「イラストが売上にどう貢献するかを考えよう」サタケシュンスケが語る交渉スキル【イラストレーター7つのスキル】第6回

イラストを仕事にしようとしていているけど、うまくいかない。そんなときには、自分のイラストがよくないからだろうか、と悩んでしまいますよね。しかし、イラスト以外のところに原因があるのかもしれません。
イラストレーターのサタケシュンスケさんは「イラストレーターにはイラストスキル以外に7つのスキルが必要」とおっしゃっています。
・ 分析スキル
・ プロモーションスキル
・ コミュニケーションスキル
・ ヒアリングスキル
・ 提案スキル ☆有料記事
・ 交渉スキル
・ リスク対応スキル ☆有料記事
・ 良いイラストレーターとは
この連載では、それぞれのスキルはどんなものなのか、どうやったら身につくのかをサタケシュンスケさんにおうかがいします。今回は「交渉スキル」です。
お話を聞いた人
サタケシュンスケ(X:@satakeshunsuke/Web)
イラストレーター。広告制作会社勤務のグラフィックデザイナーを経て2007年に独立。よく同業者から相談を持ちかけられる。著書に『イラストレーターのためのお金の話』『配色アイデア手帖 色とイラスト かわいい世界観を作るヒントが詰まった本』など。
イラスト案件の価格は「どう使われるか」で決まる
――今回は交渉スキルについてうかがっていきます。これについては直接お金が絡む話題なので、興味がある人も多いと思います。
サタケ
イラストレーターの報酬は絵の出来・不出来で決まる、と考える人も多いですが、実はそれは誤解なんです。描く絵が同じであっても、その絵がどう使われるかで金額が変わってきます。
――ヒアリングスキルの回でも話されていた部分ですね。詳しく教えてください。
サタケ
たとえば、本の中の挿絵ひとつよりも、表紙の方が、同じ絵でも使用料がぐっと高くなります。表紙は購買への貢献度が高い部分です。対して挿絵は、本を買った後に読みながら見るところなので、基本的には売り上げには貢献していない、という考え方になります。

お金の流れの中で、自分のイラストがどの部分を担っているのかを意識できると、「クライアントにとってのイラストの重要性」が見えてきます。人の目にどれだけ触れるか、どれだけ長く使うか、といった部分で価格はかなり変わってきます。
――具体的に交渉するぞ、と思ってもなかなか気が引けます。そもそも金額を交渉できるほどの自信がない、という方もいるんじゃないかなと。
サタケ
「自分にどれだけの価値があるか」という考え方だと、確かに難しいかもしれません。ただ、最初の値付けで考慮すべきはイラストの価値です。「サタケシュンスケのイラストはいくら」ではなく、「こういうイラストって、世間一般的にはこれぐらいの価値がないと成り立たないよな」という相場感覚を身につけましょう。
単価アップのタイミング
サタケ
逆に現状からの単価アップを狙う場合は、現在の自分自身の価値に基づいて値付けすることになります。他の人に1万円で頼んでいる仕事に対して、「その仕事でしたら、僕は1万5,000円です。その金額でないと受けられません」と交渉していくのもひとつの手ですが、その分追加の価値を提供できなければなりません。
――一般的にはどんなタイミングで単価アップをするものなんでしょうか?

サタケ
僕のまわりでは、「そこそこクライアントがいて、生活できるレベルになったときに次のステップとして単価アップをする」という人が多いです。仕事が安定的に来ていて、仮に金額の足りない仕事を断ったとしても、生活に支障がない状態ですね。ただ、単価アップも良いことばかりではないんですよ。
――というと……?
サタケ
この業界って、駆け出しとベテランであまり値段が変わらないんです。だから、「自分は経験が豊富だから上げてください」というのは、クライアントからするとあまり理由にならない。それなら元の値段で駆け出しの人にお願いしよう、となってしまうんです。
だからこそ駆け出しの人とは違う、たとえばこの連載でお話ししてきた提案スキルやヒアリングスキルのような、他の人にはない付加価値をもたらす必要があります。クライアントに「少し上乗せしてでもこの人に頼みたいな」と思ってもらった上での単価アップが、理想的だとは思います。
――必ずしも価格を上げれば良いというわけではないんですね。どのタイミングで何円ぐらい上げるべきなのか、最終的な判断は個々人によると。
サタケ
場数を踏んでいくとだんだん平均値のようなものが見えてくるので、大きく見積もりが外れるようなことはなくなっていくかなと思います。周りの人の経験談を聞くことが一番良いと思いますが、今発売中の書籍『イラストレーターのためのお金の話』には僕自身の金額も載せたので、ぜひ併せて参考にしてほしいです。
著作権譲渡は慎重に!
――イラストの世界には、「二次使用料」「著作権譲渡」という言葉がありますよね。こちらについても教えていただけますか?
サタケ
特別な契約をしていない限り、イラストを納品するというのは、イラストを貸しているような状態です。納品してもクライアントのものにはならないので、クライアントはその絵を使って何をしてもいい、いつまでも使ってもいいわけではありません。クライアントが別の媒体や別の目的に二次利用する場合は、追加のお金を請求できます。これが「二次使用料」です。
ただ、著作権ごと買い取り(著作権譲渡)の場合は実質クライアントのものになってしまうので、本来いただけたはずの二次使用料はもう請求できません。場合によってはかなりの機会損失につながることもあるので、買い取りはかなり慎重に考えた方が良いと思います。
注)著作権譲渡後も、著作者人格権は著作者に残ります
――著作権に関するトラブルとしては、どのようなものがあるのでしょうか?
サタケ
よくあるのは、「当初の目的とは違う用途で使われていて、それが後々発覚した」ですね。たとえば「ポスターに使う」と言われて納品してみたら、他にもパッケージやチラシ、Web、CM、あらゆるものに使われていたとか。
本来であれば、事前に使用の許可の連絡をいただいて、二次使用料をいただくべきものです。後からでもお金がいただけたら良いですが、いただけない場合は、速やかに取り下げてもらうという話になってきます。
――相手にも理解があったら良いですが、そうでないクライアントに「著作権は渡しません」ってちょっと言いづらい気もします。どういう伝え方をしたら相手の機嫌を損ねないでしょうか……?
サタケ
依頼に関係なく、あらかじめ意思表示をしておくという方法があります。僕もホームページに「原則お断りをしておりますが、用途によっては対応しております。」と記載しているほか、見積書にも書くようにしています。見積書では、権利譲渡の話が出た・出ないにかかわらず使用媒体と使用期限をしっかり明記して、「この金額なのは、この使用期限でこの使用媒体だからですよ」ということが伝わるようにしています。
繰り返しになりますが、著作権を渡すことはすごいことなんだ、という感覚をみなさんに持っていただきたいですね。自分が描いたイラストを相手のクライアントがずっと使い続けることで、競合他社の仕事が引き受けられなくなるケースもあります。著作権譲渡というのは絵を渡すだけでなく、その先の未来も一緒に売っているようなものなんです。
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聞き手・編集
斎藤充博(X:@3216/Web/GENSEKI)
構成
ヒガキユウカ(X:@hi_ko1208)
イラスト
華緒はな/お花(X:@hanao_hanao_twi/GENSEKI)
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