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縦読み漫画「Webtoon」ってこんなふうに作っているんだ! 編集者に制作のポイントと分業の様子を教えてもらった

こんにちは。ライターの斎藤充博です。スマホに最適化された縦読みマンガ、Webtoonが流行っていますよね。

あまり馴染みのない人でも『梨泰院クラス』(Netflixのドラマが有名ですが、原作は韓国のWebtoonです)などは聞いたことがあるのではないでしょうか。

さて、僕は先ほど「Webtoonが流行っていますよね」と言いました。既に韓国をはじめとする海外ではかなり流行しているそうですが、日本では「まだ発展途上でこれからもっと流行しそう」……という雰囲気らしいのです。

 

そこで今回はWebtoonを制作している株式会社ソラジマの編集者、志賀麗香さんにWebtoon制作の実際について聞いてみました。

Webtoonの制作にちょっとでも興味がある人、ぜひ読んでみてください。

お話を聞いた人

志賀麗香
株式会社ソラジマでWebtoonを作っている編集者。担当作品は『傷だらけ聖女より報復をこめて』『逆行令嬢の復讐計画』など。
ライター(絵も)

斎藤充博
ライター。本当にかんたんなイラストや、かんたんなコミックエッセイを描くこともある。人生がメチャクチャに不安なので、いつも新しい収入の種を探している。

Webtoonって本当に盛り上がっているの?

斎藤
まずお伺いしたいのですが、Webtoonって本当に盛り上がっているんでしょうか? 僕はそこまで詳しくなくて……。

 

志賀
世界中でかなり盛り上がっています。2021年のグローバルな売上が約4,400億円で、2028年には3兆円になると言われています。

 

斎藤
現在でもすごいけど、今後の成長見込みがハンパないですね!

 

志賀
日本においては、既存の横読みマンガが強いこともあり、まだ成長途上という段階ですね。

 

斎藤
そういえば、最近でも有名マンガ雑誌の編集者さんがWebtoonの会社に転職するというブログが話題になりました。
20年間勤めた講談社を退職しました。|ムラマツ|note

Amazonも「Fliptoon」という名称でWebtoonに参入しているみたいです。
Fliptoonマンガストアコミック 

まさに「これから」って雰囲気はありますね。

 

志賀
そうなんです。最近では本当にいろいろな会社がWebtoonに参入してきています。今年から日本でも盛り上がりが加速しそうで、とても楽しみです!

Webtoonの特徴

斎藤
先ほどAmazonが参入した話をしましたが、主にどんなアプリがWebtoonを扱っているんでしょうか?

 

志賀
日本でWebtoonを扱っているアプリの中で、一番規模が大きいのはピッコマです。続いてLINEマンガですね。他にも、comico、めちゃコミック、コミックシーモアなど……たくさんあります。

 

斎藤
こういったアプリで、1話ごとに50円から60円くらいの課金をして読むわけですよね。本のように1冊単位でお金を払うわけではなくて……。

志賀
そうですね。これがWebtoonの特徴的なところで、読者様はスマホでストーリーを読んだ後で「次回の課金をするか」を決めます。

たとえば1話から10話まであって、10話目にすごくおもしろい展開があるとしますよね。でも、9話までがつまらなかったら、読者様は離脱してしまう可能性が高いんです。

 

斎藤
紙の本だったら、とりあえず1冊最後まで読んでから、次回を買うか判断しますもんね。

 

志賀
その通りです。そのために、Webtoonは最初からスピード感を持った展開が必要になります。連載の第1話目は何度も内容を練り直して、最後の最後まであがいていますね。特に話のラストは次の課金につながるので、制作側もすごく考えています。

Webtoon『傷だらけ聖女より報復をこめて』の第1話に込めた狙い

斎藤
ここで、志賀さんが担当されているという『傷だらけ聖女より報復をこめて』についておうかがいしたいです。この第1話のラストは、どんな感じでしたっけ……?

『傷だらけ聖女より報復をこめて』©編乃肌/SORAJIMA

『傷だらけ聖女より報復をこめて』第1話

人々の傷を癒やす力を持つ「聖女」。主人公のルーアはその聖女候補生の一人である。

ルーアの能力には欠点があり、癒やす対象の症状を自分に一度移さなくてはいけない。そのためにルーアは能力を使うたびに、痛みや苦しみに耐えなくてはいけず、周囲からは「欠陥聖女」と呼ばれていた。

そんなある日、思いを寄せる騎士団長のガロットが瀕死の状態に陥いってしまった。ルーアはガロットを命がけで癒やし、数日間意識を失うことになる。

しかし、ルーアが目覚めたときには、すべての手柄は親友である聖女候補アリアンのものになっており、さらにガロットとアリアンの婚約まで決まっていた……。

 

『傷だらけ聖女より報復をこめて』は、こちらから全話読めます。
『傷だらけ聖女より報復をこめて』(comico)

 

斎藤
……うわー。衝撃的な展開! たしかに1話目からスピード感ありますね。

 

志賀
ここで読者様に感じてほしかったことは2つあります。まず「目覚めたときになんでこんなことになっているの?」という謎ですね。

 

斎藤
推理小説のように、謎でヒキをつくるわけですね。

志賀
次に、親友の聖女候補アリアンに対するヘイトを溜めてほしかったんです。

 

斎藤
タイトルが『傷だらけ聖女より報復をこめて』ですもんね。これから報復の対象になるアリアンに対しては、たっぷりヘイトを溜めてもらわないといけない……。そうじゃないとスッキリしないですもんね。

 

志賀
この2つで読者様に「なんで?」(謎)と、「アリアン許さない!」(ヘイト)という気持ちになってもらうことを目指しました。

 

斎藤
なるほど~。その試みは成功していますよね?

 

志賀
いただいたコメントを読んでいると、読者さまが悪役のギャフンを待ち望んでくださっているのがわかって、とてもうれしいです。もっとたくさんの読者さまに楽しんでいただけるようにがんばります!

Webtoonの連載を立ち上げる流れ

斎藤
Webtoonの連載をするまでには、どんな流れがあるんでしょうか?

 

志賀
連載までは、おおまかには以下のようなイメージです。

  1. 企画
    編集者が作る場合と、作家さんが作る場合の両方がある

  2. 脚本
    文章のみの脚本を作る

  3. ネーム
    マンガの設計図であるネームを作る

  4. 作画
    作画を進め原稿を作る

  5. 連載会議

  6. 制作

  7. 連載開始!

斎藤
連載されるまでは、いろいろ大変ですね……。この中で一番重要なのは、どの段階でしょうか?

 

志賀
どれもとても大切なのですが、根本となるのは企画ですね。物語やキャラをどうするかは、企画で決めていくことになりますので。

 

斎藤
それから、ネームを作る前に、脚本を作るんですね。ちょっと珍しいと思いました。

志賀
弊社では一度脚本を作るようにしています。韓国のWebtoonだと小説が原作になっているものが多く、それにならって、一度文章のみで流れを作っているんです。

Webtoonはどんなふうに分業しているの? 

斎藤
「Webtoonは分業が進んでいる」と聞いたことがあります。実際にはどんなふうに分業されているんでしょうか?

 

志賀
かなり細かく分業しています。以下のような感じで、1作品でだいたい10人くらいのチームになっていますね。

  • 作家(脚本を書く)
  • ネーム
  • キャラデザイナー
  • 人物線画
  • 人物着彩
  • 背景
  • 仕上げ

斎藤
おお……。本当に細かいですね!

 

志賀
これだけではないです。いわゆる「俺TUEEE」などのアクションだったら「モンスターデザイン」をする方が参加したり、ロマンスファンタジーだったら「衣装デザイン」をする方が参加したりします。

 

斎藤
それにしても僕がたまに描いているマンガと全然違いますね。本当に手がかかっているな~。

気になるお金周りの話

斎藤
クリエイターさんたちに、お金はどんなふうに入ってくるのでしょうか?

志賀
まず、クリエイターさん達に「制作料」をお支払いしています。これは株式会社ソラジマから作業をお願いした分の料金です。

それに加えて、作品の売り上げの一定割合をクリエーターさん達に分配するイメージです。当然、売り上げが大きければ大きいほど、クリエーターさん達にもたくさん配分されます。

 

斎藤
マンガ雑誌などでマンガを描いた場合は「原稿料」と、本にしたときに「印税」をもらえますが、システムとしてはそれに似ていますね。

 

志賀
そうですね。ちなみにWebtoonが本になることもあります。

 

斎藤
ズバリ、クリエイターさんたちは儲かるんですか? 稼いでいる人はいくら稼いでいるんですか?

 

志賀
ここでちょっと具体的な金額は伝えられないのですが……。「確実に夢はある」と申し上げておきますね(笑)。

 

斎藤
「夢」か~。ちょっとはぐらかされてしまった感がありますが、了解しました!!!

役割ごとに求められるクリエイターのスキル

斎藤
「夢はある」ということで、Webtoonの制作に参加したくなってきた人も多いんじゃないかと思います。クリエイターさんはどんなふうに選ばれていますか?

 

志賀
株式会社ソラジマではクリエイターさんを常に募集しています。ホームページの採用情報から「クリエイター登録フォーム」に行けるので、応募していただいた方の中からお願いしています。

株式会社ソラジマホームページより

斎藤
実際に株式会社ソラジマさんがクリエイターさんをアサインするときは、どんな点が重視されるんでしょうか? 

 

志賀
分業制なので、ポジション毎に期待するスキルは大きく異なるんです。具体的には以下のようになります。

  • 作家
    Webtoonらしいスピード感やヒキを意識しつつ物語をつくれるか

  • ネーム
    脚本をわかりやすく絵に起こせるか

  • 人物線画
    キャラを魅力的に、表情豊かに描けるか

  • 人物着彩
    物語や線画の雰囲気にあった着彩ができる

  • 背景
    パースなどを違和感なく描けるか

  • 仕上げ
    ライティングや影など、原稿のクオリティを上げられるような効果ができるか

斎藤
なるほど……。全然違いますね。特に「作家」は絵が描けなくても大丈夫ですよね。僕のようなライターにもチャンスあったりして?

 

志賀
その通りです。現状、作家さんはライトノベル系の小説家さんにお願いしていることが多いんですが、斎藤さんのようなライターさんにお願いできるとしたら、それもおもしろそうです!

 

斎藤
マジですか!  Webtoonが一気に身近になってきました。

 

志賀
ネームさんにも、絵のスキルは必要ありません。棒人間が描けてコマ割りができれば、大丈夫です。……もちろん、それでおもしろく見せるのは難しいことですが。

 

斎藤
分業制だと、自分のスキルにあわせて携わることができるんですね。クリエイター側にも大きな魅力かもしれない。

斎藤
……ちなみに、僕は絵も描くんですが、こういうタイプの絵はWebtoonでは必要とされないですよね……? どうですか?

 

(GENSEKIマガジンの過去記事を見ていただきました)

 

志賀
なるほど、エッセイ調のイラストなんですね……。

 

斎藤
ゴクリ……。

 

志賀
現在、株式会社ソラジマでは「ロマンスファンタジー」や、いわゆる「俺TUEEE的なアクション」といったジャンルが多いんです。

正直なところ、斎藤さんの絵では、このようなジャンルに参加していただくのは難しそうなのですが……。

 

斎藤
……やっぱり無理ですよね? 大丈夫です。僕は自分で「身の程」というものを、ちゃんとわかっているので……。

志賀

ただ、本場の韓国ではもっといろいろなジャンルのWebtoonがあって、コミックエッセイ調のWebtoonも数多く出ています。

いずれは株式会社ソラジマでも、コミックエッセイなどのジャンルに挑戦したいと思っていますし、そんなタイミングであればぜひ一緒にお仕事をしたいですね。

 

斎藤
マジですか!!! 僕の絵でもアリになる未来が来るかもしれないんだ。日本のWebtoon業界、もっとがんばってくれ~!!!

 

(補足)
「本当にコミックエッセイのWebtoonってあるの?」と思い、後ほど検索してみたところ、Amazon Fliptoonで『タルゴナの子育て奮闘記』という作品を見つけました。作者は韓国人のようで、韓国での子育ての様子が垣間見えます。本当に韓国ではいろいろなWebtoonが作られているみたいです。

こんな人と仕事がしたい

斎藤
株式会社ソラジマさん的に「こういう人に仕事をお願いしたい」というのはありますか?

 

志賀
Webtoonは週刊連載が多いため、それが可能なキャパシティがある方だとうれしいですね。

 

斎藤
重要ですね。そして、ちょっとハードルが高そう……。この時点で対応できる人は、そう多くはないのでは?

 

志賀
そうですね。ちなみに『傷だらけ聖女より報復をこめて』の人物線画を担当していただく方を探したときは、かなり大変でした。当時は株式会社ソラジマに「クリエイター登録フォーム」のようなものがなくて、私がTwitterやpixivで一人一人DMして、お声かけしていたんです。

 

斎藤
ウワー。それは本当に大変ですね……! 絵がすごく上手だったとしても、週刊連載のキャパシティがあるかどうかは、外から見てもわからないじゃないですか。声をかけても、断られる可能性の方が高いような……。

志賀
おっしゃる通りで、そのときは200人以上の方にお声かけして、決定しました。

 

斎藤
200人に声かけ! リアルな現場の話ですね……!!

 

志賀
クリエイターチームはリモートで分業しているので、どうしても文字中心のコミュニケーションになりがちなのですが、皆さま温かい方ばかりでいつも助かっています。

編集者側からのフィードバックのみならず、クリエイターさま側から「ここはこうしたい」「こうする方がもっと面白くなる!」とご提案いただくことも多いです。

このように、「作品を良くしていきたい」という気持ちをお持ちの方とお仕事がしたいなと思っています。


斎藤
クリエイターと編集者がお互いに協力しあうことが大切、ということですね。志賀さんの方で「今後こういうWebtoonを作りたい」という夢はありますか?

 

志賀
私は現在ロマンスファンタジーを作ることが多いのですが、それのみならず、現代ものやサイコホラーなど、さまざまなジャンルに挑戦したいです。

読者さまが、「これを読む選択をした自分を好きになれる」ような作品をつくることが目標ですね。

 


というわけで、Webtoonを制作している株式会社ソラジマの志賀さんでした。

僕の中に「Webtoonってこういうものでしょ」みたいな認識があったのですが、それを覆されるインタビューでした。絵が描けなくても大丈夫な工程があったり、僕のような絵でも(いまは無理そうだけど)今後は活動できるかもしれない、というのも驚きです。Webtoonのポテンシャル、想像以上に高そうです……!

取材協力
Web:株式会社ソラジマ

株式会社ソラジマではWebtoon制作を手伝ってくれる方を大募集しています。漫画家さまやイラストレーターさまだけでなく、作家さまや、編集者、ビジネス職の方も募集しております。興味が出た方はぜひ、下記のリンクから応募いただけたらと思います。

株式会社ソラジマ 採用情報
 
 
企画・取材・執筆:斎藤充博