こんにちは。ライターの斎藤充博です。最近、インターネットを見ていたら、こんな広告を見つけました。
経済ニュースアプリ、NewsPicksの広告です。気になるのは「※できるだけ文字を減らしました」というキャッチコピー。ニュースから文字を減らすって、どういうこと???
気になったので、実際にNewsPicksに課金して中を見てみます(完全に広告に釣られているのが気になるのですが……)。そこには、本当に文字を減らしたニュースがありました。ざっと見てください!
文字が少なくなっている代わりに、イラストや図がたくさん用いられていて、めちゃくちゃにグラフィカルなデザインのニュースになっているんです。
ぜひ上記のリンクを一度クリックして中を見てください。記事のすべてを見るには課金が必要なのですが、無課金の範囲でも「文字を減らしたニュース」の雰囲気はつかめると思います。
それにしても、なんでこんなニュースを作っているんだろう? 見やすいのはわかるけど、手間がかかりそうだし、デザイナーさんは陰で泣いているんじゃないの?
左:筆者、中央:NewsPicks九喜さん、右:NewsPicks黒田さん
そこで、今回はNewsPicksのデザイナーさんに突撃してみました!
- なぜニュースをグラフィカルにしているのか
- どのようにしてグラフィカルなニュースを作っているのか
- デザイン領域にこだわらず「なんでもやる」
こんな話を聞いてきましたよ~!
お話を聞いた人九喜洋介
株式会社ユーザベース NewsPicks事業 執行役員CDO(Chief Design Officer)。コンテンツ・クリエイティブの責任者として、多数のオリジナルコンテンツを手がける。
お話を聞いた人黒田早希
株式会社ユーザベース NewsPicks事業 グラフィックエディター。NewsPicksオリジナルコンテンツのデザインを手掛ける。
インタビューした人斎藤充博
スマホばっかり見てるライター。最近目が疲れいて、確かに文字が多いとしんどい……。
斎藤
そもそも、NewsPicksってどんなサービスなんでしょうか? 使ったことがない人もいるかもしれないので、改めて教えていただけますか。
九喜
NewsPicksは「新しい視点を集めて、経済の未来をひらく」をミッションにした経済ニュースのサービスです。具体的にはこの中に大きく分けて3つの特徴があります。
1つ目はニュースのキュレーションです。提携媒体が発信しているニュースを集めて、読者の方に提供しています。
2つ目はNewsPicksが作成したオリジナルの記事・動画です。こちらは有料になっていて、月額の課金が必要になります。
3つ目はこうしたニュースにつくコメント機能の提供です。NewsPicksでは専門家を含む様々な方にニュースへのコメントをしていただいています。
斎藤
私が目にした「※できるだけ文字を減らしました」と広告されているようなグラフィカルなニュースは、2つ目の「NewsPicksが作成したオリジナルのニュース」ですね。
九喜
そうですね。グラフィカルなニュースを前面に出しているメディアって、他になかなかないと思うんです。そこはNewsPicksの独自性になっていると考えています。
スマホで経済ニュースを読んでもらうためのデザイン
斎藤
そこでおうかがいしたいのですが、なぜこのようなグラフィカルなデザインのニュースを作っているんでしょうか?
九喜
「いかにスマホで経済ニュースを伝えるか」を考えた結果としてグラフィカルになっています。NewsPicksで扱っているのは経済ニュースなので、普通に解説をするとかなりの長文になってしまうんです。もともと長い文章って読まれにくいのですが、スマホの小さい画面ではさらにそうした傾向は強くなっていると思います。
ただ、文章を減らしすぎると、情報量が少なくなってしまいます。それではニュースとしての意味がなくなってしまいますよね。そこをグラフィックを使うことで、バランスを取っています。
斎藤
文字が多いと読まれないというのは、ライターとしてすごくよくわかります……。
九喜
さらに、グラフィックのメリットに感情を伝えやすいことがあります。これは文字が並んでいるだけではなかなか難しいですよね。まず、読者の感情に訴えて興味のきっかけを生み出してしてもらい、さらに他の記事を読んで、深掘りしていただきたいという狙いもあります。
斎藤
ニュースとは基本的に事実を伝えるものだと思いますが「感情を伝える」ってどういうことでしょうか?
九喜
「難しいニュースがわかった」瞬間って、おもしろさや感動があると思いませんか?
我々デザイナーはニュースをグラフィカルな形にしますが、そのときにニュースの内容をきちんと理解しなくてはいけないんです。我々は経済の専門家ではないので、理解するのは大変です。でも専門外だからこそ感じられる「理解できたときのおもしろさ」を読者に伝えたいと思っています。
ある意味、わかりやすく作るのは当たり前。その先まで行けるかどうかが勝負……みたいなところはありますね。
デザイナーが主体になって見せ方を作っていく
斎藤
こういったグラフィカルな記事の作り方も気になります。どうやって作っているんでしょうか?
黒田
まずは、デザイナーが記事のベースになるテキストを記者から受け取ります。ちなみにこのテキストを我々は「原作」と読んでいます。
斎藤
「原作」! なるほど……。
黒田
ここからはデザイナーによってやり方がまちまちなのですが……。原作から大ラフを切るデザイナーもいますし、冒頭からIllustratorなどで画面を作り始めるデザイナーもいます。
掲載する具体的な内容や細かいデータについては、デザイナーが記者とやりとりしながら詰めていきます。「ちょっとよくわからないから追加のデータが欲しい」とか「トピックの順番を入れ替えた方がわかりやすい」とか「言い回しを変えたいけれど大丈夫?」のような感じです。また、記事に登場するイラストも必要があればデザイナーが描いています。デザイナーの制作期間はだいたい1週間ほどですね。
九喜
普通だったら、もっと分業をしていますよね。一番上に編集者がいて、その編集者からライターやデザイナーに外注の指示が行く。「明日ゲラを渡すので、半日で確認して戻してください」……みたいに。
斎藤
うんうん、そうですよね。
九喜
でも、我々はそうしたやり方はしていません。記者から原作を受け取った時点でどんどん制作を進めていきます。変更や修正をかける場合はその都度やっていきます。
斎藤
お話を聞いていると、デザイナーと言いつつも、仕事の半分くらいは編集をしているような気がします。
九喜
そうですね。我々の肩書きは「グラフィックエディター」です。
斎藤
グラフィックエディター……! その方がしっくりきますね。
九喜
NewsPicksのオリジナルコンテンツのデザインは、基本的に内製です。だから記者とデザイナーのやりとりも「ここまでは私の仕事で、あとは専門の方にお願いします」のような受発注の関係にはしていません。
斎藤
だから、デザイナーと記者が双方向にやりとりをしながら記事を作れるんですね。
九喜
NewsPicksが扱っているのはニュースです。できるだけ早く伝えたいし、報じるギリギリまで最新の内容を盛り込みたい。極端なケースだと、今日起こってることを明日には伝えなきゃいけないこともあるんですね。こうした状況だと密接した一つのチームの中で制作をしている方が有利かな、とは思いますね。
デザイナーの範囲外でもコミットしていく
斎藤
こうした体制をとることによって、逆に大変な部分はありますか?
九喜
一般的なデザイナーはデザインのプロとしてデザイン領域に責任を持っていると思います。NewsPicksのグラフィカルな記事の場合は、デザイナーも共同執筆者として名前を載せることで、記事自体に責任を持つことになります。大変ではありますが、そこにやりがいを感じられるデザイナーが集まっている気がします。
斎藤
「デザイナーだからデザイン以外のことはやらない」という職人気質な人には難しそうですよね。ただ、みなさんは基本的にデザイナーのキャリアを持って入社されているんですよね。デザイン以外の領域にも取り組むにあたって、戸惑いなどはありましたか?
黒田
「絵も描くんですか?」「編集もするんですか?」みたいに思ったこともありました。でも仕事を進めていくと「課題があって、それを自分がどんなふうに解決するか」どうかだけなんですね。未知の領域でも、自分なりに考えてやるしかない、というのはあります。
九喜
きっと新聞や雑誌、テレビなどの伝統的なメディアも、草創期は一人の人間がいろいろな領域の仕事をしていたと思うんです。それがだんだんと効率化を求めて分業が進んでいく。内容も細かくなって、どんどん洗練されていく。そう考えると、僕らのやり方は原始的ですよね。今後変わっていくかもしれませんが。
黒田
最近のNewsPicksでは動画にも力を入れています。私は入社するまで動画のデザインをしたことはなかったのですが、「次は動画でよろしく」みたいな感じの依頼も来ます(笑)。
斎藤
大きな目的のために「やれることはなんでもやる」みたいな精神、かっこいいですね……!
会心の記事
斎藤
これまでに作った記事の中で、特に思い入れがあるものはありますか?
黒田
特に反響が大きかったのは半導体の記事ですね。12,000以上Pick(「保存」「おすすめ」「コメント」などの読者からのリアクション)されています。これはNewsPicksの中でもトップクラスのPick数ですね。2020年の記事ですが、未だによく読まれています。
斎藤
ああ……。半導体ってニュースでよく聞きますが、わかっていないです。半分電気を通して、半分は電気を通さないって聞いたことがあるけど、それがどういうことなのかわからない……。そもそもなんでニュースになるのかもわからない……。
黒田
まさに、そういった疑問をまとめて理解していただこうという記事ですね。
斎藤
僕は絶対に読んでおいた方がいいですね……。(読んでみる)あ、この「半導体君」みたいなキャラがかなり好きです。こいつ物知りなんだな~。口調も端的で知性を感じる。
ソファでくつろぐ半導体君
「半導体を学べば、ニュースが10倍「面白く」なる」より
帆船に乗る半導体君
「半導体を学べば、ニュースが10倍「面白く」なる」より
斎藤
……ふと思ったのですが、単純に基礎的な解説がしてあるだけじゃなくて「読んだ人を絶対取りこぼさないぞ」「わからない人にも絶対に理解してもらうぞ」みたいな強い意思を感じますね。実は、他のグラフィカルな記事を読んだときにもそう思いましたが。
九喜
ニュースを読んでいるとき、専門的な用語の理解が足りなくても、そのまま読み進めてしまうことってあるじゃないですか。そうすると読み終えても結局よくわからない。NewsPicksとしては、そうならないようにしたいという思いは強く持っています。ただ、用語の説明を全部してしまうと、すごく長くなってしまうんですよね。どのくらいの量にするかは悩ましいところです。
斎藤
僕もライターとして「わかりやすい記事」を作ることを期待されることが多いんですが、わかりやすく作るのって本当に全部理解していないといけないんですよね。大変さがよくわかります……。
黒田
新NISAの記事もかなり読まれました。
九喜
これも「絶対伝える」という気持ちで、何も知らない人向けに、どうやればゴールまで行けるか? ということを逆算して、解説のときにつまづくポイントを洗い出して……みたいなことを記者とデザイナーがタッグを組んで制作していました。
斎藤
イラストが3DCGですよね。さっきの半導体の記事とはテイストが違いますが、イラストやデザインにおけるトンマナの指針はありますか?
九喜
記事の内容に応じて表現方法を選んでいます。このデザイナーは3DCGが得意なんですね。わかりやすく伝えるためだったら、手描きのイラストを描いてもいいし、写真を使ってもいいし、3DCGでもいいんです。
黒田
手描きのユルい絵柄の人もいますよ。
斎藤
ホントだ……。親近感湧きます。失礼を承知で言ってしまうと、これなら僕でも描けなくもないような……。
九喜
斎藤さんのイラストもいいですよね。それに、これまでの斎藤さんの記事をいくつか拝見しましたが、記事の構成に関しても我々と考えていることはかなり近いんじゃないかと思いました。文章の途中で読者に理解してもらうためのイラストや漫画が入っていますよね。
斎藤
実は、僕もそう思っていたところでした。僕も読者の理解のためなら、文章もイラストも漫画も写真もなんでも使うという方針なので……。意外なところで通じあえてうれしい!
求められるものは「好奇心」と「コンテンツへの熱量」
斎藤
こういったグラフィカルなニュースを作成するための資質には、どんなものがありますか?
九喜
好奇心だと思います。まずデザイナー自身が「ニュースを理解する」っていうことがとても大切なんです。いままでわからなかったことを理解したら、誰かに伝えたくなる、追体験してほしくなる。その気持ちを大切にしてほしいんです。
それから、自分で考えた「わかり方」をどうにかして他人に伝えることを楽しいと思える気持ちも必要だと思います。逆に必要ないのは、経済に対する知識ですね。
斎藤
きっと方法論において正解がないのかなと思いました。その分、作り手の気持ちが重要になるんでしょうね……。
黒田
そうですね。私はコンテンツへの熱量が必要不可欠だと思います。デザインを良くするというよりも、コンテンツそのものをおもしろくすることが重要だと思うんですね。「これ、わかってもらえるかな」と、どれだけ考えられるか。そのために、デザインだったり、イラストを使っているという感覚です。
九喜
「わかっていないのにわかっているフリをして話をする」ってこと、世の中にはたくさんあるじゃないですか。でも、わかっているフリだと、そこから何かを考えていくのは難しい。そういったことを少しでも減らすために、NewsPicksは役に立ちたいと思っています。
斎藤
ニュースの画面デザインの話を聞きに来たつもりだったんですが、僕のようなライターにも学びが多いお話でした。ありがとうございました!
というわけでNewsPicksのグラフィカルな記事の話でした。
「デザイナーがデザイン以外の仕事を受け持つ」って、ネガティブな「あるある」としてよく語られることが多いと思います。
でも、NewsPicksではデザイナーがデザイン以外の仕事を受け持つからこそ、新しい形の記事が作られています。自分の範囲外の仕事も需要があるなら、積極的に関わってみるのもいいかもしれません。
僕はライターで、イラストも描きますが、それに加えてデザインをちょっとでも覚えたら、もっとやれることが増えるかも……? そんなことを考えた取材でした。
取材協力
NewsPicks
Web:NewsPicks
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