子育てをしながら「営業活動」ってできるの? 子育てイラストレーターのお悩み相談

こんにちは。子育てしながらフリーランスとしてイラストを描いたり、漫画家を描いたりしている斎藤充博です。
今回は、子育てフリーランスの先輩である漫画家・イラストレーターの川口真目さんが「子育てフリーランスによくある悩み」を解説してくれました。全3回の連載の最終回です。
第1回 子どもの夜泣きで仕事が進まないとき、どうすればいい?
第2回 在宅でイラストを描いていると家事をやることになってしまう……
第3回 子育てをしながら「営業活動」ってできるの?
お話を聞いた人
川口真目(カワグチマサミ)さん
13歳の子どもが一人。育児をしながらフリーランスで絵や漫画を描いている。子育てフリーランスに関する講演や、「川口真目の【子育てフリーランス】コミュニティ」の運営なども行っている。
インタビューした人
斎藤充博
3歳の子どもが一人。育児をしながらフリーランスで絵や漫画を描いたりしている。それだけで毎日いっぱいいっぱい。
「子育てをきっかけにフリーランスにならざるを得ない」という状況
斎藤
ここまでは僕の悩みを川口さんに聞いてもらいました。今度は川口さんから取り上げたいトピックがあるとうかがっています。
川口
はい。「子育てしながらの営業活動」についてぜひ話したいと思っています。
斎藤
僕はフリーランス歴が長くて、ある程度のツテがあるんです。だから子育て中にそんなに営業活動をする必要はなかったのですが、すごく興味があります。
川口
私のところには「出産・育児をきっかけにフリーランスにならざるを得ない」という人がよく相談に来るんです。そういう人は、子育てしながらまったくゼロからの営業をしなくてはいけません。

斎藤
それは難易度が高そうですね……。
川口
私もいろいろ考えて、いろいろな人に聞いたりして「こうしたらいいんじゃないかな」という知見が貯まってきました。ここでお話できればと思っています。
まずは自己分析をする
川口
まず、やらなくてはいけないのは自己分析です。自分になにができるか、なにが「ウリ」になるのかを考えなくてはいけません。
斎藤
でも「自分のなにがウリになるか」を考えるのって、難しくないですか?
川口
そうなんです。「私にはなにもウリなんてない。どうすればいいですか」って相談してくる人は多いですね。でも、そんなことはないと私は思います。
まず一番のウリになるのはこれまでのキャリアです。フリーランスになる前に就いていた仕事の知見は、フリーランスになってからも生かせるはず。よくある例として、医療従事者の方が医療系のイラストやデザインをやっていることがあります。
斎藤
たしかに「仕事でやっていたこと」って、自分ではたいしたことないように思えても、ほとんどの場合が専門知識ですよね。
川口
そうです。キャリアで得た専門知識を、イラストやデザインの需要のある分野に落とし込めると強いですね。

斎藤
なるほど。でも、なかなか自分のキャリアがうまくフリーランスの活動に繋げられない場合もあるんじゃないでしょうか。
川口
そうですよね。その場合は、自分が興味あったことを棚卸ししてみるといいと思います。これまでどんな本を読んできたか。どんな習い事をしてきたか。検索履歴はなんなのか。YouTubeの履歴はなんなのか。
斎藤
「YouTubeの履歴」っていいですね。たしかに自分が興味あることが端的にリストになっている気がします。
川口
どんな人でも、これまでの人生で取り組んできたことがあるはず。そこからフリーランスの活動に繋げられそうなことをどうにか見つけられればいいと思います。

ポートフォリオには「仕事として取り組んだもの」を載せる
斎藤
自己分析ができたあとは、ポートフォリオ作りでしょうかね。
川口
そうですね。ただ、ゼロからの状態だと「作品がなにもない」こともあると思うんです。だからポートフォリオに載せる作品を作るところからですね。
斎藤
自分がこれまでに自主的に作った作品を載せるのではダメですか?
川口
ダメではないですが、クライアントが一番知りたいのは「この人はちゃんと企業とやりとりして、仕事として最後までイラストを描いてくれるのか」だと思います。そういったことは自主制作の作品からは伝わりにくいですよね。クライアントワークの作品を載せる必要があるんです。
斎藤
なるほど。僕もよく駆け出しのフリーランスの人と話すのですが、みんな「技術が劣っているから仕事が来ない」とか「SNSのフォロワーが少ないから仕事が来ない」って思いがちですよね。
でも仕事が来ない理由はそうじゃなくて、「最後まで仕事をしてくれるかどうかが、わからないから」というのが大きいと思うんです。そこさえうまくポートフォリオで表現できれば、仕事は来やすくなる気がしますね。
ただ、ゼロからフリーランスの営業をするのに、クライアントワークの実績が必要って、厳しいですね……。服を買いに行く服がない、みたいな……。
川口
そこでポートフォリオに載せさせてもらう作品を作るために、知りあいや近所の小さいお店のイラストやデザインを作らせてもらえないか、とお願いするんです。事情を説明すれば、そんなに嫌な顔をされることもないですよ。
その代わり、お金は取れないし、作ったものを使ってくれるかどうかもわかりません。それでも自分のポートフォリオに載せることはできます。そうしてコツコツとポートフォリオを充実させていきます。
斎藤
なるほど。ここはがんばりどころですね……!

川口
それも難しかったら、友達の個人の似顔絵アイコンを作るとか、クラウドソーシングとかもアリだと思います。
斎藤
ポートフォリオの作り方にコツはありますか?
川口
イラストやデザインをただ載せるだけではなくて、文章による説明もたくさん入れた方がいいです。
どんな会社のために作ったイラストなのか。制作する過程で、どんな経緯があって、最終的にこのイラストになったのか、などを書いておくといいと思います。制作過程のラフなどを入れてもいいですね。もちろんクライアントの許可は必要です。
斎藤
たしかに文章で説明って必要ですよね。クリエーターって、自分のイラストやデザインをポンと置いて、それを見てくれた人が仕事を依頼してくれるみたいなことを、考えがちだと思うんですよ。でも、それってなかなかうまく行きませんよね。
とある人気イラストレーターの方とお話ししたことがあるんですが、人気がある方でも自分の絵に対する文章の説明って欠かせないそうです。ポートフォリオでもそうですし、実際の案件の中でもクライアントに対して、しつこいくらいに説明している、と聞きました。
GENSEKIマガジン編集部より
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ポートフォリオを見てもらうために
斎藤
ポートフォリオを作った後は、いよいよ営業ですね。どんなふうにやるんですか?
川口
基本的には、仕事をしたい会社にポートフォリオをメールで送ればいいと思います。でも、なかなか見てもらえないケースも多いんですよね。
だから「本当に仕事したい」って思う先には、電話しています。「作品を見てほしいので送らせてください」と言えば、相手は「それではメールで送っておいてください」みたいに答えてくれます。その後にすぐに送る。
斎藤
電話をかけるのって緊張しますけれども、こういうやりとり一つ入れておくだけで、見てもらえそうですね。
川口
それから、ポートフォリオを送る先もよく考えておくといいです。仕事が欲しいからといっても、闇雲に送ったりしない。私は本当に好きな会社や、思い入れがある会社にしか、営業をしないようにしているんです。
斎藤
それはどうしてですか? いろいろな会社にアタックしたほうが成功率があがりそうだし、仕事もたくさん入ってきそうですが。
川口
私は営業を「告白」と思っています。「どんな会社でもいいからとりあえず仕事が欲しい」みたいな態度って「誰とでもいいからとりあえず付きあいたい」みたいなことを言っているのと一緒なんです。それは、なかなかうまくいかないと思うんですよね。
斎藤
なるほど。告白……。そういったことって考えたことなかったです。そこまで思い入れを持っていれば、営業されている方もうれしいでしょうね。こちらとしても自信を持って営業できる気がします。

できるだけ余裕を持って仕事に取り組むためのバックアップを作る
斎藤
こんなふうに営業を続けたら、たしかに何かしらのお仕事は獲得できそうな気はしますね。
川口
そうですね。ただ、仕事が取れた後にも注意した方がいいです。子育てって、何が起こるかわからないじゃないですか。だから、可能な限りゆとりを持ってスケジュールを組んだ方がいいですね。そして、できるだけ前倒しで仕事を進めていく。
斎藤
それは本当によくわかります。子どもっていきなり発熱したりしますもんね。締め切りとかぶっちゃうとすべてが終わる……。
川口
保育園も2か所確保しておけるといいです。保育園がお休みになってしまうこともあるじゃないですか。運動会とか、行事の振替休日とか、インフルエンザで閉鎖とか……。
斎藤
たしかに! 僕はいまのところ1か所しか確保していませんが、その方が安心ですね。
川口
いざという時のバックアップがあれば、営業に行ったり、新規の仕事を増やしたりすることができます。安心材料を増やしておくイメージですね。
斎藤
子育てフリーランスには、生活がちゃんと回る工夫をしておくのが必要不可欠と言えそうですね。自分もそうですが、本当にやることが多くて大変……!
川口
そうですよね。子育てって、どうにもならないことがいっぱいありますよね。ただ、子育てフリーランスは、子どもが自立して行くにつれて、自分が仕事できる時間も増えてきます。だから、子どもと自分が一緒に成長できるんです。
斎藤
たしかに困難も多いですが、喜びは大きいですね。
川口
そして、育児って何が起こるかわかりません。病気もそうだし、不登校もそう。そういったことに対応するには向いてる働き方ではあると思います。
川口さんとのお話を全3回に渡ってお届けしました。子育てしながらフリーランスをしているみなさんのお役に少しでも立てたでしょうか?
あらためて、子育てしながらフリーランスをするのってものすごく大変です。それでもめげるわけにはいかないし、どんなことがあっても、どうにかするしかない。
これからもがんばって行きましょう~! 僕もがんばります。
第1回 子どもの夜泣きで仕事が進まないとき、どうすればいい?
第2回 在宅でイラストを描いていると家事をやることになってしまう……
第3回 子育てをしながら「営業活動」ってできるの?
お話を聞いた人
川口真目
X:@kawaguchi_game
note:川口真目(Masami Kawaguchi)
『子育てしながらフリーランス』(左右社)
子育てをしながらどうやってフリーランスとして活動しているかを、赤裸々な体験談を踏まえて書いた一冊。
『マンガでカンタン! デザインの基本は7日間でわかります。』(gakken)
デザインのコツを超簡単にサクッと抑えたい! という想いから作られたデザイン漫画本。
『みんなの自己肯定感を高める 子育て言い換え事典』(KADOKAWA)教育家の石田勝紀先生に聞いた子どもへの声掛けの本。息子が不登校のとき何度も読み返しました。
@kawaguchi_game
X(Twitter)で、子育てフリーランスや不登校について発信しています。
企画・取材・執筆:斎藤充博
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