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苦手に目を向けるより自分の強みを活かそう【出水ぽすか 1on1 レッスン by GENSEKI 学生応援 PJT】

 

 

こんにちは、GENSEKIの坂本です。
GENSEKIでは、学生応援イラストコンテスト第4弾として滋慶学園グループ3校対抗イラストコンテストを開催しました。
今回も最優秀賞を獲得した生徒さんと出水先生の1on1レッスンの模様をお伝えします。

ところで、マンガを描いている人で以下の悩みを持っている方は多いかと思います。

「背景が描けない…」
「ストーリーが描けない…」
「苦手なモチーフがある…」

魅力的な人物・キャラクターは描けるのにそれ以外がどうも苦手…。今回はそんな悩みを持つ人にとっても役立つ情報を出水先生がお話してくれました!
マンガ描きさんには特に必見の内容です!

出水ぽすか先生の1on1レッスン参加者

出水ぽすか 先生
週刊少年ジャンプ「約束のネバーランド」の作画、他にもコロコロコミック、ポケモンカードゲーム等のイラストを手掛ける。
今回のコンクールでは審査員を務めて頂いた。

齋藤佳輝
GENSEKIにてイラストコンテストの運営や新規営業を担当。
1on1レッスンでは全体の進行を務める。

スチュー さん
マンガ専攻、もうすぐ25歳。
中国から日本に留学し漫画家を目指す。好きなマンガ&アニメはバクマンとデジモン。

 

白黒のバランスを意識しながらどこを見てほしいのかをわかりやすく表現ができている

異世界が大嫌いの高校生は、腹黒な女神に翻弄される / OkoreruOtaku

齋藤
まず、今回のイラストのコンセプトを教えてください。

スチュー
この水晶玉の中にいる男の子は異世界なんか嫌いだと思っています。そのことを異世界を司る女神が知り、嫌がらせに彼を異世界に閉じ込め、向き合わせているというストーリーです。

実は…私も異世界系があまり好きではありません。でも世の中ではすごく流行っていますよね。クリエイターとして流行っている以上はそれに対して向き合わないといけません。「現実と向き合いなさい」という自分へのメッセージを込めています。


齋藤
なるほど…自分と重ねたストーリーがあるんですね。
今回制作するにあたり何か参考にしたものはありますか?

スチュー
この作品自体は自分のオリジナルですが、細かい点で自分の好きな作品からヒントをもらいました。例えば、女神のアクセサリーは私の大好きなウルトラマンティガのカラータイマーを参考にして考えました。

齋藤
ウルトラマンも好きなんですね…!

スチュー
はい。あとはマッハGO GO GOも好きです。スピード感の表現や鮮やかな色表現がすごく素敵ですよね。ゴジラやモスラも好きですし、音楽では90年代ビーイング系が大好きです。

■ 90年代ビーイング系とは
ビーイングは独自の音楽制作体制とプロモーション戦略で、1990年代前半に国内で圧倒的な音楽セールスを誇り、TUBE、B'z、B.B. クイーンズ、ZARD、T-BOLAN、WANDS、大黒摩季、DEEN、FIELD OF VIEWなど名だたるアーティストを輩出した。

齋藤
とても古いアニメから、90年代の懐メロまで…!僕と同じ年代なのに、昔のアニメ・音楽に詳しいですね…!
さて出水先生、さっそく講評をお願いします

出水ぽすか先生
アニメから音楽まで日本の文化にすごく詳しくてびっくりしました…!マッハ GO GO GOは知らなかったので後で調べてみます!

さて、今回スチューさんのイラストの良かった点は下記3点です。

  • 技術力の高さ
  • 事件性を感じることができるストーリー性
  • 自分の好きを取り入れている

まず、「技術力の高さ」についてです。
絵は、カラーイラストをそのまま白黒に落とし込んでもぼんやりしてしまうんです。そういう意味では白黒とカラーでは着彩の考え方が異なるんですね。

スチューさんのイラストはきちんと白黒の着彩で構成を考えていて、何を描いているのか、どこを見てほしいのかが白黒という2色の表現であるにもかかわらずきちんと描けていると思いました。

次に「事件性を感じることができるストーリー性」です。さっきスチューさんの話を聞いて、私が当初考えていたものとは違ったのですが、それでもこの絵って「何かが始まりそうな事件性」があって、見る人がストーリーを考えてしまいます。
ここまでストーリーを考えさせられる絵が描ける人なので、てっきり異世界系が好きなのかなって思っていたのですが、いい意味で私の予想を裏切るストーリーでした(笑)
そちらも含めて非常に良かったです。

3つ目「自分の好きを取り入れている」は冒頭でもお話したのですが、スチューさん自身が好きな日本のアニメ・作品・カルチャーを絵の中に入れていてすごくいいと思いました。やっぱり、自分が好きなものは描いている方も楽しいしそういった要素を入れることは重要です。

スチュー
ありがとうございます。
ただ、先日ある編集部の持ち込み添削会に参加した時に「どこかで見たことあるような絵」と言われて…自分の好きなものを取り入れるよりオリジナリティを突き詰めたほうが良いのではないかと思っていました。

出水ぽすか先生
それはあまり気にする必要ないと思います。この先プロになって何度作品を出しても「どこかでみたことある」って絶対言われます。そしてそれはあくまでもその人が見てきた作品と照らしあわせて考えるその人の経験則なんです。
それを修正しようとするのではなく「自分の好きなもの」を増やしましょう。さっき言っていたような自分の好きなものをあわせていけば自分のオリジナリティが見つかると思います!
それに今のままでも十分素敵な絵だと思いますよ!

スチュー
ありがとうございます。
あと、私はストーリーを考えることが苦手で…

出水ぽすか先生
ストーリーを考えることに苦手意識はあるのかもしれないのですが、考えたストーリーをまとめる力が既にあります。なので苦手だからと遠ざけずに自分自身で試行錯誤しながら何度か挑戦してみましょう。

スチュー
すごく褒めて頂いて嬉しいのですが、逆に直したほうが良い点はありますか?

出水ぽすか先生
直す所…うーん…そうですね。この絵自体は既に完成していると思うし、十分素敵な絵だと思います。それでも修正点をあえて挙げるのであれば、「異世界はどんなところなのか」という情報をどこかに入れると、より伝えたい世界観を伝えやすくなるかもしれません。例えば背景に入れてもよいかもしれませんね。ただこの絵はあえて背景を白にし、女神を引き立たせているところもすごく良い点なので、それがないと絶対だめというわけではないです。

 

背景が苦手なら、3Dを活用したり人物と接する床の表現を研究しよう

スチュー
私は、背景と着彩が苦手で、どうしたら良いでしょうか?先日の持ち込みの際にも背景があっさりしすぎていることを指摘されました。

出水ぽすか先生
まず背景については「自分に関心のあるもの・好きなもの」を描いてみましょう。
例えば自分がよく使っているもの、もし料理が好きなのであればキッチンを描いてみると良いと思います。
あと、色についてはバランスを大事にしています。先程スチューさんのイラストの白黒のバランスについても触れましたが、私も漫画を描く際に線画の時点でバランスを考えています。例えば、キャラが前に出るような塗りを意識するといったことです。明暗のバランスはイラストの最初から最後までずーっと調整していますね。

スチュー
なるほど、ありがとうございます。

齋藤
今回は、スチューさんの作品を何点か事前に頂いています。
こちらを見ながら、いろいろなフィードバックを頂きたいとのことです。

スチューさんの漫画一部抜粋(デモン・メイ・スマイル)

スチュー
こちらの作品のタイトルはデビル・メイ・クライを意識しました。
また女性主人公の衣装はモンスター・ハンターの防具を参考にしながらデザインしています。

出水ぽすか先生
人間にすごい興味があるということが伝わってきますね。衣装へのこだわりもすごく良いです。そういう自分ならではのこだわりはこれからも続けていってほしいと思います。
一方で、人物がすごく素敵に描けているのに、効果線が強い印象です。
衣装も含め、人物がすごく魅力的なので人物が中心になり魅力がより伝わる効果線・トーンの使い方を意識するとより良くなると思います。
あとは、先ほど苦手意識があるといっていた、背景ですね。建物のバランスをとることが難しければ最初のうちは3Dソフトを使ってみると良いと思います。ソフトの使い方を覚えるという手間が発生しますが、使いこなせればぐっと作業が楽になってイラストのクオリティもあがるはずです。
あと、「床」を頑張って描きましょう。他の作品の床の表現、床への効果線がどうなっているか観察してみてください。

 

明暗とコントラストのバランスが取りやすい構図にするのも一つの手

齋藤
続いてこちらですね。

スチューさんオリジナルイラスト

出水ぽすか先生
こちらの人物もとても可愛いですね。
この絵でいうと、太陽の位置を調整すると良いと思いました。今、太陽が人物の上にあると思うのですが、この位置に太陽があると明暗のバランスをとることがすごく難しくなります。人物に一番スポットを当てたいのに、太陽が一番明るくなってしまうのでぶつかってしまうんです。
太陽の位置をそらして光が降り注いでいるだけにすると、バランスが取りやすくなると思いますよ。

スチュー
全部が明るすぎたということでしょうか?

出水ぽすか先生
そうですね。太陽の明るさに対して、左のお姉さんが太陽より明るいということはないと思うので。

スチュー
このイラストはカラスとコウモリという2つの要素をいれました。

出水ぽすか先生
手前の人物は服のしわ・ハイライトなど丁寧に描けています。その一方で背景の影になっているカラスが荒い印象です。その粗さが逆に手前のよく描けている人物の印象を沈めてしまっていますね。とくに左側の髪の毛の部分のトーンはカラスのトーンと同系色になっているので、沈んで見えてしまいます。
これに対しては、人物の周りに縁を入れて浮かせる、背景のグラデーションの掛け方を調整しましょう。バランスの取り方を変えるだけでこの絵はもっと良くなります!

 

背景が苦手ならいっそぼかしてしまうのも一つの手

クソゲーキラー

スチュー
こちらはクソゲーキラーという作品です。海外のゲーム配信者「怒れるゲームオタク」を発想の起点として描いた作品です。

出水ぽすか先生
まず、すごく良いなと思った点は小さなモブ(上記1コマ目)もしっかり描けている点です。また主役の人物が歩いている姿もすごく上手だと思いました。スチューさんは基礎的な画力はとても高いです。
一方で、「デモン・メイ・スマイル」と同じ指摘になりますが、床表現で不自然さがでています。この二人は洋服の影から見るに太陽は人物の前にあるはずなのに、影は前にきて逆光の表現になっているんです。
先ほど、背景が苦手という話もありましたし、いっそ背景や床の接地面はぼかしてしまっても良いかもしれませんね。人物はすごく上手なので、スチューさんにあった表現は何になるのか探してみると良いかもしれません。

齋藤
ありがとうございました。

 

分業で作業を行う上でのポイントは、それぞれの作家さんにあったコミュニケーションをとること

スチュー
僕も将来的には週刊連載ができるような漫画家になりたいと思っています。
週刊連載は体力的に大変なのでしょうか?

出水ぽすか先生
私は辛くないです。週刊連載はスケジュールがきっちり決まっているので、日程が辛いみたいなことは起こりません。これは人によるのですが、私は不規則なスケジュールのほうが苦手です。臨時で作業が発生する、いろんな仕事の締切を管理するほうが辛いんです。

スチュー
なるほど。
あと僕はストーリーを考えることが苦手で…原作者を探したいと思っています。原作者と作画担当という二人三脚で作品を作る場合に気をつけていることはありますか?

出水ぽすか先生
原作者にも色んな人がいるので、最適解は人それぞれなんです。
なので、いろんなコミュニケーションに対応できる状態を作っておくと良いと思いますよ! 学生さんなのでいろんな友達とチームを組んで色々体験しておくと将来役立つかもしれませんね。

 

『総評』自分の描きたいを大切にして作品作りを続けてほしい

齋藤
さて、今回のイラストコンテストも総評をお願いします。

出水ぽすか先生
迷わないイラストコンテストがないくらいなのですが…今回も非常に迷いました(笑)
それぞれに良いところがあるから、本来は1番・2番…と決めていくものではないのかもしれないと思っています。
それぞれの描きたいを大切にして、これからも作品作りを頑張って欲しいです。
素敵な絵をたくさん見させていただき、ありがとうございました。

 

執筆

坂本彬
GENSEKIマガジンの編集 / ライティング・マーケティングを担当。

挿絵

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