こんにちは。ライターの斎藤充博です。みなさん「かわいいキャラクター」って好きですか?
最近だとTwitter発の「ちいかわ」がかなりのブームになっていますよね。僕も「ちいかわ」は大好きで、家にはコミックスがありますし、LINEスタンプも使っています。コンビニに行くとちいかわとのコラボ商品もいろいろあります。
さてGENSEKIマガジン読者の皆様、こうした「かわいいキャラクタービジネス」って、ものすごく儲かりそうだな~って思ったことはありませんか?
僕も以前からずっとそう思っています。なんなら自分もかわいいキャラを作って、一発当ててみたい。きっとこれを読んでいるGENSEKIマガジン読者のあなたも、一度くらいはそんなことを夢見たことがあるのではないでしょうか。
そこで、僕もかわいいキャラクターを作ってみました。その名も「まゆねこ」です。
まゆねこは、「まゆげに気持ちが出る猫」です。なかなかかわいいと思うのですが、これだけではまだキャラクターのかわいさが伝わりきっていない気もして、マンガも描いてみました。
Twitterにこのマンガを投稿してみたところ、以下のような結果に。
ある程度の反応はいただいたものの、正直僕が思っていたほどではありませんでした(「僕が思っていた」=10万リツイートして、書籍化とグッズ化の話が即来る)。
この「まゆねこ」はなにがよくなかったのか。
いろいろな商品展開をしているキャラはどんな魅力を秘めているのか。
そして「まゆねこ」はどうすればよくなるのか。
そこで今回相談したのは、ゲームデザイナー、脚本家のイシイジロウさん。著作権を利用したキャラクタービジネスに詳しく、ご自身でも多数のキャラクターに関わり、『IPのつくりかたとひろげかた』 (星海社新書)という本も書かれています。
はっきり言って、僕が10秒くらいで考えたまゆねこの相談をするには明らかにオーバースペックな方なのですが……。いいのかな。
イシイジロウ
ゲームデザイナー、脚本家。アドベンチャーゲームを中心に、さまざまな作品のシナリオ・監督・プロデュースを担当する。近年の仕事に『文豪とアルケミスト』の世界観監修、『新サクラ大戦』のストーリー構成などがある。
斎藤充博
ライターだけど、マンガを描いたり、イラストを描いたりする。できればラクして金儲けしたいと思っているので、キャラクターでお金を稼ぐことに興味津々。
まずはこの「まゆねこ」の設定とマンガを見ていただいて、率直にどう思いますか?
おもしろかったですよ。個人的な好き嫌いを言うと「好き」です。
すると、がんばってマンガを続けていけば、いつかはヒットするでしょうか?
こうしたファンシーなキャラクターがヒットするかどうか、というのは本当に予想がつかないんです。
やった! ぜひよろしくお願いします!
3つのキャラクターを成功例として考える
「まゆねこ」のようなファンシーキャラクターには大きく分けて3つの成功パターンがあると考えています。
- 「スヌーピー」タイプ
- 「すみっコぐらし」タイプ
- 「ちいかわ」タイプ
どれもシンプルでかわいいキャラということで人気が出ていると思っていました。違いがあるんですね……。
「スヌーピー」タイプ
スヌーピーは、非常に完成度の高い1枚の絵……つまり「デザイン」で勝負するパターンのキャラクターです。
1枚の絵で勝負する……? どういうことですか???
それには、まず人がキャラクターを好きになる過程について説明させてください。
ああ、なるほど……。
まさにそういうことですね。ところがスヌーピーに関して言うと、スヌーピーが出てくる物語『ピーナッツ』に触れたことのない人も多いのではないでしょうか。それなのに、みんなに好かれている。
確かに! 僕も小さい頃にスヌーピーのグッズを持っていましたが『ピーナッツ』はその時点で読んだことがありませんでした。
これはスヌーピーが1枚の絵のみでデザインとしての魅力が成立するくらいの完成度を持っているからなんです。そして、その絵がハンカチだったり、コップだったり、いろんなところにプリントされて、みんなが買っていく。特にぬいぐるみの人気は世代を超えていますよね。
なるほど~。そう考えると本当にすごいな。
斎藤さんのまゆねこがそこまでの完成度を持っているかというと……。
完成度が明らかに足りてないですね……。1枚の絵だけじゃ厳しいです。
「すみっコぐらし」タイプ
なるほど。そこで「すみっコぐらし」タイプを考えていきましょう。すみっコぐらしはキャラクター自体がもちろんかわいいのですが、それだけではありません。設定に共感を誘う仕掛けがあります。
仕掛けとは?
すみっコぐらしにはキャラが複数いて「真ん中じゃなくて、すみっこの方にいるようなキャラクター」ばかりを集めていますよね。
そうですね。「えびふらいのしっぽ」とか「ほこり」なんてキャラがいますよね。
ここで斎藤さんに質問なのですが、「すみっこの方にいるキャラクター」って、マジョリティでしょうか、マイノリティでしょうか?
すみっこにいるのだから、マイノリティだと思うのですが……。
そう思いがちですよね。でも、世の中のほとんどの人は「真ん中」にはいなくて、「すみっこ」の方にいるんです。だからすみっこの方が、意外とマジョリティなんですね。
ああ~。確かにそうですね! これが共感される仕掛けというわけか。
イシイ
例えば、アイドルグループでも「みんなセンターを目指せ!」みたいな世界があったじゃないですか。
でも、それに対抗する気持ちとして「別にセンターじゃなくてもいいじゃない」とか「最終的には一番すみっこにいる存在でもいいじゃない」というのはみんながきっとどこかに感じていたと思うんです。
そんな気持ちをキャラの世界観として提示できているわけです。
斎藤
人々の気持ちを「世界観として提示する」……。考えたことなかった……。
「ちいかわ」タイプ
3つのタイプのうちの最後、「ちいかわ」タイプというのはどういうものなのでしょうか。ちいかわとすみっコぐらしって、構造がそんなに違うのかな、って思っていますが……。
「なんかイジってみたくなる」というのはすごくよく分かります。
そうですよね。ちいかわはショートマンガで「キャラクターをイジる世界に共感する」という楽しみ方を提示しています。
なるほど……。
まゆねこはどのタイプ?
斎藤
3つのタイプの解説をいただいて、まゆねこが「スヌーピー」タイプでないことは明確に分かりました。それでは「すみっコぐらし」タイプと、「ちいかわ」タイプのどちらになるんでしょうか?
イシイ
現状の設定やマンガを読む限りでは、まだどちらの方向にも固まっていないと思います。これから斎藤さんの作りやすい方向に行けるのではないでしょうか。
斎藤
「すみっコぐらし」タイプか、「ちいかわ」タイプか、どっちが行きやすいんだろう……?
「すみっコぐらし」タイプを志向する場合は、「すみっコは自分自身だ」と思えるようにすることがポイントですね。
まゆねこは「気持ちがまゆげに出ちゃう猫」だから、「わたしも気持ちが顔に出ちゃうのよね」って共感してもらえばいいですかね?
まずそれが必要ですね。ただそれだけだと「日常のネガティブなこと」を単に消費者に突きつけているだけになってしまうんです。
「日常のネガティブなこと」を肯定してあげられるといいですね。
そうですね。さらに、キャラクターの説明の文章も単なる解説じゃなくて、メッセージにするのはどうでしょう。
変えてみたらすごくよくなりました!!! このキャラクターを好きな人同士で共感しあえるような気がする。
「ちいかわ」タイプを志向する場合には注意点があります。「ちいかわ」を読んだ人は「ちいかわは自分自身だ」というふうに共感するわけではないんです。どちらかというと「ちいかわをイジっている世界そのもの」にメタな視点で共感しているはずです。
ああ……。なるほど。分かります。読んでいると「あの過酷な世界と一緒になって、ちいかわをイジりたくなってくる」といいますか。
先ほども言ったように、まだどちらとも言えませんよね。ただ、どちらかを志向した方が、既存の成功例に近い形にはなると思います。
個人クリエイターは成功例にとらわれないというやり方もある
映画がヒットしているのに、グッズは売れないパターンなんてあるんですか?
あえて極端な例を考えてみましょう。
戦後間もない頃、天外家という旧家に生まれた奇子。奇子は明るく育っていたものの、とある事件を目撃したために、地下の土蔵に幽閉されてしまうことに……。
確かに名作なんですが、グッズを買う人は限られそう……。
このように「奇子」はキャラクターとして展開できていないんです。それでもやっぱり「奇子」が名作であることに代わりはありません。
確かに「奇子」を考えるときにキャラクター展開のことまで考えていたら、あのストーリーは生まれなかったでしょうね……。
ここまで解説してきたことと相反するようですが、マンガ家さんやイラストレーターさんが行う小規模なキャラクター展開だったら、投資に見合った勝率のことなどあえて考えないのもありです。
「まゆねこ」はどうするのか
- ファンシーキャラクターの成功例として3つのパターンがある。
参考にすると勝率が上がりそう。
「スヌーピー」タイプ
「すみっコぐらし」タイプ
「ちいかわ」タイプ - ただし個人ならこのパターンにとらわれずに思い切りやってみるのもあり。
いろいろな知見を得られたのですが、ここからどうするのかは自分次第。悩ましいです。
Twitter:@3216より
試しに「すみっコぐらし」(キャラクターに共感してもらう)の方向性でいってみたのですが、どうでしょうかね……?
イシイジロウ
Twitter:@jiro_ishii
今回の話に関連するイシイジロウさんの著書
IPのつくりかたとひろげかた (星海社新書)
ストーリーのつくりかたとひろげかた (星海社新書)