妖怪を描くための資料集めの考え方とは『狐の窓~ゆるっと怪異~』夜風さららに聞く

夜風さらら先生は、『狐の窓~ゆるっと怪異~』や『管狐のモナカ』(共にKADOKAWA)などの妖怪を描いた漫画を描かれています。

狐の窓~ゆるっと怪異~
人間に化けている妖怪の姿を暴く術「狐の窓」。狐の窓を身につけた少年ナギが街に出てみると、人間社会は妖怪だらけだった。

管狐のモナカ
妖怪退治をする家系に生まれた奉日本彩芭(たかもといろは)は、自分が操れる「管狐」が欲しくてたまらない。そんなある日、主人のいない管狐がやってきた。
夜風さらら先生は、日本に昔から語り継がれている妖怪をどのように調べ、どのように解釈して描いているのでしょうか。メジャーからマイナーまで、妖怪というモチーフについてのお話をうかがいました。
お話を聞いた人

夜風さらら
漫画家。代表作の『狐の窓~ゆるっと怪異~』はXで連載中。KADOKAWAから書籍化もされている。
(聞き手:斎藤充博)
妖怪に興味を持ったきっかけ
――まずは、夜風さらら先生が妖怪に興味を持ったきっかけから教えてください。
夜風さらら
やっぱり水木しげる先生ですね。小さいときに『ゲゲゲの鬼太郎』のアニメを見ていました。その後にしばらくして、水木先生が描いた妖怪図鑑を読むようになって。それこそずっと眺めていました。
小学生の頃には、妖怪の漫画を描いていました。かまいたちの漫画です。誰にも見せないでこっそりノートに描いていました。
――『狐の窓 ~ゆるっと怪異~』はどのような経緯で描き始めたのでしょうか?
夜風さらら
私は漫画家を目指していたんですが、ネットにアップするだけで、持ち込みとかは全然していなかったんです。打たれ弱いし、勇気もないし。それではなかなかうまくいかなくて、私にはやっぱり無理なのかなって思っていました。ここで区切りをつけて、趣味としての活動と割り切ろうとしていたんです。
そこで自分が楽むために描いたのが『狐の窓』でした。狐の窓は人間に化けた妖怪を見抜く呪術なのですが、ある日「これは4コマ漫画にできる」って気づきが降ってきて。
みんながよく知っている鬼と鴉天狗と猫又と……それからあんまり知られていないかもしれませんが、二口女(ふたくちおんな)の4コマ漫画を制作しました。それをSNSにアップしたら、すごくバズって。

フォロワーの方から、他の妖怪で続きを描いてほしいってリクエストをたくさんいただきました。それもまたバズって……いろいろな編集者さんから声をかけていただきました。そしてKADOKAWAさんに書籍化していただいたという流れです。
――描き手にとっての妖怪の魅力は、どんなところにありますか?
夜風さらら
そうですね、やっぱりその妖怪ごとに歴史があることかなと思ってます。例えば天狗という妖怪がいます。天狗というと、山伏(やまぶし)の格好をした姿を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。でも、天狗というのは元々は中国で隕石の事を指していたらしいんです。
天狗って、「天の狗(いぬ)」って書きますよね。隕石が落ちてくるときにものすごい大きな音が鳴る恐ろしい現象があるのですが、それを天から降りてきた狗の咆哮、つまりは天狗として呼ばれてたという話があるそうです。それが時代が下るにつれて、獣の姿になったり、人型になったり、そして最終的にはみなさんが思い浮かべる山伏の姿になりました。
――歴史があって、姿が変わるというわけですね。
夜風さらら
そうですね。そういった背景を踏まえて描けるのが、妖怪を描く魅力だと思います。そこにクリエイターそれぞれの個性が乗ってくるイメージですね。
文献を探すことが重要
――妖怪について調べるときは、どのようにされているのでしょうか?
夜風さらら
まずは検索します。おすすめなのは「怪異・妖怪伝承データベース」と「【妖怪図鑑】新版TYZ」です。これらのサイトで調べればほとんどの妖怪が出てきます。
こうしたサイトには妖怪の出典元である文献名が書かれています。可能な限り図書館で取り寄せて自分の目で確認するようにしています。
――妖怪の中には、文献の中に姿が伝わっていないものもいると聞いたことがあります(音だけの妖怪など)。そんな妖怪に姿を与えるときには、どうしますか?
夜風さらら
実は完全に姿がない妖怪というのは、ほとんどないと思っています。というのも、名前がある妖怪は長い歴史の中で誰かしらが描いているものなんです。あとは誰にも描かれていない妖怪となると、本当にまったく知られていない知名度の低い妖怪か、絵に描き起こすことが困難な妖怪になってくるのかなと。
例えば、「ぬりかべ」は「道を歩いていると前に進めなくなる」という現象の妖怪なんですね。でも、現代になって水木しげる先生が描いています。
ここで注意しなくてはいけないのは、妖怪のデザインに関する著作権です。江戸時代の浮世絵に出てくる妖怪をそのままの姿で描くには問題はないのですが、「ぬりかべ」のように最近になって誰かがデザインした姿をそのまま描いてしまうと問題になってしまいます。こういったトラブルを防止するためにも、文献を調べる必要があります。
これに加えて、文献を調べてもまったく出てこない妖怪は、現代に創作された妖怪の可能性があるかもしれません。基本、ほとんどの妖怪に著作権はないと思うのですが、ごく稀に商標登録をされていたり、ゆるキャラになっていることもあるので、あらかじめ調べる癖は付けていても損はないと思います。
――なんの気なしに描いた妖怪が、著作権侵害しているかもしれない……なんてことになると怖いですね。ちなみに夜風さらら先生がオリジナルデザインの妖怪を考えるときには、どんな工夫をしていますか?
夜風さらら
その妖怪がいる土地や場所を調べます。その土地で名物になっているものがあったら、それをなるべくデザインに取り入れるということはしていますね。

これは御耳長様というウサギの神様なんですが、ちょっと怖い神様なので、よく妖怪としても紹介されています。鹿児島県の桜島にいて、ウサギに対してひどいことをすると体調が悪くなったり、夢の中にあらわれたりします。
で、御耳長様のデザインを考えたときの資料がこれですね。

――なるほど、桜島大根……。
夜風さらら
そうです。桜島の名物の大根がウサギの尻尾に見えるな、と思って取り入れました。
実在しない妖怪をどのようにして描くのか
――『管狐のモナカ』に出てくるモナカはすごくかわいいですよね。実在しない妖怪をどうしたらこんなにかわいらしく描けるのかをおうかがいしたいです。

夜風さらら
動物の姿をした妖怪であれば、その元になりそうな動物の写真や動画で仕草を一通り観察します。モナカの場合はフェレットやイタチ、キツネなどですね。その中から、一番自分に刺さった仕草からインスピレーションをもらって描いています。
――モナカでとくにすごいと思うのは、身体の柔らかさの表現だと思います。どんな工夫をされていますか?

夜風さらら
自分の頭の中だけで考えるのは限界があるので、彫刻や石像を検索して参考にしています。彫刻や石像の中には、動物のしなやかな動きを捉えたものがたくさんあるんです。
その中には現実の動物にはできないような動きで止まっているものもあります。しかも、彫刻なので360度すべての方向から見ることができます。「動物+彫刻」や「神話生物+彫刻」などで検索をしてみてください。すばらしい作品がたくさんありますよ。
――彫刻とは思いもしませんでした! 他に参考にしているものはありますか?
夜風さらら
ゲームも参考になります。『モンスターハンターライズ』は妖怪などをモチーフにしたデザインのモンスターが登場しました。『大神』にも妖怪などが登場します。こうしたゲームでは動きを見ることができるのがいいですね。
……ただ、それでもやっぱり一番参考になるのは彫刻だと思います。妖怪を描こうと思ったら、ぜひ彫刻を見てください。
メジャーな妖怪の描き方
――ここからは「鬼」「雪女」「天狗」といった、誰もが知っているような妖怪を夜風さらら先生が『狐の窓~ゆるっと怪異~』でどのように描いたのかを教えていただきたいと思います。
鬼は力強く

――まずは鬼から教えてください。
夜風さらら
鬼って妖怪の中で一番有名で、怖ろしいというイメージをみんなが持っていますよね。そのイメージをぶらさないように描きました。肌は赤くて、筋肉質。身体のパーツごとに力強さが出るように意識していました。
角は『陰陽師』という映画に登場している鬼の角の形がまさにこんな感じだったので、影響を受けているかもしれません。和風で、怖くて、まさに「鬼」というイメージです。
角の形は牛っぽくて前面に突き出ているイメージ。これが羊や山羊のような角にしてしまうと和風ではなく、西洋の悪魔(バフォメット)の印象が強く出てきてしまうので私は避けるようにしています。ただ、あえてワザと取り入れたデザインの鬼もいたらおもしろいかもしれませんね。
――この鬼はヒビキというキャラクターですが、オタ活しているユーモラスな鬼でもありますよね。
夜風さらら
鬼は怖ろしいものなので、ギャップとしてあえて親しみやすさを出してみました。鬼は金棒を持っているのですが、ヒビキはサイリウムを持っています。ただ、持ち方は鬼っぽいと言いますか、力強いイメージです。太鼓のバチを持つような持ち方をさせてみました。
雪女は目と耳にひと工夫

――雪女って、普通に人の姿をしていますよね。妖怪として描くときに気をつけたことはありますか?
夜風さらら
まず目ですね。こういった身体の部位がどの人種とまったく違うようにすると、人間ではないように見えると思います。それから、耳もかなり尖らせています。
――雪女のユヅキには人間の姿もありますが、このときには目がぽわっとしていていますよね。
夜風さらら
そこは意識しています。人間の姿のときには大人しくて控えめな女性なんですが、雪女に変わった時はオラオラ系とでもいいますか、かなり強気になっています。こういうギャップを持たせたら楽しいかな、と。
天狗の翼は大きく

――天狗もメジャーな妖怪ですよね。
夜風さらら
そうですね。最初の方にもお話ししましたが、天狗は時代に沿っていろいろな姿になった経緯があるのでとても悩ましかったですが、ひとまず現代で広く知られている鴉天狗の姿で考えました。
――翼がかなり大きくて、かっこいいですね。この翼は鳥などを参考にされたのでしょうか?
夜風さらら
カラス、サギ、それから天使の彫刻も参考にしています。大型の鳥と小さな鳥とでは翼の形が違うんです。いろいろ見ながら、できるだけ力強く描いてみました。
苦労したのは足ですね。鴉天狗なので鳥の足にしたかったのですが、鳥の足の裏側って、なかなか資料に映っていないんです。ひよこや鶏を飼っている方の SNS を覗いて、足裏を探しました。本当に感謝しかありません……!
――キャラクターとしての陣は人間の機械や技術に興味があるという天狗ですよね。
夜風さらら
鴉天狗は山の中にいて、山伏の姿をしているのが一般的なので、ギャップを持たせてみました。
実は、この設定のきっかけになったのは「天狗の隠れみの」っていう昔話なんです。とある少年が竹で「遠めがね」……いまでいう望遠鏡みたいなものです。これを作ったフリをして、「あんな遠くまで見えて楽しいな」なんて騒いでいるんです。それに天狗が興味を持って、近づいてくる。
少年は「天狗の持っている隠れみのと、遠めがねを交換してあげるよ」なんて言うんです。隠れみのは着用すると姿が消えてしまうというもの。まんまと天狗の隠れみのをとった少年は、そのまま消えて逃げてしまいます。そして、天狗の元にはただの竹が残る、という。
そこから天狗は珍しいものや新しいものに興味がある妖怪なのかもしれない、という発想をもらいました。
妖怪は調べてもわからないことだらけ
――メジャーな妖怪の他に、『狐の窓~ゆるっと怪異~』で描かれた妖怪の中で、とくに思い入れのあるものについても、教えていただきたいです。
おとろし

夜風さらら
まずはおとろしですね。この妖怪は鳥居の上から落ちて信仰がない人を驚かす妖怪として言われてるんですけど、実は文献をさかのぼってっていくと、そういった伝承はないらしいんですよ。
江戸時代に『画図百鬼夜行』という妖怪図鑑のような本があるのですが、そこでは、鳥居の上に乗っている姿で描かれています。
江戸時代には『化け物尽くし絵巻』という本もあり、おどろおどろという名前で登場しています。そこでは、鳥居に乗ってなくて地面にペタッとついている状態で描かれています。唐傘お化けやちょうちんお化けと同じように、単純に見た目で人を怖がらせていた妖怪だったのかなと。
こんなふうに、妖怪の描写が変わっていく経緯を初めて知ったのがおとろしでした。ここから妖怪って奥が深い、と気づかされたんです。
洗濯狐

夜風さらら
洗濯狐も印象に残っています。静岡県の浜松市に伝わる狐の妖怪で、夜に川辺でザブザブと洗濯をする音を立てます。音を鳴らすだけで完全に無害な妖怪なんですよ。それまでまったく知らない妖怪で、こんな妖怪がいるのかっていう衝撃を受けました。
丹鶴姫(たんかくひめ)

夜風さらら
これは丹鶴姫という妖怪です。和歌山県新宮市に伝わる、きれいなお姫様です。この妖怪は夕方頃丘の上に黒ウサギの遣いと一緒に現れて、扇で子どもを招き、招かれた子どもは死んでしまうといいます。黒ウサギの遣いを従えている妖怪というのを、いままで知らなかったので衝撃をうけました。私の知らない妖怪ってたくさんいるのだと勉強になったのが、洗濯狐と丹鶴姫です。
これまでの歴史を大事にして、新しいチャレンジも
――これから妖怪を描いてみたい、という漫画家さんやイラストレーターさんにメッセージをお願いしたいです。
夜風さらら
これは繰り返しになるんですが、妖怪を調べるときには文献を読むことがおすすめです。その方が時の流れで変わっていく前の姿や、それを記して残してくれた人達のことを知ることができます。
その一方で、妖怪って時代によって姿がどんどん変わっていくものでもあります。だから、自分の考える妖怪の姿を生み出してくのも、いいと思いますね。そういった時の移り変わりも含めて妖怪達を知って楽しんで描いてもらえれば、と思います。
取材協力
夜風さらら
X:@koikoisararira
Instagram:https://www.instagram.com/koikoisarara/
夜風さらら先生書籍のご紹介
夜風さらら先生より

『狐の窓~ゆるっと怪異~』4巻の制作が決定しました!
応援していただいた皆様のおかげです! 本当にありがとうございます!
4巻も3巻同様、SNSでは一切公開されていない妖怪が登場予定なのでぜひ楽しみにしてもらえたらうれしいです! どうぞよろしくお願いいたします!
取材・執筆・企画・編集
斎藤充博
X:@3216
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