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「収入を上げるには?」「フォロワーを増やすには?」「いいアイデアを出すには?」 カメントツ先生に聞く【漫画お仕事道】第4回

 

「漫画を仕事にしたいけど、どうしたらいいかわからない……」そんな悩みを持っている人はいませんか。

この連載では、『こぐまのケーキ屋さん』などで知られる大人気漫画家のカメントツ先生に「漫画をお仕事にするために必要なことについての質問」に答えていただきました。

今回のテーマはSNSや収入など漫画家Q&Aです。漫画を描き始めて直面するさまざまな悩みに答えていただきました。第一線で活躍するプロの知見、ぜひ参考にしてください!

答えてくれた人カメントツ(X:@Computerozi
漫画家。愛知県出身。2015年より『オモコロ』にて漫画家の活動をスタート。2017年にTwitter(現X)で発表した『こぐまのケーキ屋さん』が大ヒット。

 

Q.漫画家として収入を上げるにはどうしたらいいでしょうか?

A.おもしろい漫画をしっかり描き続けることが第一。その上でマーケティング戦略を考える。

ーー漫画家として収入を上げていくにはどうしたらいいのでしょう。

 

カメントツ先生
漫画家の収入はさまざまです。連載でもらう原稿料や、単行本化による印税、企業からのPR依頼など多岐にわたります。原稿料は漫画がウケれば基本的に上がりますし、印税は本が売れればそのぶん稼げます。

収入を上げるためのセオリーを一概に示すのは難しいんですが、一番大事なのはきちんと世間のニーズを掴み、おもしろい漫画を継続して描き続けることですよね。当たり前のことですが、そこに尽きると思います。

ただ、以上を踏まえた上で「お金になりにくいテーマ」はあると思っています。

一見したところX(旧Twitter)では、かわいい系のキャラクターが流行っていて、そこをターゲティングする人もいるかと思いますが、めちゃくちゃな鬼門なので厳しい。

かわいいの概念は水物ですし、一瞬で切り替わる。方法論がない。子どもの感性にウケるのが一番難しいんです。漫画を置いてもらえる場所が「本棚」じゃなくて「心」なので。

自分でも描いててわからないところも多いです。自分には根本的に無理なんじゃないかと思うことすらあります。

 

ーーSNSを見ると、PR案件の漫画を掲載している人もよくいますよね。ああいうのも気になります。

 

カメントツ先生
SNSでのPR案件も新人にとってはすごくありがたいものだと思います。PR案件を獲得するには、SNSで自分の人となりや興味関心がわかるように企業側が頼みやすい状況を作るなど、漫画以外のアプローチも必要になります。

ただ、PRに全体重を乗せてしまうと、「この人PRばっかりだな……」と思われてしまいかねないので、うまくバランスをとることが大事ですね。

もちろん自分が好きなサービスや商品とコラボできるのはすごくうれしいことではありますし、本人のキャラクターにブレない背骨の強さがあればいいですけど、PRってやはり難しいですからね。自分のSNSを育てて、どのようなマネーフローを設計するかも収入の鍵になってきます。

また、XでのPR案件自体が減ってきている印象があります。一時期の隆盛と比べて、広告効果のフィードバックがあまり効率がよくなかったのでは、と僕はにらんでいます。

こうした状況を踏まえると、PR案件を取れるなら取ってもいいけど、それ専用の漫画家になるのは、けっこう難しい時代になるかも。

 

Q.SNSでフォロワーを増やすにはどうしたら?

A.1アカウント=1コンセプトで、漫画をしっかり読者に見せることが大切。

ーー収入や認知拡大の面でもSNSはすごく大事だと思います。フォロワーを増やすためには具体的にどうしたらいいんでしょう。

 

カメントツ先生
X(旧Twitter)でフォロワーを伸ばしたいなら、1アカウント=1コンセプトで運用するのが基本です。漫画家としてのフォロワーを増やしたいなら漫画だけを載せて、その人のアカウントを見たら絶対に漫画が見れるようにしておくというのがスタンダードだと思います。

漫画家の日常だとか趣味の話とか、そういう投稿もいいんですが、漫画を見に来た人からするとノイズになってしまいますよね。ただ、フォロワーが1〜3万人以上になったら、その人の日常や趣味が見たいという人もだんだん増えてくると思います。そのときには別アカウントを立てるのがやり方としてはスムーズですね。

 

ーーたしかに漫画を見に行ったのに、違う投稿をしていたらフォローまではしないかもしれません。

 

カメントツ先生
もう一つ、漫画そのものでなくても、制作のプロセスを見せていくのもアリだと思います。こういうコンセプトで、どういうキャラクターを出して……という資料集的にすると「気になるからフォローしよう」という読者は多いんじゃないでしょうか。

ただここで、新人さんがやりがちなんですが、作画前のよくわからないコマを載せてもしょうがないんです。読者の興味を引くならば、ちゃんと表に出す専用の画像を作る必要がありますね。

途中経過を見せていってすごく人気になる作品もあるので、読者の期待値を高めるにはどうしたらいいかを考えていくとフォロワーの増加につながると思います。

 

ーーSNSで自分の漫画を多くの人に知ってもらうためにはどういうやり方があるんでしょう。Xでは自分の漫画を(1/4)みたいに連続して投稿している人もいますよね。

 

カメントツ先生
あれは自分の作品を紹介するためにXのフォーマットに則って、既にストックがあるものを見せる形式ですね。例えば新人賞に漏れた投稿作や連載作品の1話などです。
そのあとに続きをリンク踏んで読んでもらう……という流れを作る意味では有効だと思います。

逆に「よしXに投稿する漫画を作るぞ! バズらせるぞ!」と思って制作を始めるなら16ページを1本投稿するより、4ページを4回投稿したほうがメリットが多いです。

基本的にSNSの自主制作には賃金が発生しません。それでも、PDCAサイクルを爆速で回せるという大きな利点があるので、読者の目に触れてフィードバックすることは大事なんです。コストを下げて、当たるまで続ける。

他にも、ハロウィンやクリスマスなど、季節行事や話題のニュースがあるならば、時流に沿った漫画を描くなどすれば見てくれる人は増えると思います。ただそういうセオリーに則ったからバズとは限りません。結局はその漫画が人を引き付けるおもしろさがあるかが、重要だと思います。

 

Q.いいアイデアを出すためにはどうしたらいいでしょう?

A.世の中の数字から考えたり、自分の知らない違う分野の情報を積極的に取りに行くのも大事。

 

ーー漫画を描くためのアイデアを見つけるためにいい方法はありますか?

 

カメントツ先生
世の中の数字を観察して、そこから考えるというのはアリかもしれませんね。日本には消防士が16万人、自衛官が22万人、警察官が26万人います。

例えば26万人の警察官の10%が買いたくなる漫画を描いて、その人たちが全員本を買ってくれたら2万6千部になります。そのようにどれくらいのターゲット層がいるのか、そういうものから企画を立ち上げるのも気分転換になるかもしれませんよ。

ちなみに日本には……。
5歳以下のこどもは716万人います。働いている人は、5800万人くらい……人口の半分弱くらいですね。書店に行ったときに感じる育児書とビジネス書の棚の規模感と比例するのではないでしょうか?

他にも業界紙ってありますよね。僕がコンビニでアルバイトしていたとき、コンビニの業界紙が大好きだったんですけど、そういう専門的な本や雑誌に案外自分の漫画のヒントが転がってることがあります。

「暴走族がたむろしにくい駐車場の作り方」とか「隠す? 見せる? 監視カメラのアレコレ」などなど……。ネタの宝庫でした。自分の視野の範囲外から情報を積極的に取りに行くのも大事だと思います。

 

Q.漫画家を続けるために、気をつけたほうがいいことは?

A.感情の機微や登場人物の心を描いたりと、漫画家は”心”で仕事しているようなもの。メンタルが沈んだら病院に行くべきだし、自分の心をどう漫画家向きにセッティングしていくかも重要。

 

ーー漫画家は体を壊しやすい職業だと思います。精神面や健康面など、漫画家を長く続けるために心がけたほうがいいことはありますか?

 

カメントツ先生
僕も新人のときはメンタルや体はボロボロでしたね……。うつ病と発達障害持ちで潰れまくってきたので、いろいろ工夫はしてきました。

漫画が上手く描けたタイミングがどういう状況だったのかを観察して、自分の傾向をつかむのは大事だと思います。僕は昼夜逆転生活をしていた時期があったのですが、そのときは明らかに原稿の進みが遅かったです。

そして、感情の機微や登場人物の心を描いたりと、僕ら漫画家は”心”で仕事しているようなものです。だからやっぱり心や精神の調子が悪いなって思ったら素直に病院に行くべきなんですよね。

体のどこかが死ぬほど痛かったら病院に行くのって当たり前じゃないですか。それなのに、なぜか心の問題に関しては筋トレとかサウナのような民間療法で治そうとしがちじゃないですか?

 

ーーたしかに……。

 

カメントツ先生
それが必ずしも良くないとは言いませんが、明らかに病院にかかったほうがいいのに筋トレしていても、ムキムキで心の調子が悪い人になっちゃうだけじゃないですか。まず自分がどんな状態かを知るためにも、ちゃんと病院などのしかるべきところに行ったほうがいいです。

先ほど言ったように、僕は発達障害と二次障害のうつ病があります。そんな僕が無事に漫画を描けてるのも現代医学と編集部の理解のおかげでもありますから。自分の心を漫画家向きにどうセッティングしていくかも重要です。

 

ーー最後に、漫画家を続けるためにカメントツさんが大切だと考えていることはなにか教えてください。

 

カメントツ先生
「良いところを伸ばす」ということですね。漫画の講師として教育現場に立つことも多いのでそれは身にしみて感じています。好きなことと言い換えてもいい。

「これだったら永遠に描いていられる」と思えるジャンルがあるなら、どんどんそれを先鋭化させたほうがいい。尖りまくったら、それに引っ張られて他も伸びるものだから。

SNSであふれる心無い言葉に傷ついて挫けそうになっている漫画家志望の人もいるかと思いますが、厳しい意見では人間って育たないんですよね。そういうことばかりに目を向けると漫画を描くのを辞めてしまうという選択になってしまいます。良いところを伸ばすのが漫画家として成長するために一番良いことです。

だから、基本的に周りからは甘やかされるべきだと思います。自己否定は自分の中でやれば良いんです。足りないものを少しずつ見つけていくと、実力もついていきます。

新人漫画家の作品をSNSで見つけた読者さんも「めちゃくちゃ最高〜!」といってあげてください。それが世界におもしろい漫画を増やせる最高の呪文です。

漫画家ってすべてのステータスがきれいにまとまっている人ではなく、全体的にはダメダメでも、どこかひとつが飛び抜けている人が成功するものです。そういう人がくじけてしまわないよう、人の良いところを見つけられる同業者でありたいですね。

あ、あと……これはめちゃくちゃ大切なことなんですが…きちんとケツ持ってくれる人のアドバイス以外は、聞かなくていい。ノウハウなんて、結局役に立たないことがほとんどです。マジで。

専門学校の先生とか、担当編集さんとか、自分がデビューできないと確実にデメリットな人へのレスポンスだけは、きちんとしよう。戦友だからね。

 

でも、どこの誰がかわからない覆面漫画家のインタビュー記事なんか真に受けるな。がんばれ。

 


執筆神田匠(X:@gogonocoda

イラスト穀物かじつ(X:@k_kajitsu

編集斎藤充博(X:@3216