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自分と大好きな絵と真正面から向き合い続ける ー イラストレーター/漫画家・陽気なおじさん

2021年よりフリーランスの漫画家・イラストレーターとして、さまざまな企業案件を受注しながら活動している陽気なおじさん氏。

リアルとファンタジーが溶け合う作品たちは、時にどこかアンニュイでダークな雰囲気をも纏う。

方丈海氏の小説イメージイラストコンテストで特賞に輝いた作品についてインタビューを進めていくうちに、陽気なペンネームとは裏腹に、実直に絵に向き合う姿勢と行動力から、フリーランスとして活躍し続けるためのヒントが見えてきた。

イメージしたのは「ふとした日常」のワンシーン

ーーこのたびは特賞受賞、おめでとうございます!こちらの作品のこだわりのポイントを教えて頂けますか?

陽気なおじさん:ありがとうございます。まず方丈海さんの小説を読んで感じたのが「日常の中の特別感」でした。そのイメージを前面に出したくて日常の中で撮った写真に見えるような場面設定にこだわりました。より身近に感じられるように、両手を広げた彼女の服装はユニクロの服を参考にして描いています。

『雪と彼女と(短編小説イメージイラスト)』

『雪と彼女と(短編小説イメージイラスト)』

ーー暮らしの中のワンシーンのような作品を目指されたんですね。

陽気なおじさん:そうです。日常の中でわざわざ写真におさめたくなる場面ということは、小説内の「彼」にとって、とても大事なシーンなのだろうと思いました。雪が降ってきて、それを写真におさめるシーン…それはどんな時だろう?と想像した時に、小説には描かれていませんが、“夜にたまたまコンビニへ出掛けた時に雪が降ってきた“というシチュエーションを思いつきました。

ーー日常の幸せが凝縮された場面描写が素敵です!制作時間はどれくらいかかりましたか?

陽気なおじさん:トータルで3~4週間くらいです。そのほとんどを構図に費やし、どういう方向から場面を切り取るかを3週間くらい悩みました。業務外やお風呂の時間もずっと考えていて、頭の中で構図がバチっと決まってからは仕事の合間に少しずつ、1週間くらいかけて描きました。普段は1作品にかける時間は2〜3時間、遅くて2〜3日くらいで、日をまたぐことは少ないです。

ーー時間を掛け、真剣に向き合ってくださった作品で特賞を取って頂けて本当に良かったです!コンペにはよく参加されるんですか?

陽気なおじさん:実はGENSEKIさんが初めてです。どちらかというと漫画主体で活動してきたので、イラストでコンテストに応募しようとはあまり考えてきませんでした。ある時GENSEKIさんから登録のお誘いを頂いて、毎月絵のコンテストがあることを知りました。いつか参加してみたいと思い、実は昨年のクリスマスにも1度参加したんですが、それがかすりもしなくて凄く悔しかったんです(笑)

ーーでは、今回がリベンジだったわけですね。

陽気なおじさん:はい。これを機にコンテストへの向き合い方や、イラストでどう向かっていくかも考え直して今回参加しました。受賞には本当にびっくりしましたが、方丈さんの小説に彩りを添えられたこと、とても光栄に思います!

日常の中の小さな積み重ねを大切にしたい

『星(オリジナルイラスト)』

『星(オリジナルイラスト)』

ーー絵はいつごろから描き始めたんですか?

陽気なおじさん:物心ついた時から描いてました。小さい頃は、3つ年上の姉の真似をするのが好きで、姉が絵を描くのが好きだったので一緒に描いてました(笑)

ーーお姉さんがきっかけだったんですね。絵の勉強はどのようにされてきましたか?

陽気なおじさん:絵についてはほぼ独学ですが、高校がデザイン科だったので美術やデザインの大まかな基礎の基礎はそこで学びました。それ以外は参考になるようなサイトを見たり、参考書を買ったりしながら描きつつ、覚えつつが多いですね。

ーー漫画やネーム制作についてはどのように勉強されたんですか?

陽気なおじさん:昔から漫画を描くのが好きで、無印良品の4コマノートを使って、よく4コマ漫画を描いていました。そこから徐々に二次創作や普通の漫画も描くようになり、コマ割りを考えるようになっていきました。自分が書いたものを印刷して本にする工程も増え、客観的に見て読みにくい部分が無いかどうかも考えるようになっていきました。
他にも、商業漫画を読んで「このコマ割りすごいな!」と勉強したり、携帯の中に漫画を読めるアプリが11個くらい入ってるんですけど、これを毎朝読んだりしてます。今なら情報を手に入れようと思えば、どこでもすぐ手に入るので、そこから色々と学んでいます。

ーー勉強で特に参考になったこと、役に立ったことはありますか?

陽気なおじさん:最近は仕事を始める前にクロッキーをやっています。特に簡単クロッキーが人体の形をつかみやすく、その書き方をもとに10ポーズほど描いてから仕事を始めるようにしています。今年に入ってから始めましたが、ちょうど昨日にノートが1冊無くなりました!

ーー凄い!そういった小さな積み重ねができると、かなり変わってきそうですね。

陽気なおじさん:かなり変わってきますね。日常の中でちょっとしたことを、少しだけ時間を割いてやる。これを大切にしています。昔の自分なら、おそらく続かなかったと思いますが、今は絵を仕事にしている分、真剣に向き合いたいと思っています。

『140字小説のYouTube漫画動画』

『140字小説のYouTube漫画動画』

ーー普段絵を描く時はどういったソフトや機器を使っていますか?

陽気なおじさん:iPad の第6世代を使っていますが、もう少しお金が貯まったら液タブにしたいと思っています。iPadはどこでも気軽に描ける点ですごく楽なんですけど、パソコンで作業した方が効率が良かったりするので。ソフトはクリスタ(CLIP STUDIO PAINT)を使っています。

ーーやっぱりクリスタは使いやすいですか?

陽気なおじさん:使いやすいですね。実は「クリスタ」という名前になる以前のソフトから使っていて、当時はパソコンとペンタブで描いていました。高校生の時もそのソフトを使っていましたが、古すぎて知らない間にサポート終了しちゃいました(笑)その頃から親しんでいるという点で、とても使いやすいというのはあります。

ーー創作活動をする上での情報収集について教えてください。

陽気なおじさん:基本的にはTwitterで情報を仕入れたり、色々なウェブサイトをチェックしたり、 YouTubeを観たりしています。私が使っているクリスタは、いろんな機能が備わっているんですが把握できていない機能も沢山あります。でもクリスタの公式Twitterから情報が流れてきたり、Twitter上のクリスタの情報をリツイートしてくださったりするんですよ。それを見て「こんな機能があったのか!」と気づくことがあるので、試してみて使いやすかったら取り入れています。

ーー作風について意識していることやこだわりはありますか?

陽気なおじさん:口角の上がり方やまぶたの上がり方、眉毛の下がり方など、目や顔の表情にこだわるというか、注意して描くことが多いですね。笑顔ひとつでも、絵で描くと何万通りとあるので、これを表現出来ると強いなぁって思います。漫画だと表情とセリフでかなり意味合いが変わってくるので。

ーー尊敬するイラストレーター・漫画家さんを教えてください。

陽気なおじさん:イラストレーターの中野カヲルさんの色の塗り方がすごい好きです。小説の表紙とか描かれているんですが、1枚絵でグッと引き込まれるというか、シンプルに見えて複雑で透明感もあり、心に残るイラストが多いです。私自身、ダークな雰囲気の作品が好きで、肌の塗り方や質感も凄くて、新しい絵が出るたびにめちゃくちゃ細かく見てます(笑)イラスト集も買いました。
あと、漫画家の荒川弘先生。初めて買った漫画がハガレンで、この間は原画展に行き、生原稿や先生が収集された資料の拳銃や武器も見てきました。やっぱりアナログで描いていらっしゃると凄いなあって思います。私はもうデジタルでしか描いてないので、そういうところも尊敬してます。

自分にとっての「普通」を見つけた瞬間

『アンタのためのあたしじゃない。』

『アンタのためのあたしじゃない。』

ーー絵が上達したタイミングや転機はありますか?

陽気なおじさん:最初は副業で絵の仕事をコミッションできるアプリに登録し、依頼が来たら嬉しいな、くらいの気持ちでいたんですけど、そこで結構依頼があって。漫画関係が多かったですけど、そこで初めて仕事という形で絵を描き「自分の技術はお金になるんだ!」と自信がついたのは大きな転機でしたね。
2021年の7月からフリーランスになったのをきっかけに、絵に向き合おうという気持ちがより強くなりました。どういう見せ方にしたら読みやすくなるのか、どういう構図にしたら情報が入ってきやすいかをよく考えるようになり、今までは「ここはもういいかな。」と思っていたところまで突き詰めていくようになりました。

ーーフリーランスになって、まだ1年経っていらっしゃらないんですね。ずっと描いてきた絵を、今こうしてお仕事にされていらっしゃって凄いですね。

陽気なおじさん:「絵の道は諦めよう」と思うことも何度かありました。高校生の時は絵を本業にしようという気持ちがなかなか持てず、卒業後は音楽の道に進みました。音楽に集中しようと思い、過去の自分の絵をまとめて破棄したこともあります。

ーー絵の道を経とうとして音楽の道に進み、今またこうして絵を本業にされています。この紆余曲折にはどんなことがあったのでしょうか。

陽気なおじさん:卒業してからは音楽を4、5年続けました。バンドのボーカルをしていて、曲を作ったり歌詞を書いたり、それはそれで良い経験になりましたが、それも挫折みたいな形で終わってしまいました。自分の中で普通に会社で働いてお金をもらって生きていこう、「普通の人間になろう」という気持ちが強くなっていき、バイトを転々としていた中、ちょうどコロナが流行り始めた2年前ぐらいに体調を崩してしまい…それ以来、身体を休めて自分と向き合う時間が増えました。実家に帰ってゆっくりしていた時に「普通の人になりたい」という気持ちを親に打ち明けると「そもそも普通って何?別に、好きなことしてもいいんじゃない?」という話になりました。そうして自分の好きなことってなんだろう?と向き合った時に、手元に残った武器が「絵」しかなくて。

ーーなるほど…胸に来るお話です!

陽気なおじさん:絵を描くのはやっぱり好きだったので、離れても戻ってきてしまうというか。親からもそういう話をしてくれたし、自分で向き合ってみて、絵がすごく好きという気持ちも分かったので、フリーランスになろうと決め、そこからはひたすら絵に向き合い続けました。自分にとっての普通はここだったんだと落ち着いた感じです。みんな、それぞれ自分の中の普通があると思うので、今やりづらさを感じていたら別に何をしてもいいんじゃないかな、という気持ちがありますね。 

『人間というもの、私(オリジナル)』

『人間というもの、私(オリジナル)』

 

ーー素敵なお言葉、感動しました!こうと決めた道で、今活躍されてると思うのですが、お仕事が増えたきかっけや仕事の取り方について教えてください。

陽気なおじさん:そうですね、私の場合は爆発的に増えたということはありませんが、GENSEKIさん等の絵のサイトに新しく登録したのをきっかけにお仕事を頂くことはあります。最近は自分でやりたいところを見つけて、その企業さんに直接営業をかけることもしています。

ーーどういった企業さんに営業される事が多いですか?

陽気なおじさん:最近だと、WEBTOON系の縦スクロールの漫画の会社さんに声をかけることが多いです。ホームページの問い合わせから連絡を取り、返事が返ってきたらポートフォリオを送ります。その後にいい返事があれば面談して、みたいな流れです。

ーーすごいですね。フリーランスの中でも、営業活動が苦手なイラストレーターさんは結構いらっしゃいますけども。

陽気なおじさん:そうですね。私は割と、ここと仕事がしたいなって思ったらすぐ営業活動が出来るんです。電話をかけてみて「こういうことができるんですが、どうですか~?」ってお声掛けさせて頂きますね。待つ方が苦手で、自分でじっとしていられないので(笑)その隙間時間が出来たら、他の仕事を見てみたり、絵の仕事に拘らず、自分の経験になるような新しい仕事もやっていこうという気持ちになります。

ーーそんな勇気と行動力があることも、フリーランスとして活躍していけている理由なのかなって思います。

陽気なおじさん:はい。わりと行動力はある方かもしれません。

ーー今まで手掛けた中で、一番思い出に残ってるお仕事ってなんでしょうか。

気なおじさん:今、メインでやってるのが漫画のネーム制作のお仕事なのですが、はじめにフリーランスで絵の仕事をやって行こうと決めた時に、一番得意なことを考えて気づいたのもネーム制作でした。ストーリーやシナリオを漫画にしていく、いわば演出やコマ割りのお仕事です。昔から漫画がすごく好きだったのもあり、こういう形で漫画に携わり、漫画の一部になれたのがすごく嬉しかったです。

自分にしか出来ない演出を目指して

『天使のきみ(オリジナル)』

『天使のきみ(オリジナル)』

ーーイラストや漫画を描いていて幸せだなと思うことは何ですか?

陽気なおじさん:私のイラストを見た人が、それで感情が揺れた時や、今まで感じてたものがガラッと変わったりする瞬間がすごく好きです。絵ひとつで、色々な感情を与えられること、これは本当に凄いなって思います。

ーー逆に、辛いと思うことは何ですか?

陽気なおじさん:今だとクライアントさんとは文章でのやりとりが主になるんですが、文章の言い回しで、その人がどういったニュアンスで使ってる言葉なのか分からない時があり、それを汲み取れなかった時はすごく悲しいというか、悔しいです。だからちょっとでも気になるところがあったら「こういうことで合ってますか?」といった感じで、作業に入る前や依頼を受ける前に、しっかりすり合わせをして双方満足いくものができるようにしています。

ーーもし、アイデアが煮詰まった時のリフレッシュ方法について教えてください。

陽気なおじさん:煮詰まった時は大体自分の体調が悪いか、インプットか無いかのどちらかなので、基本的には絵から離れます。好きな映画を見たり、音楽を聴いたり、YouTubeを観たりと、インプットしながら身体を休めることが多いですね。映画館にもよく行きます。

ーー今後やってみたいお仕事はありますか?

陽気なおじさん:CDのジャケットイラストです。そもそも音楽自体がすごく好きなので。そこでジャケットイラストになれるというのがすごく光栄というか、かっこいいなと思ってて、そういうお仕事があれば嬉しいです。あとは本の挿絵とか表紙とかも書いてみたいです。

ーーその行動力があれば叶えられると思います!では、最後の質問ですが、今後挑戦してみたいことは何ですか?

陽気なおじさん:そうですね。やっぱり漫画が好きで、なかでも今WEBTOONの縦スクの漫画がすごく流行りだしてるというか、企業さんが力を入れ始めている印象があるのでこれについて行きたいですね。WEBTOONの特徴は、全ての段階に別の人がいて、シナリオとネーム、下書き、線画、着色仕上げと、背稿で6段階ぐらいで別の人が担当してたりとかすることが多く、それがすごく面白いなと思っています。そこで自分の得意なネーム漫画に携われたらと。
また、縦スクロール漫画はまだまだ未開拓な部分もあり、いろんな演出が出来るのでその辺りを研究して自分にしか出来ない演出ができるようになっていたらいいなって思います。

陽気なおじさん

はじめまして、陽気なおじさんと申します。
漫画に特化した仕事をしており、心情や目を引く漫画を構成するのが得意です。
イラストに関しましても、レトロ調でリアル目のものが得意です。

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