(笑)。その時に「電話するから断られるんだろう」と思いました。ならアポ取りなんかしないで、編集部に突撃することにしたんです。

斎藤
断られて、さらに行動力が上がっている。……突撃の方が難易度が高いのでは?

 

山崎

昔の編集部はいまみたいにセキュリティがしっかりしていませんからね。行けば入れたんです。そして一番入口に座っている新人の編集者に対して「編集長おねがいします」と言う。

新人さんは「編集長おねがいします」なんて言われたら「取引関係のお客さんが来ているんだな」って思うじゃないですか。それで会ってはもらえたんです。そう簡単に仕事はもらえませんが(笑)。

初めての仕事は間違えて行った『CanCam』

斎藤
笑いながらお話しされていますが、相当の苦労ですよね……。初めての仕事はどんなものだったんですか?

 

山崎
ファッション誌の『CanCam』でしたね。編集部のフロアに着いて、エレベーターが開いたら、編集部員がみんな縦巻きロールのお姉さんで。「こりゃ間違えた!」って思ったんですが、仕事はもらえました。そのときたまたまモデルの人のエッセイ連載があって、その題字を描かせてもらえたんです。

 

斎藤
メジャー雑誌じゃないですか! ヒキが強いといいますか……。

 

山崎
でも、題字は一回描けばそれをずっと使い回すから。仕事はそれっきり。持ち込みは続きます。

 

斎藤
ああ、確かにそうですよね……。そんな持ち込みをどのくらいやっていたんですか?

 

山崎
3年くらいはやっていたんじゃないですかね。でも途中で編集さんに「ファイルはわざわざ持ってこなくても、送ってもらえれば見ますよ」って言われて。それ以降は郵送しています。
関西からわざわざバイトを休んで行く必要はなかったんです。

 

斎藤
なんとなくですが、そうなんじゃないか……と思っていました。

ポストカードを描きながら「売れる」作風を練り上げていく

山崎
持ち込みと並行してやっていたことがあります。ポストカード作りです。

 

斎藤
ポストカード……?

 

山崎
当時、雑貨屋さんや、カフェでかわいいイラストやおしゃれな写真がついたポストカードが売られていたんですよ。

 

斎藤
確かに! そういう文化ありましたね。

 

山崎
僕の作ったポストカードも置いてもらえないかと思って、雑貨屋さんに売り込みに行っていました。だいたい断られるんですけど。それでも20軒行くと、1軒くらいは置いてもらえる。

 

斎藤
(もはや就職した方がラクなんじゃないかと思うくらいのガッツだ……)

 

山崎
そんな中、神戸で一番有名なポストカード専門店に置いてもらえることになりました。1回目に行ったらダメで、2回目に行ったら「2回来るやつはおもしろいな」って言ってくれたんです。

 

斎藤
おお……。やりましたね!

 

山崎
問題はここからですよね。お客さんには、店内に無数にあるポストカードの中から、自分のものを選んでもらわなくちゃいけない初めて自分の画風に悩んだんです。

僕は線を描き込んでいくのが苦手で。この段階でもう苦手なことは一切止めようと思いました。そもそもディック・ブルーナさんのミッフィーちゃんが好きなんで、あのくらいシンプルにしてみようと。それなら得意だし。

とにかく一瞬で手に取ってもらうために、
線はハッキリさせよう、
細密に描き込むのは止めよう、
背景は一色で塗りつぶそう、と。

そしたらだんだんと売れるようになっていきました。大学を卒業して、5年くらいでほぼ現在の画風になりましたね。

斎藤
ポストカード屋さんで確立された画風だったんですね!

自分の需要は周りが教えてくれる

斎藤
持ち込みしていた雑誌のカットの方はどうなりましたか?

 

山崎
雑誌の方は「子ども向け雑誌」と「主婦向け雑誌」を中心にたくさん依頼が来るようになりました。コンビニ行くと、そこに置いてあるそれらのすべてにイラストを描いている、なんて時期もありました。

 

斎藤
すごい……。

 

山崎
僕は自分の需要がどこにあるのかがわかっていなかったんですね。
出版社に持ち込みするときも、ちょっとオシャレなカルチャー誌から持ち込んでいて(笑)。でもそこじゃなかった。自分の需要を自分で考えてもしょうがなくて、周りに教えてもらうものだと気づきました。

 

斎藤
イラストレーターとして軌道に乗り出して、居酒屋のバイトは辞められたのはいつごろでしたか?

 

山崎
30歳くらいだったと思います。本当はもうちょっと早く辞められたようにも思うんですが、一応そこまで続けていましたね。

イラストは「黒のサインペン」で「コピー用紙」に描く

斎藤
画風が確立したということで、山崎さんのイラストの作り方を教えてほしいです。使っている道具はなんですか?

 

山崎
ぺんてるの黒のサインペンです。紙はコピー用紙。ペンや紙を特殊な物にすると、廃番になったときが大変なんですよね。描き心地が変わってしまうから。だから、絶対に廃番にならなそうなものから選んでいます。

山崎さんから提供いただいた実際に使われている紙とペン。

 

斎藤
画材というより、文房具ですね。確かにずっとありそう……。なによりコンビニで買えるのが強いですね。これを使って、どんな風に描くんですか?

 

山崎
まず依頼をもらったら、イラストのラフをサインペンで描いて、送ります。そしてOKが出たら、下描きをせずに、コピー用紙にいきなりキャラクターを描きます。

 

斎藤
下描きしないんですね!

 

山崎
僕は一発で描いているから、めちゃめちゃ早いんですよ。そして、イラストに出てくるすべてのキャラクターの全身を描いています。他の物と重なり合って、隠れる部分も描くんです。

それを一体一体スキャナで取り込んで、デジタル化します。パソコンで色を付けて、レイヤーにして、配置するんです。

 

斎藤
ちなみに、一発描きで失敗したらどうするんですか? 修正液を使ったりするんでしょうか?

 

山崎
失敗したら新しい紙に描き直しですね。細かい修正はデジタル上ですることもありますが。

イラストの清書は朝の9時から12時まで

斎藤
山崎さんのような画風だと、ちょっとした線のブレが、イラストに大きい影響を与えてしまいそうな気がします。その点は大変じゃないですか?

 

山崎
それは本当にその通りですね。最近では集中力を高めるために、イラストの清書は朝の9時から12時までの3時間だけと決めています。ヘッドホンして、爆音で音楽かけて、その時間だけは休みなしで一気に描く。

山崎さんが実際に作業されている事務所

山崎
そして、週に1回パーソナルジムで、トレーナーに肩こりを改善するトレーニングをしてもらっています。そして2週間に1回は鍼灸師に鍼を打ってもらってますね。

 

斎藤
僕は指圧師でもあるのですが(唐突な属性追加ですいません)、身体を使って繊細な作業をする人に定期的なメンテナンスは必要ですよね。身体が疲れていると、どんなにがんばっても思った通りの線を出すのは難しいんじゃないかなと思いますね……。

イラストの単価を上げるためには

斎藤
僕もときどき仕事でイラストを描くことがあるのですが、自分のイラストにどうやって価値を持たせたらいいのか……と悩むことがあります。山崎さんはどう考えていますか?

 

山崎
イラストって、同じ時間を費やして、同じようなカットを描いても、依頼によって値段がぜんぜん違いますよね?

 

斎藤
そう、そう。本当にそうなんです! 

 

山崎
僕も初期の頃からイラストの単価を上げるということはすごく意識しています。……でも、自分では価格を決められないんです。自分のイラストの価格は周りが決めることだから。

そこで重要なのは、自分のイラストがいろいろな人に知られるよう、できるだけメジャーな場所で仕事をするということになります。

 

斎藤
それが基本にはなりますよね。

 

山崎
いますぐ使えるテクニックとしては、価格を尋ねられたときに「まぐれでもいいから、いままでで請けた一番高い金額」を提示する、とかね。若い頃にはよくやっていました。

 

斎藤
えっ。そんなこと公表していいんですか?

 

山崎
ぜんぜん問題ないですよ。ちょっと嘘をついているような気分になるかもしれませんが、実績があるなら嘘じゃないです(笑)。

 

斎藤
これ、イラストレーターだけじゃなくて、ライターでも使えるな……。

 

マネージャーをつけよう

山崎
そして、次の段階としては、
「マネージャー」をつけることですね。

斎藤
その発想はまったくなかったです……!

山崎
価格交渉は、どうしてもフリーランスの弱いところですよね。
できるだけ高い値段で仕事をしたいけれども「これで断られたらどうしよう」とか「常識外れの金額を提示しているんじゃないか」とか思っちゃいませんか?

 

斎藤
いや、本当にその通りです。ライターでも、イラストでも、いつもそう思っています。

 

山崎
僕は以前広告代理店に勤めた経験を持つ、知見のある知り合いにマネージメントをお願いしています。

金額の交渉のほか、仕事の受注やスケジュール調整、内容によってはクライアントとの打ち合わせもお願いしているので、より作業に集中しやすい環境が整いました。

 

斎藤
自分にマネージャーをつけるなんて、なにか不相応な気がしてしまいます……。
まだそこまでイラストの仕事が多くない人でも、マネージャーは付けるべきでしょうか。

 

山崎
イラストレーターって、交渉が苦手だったりすることが多いと思うんですよ。そもそも、言葉でコミュニケーションするのが苦手だから、絵を描いているというのもありますよね。

そこを補うために、自分をちゃんと理解してもらった上で、一緒にやっていける人を早めに見つけられたらと思うんです。

確かに、最初の方は、お金の面で難しいかもしれないですよね。ただ、マネージャーに毎月決まった金額を支払うのが難しかったら、歩合でお願いするとか。いろいろ工夫してみるといいといいんじゃないでしょうか。

 

斎藤
マネージャー……。絶対に付けたいという気持ちになってきました……。

自分の作風の見つけ方

斎藤
そもそも交渉ができるのも、山崎さんのような魅力のある独自の画風があってのことだと思います。それはどうやって身につければいいでしょうか?

 

山崎
好きなイラストレーターの模写を繰り返してみてください。そうすると、自分は何が得意で何が苦手かがだんだんわかってくる。そうすると自分が描けるものが絞られてきます。

そうしたら、苦手なことは全部やめて、どんどん削ぎ落とすんです。後は残った部分をどれだけを伸ばしていけるか? ということになると思うんです。

 

斎藤
削ぎ落とす……。僕は、どんどん付け加えていくのかと思っていました。

 

山崎
よく「いろいろな画風で描けた方がいい」って言う人が多いと思うんですよ。僕も何度もデザイナーさんにそう言われてきました。

確かにそれができると、一瞬だけ間口は広がります。でも「絶対にこの人に頼みたい」ということにはならないんですね。だから、僕は聞いているフリだけしていました(笑)。

 

斎藤
自分のいいところを伸ばそうとしているときに、考えすぎて逆に潰してしまうことってあると思うんです。それを防ぐにはどうしたらいいと思いますか?

 

山崎
僕は失敗してもぜんぜんいいと思うんですよ。若いときに雑誌の持ち込みや、ポストカード作りと並行して、イラストの公募にも出していました。これも最初はうまくいかなかったです。後から賞をもらえたりもしましたが、
公募に落ちたときには「自分の人格や生き方に問題があるから落ちるんじゃないか」と思いました。

でも落ち込んだ後に長所と短所を発見できることもあります。

それに、画風が変わる人なんてたくさんいるし、正解も別にないですからね。とにかくいろいろぶつかってみることです。

GENSEKI編集部より
このメディアを運営しているGENSEKIでもイラストのコンテストは行われています。

GENSEKI 募集中のコンテスト

この記事のライターにアドバイスするとしたら……?

斎藤
……最後に無茶振りを承知でアドバイスお願いします。僕のイラストをより魅力のあるものにするためにはどうしたらいいでしょうか?

(ゲンセキマガジンの過去記事「自主出版、ベルリン移住、マンガの準備マンガ。独自の生き方を試し続ける香山哲に聞く」のイラストを見ていただきました)

 

山崎
(しばし見る)……
いいと思いますよ。なにか味がありますよ。そうですね、アドバイスするとしたら「もうこれ以上うまくならない方がいい」ということかもしれません。

 

斎藤
うまくならない方がいい! ……もっとうまくなった方がいいと思っていました。完全に予想外です!

山崎
このイラストがうまくなってしまったら、「うまい人」の中で競うことになります。それはすごく大変なことなんですよ。上の方の人は、本当にすごいから。だから味の方が絶対に大事。

 

斎藤
うまい人の中で絶対に争いたくないです……。争うことを考えたこともありませんが……。

 

山崎
音楽でも同じようなことってあると思うんですよ。歌や演奏がうまいから売れるとは限らないでしょう。

 

斎藤
すごくよくわかります。ひょっとすると、ライターでもそうかもしれません……。

 

山崎
ただ、「うまくならないようにする」って、ものすごく難しいんです。一番難しいかもしれません。

 

斎藤
ううむ……。

 

山崎
だから、そこはどうにか、味を保つようにしてみたらいいんじゃないでしょうか。がんばってみてください。

 


 

というわけで、THE ROCKET GOLD STARこと、山崎秀昭さんでした。最後は完全に僕の個人面談になってしまいましたが……。

山崎さんからは「うまくならないようにする」という言葉をいただきました。僕はインタビュー終了後に、このアドバイスについてずっと考えていました。

 

「うまくならないようにする」というのは「体系化された技術に頼らずに、あくまでも自分だけで考えて研鑽を続ける」とも解釈できるのではないでしょうか。

それは山崎さんのこれまで歩いてきたイラストレーターとしての道のりにどこか似ているようにも思えてくるのです。山崎さんの「うまくならないようにするって、難しい」という言葉が重たく響いてきませんでしょうか。

 

……あっ! そうだ! 最後に僕のマネージャーになってくれる人を募集しまーす!

お話を聞いた人

THE ROCKET GOLD STAR(山崎秀昭)

WEB:the rocket gold star official website
Twitter:@therocketgolds1
Instagram:the_rocket_gold_star

企画・取材・執筆:斎藤充博