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挑戦しつづけることが上達への道!【タカヤマトシアキ先生 1on1 レッスン by GENSEKI学生応援プロジェクト】


GENSEKIでは「学生応援プロジェクト」を企画・推進しています。今回はイラストレーターのタカヤマトシアキ先生を審査員にお招きし、岩崎学園 横浜デジタルアーツ専門学校とのイラストコンテストを開催しました!

https://img.genseki.me/compes/compe_1693297044_yk3Ux11ouX.jpg

【テーマ】
ファンタジーな日常

【審査ポイント】
・画面構成力・見せたい部分がしっかり表現できているか、見にくい画面になっていないか
・テーマに沿った内容を表現できているか
・デッサン力・立体が表現できているか、質感や形状を把握し表現できているか
・FIX力・細部までしっかり描かれているか
・テクスチャや写真素材などでごまかしていないか


この記事では、大賞を受賞された3名の方とタカヤマ先生との1on1レッスンをお届けします。描きたい絵との向きあい方、上達に欠かせないものなど、絵を描く人が悩みがちなことについて、たくさんお話しいただきました!

1on1レッスンの先生

タカヤマトシアキ(X:@tata_takayamaWebGENSEKI
デュエル・マスターズ、ヴァンガードなどさまざまなカードゲームでメイン・パッケージイラストを手掛けるイラストレーター。クリーチャーやメカニック、リアル系まで幅広い画風をもつ。

進行
齋藤佳輝
GENSEKIコンテストの企画設計やBtoB営業を担当。学生応援プロジェクトの1on1レッスンでは全体進行を務める。趣味は飼ってる魚を眺めること。

<目次>
・描きたいものが難しくても正面から挑戦する姿勢。資料活用でさらに上を目指そう(イラキ)
・アイデアがよく色彩感覚も高い。カメラ視点やパース意識を高めて臨場感を出そう(みがわり)
・わかりやすく見やすい画面作り。楽しく描いて理想を見つけて(ハイロ)
・【総評】描きたいものを逃げずに描ききる。努力で今より必ずうまくなる!

 

描きたいものが難しくても正面から挑戦する姿勢を評価。資料をたくさん集めてさらに上を目指そう

齋藤
今回の1on1レッスンは、大賞を受賞された3名の方のイラストを1枚から2枚、対談形式で講評します。1枚目はイラコン応募イラスト「ファンタジーな日常」テーマ、2枚目はフリーテーマです。

1人目はイラキさんです。現在、2年制コースの1年生で、将来はゲーム系の企業でUIデザインなどのイラストに関わる仕事に就職を希望されています。

登校

イラキ
今回のコンテストテーマが「ファンタジーな日常」ということで、SF系の近未来ファンタジーで、アンドロイドの少女と人間の少年が登校する場面を描きました。

アンドロイドも人間と同じように学校に通える世界で、充電切れしたアンドロイドがエレベーターに乗り込んでいます。私たちも普段ついスマホの充電を忘れるように、アンドロイドの子もうっかり自分の充電を忘れてしまう日常があるかな、と考えました。

 

タカヤマ先生
設定がしっかり決まっていて、2人のキャラクターを後方上からパースを利かせた視点で配置するなど、構図もよく考えられています。複雑なエレベーター内も描かないといけないし、室内照明があるのに外から差し込む光源もある。ガラスの映り込みや、外の都市部の広がり、遠景の街並みもある。

そういった難しいお題から逃げずに、自分が理想とするシチュエーションをしっかり表現しようとしていて大変すばらしい。「こういうものが描きたい」と最初に思いついたものを、なんとか形にしようとしたのが、大賞のいちばんの理由です。

描きたいと思っても、いざ描き始めると面倒になって簡単なシチュエーションにしたり、遠景をごまかして、テクスチャを貼って終わらせたくなるでしょう。でもそれをせず、持てる力で最後まで描ききったことが、実を結んで形になっています。

 

イラキ
自分でも難しい設定にしてしまったと思いました。全体のイメージはつかめていたので描き進めることはできましたが、タカヤマ先生がおっしゃるように途中でやめたくなることもありました。何とか描ききれてよかったです。

 

タカヤマ先生
能力の限界よりちょっと上を目指そうという姿勢は、今後力を伸ばしていくうえでとても大切です。この調子でがんばってください。

 

齋藤
僕もイラキさんのイラストのシチュエーションが非常におもしろいと思ったのですが、こういった世界観の作品を普段からよく見るのでしょうか?

 

イラキ
もともとサイバーやSF的なものは見るのも描くのも好きでした。ですが、そうした世界観を背景を入れて描くのは初めてで、背景の資料や実際のエレベーターなどを事前にたくさん調べました。

 

タカヤマ先生
「描く前にしっかり資料を探して描くんだよ」と伝えても意外とみんなできない。プロのやり方と変わらないことが、きちんとできているのはすばらしいです。

エレベーターを調べるのはあまりおもしろくないだろうし、未来風に描くのも、既存の資料だけでなくSF的な資料も必要です。アンドロイドの女の子も独自のデザインが必要になるなど、調べることがたくさんあり仕上げるのが大変な1枚だったでしょう。私が学生だったら、難しいのでこういったテーマは避けていたと思います(笑)。イラキさんが、普段から勉強されているのがうかがえます。

 

イラキ
本当にうれしいです。今見るともうちょっと描けたかな、という反省点もあるのですが、間にあうように描けてよかったです。今後も続けていきたいです。

 

タカヤマ先生
「間にあわせている」のもすばらしい点ですね。時間が足りなかったり面倒で手を抜いたところは見ると大体わかるのですが、この作品はそれがない。時間内でできる限りのことをしつつ、自分がやりたいこともやり切っています。

 

齋藤
いいところがたくさんありましたが、惜しかったところや、改善できる点はあるでしょうか?

 

タカヤマ先生
今のやり方を続けることです。クオリティは既に十分高いので、さらなるクオリティアップを目指すことが大事です。プロレベルかというとまだまだですが、学校に入って1年でこれだけしっかり描けているなら、今の時点でのアドバイスは無粋かと思います。

それでもあえて言うのであれば、画面全体のトーンが同じなので、もう少しエレベーター内を薄暗くしたり、キャラクターにより強く目がいくようライティングを当てる。素材感の描き分けや、足のメカデザインを近代的にしたり、体になじませる。街並みを描き飛ばしながらもっと細密に描き込む……など全体のクオリティを上げる方法はいろいろあります。ですが、「こう」と言って簡単にできるものでもなく、今すぐ足りないということもありません。

自分でも「もうちょっとこうしたらよかった」というのがあると思うので、その気持ちで繰り返し積み重ね、伸ばしていけば、よくなっていくと思います。


齋藤
イラキさんから質問したいことはありますか?

 

イラキ
先生がおっしゃったとおり、光のコントラストが難しかったです。外が明るいので室内を逆光で暗くしたくても、エレベーター内の光源もあるため、どう描けばいいかバランスがわからなくなってしまいました。

 

タカヤマ先生
細部までコントラストでくっきり見せられるライティングはあります。時間帯によって光の見え方は変わるので、外から光が差し込んだとき、ドラマチックなコントラストになる時間を探しましょう。ぼやっとした光よりパキッとはいってくるライティングの方が、キャラクターの陰影も形作りやすく、コントラストも見やすくなるので、形状もはっきり描けてきれいです。

想像だけで描くのは難しいので、資料をとにかくたくさん探す、似たようなエレベーターに乗るなどして現場に行くのもよいでしょう。とはいえ1枚の絵を描くために毎回いろんなところにロケハン行くのは現実的ではないと思うので、普段からデパートに行ったら注意して見てみるなど、常にアンテナを張っておくと、より理想に近い資料のストックが作れます。

私もきれいな場面が思い浮かばない時は、半日ぐらい使って資料を集めます。また、簡単な3Dソフトで描きたい空間を試験的に作ってみて、きれいなライティングを探すのもよくやります。

 

イラキ
ありがとうございます。もう一点、女の子の機械部分をもう少し詳細に描きたかったのですが、資料探しが難しかったです。「サイバ-パンク」「SF」といったキーワードで検索すると、背景の資料はたくさん見つかったのですが、アンドロイドのような現実にないものはどう探せばいいでしょうか?

 

タカヤマ先生
PinterestやArtStationで探してみてもいいかもしれません。「サイバー アンドロイド 女性」などキーワードをたくさん入れて検索を繰り返すと、だんだんディテールや構造がわかる資料が出てきます。

出てきた資料そのままを描いてはいけませんが、パーツごとに細分化して自分の理想に近い資料を集めれば、最終的にどんなデザインが描きたいのかがはっきりしていきます。それを絵に落とし込んで描いていけば、イラキさんの理想の形がだんだん個性になり、作家性の開花に繋がります。

デッサンなどの理論と違い、オリジナルをデザインする力はその繰り返しでレベルアップするので、何年もかかりますが地道に続けていってください。

プールサイド

齋藤
もう1点のイラストのアドバイスもお願いします。

 

タカヤマ先生
こちらは普段の私のジャンルと全く違う作品なので、あくまで私ならどう描くか、になりますが……真上から見る構図は「ここに光が当たって、ここが影になって」というコントラストがつけにくく、どうしても単調な印象になりがちです。

もし私が描くなら、夏の日差しを意識してもう少し水面に近いアングルにした上で、水面のきらめきや透明感もプラスし、プールにいる感じを強調します。また、私はキャラクターを描くときは肉体を表現したいタイプなので、もっと女性の体がきれいに映えるライティングや、髪が濡れている様子などに注力して描くと思います。

逆に、あえて単純な構図にするなら、もう少しシンプルに描いて、面や色彩構成だけで描いてもいいかと思います。

現状ではイラキさんが「この絵で何を表現したかったのか」があまり伝わってこないため、それをより表現できる構図、色彩、画面構成にすると、もっとよくなると思います。

 

イラキ
ありがとうございました!


アイデアがよく色彩感覚も高い作品。カメラの視点やパース意識を高め、臨場感を作り出そう

齋藤
2人目はみがわりさんです。2年制コースの1年生で、将来はUIデザインやグラフィックデザインなどを通して、ゲーム業界のイラストレーターとして就職したいと考えているそうです。

研修0.16日目

【コンセプトや作品背景】
・「不思議な美術館」というコンセプトのもと、制作しました。
・美術館内の雰囲気そのものにファンタジーな要素を感じていたので、舞台を美術館にし、本来動くはずのない名画たちを動かす。という発想にいたりました。

みがわり
私はまず「ファンタジーとは何か?」 をわかっていませんでした。そこで調べていくうちに、ディズニーのようなファンタジー感を出したい、現実ではありえないできごとを起こしたいと考えて、「絵を動かす」アイデアになりました。毛色の違うイラストと絵画の調和を生み出すために、ドラマチックな光の調子を出すよう力を入れました。

 

タカヤマ先生
絵や展示物が動き出し、現場で働いている人がそれらに遭遇する、映画『ナイト ミュージアム』のようなシチュエーションですね。複雑で構成が難しいので、まとめきれていない部分にわかりづらさはありますが、逃げずにしっかり表現しようと細部まで描ききっている点を高く評価しました。
画面の雰囲気も、落ち着きのあるトーンで色彩感覚のよさを感じます。

いろいろなモチーフがあり、やるとなると難しいアイデアですが、キャラクターが何をしているかの「5W1H」が表現できています。

 

みがわり
ありがとうございます。おっしゃるとおり、画面の構成が難しく、まとめる方法がわかりませんでした。解決方法はあるでしょうか?

 

タカヤマ先生
アイデアのひとつとして、コラージュ(貼り絵)のようにするのはどうか? と思いました。パースがある空間ですが、モチーフひとつひとつは遠近感やパースに沿わず、浮いているような感じもおもしろそうです。でも、それが正解かというと、描き始めたら違うと感じて再構成を繰り返すかもしれません。言葉で説明するのは難しいですね。

他には壁の絵が壁から外れていてもいいかなとか、手前の花束をもっと目立つようにする、せっかく飛び出してきているのなら花を画面全体に散りばめてもいいし、各モチーフがもっとダイナミックに見えるようにしてもよかったかもしれないですね。

スタッフの女性も、花束を受け取っているポーズにしたり、受け取りながら天井を見上げているとか、そんな状況なのに奥の波が手前に迫ってきているとか……。

また、人物の位置が下すぎるので、もうすこし上げてセンターに配置する、パースを引き気味にして足元まで見せるなど、「キャラクターがこの場所にいる」ことを強調すると、キャラクターの存在がわかりやすくなります。

美術館全体の絵やキャラクターがもっと動いて、自分がそこにいる臨場感が出せるといいでしょう。画面作りは間違っていないと思うので、このまま使ってわかりやすくなるように工夫しながら再構築すればまとまると思います。

 

齋藤
みがわりさんから聞きたいことはあるでしょうか?

 

みがわり
遠近感を出すために、水色のスクリーンレイヤーで空気感を描いて調節しましたが、あまり奥行き感が出せませんでした。どうしたらいいでしょうか?

 

タカヤマ先生
空気感自体はあり、間違った色の塗り方でもありません。ただ、手前にピントがあっているカメラ視点なので、前後感や奥行きは出にくいです。

遠近感や広さを出したいのであれば、下からのアングルにするといいでしょう。アオリ気味のカメラ視点は空間の広さが表現できるので、天井がちらっと見えるようにしたりパースをオーバーにつけると、前後がわかりやすくなります。

広がりの出る構図を知りたければ、簡単な3Dソフトを使うのがおすすめです。最初に描いたスケッチをもとに円筒や四角い箱を置くだけでも、遠近感が出せるアングルが確認できます。私はイージーポーザー(X:@EasyPoser)を使っています。

 

齋藤
イージーポーザーとはどんなアプリですか?

 

タカヤマ先生
人体ポーズアプリです。このアプリでカメラ位置による空間の広がり方、見え方を研究してみるといいと思います。多機能ではないですが、アセットをワンクリックするだけでポーズをつけたり、アングルの調整ができます。望遠などはできませんが、ちょっとしたアングルは確認できますし、保存して資料にできます。価格も手ごろで、学生でも負担が少なく手に入ると思います。

「ファンタジーの日常」という、具体的なシチュエーションが決められてないテーマを、まだ1年生の時点で描いたら、設定があいまいでよくわからない絵になりがちです。私が専門学校の1年生だったらこんな絵は作れなかった。みがわりさんはイメージする力が強く、構成力もあり、絵のアイデア自体は非常によくできています。今後は絵を構成する技術を上げていってください。

 

みがわり
自分が「完成した」と思ったものでも、客観的に見ていただくとかなり改善点があると気づきました。これからもブラッシュアップしてがんばります。

目醒めの時

タカヤマ先生
2枚目はゲームのカードイラストを想定したイラストですね。トレーディングカードのキャラクターイラストは、人物に寄せたアングルで絵の中心の7、8割を占める構図になるものです。この作品はそういったことができていて、キャラクター自体もうまく描けています。

ただ、顔はうまく描けていますが、体つきやポーズの柔らかさがもっと自然に描けるといいですね。そのためには体の構造理解をもうすこしアップするといいでしょう。デッサンで練習したり、とにかく資料を見て描くなどを繰り返すと、キャラクターの表現力が跳ね上がります。

学校に入って本格的に絵に取り組んでまだ1年目の習作としては100点。結構レベルは高いと思います。
学生のうちは1日中描いたり考えたりできます。それがあともう1年あるなら、このまましっかり練習すれば、卒業するころには技術力や能力はプロレベルまで到達するかもしれません。

 

みがわり
自分がプロレベルになれるかもしれないと言われてうれしいです。ありがとうございます。

 

タカヤマ先生
プロになれますか? と聞かれても難しいと思うときは言えないのですが、みがわりさんは「なる意思があるなら、なれるだろうな」と想像できます。がんばってください。

 

齋藤
イラストの講評以外で、質問したいことはありますか?

 

みがわり
生活と絵の両立が難しく、絵を描くのが楽しくてつい没頭してしまい、やめるのが難しいです。スイッチをオフにする方法が知りたいです。

 

タカヤマ先生
私ぐらいの歳だと、睡眠時間が足りないとパフォーマンスが下がりますが、まだ若いので「ちょっと眠い」ぐらいなら、やってもいいのではないでしょうか。もちろん食べる寝る運動するなどはとても重要なので気にかけながら、やれるところまでやるのはいいと思います。

ただ「こんなんじゃだめだ」と自分を追い込みすぎるようだと、長続きしません。プロの中でも、とても上手な人がストイックで真面目すぎて、数年後には続けられていないことがあります。自分を追い込みすぎて潰れてしまうと、成長もストップしてしまいます。できるだけやるけど、長く続けられるような気楽さも必要です。

1、2年で急にうまくはならない(うまくなるが、プロを長く続けられる確かな能力を獲得できるわけではない)ので、上達はロングスパンで考えて、継続できる程度にがんばる、若いので多少無理はできる……ぐらいがいいかなと思います。ぜひ体に気を付けてがんばってください!


わかりやすく、見やすい画面作りが好印象。楽しく描いて理想を見つけて

齋藤
3人目はハイロさんです。2年制コースの2年生で一般職に就職が決まり、絵は趣味で続けていきたいということです。

微睡み

ハイロ
「ファンタジーの日常」の「日常」にフォーカスしました。自分が一番日常を感じるのはどういうものだろう? と考え、作業をしたあとの居眠りや休み時間のシーンを切り取りました。ファンタジー要素の小人をちりばめ、どこを切り取っても日常の一部が見られる作品に仕上げました。

 

タカヤマ先生
キャラクターにカメラを寄せて『微睡み(まどろみ)』というテーマがよくわかる画面構成です。徹夜を繰り返した人が見る小人のような存在がまわりにいることで、ファンタジー感も演出しています。
ライティングも、朝の日差しか午後の西日を思わせる背面からの日差しが、作業をやったあとの雰囲気になっていて微睡みのテーマにあっています。優しい雰囲気でありつつ、ハイライトで画面にメリハリが出ていて、演出として効果的。全体的にわかりやすく、見やすい画面がいい絵作りです。

 

齋藤
さらにレベルアップできる点はあるでしょうか。

 

タカヤマ先生
プロを目指すのではなく、自分なりにイラストを楽しみたいなら十分すぎるレベルです。とはいえ、せっかく学校に通われているので、よりレベルアップしたいのであれば、ということでお話しします。

ハイライトで白く飛びすぎた印象があるので、もう少し抑えるといいかもしれません。シチュエーションの「時間」を限定して、徹夜して朝なのであれば青紫っぽい光、お昼であれば黄色っぽい光など、光の色も考えるとよくなると思います。また、ハイライト部分に線が「残っている」印象があります。残すこと自体はいいのですが、もっと絵の中に溶け込んだ線にできるといいですね。

 

ハイロ
改めて見てみると線が浮いているところが多いと感じるので、もっと細かく処理したいと思います。

 

タカヤマ先生
キャラクターの髪や体とイスなどの線が同じ太さや調子だと、硬い感じに見えます。ぐっと入れたいところは強くし、光が当たる外側は細めにするなど強弱をつけたり線の色を変えると、やわらかい印象にできてリズムも出ます。木と布の質感の描き方もあまり違いが見られないので、質感の違いも出せるようになるといいでしょう。モチーフごとにあう線や描き方があるので、素材感を出すことを意識してみてください。

 

ハイロ
もうひとつ、奥行きがあまり出せませんでした。この構図で奥行き感をより出すためには、どうしたらいいでしょうか?

 

タカヤマ先生
手前と奥の描き込み量がそんなに変わらないので、差をつけるといいと思います。また、パースを整理するといいでしょう。今だとカメラが地面に向いていて奥が床になるので、空間が分かりづらい。もう少しカメラの位置を下げて、向こう側の壁やカーテンが見えるようにすると、奥行きが出ます。

パースのつけ方はなんとなくわかっている状態だと思いますが、リアリティのある奥行きを出したいのであれば、3Dソフトやしっかりした写真などで資料を集めたほうがいいです。

 

齋藤
講評以外で、質問したいことはありますか?

 

ハイロ
絵柄や塗り方が統一できず、安定しないことが悩みです。描きたいイラストの雰囲気ごとに模索して描くため、線画を描いてアニメ塗りにしたり厚塗りにしたりと絵柄がブレてしまいます。

 

タカヤマ先生
自分がそう描きたいと思ったのなら、楽しく好きなように塗ればいいですよ。線に気をつかうとアニメ塗りの絵のクオリティが上がりますが、厚塗りでは線で表現できない部分があり、意識することも違います。そこは頭を切り替えて描くしかないですね。思いついた絵にあった描き方を、よりクオリティアップさせるしか、安定する方法はないと思います。

いろんな絵柄を描けたほうがいいと思うかもしれませんが、私はそうじゃなくてもいいと思っています。まして趣味で描くなら、きれいに楽しく描けるのであれば、それが一番いいですよね。

どうしても絵柄を安定させたいのであれば、100枚ぐらい描けば安定してくると思います。私も若い頃は年間100枚ぐらい、10年で1000枚描きましたが、それでもああしたい、こうしたいと考えているとそんなに安定しません。

学校に入ってからしっかりイラストを描き始め、まだ2年だとしたら安定性においてはまだ入口です。独自の研究を楽しみながら描いていけば、趣味としてはすごくいいものになると思いますよ。クオリティもそんなに気に病まなくていいのではないでしょうか。

 

齋藤
まだお時間がありますので、他に質問したいことはありますか?

 

ハイロ
ありがとうございます。雰囲気にあわせた加工の仕方や、より空気感を演出する方法が知りたいです。

 

タカヤマ先生
理想のライティングや色使いを研究することです。朝昼夜、室内か屋外か、海辺、山など、場面によって全然違ってきます。今描こうとしているシチュエーションを大事にして、想像して、資料をしっかり集めたり、現場を体験してみてください。朝方を描きたいなら早く起きて実感してみる、高原に行ってみるなどする。「こうやったらできる」という技術はなく描いて身に付いていくので、そうして何度もトライするといいですよ。

今プロレベルに達しているかというとそうではありませんが、賞に選ばれたということは、ある程度は成功しています。本格的には2年しか学んでいない中で、自分の表現したいことがある程度描けるようになっていて、空気感も出せています。その感性で、「自分がどう描きたいか」というコンセプトをしっかり置いて練習すれば、描けるようになると思います。がんばってください。


【総評】描きたいものから逃げずに描ききる。努力を積み上げれば今より必ずうまくなる!

齋藤
全員の講評が終わりました。最後にコンテスト全体の総評をお願いします。

 

タカヤマ先生
学生のみなさん、自分のできる限りで描かれたと思います。力作ぞろいで、選考は悩みました。受賞作以外にも入賞候補はいくつもありましたし、追いつけないほど差があったわけでもなかった。その中で、選ばれるかどうかは「細部まで手を抜かず、しっかり描けていたか」です。

どれもクオリティはある程度高かったのですが、
 
「キャラは描けているけど背景はおざなりになってしまった」
「ささっと描いてしまった部分がある」
「テーマが絞りきれず、見せたい部分が不明瞭」

などを感じる部分がありました。選ばれた作品はできるだけ理想に近づこうとしていた。そういう積み重ねは何年もたつと差となって出てきます。

まずは、最後まで手を抜かずに描ききる努力をしてみてください。持てる力を最大限生かして描ききれば、たとえ技術が未熟でも、一見の価値ある作品になると思います。

基本的に、絵に必要な要素は 「5W1H」です。「いつ」「どこで」「だれが」「何を」「なぜ」「どのように」しているかを意識すると、絵の形ができます。そのあと各部を詰めていき、自分の持てる力で、構成し、資料を集め、キャラクターも背景もしっかり描く。ライティングや遠近感を意識したり、パースをあわせる。

どこかでうまく描けなくなって、投げ出したくなるときがあるかもしれません。ですが、そこで投げ出さずに描ききることが重要です。学校の課題に沿いながら、最後までやりぬく。それを繰り返していけば、クオリティアップに繋がりますし、次のチャンスでは受賞できるかもしれない。少なくとも今よりは絶対よくなります。

そういったことをひとつひとつ意識して、ていねいに向きあって描くことが大切です。今後もたゆまぬ努力でがんばってください!

 

▼GENSEKI学生応援プロジェクト

 

執筆kao(X:@kaosketchWebGENSEKI

イラストwacaco[ワカコ](X:@wa_calappoGENSEKI

編集斎藤充博(X:@3216WebGENSEKI