GENSEKIマガジン

モノづくりを広げる・支えるメディア

世界堂に額装の考え方を教わる!「おれのイラストが額に入れた途端にこんなに輝くなんて……」

こんにちは。ライターの斎藤充博です。僕は「ライター」や「Web記事の編集」を主な仕事にしていますが、イラストを描いたり、マンガを描いたりもしています。

 

僕の絵はこんな感じです。みんなからイラストは「味がある」とは言ってもらえるのですが「うまいね」とはなかなか言ってもらえません。なんとかして、僕のイラストを手っ取り早くいい感じに見せる方法はないだろうか。できればめんどくさい練習はなしで……。

そこで思いついたのが、イラストを印刷して「額装」して、部屋に飾ってみること。額縁がついていれば、自分では何の努力もせずに、イラストがいい感じに見えるかもしれない。ひょっとするとイラストの仕事がもっと増えたりして!

ということで額縁や画材を数多く取り扱っている「世界堂 新宿本店」にやってきました。

こちらにはオーダーフレームの額も含めると2,000種類以上の額が置いてあり、作品を持ち込むとテイストにあった額を選んでくれます。また、額と台紙を購入すれば、額装の手数料は無料です。

……とはいっても、今回僕が用意したのは「デジタルイラストをコンビニのプリンターで印刷しただけのもの」。下の方に印刷の枠がでちゃっているし、こんなペラペラも額装を頼んでいいんでしょうか……?

左が斎藤(筆者)、右が額装をしてくれる世界堂の川村さん

 

川村
まったく問題ありません! 私がイラストのテイストにあった額装をいたします。

斎藤
めっちゃ頼もしいです。今日はよろしくお願いします。

川村
斎藤さんのイラストを見て、真っ先に思いついたのが、木の額縁です。こちらはいかがでしょうか?

斎藤
えっ……。この段階でめっちゃいいですね。なぜこの額を選んだんですか?

川村
作品を拝見して、大変温かみのあるイラストだと思いました。木の額はそんな雰囲気にあっていると感じました。

 

斎藤
イラストの内容をちゃんと見てくれるんですね。なんかそれもうれしいな~。もう、これで決定でいいと思います。

川村
ありがとうございます。ちなみに今回は取材ということなので、あえて「ミスマッチな額縁」を選ぶとどうなるかもお見せしましょうか?

斎藤
撮影の「取れ高」を考慮していただいている……。ぜひお願いします。

川村
あえて作品のイメージにあっていない、黒シルバーで細かい装飾がしていある額縁を選んでみました。

 

斎藤
これは……(笑)。笑っちゃいますね。あっていないにも程がある!  ただ、ミスマッチすぎて、これはこれでおもしろいのでは? という気もしてきました。ギャグっぽい感じで。

 

川村
そうですね。もちろん作者に「演出の意図」がある場合は、こういった額縁もいいと思います。

 

斎藤
演出の意図、なるほど……。

 

川村
他にも、この作品にはおすすめできない額があります。例として挙げさせていただきますね。

川村
シンプルな黒いアルミの額縁です。

 

斎藤
そんなに悪くないとも思いますが、なんでこれがダメなんでしょうか?

 

川村
一見すると、あっているようにも見えますよね? ただ、このように人物が画面いっぱいになっているイラストに黒い額縁をつけてしまうと、作品が冷たい印象に見える可能性がありますし、日本人的な感覚で人によっては「遺影」のように見えてしまう可能性もあります。

 

斎藤
なるほど。それは気づきませんでした……。

まとめてみました。左から、木、黒シルバー、黒のアルミ。額で印象が変わるというのがよく分かりますね。

台紙の色を選ぶ

川村
次に「台紙」の色を選びましょう。世界堂 新宿本店ではおよそ64色の台紙をご用意しております。

斎藤
これはどう考えたらいいのかな……?

 

川村
基本的に、絵の中に入っている色にあわせて考えると、まとまりやすいと思います。たとえばこちらの作品ですと「背景の白」か「床のベージュ」のマットを使うといいんじゃないでしょうか。

 

斎藤
なるほど……。ちなみにイラストのズボンの色に焦げ茶色が使われていますが、それにあわせるのはダメですか?

川村
決してダメということはないのですが、私としてはちょっと重たくなり、空間を閉じ込めるような印象になってしまうのではないかと思いました。

 

斎藤
いろいろ考えて提案していただいているんですね。それでは、ベージュでお願いします!

川村
承知しました。ここから額装の作業に入っていきます。

額装を進める

1.マット(台紙)をカットする(作業の都合上、ベージュではなくて黒いマットをカットしています)

 

川村
作品の寸法を測り、カットするマシンに入れると、一瞬でカットできます。

 

斎藤
こんなニッチな機械があるんですね。おもしろいです。

あっという間に機械が切ってくれます。すごいや!

2.テープ、ブラシ、クロス、手袋などを準備

 

川村
手袋も用意したのですが、今回はそこまでデリケートな素材でできている作品ではないため、素手で作業を行います。

 

斎藤
お願いします!

3.作品の上にマット(台紙)を置いて、額装専用のテープで留める

4.再びひっくり返して、ブロアーで埃をとる

 

川村
埃は額装の天敵なので、十分に注意しながら進めてきます。なお、いまブロアーを使っていますが、パステルなどの作品にはブロアーは使いません。

 

斎藤
パステルにブロアーを使ったら、粉が飛んで色が混じっちゃいますもんね。

6.作品の表面に保護材(今回はアクリル板)を置き、保護材のシートを剥がす

 

川村
昔はこうした保護材にガラスが使われることが多かったのですが、近年では重いものが敬遠され、軽く割れにくいアクリル板が多く使われています。

 

斎藤
絵ってだいたい高いところに置いておくものですから、ガラスよりもアクリル板の方が安心できますね。

 

川村
そうですね。ただし、アクリルはガラスに比べて細かい傷がつきやすいというデメリットもあります。汚れがついた時は、メガネ拭きなどの柔らかい布で拭いてください。

7.額縁をとりつける

8.ひっくり返して、額縁のトンボ(裏板押え)で固定

9.完成!

 

斎藤
すごいです……! 少なくともコンビニでコピーしてきたものには思えない。っていうか、おれって自分で思っていたよりもずっと、絵がうまかったんだな??? 信じられない……。

川村
もう十分にアート作品になっているかと思います。

 

斎藤
マジですか……。いっぱい絵を描いて額装してもらって、個展開きたいな……。

 

川村
最近では、デジタルイラストを印刷して額装し、個展を開く方も多いですね。

 

斎藤
そうなんですね。決めた。僕もいつか個展やります。その時は世界堂さんに額装してもらおう……。

自分の絵の前でポーズ。誇りを持って「私が描きました」と言える。

 

イラストコンクール受賞者の方の絵を額装してみた

さて、今回僕のイラストだけでは不安だったので(こんなショボいイラスト、額装してもしょうがないでしょう、なんて言われるんじゃないかと思っていた)GENSEKIのイラストコンクールで入賞した方の作品も、許可を得て印刷してきました。GENSEKIは、このGENSEKIマガジンの母体となっているサービスで、定期的にイラストコンテストを行っています。

 

用意したイラストはこちらの2枚。

この2作品については、コンビニではなくてキンコーズで印刷しております。

 

斎藤
この2作品についてはどういった額がいいでしょうか。

 

川村
まず『エルフのまじない屋』は細かくいろいろな色が使われていて、とてもゴージャスな印象を受けますね。こういった作品にシンプルな額を使うと、額が負けてしまうんです。

川村
なので、このようにゴールド系で彫りがあり、少し細身の額があっていると思います。

 

斎藤
なるほど~。これはすごくよくあいますね。

 

川村
次に台紙の色を選ぶのですが、いろいろな色が考えられるので、逆に悩ましいですね。斎藤さんのイラストと同じような発想で、クリーム色の台紙を使ってイラスト全体に広がりを出してもいいです。紺や黒の台紙を使うと、イラストが浮き上がるような印象になると思います。これは好みの問題ですね。

 

斎藤
この場で作者さんに聞くわけにもいかないので、僕が決めちゃいましょう。紺でどうでしょうか。高級感が出て、まじない屋のミステリアスな雰囲気にピッタリだと個人的には思いました。

 

川村
いいと思います。それでは額装してみますね。

\完成/

斎藤
すごい! 元のイラストがいいと、さらによくなりますね。高級感というか、品格がグッと出てきたような印象を受けます。

 

斎藤
こちらの『原石』はどうでしょうか?

川村
現代の建物が背景になっているので、さきほどのようなゴージャスでアンティークな額縁はあわないでしょうね。いまシンプルなアルミの額縁をあわせていますが、このように主張しないものを使った方がバランスが取れると思います。

 

斎藤
クールな感じであっていると思います。

 

川村
台紙は、背景の暗闇にあわせた黒を使うのが一番いいのではと感じました。絵が浮き上がって躍動感が強調されると思います。

 

斎藤
黒を使うのもよさそうですが、たとえば「ピンク」とかじゃダメですか? イラストに使われている色なので。

 

川村
ピンクですか。それもいいとは思いますが、かなり「趣向が出てきてしまう」かな、と思いました。

 

斎藤
第三者である僕の趣向が出てしまうのはよくないですね(笑)。それでは黒でお願いします!

 

川村
それではこちらで額装をしますね。額装のポイントを少しお話ししますと、このような黒っぽい作品は埃が目立ちやすいので、より注意しなくてはいけません……。

\完成/

斎藤
めっちゃクール!!!! 額も台紙も黒にしたの正解ですね。躍動感が強調されるの、よく分かります。

今回の額装にかかった金額

斎藤の絵

  • 額:3,650円
  • マット:690円
  • 合計:4,340円

『エルフのまじない屋』

  • 額:7,160円
  • マット:1,040円
  • 合計:8,200円

『原石』

  • 額:6,620円
  • マット:1,040円
  • 合計:7,660円

※世界堂で額を買うと、額装の手数料は基本的に無料です。
※2022年11月現在の税抜きの価格です。

額装で作者に喜んでもらえるのが楽しくて仕方がない

斎藤
ありがとうございました。なんといいますか、額装をしていただいてイラストが「作品になった」という気がしてきました。本当に額装をしてもらってよかったです。

 

川村
普段デジタルで描いていると、印刷せずに終わる方も多いとは思うんです。もちろんディスプレイ上で見るだけでも楽しいと思うんですが、印刷をして額装して、インテリアとしてお部屋に飾っていただくと、また違った楽しさがあるんじゃないでしょうか。

斎藤
川村さんが額装をするときに気をつかう部分はどこでしょうか?

 

川村
一番気をつかうのは、作品の取り扱いですね。お客さまが大事にされていて、思い入れのあるものですから、慎重に取り扱います。作品は替えの利くものではないので……。

 

斎藤
なるほど。今回はデジタルイラストを印刷したものなので、たまたま替えが利くものではありましたが、多くの場合は一点物になりますもんね。

 

川村
そうですね。ただ、今回額装したようなプリント作品についても同じように取り扱いには気をつけています。作者様の思いがこもっていることには変わりがありませんから。

 

斎藤
そうだったんですね。なんか僕の作品をコンビニでプリントしてきたのが申し訳ないような……。

ちなみに、川村さんが額装をしているときに楽しいことなどはありますか?

 

川村
やはり奇麗な作品を見ているとテンションが上がりますね。さらに額装をしてイメージ通りになるとさらにテンションが上がりますし、その額装でお客様に喜んでいただけるともっともっとテンションが上がります。額装はとても楽しい仕事なんですよ。

 

斎藤
川村さんに楽しく額装をしていただいていると思うと、もっともっとイラストを持ち込みたい気分になりますね。今日はありがとうございました。

 


 

というわけで、世界堂新宿本店に額装をしてもらった話でした。この時に額装された絵を家に飾っているのですが……。

いい。

いいよなあ。

いいなあ~。

 

いつも目に入るの、なんかすごくいいのです。デジタルで絵を描いているみなさん、印刷して額装してもらうの、おすすめですよ!

取材協力

世界堂

Web:世界堂・新宿 - 文具・画材・額縁の専門店
Twitter:@SEKAIDOofficial

今回の記事で額装に興味を持った方はぜひ世界堂の「額縁総合ガイド」のページを見てください。額装について網羅的に詳しく情報が整備されています。

世界堂:額縁総合ガイド
企画・取材・執筆:斎藤充博