イラストレーターさいとうなおき先生が審査員の、縛りイラコン「ゾンビ縛り」の選考会レポートです! 217作品ものバリエーション豊かな怖~い作品が集まりました。
どんなイラストを描くときにも必要なもの、怖いモチーフのときには特に気をつけたいこと、などが学べます! ※応募作品一覧の閲覧はご注意ください……。
▼結果発表と受賞者コメントはこちら
さいとうなおき(X:@_NaokiSaito/YouTube)
イラストレーター・ユーチューバー。
1982年生まれ。山形県出身。多摩美術大学卒業後、ゲーム会社を経て現在フリーランス。『ポケモンカードイラストレーター』。
YouTubeチャンネル登録者130万人以上を記録。『お絵描き上達テクニック』などの情報も発信中。
インタビューした人
中村紘子
GENSEKIのイラスト案件の進行管理・品質管理を行うイラストディレクター。
【大賞】見る人のことまで考えられた、あふれる創作意欲を感じる作品
この後、けっきょk/嘉祐 慧(きゆう けい)
さいとうなおき先生
大賞は嘉祐 慧さんの『この後、けっきょk』です。おめでとうございます!
シルエット違いのいろいろなゾンビがデザインされていて、楽しいイラストです。
「ゾンビ」というと単純に、気持ち悪いものや怖いものを想像しがちです。しかし嘉祐さんは、怖いというよりかわいい描写に寄せることができています。
もちろん、四つん這いのゾンビなど、この世界観の中では怖いです。でも俯瞰(ふかん)で見るとかわいいと感じられるバランス感覚がいいですね。
中村
タイトルが「けっきょk」と終わっているのもおもしろいですね。設定やキャプションもたくさん書いてくださいました。
さいとうなおき先生
そういうところからも、湧き出す創作意欲が伝わってきますね。
それから色もきれいです。ゾンビやホラーがテーマというと、絵の色まで汚くなりがち。汚いものを描くからといって、それを汚い色そのもので塗ってしまっていいのでしょうか? 難しいところですが、それでは自己満足に留まってしまうかもしれません。
その点、この絵の配色はきれいなバランスに収まっています。見やすさまで考慮されていて、好感が持てました。
中村
大賞に選ばれたのも納得ですね。
さいとうなおき先生
「見ている人のことをちゃんと考えている」というところも、クオリティの高さに繋がっていました。
【佳作】それぞれに個性と意外性のある6作
猫に噛まれただけなのに/@ mizorewaku
さいとうなおき先生
女の子ゾンビはよく見るのですが、猫をモチーフにしたゾンビは珍しい気がします。
かわいいし、目新しいアイデアです。
中村
よく見るとネズミもいますね。ゾンビ作品なのに「かわいい!」と思えます。
さいとうなおき先生
「血色が悪い肌の色」は汚い色になりがちなんです。でも、この絵は全体的に白でまとめられているのがいいバランスになっていて、きれいな色使いになっています。
ゾンビ襲来/やまもとやま
さいとうなおき先生
ゆるゾンビ、いいですね。やまもとやまさんの普段のテイストからすると「ゾンビを描こう」とはならなさそうなのに、自分ならどう描くのか?とチャレンジされています。
中村
作品一覧を見てもゾンビを描くことはなさそうな絵柄ですが、みごとコミカルに描いてくださいました。
さいとうなおき先生
違和感ないですよね。絆創膏もいい。やまもとやまさん自身の型にはめて表現できていて、かわいいです。
メイドVSゾンビ/マヨきち
さいとうなおき先生
かわいいキャラとかっこいいシチュエーションで、王道な作品です。「このライトノベル読みたいな」と思わせられます。
中村
すてきな作品ですが、さらに上を目指して工夫できるところはあるでしょうか?
さいとうなおき先生
画面が粗く感じますので、もう少していねいに描いた方がいいとは思います。ただ、「ゾンビ」というテーマにあわせていい味になっている面もありますね。
なので、この感じは残しつつ、「見せどころ」はていねいに見せられると、さらによくなると思います。
bad end mad mate/ばななちきん
さいとうなおき先生
タイトルが韻をふんでいていいですね。
あえて平面的に描いているような絵柄もおもしろいです。例えるならイラストレーターの326さん(X:@nakamura326)のような。銃の形ひとつとっても、直線ではなく少しゆがみもあるんだけど「それも絵柄や世界観です」と言えていて、いいですね。
今後も、立体感やパースなどの技術面を伸ばすというより「うまくならずにうまくなって」ほしい。ゲームの『ダンガンロンパ』のイラストのような感じで、勢いでいい絵だと感じる方向性、ではないでしょうか。ばななちきんさんの世界観に絵柄がよくあっていて、うらやましいぐらいです。
中村
さいとうなおき先生が「うらやましい」とは!
さいとうなおき先生
この感じのまま成長していってほしいですし、この世界観で連作を見てみたいですね。
うつろな光/カミヤキサラ
さいとうなおき先生
そのあたりを歩いていそうな、真正面からの「ゾンビ」です。女の子にするでもなく、「ゾンビ」そのものを描くのは意外と珍しい。
構図も目を引くし、色も黒を使っていますが汚くなっていません。影色のキワを少し赤みがからせていて、「ゾンビとはいえ、きれいに見せよう」という意識も働いているのでは、と感じました。
ざらざらのテクスチャも独特でいいですね。表情なども……何か気になって、つい選ばされてしまった感じでした。
中村
惹きつけられたのですね。キャプションには「自分の好きなゾンビを自由に描きました。」とあります。
さいとうなおき先生
見る人の好みにかかわらず何か気になってしまう、というのは、好きなものが伝えられているんだと思います。こだわって描くことで、カミヤキサラさんの「好き」の魅力が表現できていますね。
食事/menka
(絵の一部をトリミングしてあります。イラストの全容はタイトルをクリックしてご覧ください)
「たまには肩やお腹の肉が食べたいわ。」
「我慢してください。そういった食いつきやすい部位は、知性のないゾンビたちに荒らされてしまうのです。」
さいとうなおき先生
ゾンビ貴族と、横に立っているっている執事すらゾンビ。いいシチュエーションだと思います。
中村
「お嬢様と執事のゾンビ」はあまり見ないアイデアですね。
さいとうなおき先生
高貴な感じがするし、知性を感じます。こんなにお上品にゾンビを描けるんだ、と驚かされました。
【総評】
中村
全体を振り返って、いかがでしたか?
さいとうなおき先生
思った以上にたくさんのゾンビが集まり、驚きました。ゾンビが好きな方は多いんですね。
テーマ「ゾンビ」に対しては、自分の思いやフラストレーション、グロテスクな部分を、そのままぶつける方が多かった印象です。それはそれでいいのですが、さらにそこからイラストとして見やすい画面作りを意識できると、目立つことができると感じました。
「人に見せる」という意識があるかないか。それがこのテーマでより浮き彫りになったと思います。
中村
選考をお手伝いしていて、どんなテーマでも「見る側のことを考える」ことは忘れてはいけない、と感じました。
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執筆
kao(X:@kaosketch/Web/GENSEKI)
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