GENSEKIマガジン

モノづくりを広げる・支えるメディア

シチュエーションを表現するために大事なことは? SWAV先生「戦う女の子」イラコン選考レポート


こんにちは、GENSEKIマガジン編集部です。

SWAV先生を審査員にお迎えした「戦う女の子」イラストコンテスト。さまざまな「戦う」シチュエーションのイラストを、238作品もご応募いただきました!


シチュエーションを表現する構図や技術について、人体やコンセプトアートの学び方、イラストを描くとき大切にしてほしいことまで、役立つアドバイス満載のレポートです!

審査員

https://img.genseki.me/compes/K41egAy5XjP/attachments_KtH76QE6bT.pngSWAV(X:@_SWAV_pixiv
イラストレーター、キャラクターデザイナー、コンセプトアーティスト。特徴的なカラーデザインとシネマティックな世界観を軸とし、「ノスタルジックな未来」をコンセプトに作品制作をおこなう。キャラクター、モービル、ファッションまで、国内外のトレンドを意識し、独⾃のデザインに落とし込んでいる。1997年⽣まれ、FLAT STUDIO所属。 

インタビューした人

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/k/kaosketch/20230721/20230721181119.pngkao
お絵描き大好きライター。GENSEKIマガジンでメイキングやイラコン記事などを担当。SF文庫がバイブル。


【大賞】難しいモチーフに挑戦したダイナミックでかっこいい作品

摩天楼/ Mz-T

SWAV
大賞はMz-Tさんの『摩天楼』です。パースが強烈に効いていて、ダイナミックなイラストです。ビルの窓枠がグリッドのようになっていて、スケール感を強調し、距離が一瞬でわかるようになっています。

また、視線を外に誘導して、画面の外に敵がいることを感じさせています。このような空間の広がりを描けるのは、技術力が高いですね。

 

kao
大賞の決め手になったのは、空間の広がりを描けている点でしょうか?

 

SWAV
それもありますが、なにより、パッと見たときにかっこいいイラストですよね。

弓を構えるポーズは難しいのですが、よく描けています。この弓は「コンパウンドボウ」というアーチェリーの複合弓だと思うのですが、かっこよく描くためには知識が必要です。特徴的な武器にもかかわらず、物怖じすることなくダイナミックにかっこよく描けているのもよかったです。

全体的にいろいろな意味でリッチなイラストなので、大賞に選びました。

 

kao
先生はアーチェーリーの知識を、どう身に付けたのですか? 

 

SWAV
僕も以前、ちょうどこのコンパウンドボウを自主制作のイラストで描いたことがありました。そのときはアーチェリーの動画を10時間くらい見て、3Dで弓を作って打ち方や器具の構造を理解しました。特にアーチェリーのような専門知識が必要なスポーツだと、プロが見たら変なところが目立ってしまいます。そのため描くのは難しいのですが、うまく描ければかっこいいですよね。
実際に競技を行っている動画を見ることや生のスポーツを観戦することは、いい絵を描くためには必要なステップだと思います。

 

kao
さらに上を目指すにあたって、アドバイスできる点はありますか?


SWAV

絵の密度が高いのはいいことなのですが、情報量が多すぎる印象もあります。ビルのグリッドはこれぐらいでいいですが、赤い光はもう少し細くてもいいですね。右下の火花はなくてもいいかもしれません。

かわりに、足や弓に当たっているくらいの光を顔にも入れると、光で三角の視線誘導ができます。イラストはまずキャラクターの顔が大事。一番最初に見る「顔」を際立たせると、まとまりも出て、より見る人を飽きさせないイラストにできると思います。


kao
 Mz-Tさんへのメッセージをいただけましたら。


SWAV

フィクションでありながらデッサンやパースのエラーもなく、キャラクターの色気も足されていて、魅力的なイラストです。いろいろ理論的な細かいことを言いましたが、それに縛られず、これからも楽しんで描いていってください。

受賞者コメント

このたびは、イラストの講評と大賞をいただきありがとうございます。

今回の作品は、迫力のある画面にするべく「緊張感のある動き」「時間的な前後関係」を意識してコンセプトを考えました。2つのコンセプトから「落下」という単語が思い浮かび、そこから思考を広げて最終的に「ビル(摩天楼)から飛び出して弓を構える戦闘シーン」を制作しました。

描くのが難しいものが多くかなり苦戦しましたが、今回大賞を頂戴し大変うれしく存じます。SWAV先生のおっしゃる通り、情報量の調整が私の課題のひとつだと、今回のイラスト制作の中とSWAV先生の講評で再確認できました。

これからも一歩ずつ成長し、見た人の心をつかむ作品を作れるように邁進していきます。


【佳作】画面の外にまで広がる世界観、物語が想像できる3作品

hype train/@tsuyopon0408

SWAV
まず、このシーンがすてきで、ストレートなわかりやすさがよかったです。地下鉄の中に現れた怪異と対峙する何らかの血筋がありそうな女子高生。そういったテーマがかっこいいです。

また、電車内というのは割と避けられがちなステージですが、パースが効いていて構図もかっこよく、色あいもきれいで不気味。次に起こるシーンを想像できるのがいいですね。総合力が高いです。


kao

電車内が避けられがちなのは、描くのが難しいからでしょうか?


SWAV

車体やパーツによって地域性や時代が出やすく、詳しい人も多く考証されがちなモチーフなので、気を使います。こだわりを持って描くと、車体は都市部のものか地方のものかまで考えることになり、単に楽しんで絵を描きたい人には難しいモチーフです。


kao

身近なのに描くのは難しいモチーフなんですね。


SWAV

先ほどの弓と同じく、電車、自転車、車など専門知識に強い人が多い分野は、違和感がすぐわかってしまう。なので、そういったリスキーなモチーフに挑戦しているのは好印象です。


kao

大賞を目指して、さらによくできる点はあるでしょうか。


SWAV

けっこう大胆な修正になるのですが、左右反転すると絵がさらに化けると思います。舞台用語に上手(かみて、右側)下手(しもて、左側)という感覚があるのですが、これにのっとると画面の右が上手で強者、左が下手で弱者です。

「女の子の方が怪物を倒しまくっている強者で、やられまくる怪物」という設定があるなら今のままでいいのですが、この絵は怪物の方が脅威だと思うので、逆がいいでしょう。女の子が左、怪物が右の、「左から右の流れ」にしたほうが絵の設定がわかりやすく、しっくりくると思います。


kao

設定とそういった法則をあわせると、構図で設定が強化できるのですね。「上手下手」は日本語ですが、世界的に共通する感覚でしょうか?


SWAV

舞台用語なので、世界的に通じる感覚だと思います。非対称や黄金比が美しいなどといった、人間が本能的に感じるもののひとつではないでしょうか。海外のコンセプトアートが本格的な現場では、それだけではなくライティングの要素も入った総合的な要素で、画面構成が考えられています。

いろんな映画やアニメで使われているので、意識して見てみると勉強になります。上手下手の役割やライティングなどを学んで、感覚を養っていくといいと思います。

 

餅つき/らいち

SWAV
この絵は次のコマを想像できるのが、一番評価した点です。おそらくこの後、ハンマーで餅である怪物をつくだろうなというスピード感。また、大賞は画面外への「距離の広がり」があったのに対して、この作品では画面外への「時間の広がり」があります。そういったところが魅力的でした。


kao

タイトルの『餅つき』の餅は、この怪物なんですね。


SWAV

漫画になりそうなテーマですよね。「月にウサギがいて餅をついている」という古くからの言い伝えを逆手にとって、「あの伝承は、実は月で怪物と長く戦っていた」みたいな、SFファンタジーが始まりそうなギャップもいいですね。

技術的なところだと、月の輪郭が女の子の顔に集約し、視線が行くようになっています。目にハイライトも入っているので、まず顔、次に面積比率で女の子の体、そのあと怪物へ……という視点誘導が適切に行えており、鑑賞者がすぐに内容を判断できる見やすい画面でした。

 

kao
こういったシーンにおいてキャラクターの目線やアングルはどう考えたらよいでしょうか?


SWAV

今回の作品のような映像を切り取ったイラストでは、カメラ目線はおかしいですし、この絵のようにキャラクターの意思を感じる目つきがいいと思います。


kao

ではこのイラストをさらに良くするには、どういったポイントに気をつければよいでしょうか?


SWAV

キャラクターのポーズです。デッサンはおかしくないと思うのですが、難しい構図です。

肘が直角に曲がっていて、上腕と前腕の長さが同じに見えているのですが、直角や1対1の整った比率は違和感が出やすいので避けたほうがいいです。肘をもっとカメラ側に向けると、前腕が3分の2ぐらいの描写になり、わかりやすくなります。

また、ぱっと見たときの体の形にわかりにくさがあります。腰をひねっているのはわかりますが、コントラストをもう少し強くするイメージでライティングを入れるといいでしょう。僕なら、頭と胸、あと手前の太ももにライティングを入れると思います。


kao

デッサンがおかしいわけではないのに、見る人にとってはわかりにくくなってしまう体の形があるのですね。


SWAV

そうですね。誤解されやすかったり、違和感の出やすいシルエットのことを示す「タンジェント」という言葉があります(編集部注※タンジェントについては、「アニメーションエイド ポーズ宿題・お題42」に詳しい解説があります)。絵を描くときにはできるだけタンジェントを避け、シルエットだけでもわかるようにすることが大事になります。

イラストを描く人なら誰もが気を配っていることだと思うのですが、タンジェントという言葉自体は日本ではあまり知られていないかもしれませんね。

 

kao
SWAV先生はタンジェントをどのようにして知ったのでしょうか?


SWAV

僕がタンジェントという言葉を知ったのは、映画やゲームのコンセプトアートの本だったと思います。コンセプトアートは一見しただけで何が描いてあるかを理解してもらう必要があるために、他のイラストよりも第一印象が重要なんです。タンジェントについてもより注意する必要があります。


kao

SWAV先生はコンセプトアートの技法を参考にしているのですね。


SWAV

そうですね。コンセプトアートの教本は数冊読みました。いずれも洋書になります。Amazonで買ったり、欧州の書店に注文することもあります。

日本の本にもいいものはありますが、コンセプトアートの技法については日本よりも海外の方が進んでいて、内容もロジカルなものが多いです。

 

任務完了/日花子

SWAV
まず、見栄えがよかったですね。手すりの影や飛行機雲を使ったパース表現で、空間の広がりを感じられます。これまでの受賞イラストの物語を切り取ったよさに対して、この絵はとにかく一枚絵としてかっこいい点がいいと思い選びました。きれいですね。


kao

「見栄えのよさ」「きれいさ」という印象は、どう生まれているのでしょうか?


SWAV

キャプションによると、この女の子は近未来で活躍する日本型の戦闘用アンドロイドという設定があります。アンドロイドだからとモノクロームにとどめず、臆せず色を使っています。色収差やレンズフレアも入っていて、色の情報量が多くなっています。

また、女の子の体にかかっている白いライティングで、輪郭や前後関係がわかるようになっています。

おそらく光の角度的に朝日のような光で、何かと戦った後なんだ、というシーン表現もできています。それら全部が、絵の印象に繋がっているんだと思います。


kao

大賞を目指して、さらによくできる点はあるでしょうか?


SWAV

キャプションを読めばこの子がアンドロイドだとわかりますが、イラストをパッと見ただけでは設定がわかりにくい点です。損傷した部分や瞳孔に、アンドロイドっぽい機械を描くのもいいと思います。

また、倒した相手のことももう少し知りたくなりました。今は「アンドロイドだけどふとももの傷から赤い血が流れている、じゃあ体に付いた黄色い血は敵のもの?」と、設定を考えることがノイズになってしまってもったいない。カラスがたかっているので有機体かな、など想像の余地があるのもおもしろいのですが、だからこそあと少し描いてほしいと感じました。

 

kao
キャプションを読まずとも見る人が物語をより想像しやすくなるといいんですね。


SWAV

あとは、ポーズについてです。このように腰を反らしてお尻を深く座っていると、膝はおそらくここまで曲がりません。

膝をこのくらい曲げるなら、腰は反らないで丸めることになります。腰の反りをこのままにしたいのなら、体を奥に倒してお尻を手前に出せば、よくなるのではないでしょうか。左腕の包帯を口で引っ張る力を入れると、腰を右奥にひねる動きになるので、より自然な人体デッサンになると思います。


kao

そういった体の動きは、自分でポーズを取ってみればわかるのでしょうか?


SWAV

そうですね、お布団の上などで一度やってみるといいです。人体は、どこかに力を入れると違うところも動くので、気をつけて見てみるとおもしろいです。3Dやデッサン人形は右肩を上げたら左肩が下がるといったことは再現してくれないので、硬いポーズになりがちだと思います。


kao

先生自身もポーズを取って修正されるのでしょうか?


SWAV

僕は、しなくてもわかるようになりました。完璧ではないですが、肩や肘の関係などは、知識があれば描きながらいろんなポーズに応用できるようになります。慣れですね。

そういった基準がわからないと迷ってしまい、絵を描くことが不安になることがあるので、勉強するのはいいと思います。僕は『スカルプターのための美術解剖学』と、漫画家の篠房六郎先生の『ポーズの定理』の書籍版・オリジナル版の両方を持っています。この2冊があれば十分だと思います。


【総評】イラストは何より楽しく描いてほしい。情報に縛られすぎないで

kao
全体を振り返って、いかがでしたか? 


SWAV

たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました。選考していても、みんなうまいな、すごいなと普通に見てしまって(笑)、楽しかったです。

テーマの「戦う女の子」に対して、みなさんそれぞれの想いを持って描かれているのを感じました。かっこよさや切なさ、世界観のある作品がたくさんあり、悩みながら選ばせていただきました。多様なジャンルが見られておもしろく、こんなにいろいろな戦い方があるんだと僕も勉強になりました。


kao

今回の審査ポイントは下記でしたが、選考ではどんな点を見られたでしょうか?

【審査するポイント】
・何かと戦っている、もしくは対峙する様子が感じられるようなテーマに沿ったイラストか
・構図を意識しているか

【先生のコメント】
「戦う女の子」というシンプルなテーマのイラストは、描き手の想いによって様々な解釈を与えることが
できます。決意を胸に誰かを守りぬくような、あるいは復讐心に燃えるような、戦うことを強いられた
カッコいい魅力的な女の子たちを表現してみてください。

SWAV
構図、時間や空間に「広がりがあるか」という点です。僕は見るのも描くのも映画寄りのイラストが好きで、絵に描かれていないことも想像できるイラストを選びました。


kao

どうしたら、そのような絵が描けるようになるでしょうか?


SWAV

講評でお話したように、構図や舞台理論、ライティングなど、必要なものはいろいろあります。弓や電車のような専門的な知識の勉強も必要です。キャラクターデザインだけでなく、そういったことの総合力ですね。特に今回の「戦う」は解釈の幅が広いテーマなので、そういったものが総合的に必要になり、難しかったと思います。


kao

応募者や絵を描く方にメッセージがありましたら、ぜひお願いします。


SWAV

講評ではいろいろと言いましたが、まずは気軽に、楽しく描いていきましょう。理論やデッサンにしばられすぎないで、自分がかっこいい、かわいいと思う絵を、好きなときに好きなように描くのが一番いいです。

僕の周りでも、いろんな情報に縛られて苦しそうにしている人を見かけます。プロの僕らは、仕事で必要なことに悩むのはあたりまえの道ですが、仕事にする前までそれでは、本末転倒です。


kao

思いつめるのは、プロになったときでいいということでしょうか。


SWAV

そうですね。思いつめるのは時間があるときぐらいでいいです(笑)。いっぱい好きな人の絵を見て勉強していけば自然とうまくなるので、急ぐ必要はありません。ぜひ、好きなように描いていってください。


kao

講評から、コンセプトアートについてまで、広くためになるお話ありがとうございました!

 

▼現在開催中のコンテスト

https://img.genseki.me/compes/compe_1700636662_AxwFM77POJ.jpg
https://img.genseki.me/compes/compe_1701940274_Ei6aHsjUke.jpg

 


執筆

kao(X:@kaosketchWebGENSEKI

編集

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/g/genseki_msaito/20230725/20230725162318.png坂本彬

斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI