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GENSEKIでプロアシスタント集団「スタジオアッツー」のスタッフを募集。その後どうなったのかを聞いてみた

こんにちは。ライターの斎藤充博です。

以前僕は、マンガ家から「プロアシスタント」に転向し、プロアシスタント集団の「スタジオアッツー」を率いているアッツーさんにインタビューをしました。

▼詳しくはこちらの記事からどうぞ

magazine.genseki.me

なんとこの記事がきっかけで、GENSEKIが協力しスタジオアッツーのスタッフを募集することになりました(募集は既に終わっています)。

▼こんな募集でした

lp.genseki.me

この募集から、実際に11名の方がスタジオアッツーのスタッフになりました。2023年1月の末からそれぞれアシスタント業務を行っています。……そして、およそ4か月が経ちました。

GENSEKIからスタジオアッツーに行った人達は、元気でやっているのか?
スタッフの目線から見たスタジオアッツーはどうなのか?

今回はアッツーさんと、スタッフ2名(ちーぼこさん、わわゆかさん)にそれぞれインタビューを行いました。

GENSEKIでスタッフを募集してみてどうだったか

まずはスタジオアッツーの代表であるアッツー(佐藤敦弘)さんにお話を伺いました。

お話を聞いた人

アッツー(佐藤敦弘)
背景作画歴29年のプロアシスタントであり、プロアシスタント集団の「スタジオアツー」の代表。『ROOKIES』『シャーマンキング』『DEATH NOTE』『NARUTO -ナルト- 』など有名作品のアシスタントを数多く経験している。

斎藤
GENSEKIでスタッフの募集をすることになった時には、期待感などはありましたか?

 

アッツー
正直なところ、そこまで期待感が高かったわけではないですね。ただ、やってみないとわからないし、僕は外部の人と連携して企画をしていくのが好きなんです。そこでGENSEKIさんと募集をすることにしました。

 

斎藤
募集した結果、11人がスタジオアッツーに入ることになりました。これだけの人が一気に入ることって、いままでありましたか?

 

アッツー
これは初めてですね。普段は2~3日に1人くらいのペースで新しい人が入ってくるというイメージです。もっとも、最初の2か月くらいで来なくなってしまう人が多いですね。10人入って、残るのが2人くらいでしょうか。

僕は来る者拒まずで、やる気があればスタジオアッツーに加わってもらいますが、その後の指導は厳しいです。ですから、どうしても心が折れてしまう人もいるんです。

マンガ家をやめて「プロアシ」になったら世界が広がった。「背景作画スタジオ」アッツーに聞くアシスタントの世界より。初めての人だと、リテイクが数十回に及ぶことも珍しくないそうで……

斎藤
なるほど……。GENSEKIからのスタッフは、現在6人が残っていると聞いています。そういった意味では、ちょっとだけ定着率はよさそうですね。

 

アッツー
そうですね。ただし今回の募集では、入ってくれる日数がちょっと少な目の人が多い印象がありました。

 

斎藤
いろいろと、他の仕事と掛け持ちしたい人が多いのかな……。ちなみにアシスタント業務としてのスキルどうだったでしょうか?

 

アッツー
絵のスキルは通常の募集と同じですね。今回のGENSEKIからの募集では経験者の人も何名かいました。

ただ僕から見ると、まったくの初心者でも、経験者でもレベル感はほぼ変わりません。そのくらいプロアシに求められているレベルは高い、ということです。

 

斎藤
絵の世界は厳しいですね……。4か月くらい経ちましたが、GENSEKIから入ったスタッフの人達は、職場に慣れていったり、成長していっているでしょうか?

 

アッツー
4か月くらいだと、人によっては、リテイクの数が減ったりすることもありますが、そこまで絵のスキルが向上するということはありません。ただし、みんな「絵を描く仕事の責任感」は理解してくれたと思います。

 

斎藤
責任感。具体的にはどういうことでしょうか?

 

アッツー
当たり前のことですが、誰かの仕事が遅れていたら、誰かが補完しなくてはいけません。スタジオアッツーで締め切りまでに求められているクオリティのものを上げないと、マンガ家の先生に迷惑がかかってしまいます。これを理解しているのが責任感ですね。

 

斎藤
それは、どんなふうに理解してもらうんでしょうか?

 

アッツー
スタジオアッツーは、ほとんどの人がリモートで作業をしていて、連絡手段にはグループLINEとmocri(作業通話用アプリ)を使っているんです。

そして夜になると、スタッフの質問と僕の指導で、グループLINEが活発に動くようになる。この様子を見ているだけで、責任感を理解してくれるようになりますね。

斎藤
いま聞いただけでも、現場の緊張感が伝わってきてヒリヒリしてきました。そういう「感覚」がわかるのって、みんなで仕事をすることのメリットでもありそうです。

これから、スタジオアッツーの展望はありますか?

 

アッツー
スタジオアッツーは現在スタッフが68人いますが、これを100人に増やしたいですね。

 

斎藤
100人! 現在でもだいぶ多いとは思いますが、いよいよ大所帯になってきますね。

 

アッツー
出版社からの依頼が多くて、現状スタッフは全く足りていないんです。これまでは少年マンガや青年マンガが多かったんですがいまではBL、少女マンガ、成人向けマンガ、Webtoon……と多岐にわたっています。依頼された案件をお断りせざるを得ないことも増えてきました。

 

斎藤
すごい人気ですね!

 

アッツー
いまはマンガ家になりたい人はたくさんいるんですが、アシスタントを希望する人は本当に少なくなっています。そうした状況も依頼の多さにつながっているようですね。僕としては、マンガ家になりたいのなら、絶対にアシスタントの経験はあった方がいいと思いますが……。

 

斎藤
なるほど……。スタジオアッツーでは、将来マンガ家としてデビューしたい人の参加もOKですよね。

 

アッツー
もちろんです。スタジオアッツーとしての一番の目標は、スタッフがマンガ家として連載デビューしてもらい、卒業してもらうことです。

いま、やっと芽が出始めている段階で、何人かのスタッフの連載デビューが決定しました。「スタジオアッツーにいると、デビューできる実力が付く」とみんなに思ってもらいたいですね。

斎藤
人数は必要だし、その一方で卒業もしてもらいたい。こうなってくると、引き続き募集はとても重要になってきますね。今日はありがとうございました。

スタジオアッツーで働いてみてどうだったか

ここからはスタジオアッツーのスタッフとして活動されているちーぼこさんとわわゆかさんにお話をお伺いしたいと思います。

お話を聞いた人

ちーぼこ
GENSEKI:ちーぼこ @chiboco 

わわゆか
GENSEKI:和和 侑珈 @Yuka_wawa 

斎藤
お二人は、これまでどんなふうにマンガに関わってきたのでしょうか?

 

ちーぼこ
高校生の時に集英社の少女マンガ誌でデビューしました。そこから単発で何本か読み切りを掲載してもらっていたのですが、連載には至れなかったです。

高校を卒業して美大に通いながら、有名なマンガ家先生の下でアシスタントをしていました。

その後に結婚して地元に戻ります。子育てをしながら、エッセイマンガや、地方の雑誌などに簡単なマンガを描いていました。

 

わわゆか
私は、高校生の時からマンガを描いていて、大学卒業した後くらいのタイミングで出版社に持ち込んだりしていました。

アシスタントもやってみたかったんですが、出版社の方に「マンガの賞を取っていないと無理」と言われてしまいました。自分でもアシスタント先を探していたんですが「アシスタント経験者のみ」の条件が付いているところしか見つからず、なかば諦めていました。

 

斎藤
お二人がスタジオアッツーに応募したのは、どのようなきっかけだったのでしょうか?

ちーぼこ
絵の仕事で食べていきたいという思いは、常にずっとあったんです。特に最近、子育ても落ち着いたので、なにかできないかと。そんな時にGENSEKIの募集を見て応募してみました。

 

わわゆか
たまたまGENSEKIでの募集を見て「初心者でもいいんだ!」と思って応募しました。自分の実力に自信があったわけではないので、力試しのような気持ちでした。

 

斎藤
アッツーさんとリモートで面談されたと思うのですが、どうでしたか?

 

ちーぼこ
アッツーさんは、元気ハツラツとしていて、快活な感じでしたね。すごくハキハキとお話しされていて、仕事のできる方なんだなって思いました。

 

わわゆか
わたしも同じことを思いました(笑)。それに、私はアッツーさんがテレビに出演されているのを1度見たことがあったんです。その時はおもしろい人だな、という印象でしたが、イメージ通りでした。

 

斎藤
お二人とも、同じくらいの時期にスタジオアッツーに参加されたんですよね。リモートで作業していると思いますが、それぞれのことは知っていましたか?

 

ちーぼこ
わわゆかさんのことは、グループLINEで見ていました! GENSEKIから来た人ということで親しみがありました。わわゆかさん、上手ですよね。経験者なんだろうな、と思っていました。

 

わわゆか
そんな(笑)。ちーぼこさんこそ上手です!

 

斎藤
それぞれが仕上げた絵もわかるんですね。

 

ちーぼこ
作業に必要な連絡は、基本的にグループLINE上でおこないます。ちなみに、リテイク指示もグループLINEで行うので、ちょっとした「公開処刑」感はあります(笑)。

 

わわゆか
とくに最初の方は、ありましたね……(遠い目)。

 

斎藤
入ったばかりの時は、いろいろと慣れていないことも多かったと思いますが、どうでしたか?

 

ちーぼこ
私はあがり症なので、すごく緊張していました。人間がみんな怖く見える(笑)。でも、作業通話用アプリのmocriで話してみると、みんなフレンドリーで、いろいろ教えてくれて、ありがたかったです。すぐに慣れました。

 

斎藤
mocriでは、けっこう話をするんですね。

 

ちーぼこ
そうですね。時々、マンガ家の先生本人がmocriに来ているときもあります。さっき「慣れた」とは言いましたが、そういうときはさすがに緊張してしまって、私は何もしゃべれません……(笑)。ただ、マンガ家の先生が話していることを聞けるだけでも、本当に貴重なことですね。

 

わわゆか
私は、最初に依頼された原稿のチェックが緊張しました。上からの俯瞰の背景で、ちょっとパースが難しい構図だったんです。

リテイクはありましたが、パースの狂いを指摘してもらって、やり直したらOKをいただきました。

 

斎藤
現場の雰囲気が伝わってきますね……。アッツーさんは「指導で心が折れてしまう人もいる」と言っていましたが、お二人はどうでしたか? まだ続いているので、心は折れていないと思うのですが、大変だったのではと思います。

 

ちーぼこ
最初の原稿はリテイクがたくさんありました。10回くらいはあったかな……。それは本当に脂汗をかきながらやっていました。木に雪が積もっている、というものだったのですが、それがなかなか描けなくて。

ただ、次からはだいぶリテイクは減りました。

 

わわゆか
私はリテイクの内容がよくわからなかったことがあって、それは大変でしたね。他のスタッフさんに教えてもらったりして、最終的にはOKをいただきました。

 

斎藤
大変なことがあったときには、どうやって乗り越えていますか? 心が折れずに済んだ方法を知りたいです。

ちーぼこ
いったん、寝ています(笑)。寝れば回復するので。あとはやって、やって、やって……。そして、他の人が「うまい!」と言われているのを見て「私もうまいって言われたい!」って思う。それでがんばっています。

 

わわゆか
私も「うまいって言われたい!」って思うのは一緒で(笑)。それに、ずっとやりたかった仕事なので、ここしかないと思ってがんばっています。

 

斎藤
二人とも、すごくガッツありますね! 絵を描くのが本当に好きという気持ちが伝わってくる……。 アッツーさんのところに行って、よかったことはなんでしょうか?

 

ちーぼこ
私に関しては、よかったことしかないです。いろいろなことを学べるし、描けなかったものが描けるようになって、成長を感じます。それに、絵で食べていきたいという夢に近付いているんです。

わわゆか
私が一番よかったと思っているのは「こういう背景がよい」とわかったことです。目が鍛えられたと思います。いままでいろいろなマンガを読んでいましたが「よい背景」の基準って、ちょっとわかっていませんでした。

 

斎藤
最後に、今後の目標などはありますか?

ちーぼこ
これまで、マンガを描くことからはちょっと遠ざかっていたんです。でも、スタジオアッツーなら、アッツーさんがネームを見てくれるし、仲間もいます。もう少し先になるかもしれないけど、また自分の作品を作りたいと思っています。

 

わわゆか
私も、アッツーさんの元でがんばりながら、マンガ家を目指していきたいです!

 

斎藤
そうなんですね。アッツーさんに「今後のスタジオアッツーをどうしていきたいか」を聞いたところ「一番の目標は、スタッフがマンガ家として次々に連載デビューして、卒業してもらうこと」と言っていました。みんなの気持ちが一致していますね。素晴らしい!

 

ちーぼこ
あ……でも、マンガ家じゃなくて、プロアシもいいなって思うこともあります(笑)。

 

斎藤
いい話にまとまりかけていたのに、惜しかったですね(笑)。ただ、GENSEKIの募集がみなさんにとっていい結果になったようで、よかったです。今日はありがとうございました。

 


GENSEKIでの募集はまずますうまくいっていたようで、なんだかホッとしました。スタジオアッツーはまだまだ人手不足とのことです。この記事を見て興味が出た人は、アッツーさんに直接コンタクトをとってみてはいかがでしょうか。

note.com

そして、ちーぼこさんとわわゆかさんはアシスタントをこなしながらも、自分の作品を作っていきたいとのこと。ビッグになっても、GENSEKIマガジンのことを、そして斎藤のことも忘れないでいただけるとうれしいです……!

 
企画・取材・執筆:斎藤充博