GENSEKIマガジン

モノづくりを広げる・支えるメディア

確かな描写力にひとさじのファンタジーとワクワクを込めて ー イラストレーター・才賀サイ

美味しそうなお菓子や食べ物、ミニチュアな世界観を描くフリーイラストレーター・才賀サイ氏。

高校では美術系の専攻学科、ゲーム系の専門学校を卒業後、商業ゲームでの背景イラスト、コミティアへでの創作活動で経験を重ね活躍。

高いデッサン力で不思議とワクワクの詰まった世界観を描き、見る人を楽しく魅了する。

今回のインタビューでは、生き生きとしたファンタジーな世界を描く日々について、余すところなく語っていただいた。


自分のやりたいことを突き詰めて出来た思い出 

GENSEKI3月テーマコンテスト「スイーツ」優秀賞『nursery tea time』

GENSEKI3月テーマコンテスト「スイーツ」優秀賞『nursery tea time』

ーー3月のコンテストと受賞の感想をお聞きしてもよろしいでしょうか?

才賀:参加しやすかったです。既存絵もOKですし、テーマもシンプルだったので沿わせやすく、この絵でもいいのかなとさらっと応募できる印象です。テーマが凝っていると、既存絵の応募は難しいので、とてもありがたかったです。

ーーでは今回のイラストは既存で描いていらっしゃったのでしょうか。

才賀:昨年11月のコミティアで出した「紅茶の擬人化」テーマのイラスト本の表紙です。とても気に入ってて、こういう機会に出せたらいいなと思っていたので、審査員の方にも褒めていただいて嬉しかったです。

ーーコンセプトやこだわりをお聞かせ願えますか?

才賀:「nursery tea time」というタイトルなのですが、「子どものお茶会」という意味があります。イギリスの方では、子ども達がお茶会マナーを練習する文化があり、楽しく勉強できるよう小さい子ども用ティーセットが人気だそうで。そこから着想を得て、お茶会の楽しい雰囲気が伝わるように、ワクワク感やちょっとファンタジーな感じ、踊るようなイメージで、という所をこだわりました。

ーーアリスのティーパーティーのような印象で、ワクワクしました!どのぐらいのお時間で描かれたんでしょうか?

才賀:20時間ぐらいです。本の締め切りまで時間がなく、一日かけてかなり急ピッチで描きました。

ーーフリーのイラストレーターのお仕事でも、こういったイラストを描くことが多いですか?また、お仕事の一番の思い出や、今まで思い出に残っている作品があれば教えて下さい。

才賀:普段はこの絵とは全然違う分野で、主にソーシャルゲーム等の背景イラストの仕事をしています。
一番の思い出は、やっぱり今回受賞した絵が一番です。仕事を始めてから「自分の本当にやりたいことって何なんだろう?」と考えた事がきっかけで描いたので、人生が変わった絵でもあるし、コンテストで賞がもらえて自信がつきました。

ーー思い出深い作品になりましたね。

才賀:嬉しかったのが、コミティア初参加で、少ない部数ですが本が売り切れたんです。当時はTwitterのフォロワーも少なく、宣伝も期待できない状態での参加でしたが、結果も残せて「ああ、ちゃんと描いて良かったな」と、思い出になりました。

不思議とワクワクを絵の中に込めて

『朝食チーズ泥棒』

『朝食チーズ泥棒』

 

ーー他にもご自身の代表作品があればご紹介いただいてもよろしいでしょうか?

才賀:「朝食チーズ泥棒」という作品です。朝の風景に、よく見ると実はあちこちにネズミがいます。

ーーかわいい!どこから発想を得て描こうと思ったのですか?

才賀:もともと漫画で主人公の肩に乗ってる様なマスコットキャラみたいなちっちゃいのが日常生活に紛れてるような世界観が好きで、それを自分の好きな朝食のシーンで描けたらいいなと思いました。

ーー色々な小物もきちんと描いていらっしゃいますね。

才賀:とにかくこういうナイフやチーズなどの、小物が大好きなんです。もともとシルバニアファミリーがすごく好きで、その影響がありますね。動物がいるのも。

ーーどのくらいお時間がかかっているんでしょうか?

才賀:これは結構かかりました。合計時間は3日程度ですが、仕事の合間に今日は2時間だけ、と進めてたので、期間は1週間ぐらいかもしれません。

ーーコンテストのイラストとタッチが違い、水彩風の塗りに見えます。

才賀:朝の温かい日差しの感じを、アナログもすごく好きなのでデジタルでアナログっぽく描けないかと挑戦してみました。

ーー朝食の雰囲気にも合っていますね。目玉焼きが美味しそうです。

才賀:これは実際に一度目玉焼きを焼いて、モチーフを全部作って写真を撮ってから描きました。さすがにチーズは用意できなかったのでネットで見ましたが、基本、写真を撮ってそれを参考にして描くというのをよくします。目玉焼きは、最後に美味しくいただきました(笑)

ーー素敵な朝食になりましたね!発表された時の反応はいかがでしたか?

才賀:Twitterのフォロワーが、コミティアの時はまだ100人ぐらいだったのが、突然この絵で1200RTぐらいいただいて、一気に増えました。ネズミがチーズを盗んでるっていうシーンが響いたようで、引用リツイートやリプライも沢山頂き「むしろ食べさせてあげたい」「あげるよ全然!」みたいなコメントがありましたね(笑)

「伝わる絵」としての技術と魅力

『秘密の演奏会』

『秘密の演奏会』

ーー絵を描き始めたきっかけを教えて頂いてもよろしいでしょうか?

才賀:物心がついた時には描いていました。母が少女漫画っぽい絵を描いてくれていたのも最初のきっかけです。あとは絵本ですね。色んな童話の絵を見て、自分も描きたいと思って描き始めたと思います。

ーーその後はどのように絵の勉強をされたのでしょうか?

才賀:高校は美術学科の日本画専攻で、その後ゲームの専門学校です。そのなかでも専門学校で自主的に入ったデッサンの部活が一番ためになりました。
なんとなく、上手くなるにはデッサンをやらないとと思っていて、就活でポートフォリオにあるといいというのもあり、顧問の先生にしごかれながら放課後や土曜日も行き1年間ぐらい本気で缶詰になりました(笑)
そうしたら上手くなって観察力が凄い上がったんです。「見たものを絵として描写できる力」が備わり、色々できるようになりました。

ーー写真を見ながら描くことが多いそうですが、頭の中だけで描くことはないのでしょうか?

才賀:そうですね。小物を描くことが多いので、見ないと細いところまでは描けません。形も正確に描かないと、その物が持ってる良さが伝わらない。
皆の印象から離れてしまい「これってこんな形だっけ?」となるのは絶対になくしたかったので、ちゃんと描写できるデッサンは自分の中で本当に大きかったです。

ーー現在の作品の作風について、意識している所や、こだわりをお聞かせください。

才賀:絵柄は絵本っぽさを意識しています。あとはひとさじファンタジー要素、朝食の絵のネズミ達のような、ちょっと不思議な世界、絵本のような、子どもも大人も見てワクワクするものを描きたいです。

ーーまさに、才賀さんのイラストからはワクワクが伝わってきます。GENSEKIに上げられていたクッキー缶の絵を見て、お腹が空いていました。食べたい!と。

才賀:嬉しいです。お菓子の缶なども好きで、あの開けた時のときめきを私の絵でも感じ取ってほしいという思いは強いです。

『お菓子の詰め合わせ』

『お菓子の詰め合わせ』

 

ーー絵がすごく上達したなと自覚したタイミングや、転機があれば教えて下さい。

才賀:11月のコミティアに初参加した本を作ったのが本当にきっかけでした。作るからには売れるものを描きたいというのと、自分の欲しいもの、自分の本当に好きなものを描きたいと思って。さらに本となると、表紙から裏まで、ページ全部一人でやるので、膨大な量を一気に描いたことで、成長したなと思いました。

ーー本の制作期間はどのぐらいですか?

才賀:構想自体は7月ぐらいからできていて、そこから仕事の合間にコツコツ8月~10月、トータルで3ヶ月ぐらいです。

ーーすごい熱量ですね。

才賀:当時、アニメもゲームも映画も、色々楽しんでいたら本当に好きなものがブレてしまって、自分の描きたいものが分からない期間がかなりありました。
それが本を作ったおかげではっきりして、描きたいものが分かった瞬間に絵が上達しました。自分が好きな物って自分が一番魅力的に描けるものなんです。

ーー尊敬しているイラストレーターや作品などがあれば、教えて下さい。

才賀:沢山ありますが、ひとり挙げるなら『バムケロ』シリーズという絵本を描いてる島田ゆかさんが原点で頂点です。かわいくて、とても絵がこまかくて。隠しキャラで手のひらサイズの犬が必ず画面のどこかにいて、そういう遊び心も好きです。
他には、幼少期にはまった「ミッケ!」という絵本の写真。これもやっぱり遊び心があり、大好きです。

自分の絵が好きになれた幸せ

『ロマンティックストロベリー』

『ロマンティックストロベリー』

 

ーーデジタル制作ということですが、画材や機器はどういうものでしょうか?

才賀:iPad Proで、ソフトはClipStudioです。楽だし便利ですね。
画面分割という機能でClipStudioの横に別のアプリも開けるので、狭くならないよう一番大きい12.9インチを選びました。
PCで板タブや液タブも使っていましたが、PCを立ち上げて描く動作に対してiPadは触ったら起動するので、絵を描くハードルが下がりました。

ーー1日のタイムスケジュールはどのようなものですか?

才賀:朝の10時ぐらいから描き始めて、12時頃お昼、そこからまた描いて夜は23時…1時ぐらいまで描いてます。たまに寝坊した時は深夜遅くまで描いて。土日もずっと描いてます。

ーーすごいですね!ずっと描いていて腰など痛くならないですか?

才賀:今のところは「昇降机」という、高さを変えられて立っても作業できる机で立ったり座ったりして描いているので、そんなに負担にはなっていません。

ーーアイデアに詰まった時のリフレッシュ法はあるでしょうか。

才賀:本や映画や、少しゲーム、お菓子作りもするので、それが気分転換です。クッキーやスコーンやカップケーキなど簡単なものですが。

ーー絵と離れたことをしてリフレッシュされるのですね。他にご趣味はありますか?

才賀:口笛が趣味です(笑)吹けるようになりたくて2年ぐらい前から練習していて、絵を描きながら吹けるので一石二鳥で(笑)

ーー口笛は意外です!(笑)おもしろいですね。

才賀:物づくりも好きなので、コミティアのブースに並べるポストカード立てを可愛くアレンジするなど細々した手芸などもしています。

ーー創作の情報収集や、イラストの発想はどういう所で得ているのでしょうか?

才賀:Twitter、Pinterestなどでリストを作ってチェックしています。YouTubeなどお絵描き配信を色々な方がやっているので、絵に関するこぼれ話・絵の質疑応答などが聞けて、結構それで救われたり、勉強になります。

あと、描けない時は、インプットが足りてないだろうと感じるので、映画や本はそれを補うためにも見ています。絵の技法書、背景の描き方とか、配色本なども集めていて、頭が働かない時に手に取ります。

ーー勉強熱心ですが、そこでアイデアも生まれてきたりするんでしょうか?

才賀:楽しくてやっているので、勉強という感覚ではないかもしれません。自分の好きな作風が映画やドラマになっている作品も多いので、参考になり着想を得る事は多いです。

ーーどういう作品がお好きですか?

才賀:色々ありますが、Netflixオリジナルドラマの「アンブレラ・アカデミー」。元はアメコミ原作で、とてもお洒落です。演出、派手な感じ、ちょっとレトロで、家や内装がアンティークっぽく、服装が可愛いです。
もう一つ挙げるとしたら、Amazon primeオリジナルドラマ「マーベラス・ミセス・メイゼル」。これは私の作品に近いレトロな1960年代ぐらいの感じで、ファッションもとても可愛い。女性コメディアンが主人公の話で面白いです。

『特別なイースターエッグはいかが?』

『特別なイースターエッグはいかが?』

 

ーーイラストレーターとして一番幸せを感じる時と、逆に辛いなと思う時があれば、教えて下さい。

才賀:絵が完成した時が一番です。昔は結構コンプレックスがあって、自分の絵が好きじゃなかったんですが、今の絵柄になってからは本当に自分の絵が好きで、完成したら嬉しい、これ何のグッズにしよう?ワクワク!みたいな気持ちです。
ずっと悩んでいましたが、やっと自分の絵が好きになれました。

ーー試行錯誤して、ご自身の絵を本当に気に入ることができたのは最高ですね。

才賀:逆に季節の変わり目などで、どうしてか描けない時期がたまにあり、描くまでの動作が進まない時が辛いですね。描いたら絶対自分の好きな絵が描けるのに、何か描けないというような時がたまにあります。

ーー今後、絵の仕事でやってみたいなということはありますか?

才賀:お菓子のパッケージイラストや缶の絵を描いてみたいです。あと、グッズデザイン。他には小説の表紙や挿絵、特に児童書をやりたいですね。青い鳥文庫や、女性向けライトノベルでは、ファンタジー系の作品が多いのでやってみたいです。GENSEKIでの受賞を機に、今の絵柄でのお仕事もこれから頑張りたいです。

ーーGENSEKIは昨年始まった新しいプラットフォームですが、どんな印象でしょうか?

才賀:ポートフォリオのサイトとして使いやすいと思いました。絵を一覧でバッと載せられるし、企業さんとマッチングできるっていうのも、仕事の間口が広がっていいですね。
それとコンテストはすごくありがたいです。毎月やってくれるし、応募したいテーマもあるので、今度また応募しようと思っています。
そのテーマ用に描き下ろしのイラストを描いているので、頑張ります!

 

才賀サイ

魔法やお菓子、ミニチュアな世界が好きなイラストレーターです。アンティークやカントリーな絵本風の雰囲気を描くことが得意です!

genseki.me