京都在住のイラストレーター、秋野コゴミ氏。
まるで絵画のようなイラストは、見るたび心に吹き込んでくる風のような心地良さを感じさせる。
今年1月には中国にて自身初となる画集を発売。
今回はミステリアスな秋野氏から垣間見える、柔らかな世界観に迫っていこう。
夢うつつで描く世界
ーーご自身の代表作品をご紹介いただいてもよろしいでしょうか。
秋野コゴミ:この作品にはタイトルがないのですが、このアングルで描いて前方に余白を作って緑を描きたかったんです。緑や花はなるべく簡略化して、人物を細かく描いて視線誘導をしています。
ーーこちらデジタルで制作されたとのことですが、制作時間はどのくらいでしょうか?
秋野コゴミ:これは1日かけて描きました。最初に構図が浮かんでから、そのまま描きましたね。寝る前に構図を考えているんですけど、この作品も同じように半分夢見ている状態で思いつきました。ほとんどの作品がそうです。
ーーこの作品を代表作に選んだ理由をお伺いできればと思います。
秋野コゴミ:この作品をきっかけに、お仕事がたくさん来るようになったからですね。中国で画集を出したんですけど、その本の表紙にも使われています。
ーー画集発売のお誘いは中国の出版社さんからきたのですか?
秋野コゴミ:そうですね。昨年の5月くらいに来て、今年1月に発売しました。全部で220ページです。たくさん描いたなあって感慨深いです。
今まで描いた作品と新しく描きおろした作品、描き直した作品もあります。
紡ぐ物語をイラストに変える力
ーー普段イラストを描く際にお使いのツールはなんですか?
秋野コゴミ:デジタルで描いていて、ペンタブはWacomのIntuos、板タブです。ソフトはCLIP STUDIO PAINTを使っています。
ーー絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
秋野コゴミ:子供の頃からたくさん描いてはいたんですけど、中学くらいに部活とかで忙しくなって描かなくなりました。それからしばらくして、7〜8年前に小説を書いていて、その挿絵や表紙を描けたらいいなと思って始めたものが、こっちの方にウェイトが寄っていったっていう感じですね。
ーー創作活動のウェイトがイラストの方へ寄ってきたのですね。どのように絵の勉強をしてきたのでしょうか。
秋野コゴミ:人体デッサンの本を読んだり…先ほどお話した自分の小説の挿絵や表紙を描きたかったので、毎日その小説の物語をイメージした絵をTwitterにあげていたんです。毎日それを続けていたのがよかったんだろうなって思います。
ーーご自身の作風についてこだわりなどはありますか?
秋野コゴミ:人物に対して余白を入れることと、情報量を削って描くことを意識しています。僕の絵は余白が多いんですけど、それは日本画の影響かもしれないですね。あとは周りからの反応をあまり意識しすぎないというところですかね。SNSをやっているとどうしても気になったりしてしまうので。
ーー影響を受けたイラストレーターさんや漫画家さんはいらっしゃいますか?
秋野コゴミ:好きな漫画家さんは五十嵐大介さんと伊図透さんです。自分ではそんなに影響を受けてないと思っていたんですが、私が五十嵐さんを好きだということを知らない友人が五十嵐さんの「海獣の子供」のプロモーションビデオを見て「秋野を思い出した」って連絡してくれたことがありました。
ーーすごい、不思議ですね。もしかするとどこかで影響を受けていたのかもしれないですね。今まで手がけた中で思い入れのある作品はありますか?
秋野コゴミ:今の絵に繋がるプロトタイプみたいな作品があります。この作品を投稿したのが多分2019年の7月くらいなんですけど、今もこの作風の延長線で描いているなと思います。
余白のある生き方
ーーSNSでは約8万人のフォロワーがいらっしゃいますが、増えたきっかけで思い当たるものはありますでしょうか。
秋野コゴミ:Twitterで4枚イラストをまとめて投稿したことがあったんですが、それがきっかけかなと思います。
ーーどのイラストも1枚1枚が絵画のようで素敵ですね。この4枚を投稿した時にフォロワーはどのくらい増えましたか?
秋野コゴミ:多分3万人くらいです。その時は嬉しさはありつつも「インターネット怖いな…」って思いましたね。
ーー創作活動する上での情報収集はどのようにしていますか?
秋野コゴミ:柴崎春道さんという画家として活躍されている方のYouTube動画を見ています。ただ、上手すぎて真似ができないというか…あまり参考にできていないです。
自分の絵はあまり複雑な構図をしてないので、積極的に情報収集はしていないです。パースを掴むために床の写真を撮ったりとかはします。
ーーどのくらいの頻度で作品を発表していますか?また、反響などは気になりますか?
秋野コゴミ:月6枚くらいでしょうか。反響は気にならないですね。反応がなくても見てくれている人は絶対にいると思うので、発表の場にしてる感じです。
ーーイラストレーターをやっていて幸せな時、逆に辛い時はありますか?
秋野コゴミ:幸せな時は絵を描き上げた時ですね。辛かった経験はあまりないです。
ーーこれは描けないな、というものはあったりしますか?
秋野コゴミ:描けないものはありますね、複雑な街の風景とかは描けないと思います…多分。描かなきゃいけない、と必要に迫られたらそれはもうなんとかするしかないですけど。
ーー今後やっていきたいこと、挑戦してみたいことを教えてください。
秋野コゴミ:漫画ですね。長編より短編ものから少しずつ描いてTwitterに投稿していきたいです。
ーー最後に、GENSEKIへの印象をお聞かせいただければと思います。
秋野コゴミ:クライアントと個人を繋ぐプラットフォームがあるっていうのはとてもいいと思います。印象としてはコミュニティとクリエイター登録を繋げた感じかなって思います。他には見当たらない新しいサービスだなという印象です。
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周りからの反響に左右されず、自分の表現したい作風を大事にしていくーー。
秋野氏のイラストが持つ唯一無二の空気感・世界観がぶれないのは、そんな想いが作品作りの中核にあるからだろう。
今後挑戦していきたいと語ってくれた漫画作品の発表にも、引き続き注目していきたい。
秋野コゴミ(Twitter:@akino_kogomi)
京都在住のイラストレーター。
日本画から影響を受けたという「計算された余白」の配置で、見る人を惹きつける絵画のようなイラストを得意とする。2022年1月、中国の出版社・森雨漫より初画集を出版。