気持ちが緩んでいくような優しいタッチのイラストを得意とし、イラストレーターとして活躍しながらもコミックエッセイ「ゆる仏道」を出版。漫画家としても活躍するヒフミヨイ氏。
漫画を描き始めたきっかけから、書籍のテーマでもあり、自身の経験や生い立ちにまつわる「仏道」の話まで、インタビューを通して詳しく伺った。
評価されなくても、実行し続ければ叶うかも
ーーまず初めに、ご自身の代表作品を教えてください。
ヒフミヨイ:代表作はイーストプレスさんから出版された「ゆる仏道」です。書籍・電子書籍ともに発売されています。
ーー「ゆる仏道」はどういった経緯で書籍化されたのでしょうか?
ヒフミヨイ:私がpixivにコミックエッセイを描いてアップしたのを、イーストプレスさんがご覧になって、お声掛けいただいたことがきっかけです。
ーー直接声がかかるということは、pixivの方で人気のあった漫画作品だったのでしょうか?
ヒフミヨイ:「お気に入り」は押していただいているんですが、バズってる、という感覚はないです。一部の方には気に入っていただいているのかもしれませんね(ニコリ)
ーー「ゆる仏道」という気になるタイトルですが、どういう内容が書かれているのでしょうか。
ヒフミヨイ:帯にも書かれているんですが、「もっと気楽に生きられる」をテーマに生きていて苦しいと思うことを仏道の本やお釈迦様の言葉を引用しつつゆるめていこう。というコミックエッセイです。
1話1話は数ページで読み切れる短編で、全部で140ページほどあるんですが、元々pixivでは3話をまとめてアップしただけでした。なので、書籍のほとんどのページは書き下ろししています。
ーー3話アップしている途中で声がかかったのですね、すごい。ほとんど書き下ろしだと、書籍化は大変な作業でしたね。
ヒフミヨイ:そうですね。ネームの作成に結構な時間がかかりました。
それに加えて、書籍化のお話をいただいてから妊娠と出産を経験したので、体調を見ながら作業していました。産前産後は産休をとったこともあり、ネームに1年、産後始めたペン入れで2.3ヶ月…納品するまでに合計2年くらいかかっています。
ーーご自身の出産を経て、2年かけて書籍化となると、渾身の代表作品ですね。pixivで投稿していた漫画が書籍になるって、嬉しいですよね。
ヒフミヨイ:すごく嬉しかったです。実はこのコミックエッセイ、他の漫画のコンペにも応募していたんですが、コンペには落ちてしまったんです。
それを、もったいないと思ってpixivに投稿したら、イーストプレスさんがみつけてくださって…まさに捨てる神あれば拾う神ありって感じですね。
ーーこれまでは出版社さんへの漫画の持ち込みが、業界の方に漫画を見てもらうきっかけの大半だったと思うのですが、今はSNSも発達していろんなところにチャンスが広がってますよね。
ヒフミヨイ:本当にそうですね。pixivにアップロードして不特定多数の方に見てもらえることで、読者ができるだけではなく、出版につながりました。
一社に働きかけてダメでも、諦めるにははやいと身をもって感じましたね。
「もっと気楽に生きられる」ー辛い経験をきっかけに踏み出した漫画家としての一歩
ーー漫画のコンペにも参加されたとのことですが、ずっと漫画を描かれていたんですか?
ヒフミヨイ:元々は、デザイン会社に勤めていたので、デザインやイラストの作成がメインでした。「ゆる仏道」の後は、育児漫画を描いていることが多いですね。
ーーデザインやイラストから、漫画を描くようになったきっかけはなんですか?
ヒフミヨイ:最初のきっかけは、流産を経験したことです。すごく苦しかった時に、その気持ちを昇華させるために「ゆる仏道」を描き始めました。
自分の辛い気持ちや経験を、『死にたくなっても、みんないずれ死ぬから慌てなくて大丈夫』というメッセージとして伝えたくて漫画にしたんです。
それがたまたまイーストプレスさんの目に留まって、本腰入れて漫画を描くことにしました。
ーーでは今は漫画のお仕事をメインにされているんですね。
ヒフミヨイ:正直、漫画の仕事は現在開拓中で、イラストやデザインの方が仕事の割合は多いです。6月末から始まるクリエイターEXPOというイベントで、今年初めて漫画ゾーンで出店する予定です。
イラストやデザインのお仕事は、以前イラスト、デザインゾーンで参加したことがきっかけでお受けしている案件も多いので、漫画の仕事が取りたいと思っています。
今はポートフォリオなど、資料の準備で忙しいです(笑)
ーー精力的に営業活動されていますね…!
ヒフミヨイ:子どもが生まれて忙しかったので、久々の営業活動で仕事に繋げたいですね。
ーーイラストや漫画のお仕事をされていて、嬉しかったことはなんでしょうか?
ヒフミヨイ:書籍の販売サイトにレビューを見に行っているのですが、「ゆる仏道」の『図書館で読んで、手元に置いておきたくて購入しました。』と書かれていたレビューがすごく嬉しかったですね。
ーー『手元に置いておきたい』嬉しい言葉ですね。ヒフミヨイさんの優しい作風、手元に残したくなる気持ちもわかります。
ヒフミヨイ:ありがとうございます。私自身うっかりすると気分が落ち込んだり、心が固くなったり、緊張してしまうので、表に出すイラストや漫画では、ほっこりと気持ちが緩まるような、見た方の心が和むのを意識して描いています。
ーー素敵な作風ですね。普段はどんな画材やツールを使って絵を描いているんでしょうか?
ヒフミヨイ:デジタルで、パソコンと液晶タブレットを使用して描いています。
ソフトはデザイン会社時代から使い慣れているPhotoshopがメインです。漫画のコマと絵をPhotoshopで描いて、効果やトーンはCLIP STUDIO PAINTでつけることもありますね。
ーーハイブリットに使い分けていらっしゃるんですね。元々お仕事はデザイン系とのことですが、絵はどこで勉強されたんですか?
ヒフミヨイ:大学生の頃に絵を描きたいと思うようになったので、大学進学後に短期のスクールや専門学校に通っていました。
大学では文学部の表現芸術学科を専攻して、ざっくりと表現芸術に興味があったんです。
そこで民俗芸能や芸術を学んだことで、自分も何か作りたいと思ったことをきっかけに、日本画をはじめとした絵を学び始めました。
漫画も、KADOKAWAさんが主催する「コミックエッセイの描き方講座」を受講して、ノウハウを教わっています。
ーー社会人になってから学ばれているわけですね。
ヒフミヨイ:そうですね。デザイン会社にいた時もデザイン業務のかたわらで勉強しました。
お釈迦様の処世術
ーー「ゆる仏道」では仏道について描かれていますが、仏道に興味を持ったきっかけやその魅力はなんでしょうか?
ヒフミヨイ:魅力…でいうと、宗教観や倫理というより、人生の処世術のような感覚が好きですね。
例えば「夢は諦めなければ叶う」という言葉をよく聞きますよね。それをお釈迦様の場合は「夢を叶えたければ実行しなよ」と言います。
ーーそう聞くと、すごく今っぽい、現実的な言葉を残しているんですね。ヒフミヨイさんはどこで仏道に出会ったんでしょうか。
ヒフミヨイ:私の曾祖父母がお寺の住職さんと尼さんなんです。
なので、小さい頃から身近な存在だったというのもありますが、しっかり知るようになったのは小池龍之介さんの「考えない練習」や、みうらじゅんさんの「マイ仏教」といったエッセイ本を読んだことが大きいですね。
エッセイにあったブッダの言葉で、気が楽になったり、背中を押されるような気持ちになれた。
ーー幼い頃から、人生に仏道が組み込まれていたんですね。
ヒフミヨイ:それでいうと、4月8日がお釈迦様の誕生日なんですが『花まつり』というお祝いをするんです。
Twitterでお寺さんやお坊さんとリツイートしあって、「仏」だけに「ホットケーキ」を食べたり、カレーを食べたり、その様子の写真投稿を頻繁にしたり、みんなでオンライン花まつりを盛り上げています。
ーーそんなイベントがあるんですね!オンラインまで仏道が進出していて、驚きました。
自分の体験を漫画やイラストで表現していきたい
ーーこれまで絵のお仕事をしてきた中で、幸せだなと思ったことや、逆に辛かった思い出などはありますか?
ヒフミヨイ:漫画や書籍の感想をいただけるのが、純粋に嬉しいです。
辛いことで言うと、自分が思い描いている理想に、自分の技術とスピードが追いつかないと感じる時ですね。
もちろん仕事なので、納期を守らないといけない中で、自分の技量に納得できない、何度もやり直してキリがなくなってしまうときは辛いです。
ーー納期が長すぎても、目につくことが増えて修正のキリがなくなってしまうこともありますよね。
ヒフミヨイ:そうですね。なので、締め切りという目安があることで、ある程度切り捨てられたり、現在の自分の実力を知ったり、自分を追い込むことができるのは、ある意味メリットでもありますね。
ーー尊敬している漫画家さんや影響を受けた作品はありますか?
ヒフミヨイ:漫画が好きで本当に毎日かなりの数を読んでいるので、好きな作品はたくさんありますね…。
その中でもこやまこいこさんの作品が好きです。特に「次女ちゃん」が好きで、ユーモアがあって登場人物の切り返しが面白くって、それでいてほっこりしたストーリー運びで尊敬しています。
かっぴーさんやnifuniさんの「左ききのエレン」は、読んで描くぞ!という情熱が湧きますね。
あとは、GENSEKIさんの公式サポーターでもある出水ぽすかさんはファンで、画集も持っています。画力が凄くて、震えます(笑)みなさん大好きな漫画家さんです。
ーーこれから描いていきたい漫画や、やってみたいお仕事について教えてください。
ヒフミヨイ:アラフォーになって運転免許証を取ったので、その体験談を漫画で描きたいですね。育児をしながら教習所に通って、免許取得まで結構苦労したので、その話をエッセイとして描きたいです。
イラストでいうと、子どもと一緒に絵本や児童書を読むことが多いこともあって、児童書のお仕事にも興味がありますね。自分の絵のタッチも、丸めで頭身の低いイラストが得意なので、生かして描いていきたいです。
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過ごしてきた環境や生活に寄り添い、等身大の「エッセイ漫画」として表現していくヒフミヨイ氏。
優しいイラストタッチからも滲み出る穏やかさは、インタビュー中の所作からも伺えた。
漫画未経験からの書籍出版をきっかけに、漫画家として本格的に始動し出したヒフミヨイ氏の、これからの活躍が楽しみだ。
ヒフミヨイ(Twitter:@hifumi123yoi45/Instagram:@hifumiyoi)
心の栄養になる絵や言葉を用いて、荒れた心にそっと花の咲くような優しいエッセイ漫画を描く。イースト・プレスよりコミックエッセイ『ゆる仏道』、Jパブリッシングより『マンガで楽しむ シリウス旅行記』発売中。