イラストを描いている人なら、キャラクターデザインの仕事にあこがれたことが一度くらいはあるのではないでしょうか。
今回は数多くのキャラクターデザインをしてきた、さいとうなおき先生とくるみつ先生に、キャラクターデザインの仕事について語っていただきました。最前線で活躍しているふたりのナマの本音とは……?
全2回の対談の前編です。
後編:お互いのキャラクターデザインを見てどう思う? さいとうなおき先生×くるみつ先生 本音トーク
さいとうなおき (X:@_NaokiSaito/YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
くるみつ(X:@krkrkr32/Web)
イラストレーター。ソーシャルゲームのキャラクターデザインやポケモンカードイラスト、CDジャケットからグッズイラストまで幅広く活動。ポップでとにかく明るいキャラクターイラストを多く手掛ける。
メイキングやスキル講座などのYouTube「くるみつちゃんねる」を運営中。
キャラクターデザイン
【邪姫】オメガ・デスワーム【OBAKE Proj】(さいとうなおき)
UVプリント作品
GENSEKI展覧会に向けて制作し、販売されたもの
キャラクターデザイン
金魚(くるみつ)
デジタル作品
GENSEKIのキャラクターイラストコンテストの見本作品として制作されたもの
ふたりは仲良しな「兄弟弟子」
――まずは、おふたりの関係性について教えていただいてもよろしいでしょうか?
さいとうなおき先生(以下、なおき)
仲良し(きっぱりと即答)。
くるみつ先生(以下、くるみつ)
(笑)。そういうふうに言ってもらえるのが、マジでうれしいんですよね。僕はもともとファンなんです。学生のときになおきさんの絵を見てすごく衝撃を受けて……。影響されて、いまの絵柄になっているので。
そのくらいファンなのに、新卒でゲーム会社に就職したら「この会社にはさいとうなおきがいる」って話を聞いて、もう本当にビックリした記憶があります。新入りとしてご挨拶に行って……。それがふたりのなれそめ。
なおき
僕はそのとき35歳ぐらいですよね、たぶん。
くるみつ
僕は大学院から入ってきたので、25歳とかですね。そのときからずっと「ベテランの先輩」です。
なおき
そして、僕たちは「兄弟弟子」でもあります。
くるみつ
そうですね。会社で僕にマンツーマンでイラストを教えてくれた先輩がいたんです。「うし」さんっていうんですが。
X:うし
なおき
くるみつさんは僕の絵に影響されたって言ってくれたんですけど、僕はうしさんの絵に影響されていまの絵柄になったんです。
くるみつ
僕の絵の源流はなおきさんで、そのまた源流にうしさんがいる。うしさんと、なおきさんもすごく仲が良くて。うしさんの繋がりで、なおきさんとすごくしゃべる機会が増えていきましたね。
キャラクターデザインは「運」 と「根性」
―今日はそんなおふたりに「キャラクターデザイン」について語っていただこうと思っています。作るときにどんなことを考えていますか?
くるみつ
キャラデザか~。今回対談にあたって考えてきたんですけど、やっぱりちょっと難しいなって思います。
なおき
どういうところが難しいですか。
くるみつ
まずは湧き出てくるものを描いていって、その後に狙った方向に修正していく、みたいにやっています。だから、最初から計算してうまく狙うことがあんまりできなくて……。
なおき
そういうものですよね。計算で出したものって、あまりおもしろくならないじゃないですか? 上滑りしてるみたいな感じになりがちですよね。
僕の場合は、クライアントからの発注内容はやんわりと踏まえつつも、あえてそこを一度無視して描いてみる。その後にクライアントの要望に寄せていく……みたいな感じが成功確率が高いのかな、って思ってるんですけど。
くるみつ
わかります。ただ、全然あさっての方向に行ったりすることもあって……。そのときは頭を抱えるというか、どうしよう、みたいな。
なおき
だから、キャラデザは運みたいなところありますよね。
くるみつ
そうなんですよね~。本当にそうです。
なおき
運に加えて、根性も必要かな。キャラクターデザインって、出たとこ勝負なやつを後から根性で方向づけていくみたいな感じ。だから、体力いるじゃないですか?
くるみつ
そうそう、めっちゃしんどいですね。
意識するのは情報量のバランス(くるみつ)
くるみつ
僕の場合、最初に出した案はゴチャゴチャしすぎることが多いんです。楽しくなると、あれもこれもそれも付けたい、みたいな感じで全部盛りにしちゃう。
なおき
うんうん。そこから引き算に入って行くわけですよね。でも、クライアントさんに「引き算して」って言われたらできるんですけど、自分から「引き算しなきゃ」って思うの、難しくないですか。
そもそも、最初の自分としてはよかれと思って描いているわけですよね。それを「ゴチャゴチャしているかもしれない」って判断するのって、苦しいですよ。
どこで「これはゴチャゴチャしすぎている」みたいな判断をするんですか? ちょっと人の基準を聞いてみたくて。
くるみつ
意識している部分はあるんです。基本的に顔に目線を誘導するから、頭や顔はやっぱり情報量は多めにはなりますよね。足の方に行くほど、情報量が少なくなっていく。そのバランスが崩れないようにしてます。
なおき
じゃあ、くるみつさんの中に、画面の情報量が「多い・少ない」という感覚があって、それにしたがって引いていく?
くるみつ
そうですね。この部分に関しては完全に感覚なのかもしれません。うまく言語化ができなくて……!
ファンアートを描きたくなるように調整する(さいとうなおき)
くるみつ
なおきさんは、そのあたりどうですか?
なおき
僕は描いていて「2回目を描くの大変そうだな~」って思ってしまったら、ゴチャゴチャしてるって判断します。今回の発注は乗り切れるとしても、もう一度「あのキャラクターを描いてくれませんか」って発注があったときに、乗り切れるかどうかを考える。
くるみつ
次に描くのが大変なやつ。……めっちゃわかります。
なおき
似たような気持ちに、他の人が作った複雑なキャラクターを「描いてください」って言われたときに「大変だな……」って思ってしまうのってありますよね。
いまは仕事の話をしましたが、ファンアートって、描きたいから描くわけじゃないですか。言い方を変えれば「ファンアートを描きたくなるデザイン」を目標に修正しているのかもしれない。ファンアートが出回ることって、キャラクターデザインにとってはすごく重要なことだから。
くるみつ
それもわかります。僕も「描きやすさ」はどこかで意識しますね。結局そこで情報量を判断しているのかもしれないです。
確信を持てるキャラデザインにするために
くるみつ
あと、修正するために、1回イラストを寝かしたりもしますね。お風呂入るとか、ご飯食べるとか、ゲームするとか。30~40分経って、自分の描いてるイラストをパッと見たときに、素直にどう思うか? みたいな。
なおき
そこでダメなときってどう思います?
くるみつ
だいたいダメなときが多いんですけど(笑)。ちょっとテンションが下がるというか、自分の中の「うまくできてただろう」っていう期待値を超えてこないですよね。
そういうときは思ったことを口に出して言うようにしています。「顔がかわくない」とか「ここダサい」とか「なんか構図キモい」みたいな感じで。思うだけでもいいんですけど、口に出すのが大事かなと思って。ひとりでやってるのがちょっと怖いんですけど(笑)。
なおき
人に見てもらったりはしますか? 制作の途中で「これどうですか?」みたいな。
くるみつ
本当に行き詰まったり、もう自分でわからなくなったタイミングで友達に見てもらったことはありますね。
それで解決する場合が……(少し考える)。
いや、ないかもしれない。
うん、ないですね……。
なおき
わかる。人に見てもらっても、解決しないですよね。
くるみつ
結局、自分の中で納得できるかどうかみたいな話になってくるので。友達に聞いてアドバイスもらうのって、背中を押してもらうぐらいのことしかない……。
なおき
そうそう。言ってしまうと「よい」という意見以外、いらない。
くるみつ
そうですよね(笑)。「よかったんだ。じゃあこのまま進めよう」って。そう思いたい。
なおき
大事なのは「よい」の基準が自分の中にあることだと思うんですよね。そうしないと、どの方向に進んでいったらいいのか、わからないから。キャラデザは根性が必要って、さっき言いましたけど、その根性を使う方向を見極めないといけない。
企業依頼と自主制作、どんなふうに考える?
――おふたりは企業依頼も自主制作も、たくさんのキャラデザインをされていますよね。その二つで違うことってありますか?
くるみつ
企業さんからのご依頼って「好きにやってください」みたいなことがけっこうあります。でもそれって、あんがい難しくて。もちろん自分の好きなものを描くわけですけれども、企業さんの意図もあるので汲み取らなくてはいけません。最初にどんなふうに方向付けるかで一番頭を抱えますね。
なおき
くるみつさんは企業依頼でも自分を全部乗っけて描こうとしているのかな、と思いました。企業依頼と自主制作をそんなに切り分けて考えてない、というか。
くるみつ
企業さんも「僕らしさ」を求めて依頼してくれているわけじゃないですか。だから、自分が楽しんで描かないと……とは思っています。
なおき
それでいうと、僕は企業依頼と自主制作で「モード切り替え」がありますね。企業さんに依頼されるキャラデザは、自分が「よい」と思える割合を、少し下げる。
つまり「こういうのが好きな人もいるだろうな」という要素を、ちょっと入れるということですよね。完全に「自分がすっごい好き」という要素だけでは、描かない。
自主制作の場合には「自分がすっごい好き」っていう気持ちで進めます。「自分がすっごい好きなものが、みんなも好きだといいな」みたいな気持ち。これって「祈り」に近いかも。
みんなが好きなものを自分も好きになれるという、絵描きとしての能力
くるみつ
「祈り」っていうのは、すごくよくわかります。僕の場合は「自分が好きなものが、みんなも好きだといいな」っていう「祈り」が、ユーザーの方とか企業の方に、たまたま刺さっているからお仕事もらえてる。これって、単純に運だと思うんですよ。
なおき
それで言ったら、もっと源流のところで「この絵が好きだ」とか「こんな作家が好きだ」みたいな、自分が好きだって思えるものが「売れ線か」ってことも、すでに運ではあると思うんですよね。
でもね、売れ線じゃないものを好きな心って、あるじゃないですか。20歳ぐらいのときそれで悩んでいて。売れ線の絵を「ああいう絵を描けたらみんなにキャーキャー言われるんだろうなー」みたいな感じで見ていて。でも自分はそういうものを、全然「よい」って思えない。ひねくれているだけかもしれませんけどね。
キャラデザの根底にもつながるんですけど「マイナーな心と折り合いをつける」みたいなところは、絵描きの本質としてあるような気がしています。
――それは、どうやって折り合いをつけたんでしょうか?
なおき
僕は、さっきも言ったように、ひねくれ者なんですよ。「ひねくれ」というか、もっと言うと「いじける」かな。そのいじけている気持ちを1回ちゃんと認識した。あとは単純に、生活がかかってたのもあります。
ところが、くるみつさんの場合は、そんな状態にはならずに「これが好き」みたいな素直な気持ちで直線で行っているように、僕には思える。
くるみつ
そうですね。なおきさんにお話してもらったような、マイナーというか「みんなが好きじゃないものを好きになる」みたいな経験って、あんまりなかった気がしていて。みんなが好きなものを運良く、自分も好きでいられた。
なおき
そこがクリエイターとして陽の当たる場所にいられるかの、大きな分かれ道だと思う。……技術を磨く以前の、かなり初期からすでに決まっているような気がしていて。
クリエイターってやっぱり、ちょっと弱さというか、マイナーさを内包しているものだと思うんですよ。たとえば「本当はスポーツ選手になりたかったけど、向いてないから」みたいな人が多いように思えるんですよね。
くるみつさんは、そういうひねくれ方をしていないから、素直に「これ好き」「これいいよね」って、スッと行けたんじゃないのかな、って想像してるんですよ。
くるみつ
かもしれないです。自分のことって、あんまりわかんないんですけど。でも「何かがダメだから絵に行った」みたいな、そういうマイナスというか、後ろめたい理由で絵を描いていた記憶は、あんまりないかもしれないですね。
なおき
くるみつさんのこういう陽の部分はうらやましいですよ、本当に。
対談は後日公開の後編に続きます。後編ではお互いのキャラデザインについて具体的にレビューをしていただいております。お楽しみに!
後編:お互いのキャラクターデザインを見てどう思う? さいとうなおき先生×くるみつ先生 本音トーク
▼関連記事
聞き手・構成斎藤充博(X:@3216/Web/GENSEKI)
イラストwacaco[ワカコ](X:@wa_calappo/GENSEKI)